エネループ10周年特別企画

第2回:エネループのコンセプトを継承した製品群「エネループユニバース」はどこにいったのか?

エネループ

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 eneloop(エネループ)には、「eneloop universe(エネループユニバース)」という製品群があった。充電池であるエネループが、「繰り返し使うライフスタイル」をコンセプトに開発したものであるのに対して、エネループユニバースは、それを活用して「繰り返し使う様々なライフスタイル」を提案し、実現することをコンセプトにした製品だ。

 前回触れたように、エネループは、当時の三洋電機のブランドビジョンである「Think GAIA」を具現化する「TG商品」の第1号に認定されている。Think GAIAでは、「地球が喜ぶ、いのちが輝くこと」に貢献できることを目指したブランドビジョンであり、環境・エナジーの先進メーカーを目指す三洋電機にとって、それを象徴する製品がエネループであった。

 ただ、エネループの開発者たちは、充電池であるエネループだけで「繰り返し使うライフスタイル」を提案するだけに留まらず、充電池やその技術を活用した具体的な製品を提供することで、「繰り返し使うライフスタイル」を提案することにこだわった。そこにエネループの高い志があったといえる。

 つまり、「Think GAIA」のブランドビジョンを実現するためには、エネループ単体だけではなく、エネループユニバースとの両翼体制を基本に考えていたのだ。

広がるエネループユニバースの世界

 エネループユニバースは、2006年に発売した、太陽光で発電し、エネループに充電ができるソーラー充電器「eneloop solar charger(エネループソーラーチャージャー)」と、繰り返し使える充電式カイロ「eneloop kairo(エネループカイロ)」を発売したのが始まりだ。

 2007年には、第2弾製品として、エネループカイロを、よりカラフルな色合いを採用しながら、充電時間を短縮した2007年バージョンへと進化させるとともに、屋外や、冬場のパソコン作業、受験勉強の際にも利用できる「充電式ポータブルウォーマー」と、USB出力が可能な「充電器セット&リチウムイオンバッテリー」を発売。

 のちに、充電式ポータブルウォーマーには「eneloop anka(エネループアンカ)」、充電器セット&リチウムイオンバッテリーには、「eneloop mobile booster(エネループモバイルブースター)」の名称が与えられることになる。

エネループソーラーチャージャー
エネループカイロ
エネループアンカ
エネループモバイルブースター
エネループスティックブースター

 なかでも、エネループモバイルブースターは、スマートフォンの普及とともに、通称「モバブー」として人気を博し、2010年に発売したスティック型バッテリーの「eneloop stick booster(エネループスティックブースター)」とともに、モバイルユーザーにとっては必須のアイテムへと成長していった。

 この4製品によって構成されたエネループユニバースは、2007年度のグッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を受賞。三洋電機としては初めての大賞受賞となった。

 さらに、2008年には、ウイルスウォッシャー機能を搭載することで、いつでも、どこでも、水の力で空気を洗うことができるポータブル空間清浄器「eneloop air fresher(エネループエアーフレッシャー)」を発売したのに続き、充電式ひざ掛け「eneloop soft warmer(エネループソフトウォーマー)」、HIT太陽電池で発電して、内蔵の専用ニッケル水素電池に電気を蓄え、パネルライト、ビームライトとして使える「eneloop solar light(エネループソーラーライト)」を発売。同時にエネループカイロを両面温められるように進化させた。

エネループエアーフレッシャー
エネループソフトウォーマー
エネループソーラーライト
両面が温められるようになったエネループカイロ

 そして、エネループカイロやエネループソフトウォーマーなどの暖房関連製品は、「eneloop warmer series」という名称がつけられるようになり、ひとつのシリーズを形成することになる。

 2009年になると、さらに製品群は広がりをみせ、回生充電機能と両輪駆動を採用した電動ハイブリッド自転車「eneloop bike(エネループバイク)」、1枚あるいは2枚のHIT太陽電池で発電した電気をエネループに蓄積し、USBから携帯電話などに充電できる「eneloop portable solar(エネループポータブルソーラー)」、冬場の外出時などに首回りを温めることができる充電式ネックウォーマー「eneloop neck warmer(エネループネックウォーマー)」を製品化。

エネループバイク
エネループポータブルソーラー
エネループネックウォーマー
エネループミュージックブースター

 また、2010年には、DC9V対応音楽機器で繰り返し使える「eneloop music booster(エネループミュージックブースター)」を発売した。このように、様々な製品群を通じて、繰り返し使うライフスタイルを具現化していったのが、エネループユニバースだったのだ。

エネループランプ

 開発過程において、興味深いエピソードを持つのが「eneloop lamp(エネループランプ)」だ。阪神淡路大震災を経験した三洋電機のデザイナーが考案したこの製品は、リビングに置いていても違和感がないデザインを採用することで、日常はインテリアとしても活用できることにこだわった。

 これは、シューズボックスの奥などの目立たない場所にしまいがちな懐中電灯を、常にわかりやすいところに配置するという狙いからのものだ。台座の上に置いておけば、ランプ本体は常に満充電状態となっている。

 災害時には手に取った途端に、加速度センサーが検知してそのまま非常灯として光を照らすことができる。また、強い地震によって、台座からランプ本体が転がり落ちた場合にも、加速度センサーによって自動的に明かりが点灯。夜や暗い部屋でも困ることがない。さらには、床に落ちても、そのデザイン形状から同じ場所をぐるぐると周り、丸い懐中電灯では、取りにくい場所にまで転がっていってしまうといったこともない。

エネループソーラーストレージ発売の意味は?

 三洋電機が、パナソニックに買収されて以降、充電池としてのエネループは存続を続けたが、エネループユニバースの製品群は徐々に姿を消していった。モバイルブースターも、その技術と製品は受け継がれたが、「エネループユニバース」のブランドと、「モバイルブースター」の製品名はなくなり、USBモバイル電源、あるいはモバイルバッテリー搭載AC充電器といった名称で呼ばれている。

 だが、こうしたなか、パナソニックは、充電池以外にエネループのブランドを冠した新たな製品を発表。2015年11月から発売する。それがLED照明付小型蓄電システム「eneloop solar storage(エネループソーラーストレージ)」である。

エネループソーラーストレージ

 エネループソーラーストレージは、日中に太陽電池で発電したエネルギーを、内蔵のニッケル水素電池に蓄電し、これを、夜間の灯りとして利用したり、携帯電話やスマートフォンなどの小型機器の充電用途に活用することができる。

 エチオピア、タンザニアなどのアフリカ地域、ミャンマー、フィリピン、ベトナム、インドネシア、タイなどのアジア地域での販売を予定。この他の地域に向けても順次販売を行なう予定だというが、現時点では、日本での発売は予定されていない。基本的には、無電化地域を対象にした製品だ。

 同社の試算によると、全世界で無電化地域に暮らす人口は、約13億5,000万人にも達し、世界人口の5人に1人に当たるという。こうした無電化地域の多くでは、照明用途に、灯油ランプや充電式ランタン、ディーゼルジェネレーターなどを使用。だが、煙による健康被害が発生したりや明るさが足りないという課題を持っていたほか、ランニングコストが高い、バッテリーの寿命が短いといった課題も発生していた。

 エネループソーラーストレージは、15Wの小型太陽光パネルと、容量3,100mAhのニッケル水素電池による小型蓄電池、そして、1.5W電球形LEDランプおよび5W直管形LEDランプの2種類のLEDランプで構成されており、太陽光パネルにより、約5時間でフル充電を可能とし、同梱した直管形LEDランプでは最大24時間の連続使用ができる。また、3台のスマートフォンの充電も可能だ。蓄電池は、5年の製品寿命を持つ。

 市場想定価格は15,000円前後。無電化地域では、灯油の使用に年間12,000円相当がかかっているといわれており、1年数カ月使用すれば置き換えられる水準に、コストを抑えるように努力したという。

 このエネループソーラーストレージは、エネループユニバースの名称こそは使われていないものの、エネループユニバースが目指した「繰り返つ使う様々なライフスタイル」を具現化するものだといえる。太陽からエネルギーを生み出し、そのエネルギーを貯め、LEDランプで明るい光を生み出し、それを繰り返し利用できるからだ。その製品にエネループのブランドがついたことは高く評価したい。

エネループユニバース復活の狼煙になるのか?

 パナソニックが、充電池以外に、エネループのブランドをつけた製品を投入したのは初めてとなる。これは、エネループの発売10周年の動きとはまったく別のものではあるが、記念すべき節目のタイミングで、エネループのブランドをつけたエネループユニバースのような製品が再び登場したことは歓迎したい。

 そして、日本でも、今後、市場からの要望があれば発売を検討していくことも想定しているという。先進国でも、キャンプ用途や、災害時などでの利用が想定できるといえるだろう。

 エネループは、充電池のエネループと、それを活用した繰り返し使うライフスタイルを具現化するエネループユニバースの組み合わせによって、初めて製品コンセプトが達成される。

 その点でも、今後のエネループの進化を見る上で、これからエネループソーラーストレージがどう発展するのか、そして、これに続くような製品がエネループブランドを冠した形で投入されることになるのかどうかが気になるところだ。ここに、エネループのDNAを残し続けることができるかという重要な意味があるからだ。

大河原 克行