【特別企画】

エアコン夏商戦のポイントを聞く [富士通ゼネラル編]

~省エネと基本性能を重視したモノづくり
by 大河原 克行

低迷するエアコン市況も、ノクリアシリーズは好調


 富士通ゼネラルは、今年1月に発表した新製品のすべてにおいて、2010年省エネ基準をクリア。普及モデルを含む17機種を、エコポイント対象機種としてラインアップしている。いわば、主力モデルはすべてエコポイント対象製品という、他社に先行する形で省エネ性を追求しているのが特徴なのだ。

富士通ゼネラルのエアコンの上位モデル「nocria(ノクリア)」。写真上がSシリーズ、下がZシリーズ普及モデルを含む17機種について、省エネ基準値をクリア。エコポイント対象機種となっている

富士通ゼネラル国内営業推進部空調機営業推進部 花田隆部長
 「市場全体では、エコポイント対象製品の販売比率は50%を切っている。だが、富士通ゼネラルの場合、出荷台数の8割がエコポイント対象製品。エコであればnocria(ノクリア)というイメージが定着しはじめている」と、富士通ゼネラル国内営業推進部空調機営業推進部の花田隆部長は語る。

 1年前倒しで、すべてのモデルを2010年省エネ基準を100%クリアするというのは、製品戦略上でも極めて挑戦的なものであるのは確か。競合他社が取らなかった戦略に、富士通ゼネラルはあえて挑んだ。

 「このラインアップによって、省エネ性が高いこと、それでいてハイパワーも両立できるという富士通ゼネラルの強みを訴求することができたと考えている」と花田部長は続ける。

 実際、エアコン市況が低迷を続けるなか、リビング向けの最上位モデルであるノクリア Zシリーズ、業界最小サイズを実現したノクリアSシリーズは、ともに前年実績を上回っているという。特に、投入2年目を迎えたノクリアSは、前年比2桁増という人気ぶりだ。


 室内機を小型化し設置性を向上。“ノクリアしか設置できなかった”という声も


熱交換器には、高性能と小型化を両立した「高密度マルチパス熱交換器(左)」を、全シリーズに採用
 富士通ゼネラルが、省エネとハイパワーを両立し、これを他社との差別化ポイントとして訴求できる背景には、同社独自の高密度マルチパス熱交換器の存在が見逃せない。

 高密度マルチパス熱交換器では、銅管の直径を従来の7mmから5mmとし、さらに銅管の本数を2倍に増加。冷媒の分岐を行なうディストリビュータ部分を従来の3分岐から4分岐にすることで、熱交換効率を20%も向上。これが省エネとハイパワーを両立させるとともに、筐体のコンパクト化にもつながっている。

富士通ゼネラル国内営業推進部空調機営業推進部・岡田勇気氏
 「細くなった銅管のなかを、いかに均等に冷媒を流すかといった点が技術的に難しい。だが、それを解決したのが今年のノクリアシリーズの特徴。銅管を細くすることで、銅管同士の間を狭くでき、これがコンパクト化と効率化につながっている」(富士通ゼネラル国内営業推進部空調機営業推進部・岡田勇気氏)

 銅管を増やした分、コストは増加するが、様々な部分におけるコスト削減への取り組みによって、これを吸収。最終製品の価格には転嫁していないという。

 これまでの常識は、室内機および室外機のサイズが大きくなれば、性能が高くなるというもの。だが、高密度マルチパス熱交換器の採用によって、冷媒の通り道を増やすことで、この常識を覆し、小型化しても、高性能化を実現することに成功したのだ。

 室内機のコンパクト化では、ZシリーズおよびSシリーズでは、高さを250mmとしており、カーテンレール上部への取り付けにも可能。また、Sシリーズでは幅728mmという小型化を実現している。「エアコンの設置場所の寸法が限られているため、ノクリアしか設置できなかったという購入者もいる」と、業界最小サイズへの評価は高い。

高密度マルチパス熱交換器の採用により、効率が従来比20%向上した。岡田氏によれば、細くなった銅管の中に均等に冷媒を流すことが難しいというSシリーズの室内機は、幅728mm、高さ250mmという“業界最小サイズ”。写真のように、袖壁にも取り付けられる

 だが、その一方で、「コンパクトでありながら基本性能が高いというメッセージが伝わり切っていないという反省がある。当社の高密度マルチパス熱交換器の良さを認知していただくための努力を続けていく」と、花田部長は語る。

 

人感センサーで最大20%の省エネ運転。不在時の切り忘れを防ぐ自動OFF機能も


温湿度センサーに加え人感センサーも搭載。人の活動量をチェックし、体感温度をコントロールすることで、最大20%の省エネ効果があるという
 ノクリアシリーズのもう1つの特徴といえるのが、人感センサーである。

 人感センサーの活用方法は各社ごとに考え方が異なるが、富士通ゼネラルの場合は、部屋を19のブロックに分割し、部屋全体を同じ温度にすることで快適な空間を作るという観点から、センサーを活用している。

 「人の活動量と部屋全体の湿度を見て、快適な温度に設定しムラなく気流を送る。湿度を見て体感温度をコントロールするため、冷房時には自動的に温度設定をあげることで、最大20%の省エネを可能にしている(岡田氏)」

 また、部屋に人がいなくなったことを感知すると、自動的に省エネ運転に移行する「不在ECOモード」も搭載。エアコンの電源を切り忘れて外出した場合は、3時間後には自動的に運転を停止する。こうした人感センサーを省エネに活用するといった取り組みも特徴の1つだ。

 一方で、ビッグフラップとパワーディフューザー、さらには新開発のまがるルーバーによる可動式送風路の組み合わせによって、冷房時には部屋の上方へ冷気を飛ばし、最大15mまで気流を届け、直接体に冷気を当てない構造としているのも、部屋全体空調の考え方によるものだ。

 このほか、業界で最初に搭載したフィルターの自動おそうじ機能や、アルミフィンの抗菌コーティング、エアコン内部を乾燥されカビや雑菌の発生を抑える内部クリーン機能によって、清潔な環境も実現している。

人の活動量と部屋の湿度を見張り、それに応じて運転をコントロールする。同社ではこれを「インテリジェント・エコ」機能としている部屋に人がいない場合には、自動で運転をセーブする「不在ECOモード」も搭載。3時間経っても人が戻らない場合は、自動で運転をストップし、切り忘れを防げる

購入者を対象としたアンケートでは、購入後に満足した機能として、リモコンの操作性や音声案内機能などを挙げる声が多かった
 ノクリアZおよびノクリアSシリーズの購入者が、購入の際に重視したのが省エネ、フィルター自動掃除機能、人感センサー、コンパクト性などだ。だが、購入後に満足したという回答のなかで、購入動機では上位にはなかった「音声案内」機能の評価が、上位に入っていることは特筆できよう。

 リモコンを押すと、「冷房28℃で運転を開始します」などの音声案内が行なわれ、その組み合わせは4万通りにも及ぶ。部屋が暗い状態での操作や漢字が読めない子供でも操作できるほか、赤ちゃんがリモコンを間違って押してしまった場合にも、音声で気がつくことができるといったメリットもあるという。

 さらにリモコンの液晶文字そのものが大きいことに対する評価も高く、操作性の良さはノクリアシリーズの隠れた特徴となっている。

 “冷房、暖房、湿度コントロールという、基本性能を重視したモノづくり”


ノクリアのイメージキャラクターには、元大リーガーの野茂さんを起用。前年の2倍のテレビCMを展開しているという
 販促活動としては、元大リーガーである野茂英雄さんをイメージキャラクターに起用したテレビCMを、今年2月以降、約半年に渡って積極的に放映。前年比2倍のテレ ビCMを展開したほか、7月31日までの期間は、「野茂キャン」の名称で、大リーグ観戦ツアーなどが当たるオープンキャンペーンを実施し、1万通の応募を 獲得。さらにノクリアシリーズ購入者を対象に10万円の旅行券などが当たる「夢はでっかくキャンペーン」を展開した。

 「昨年のノクリア Sの投入によって、エアコン市場におけるノクリアシリーズの認知度が少しずつ上昇してきたが、これを一層高めるために、今年エアコンを購入しないという顧客を含めて、オープンキャンペーンを実施した。量販店店頭の展示ブースづくりも、あえて説明を多くして、ノクリアシリーズの基本性能の高さを訴求すること に力を注いだ」(花田部長)という。

 説明型の展示ブースは、全国900店舗の主要量販店で展示。その取り組みはシェア上昇という形で、着実に成果につながっているといえよう。

 ところで、競合他社は除菌効果のあるイオンを放出する製品を投入しているが、富士通ゼネラルではその点をどう捉えているのだろうか。

 花田部長は、「ノクリアシリーズには、ポリフェノール除菌脱臭マイナスイオン空清フィルターを搭載しており、これによりカビや雑菌の繁殖を防ぎ、脱臭効果があるほか、金属酸化触媒脱臭フィルターによって、ニオイやホルムアルデヒドなどを分子レベルに分解することが可能」と前置きしながら、「冷房、暖房、湿度コントロールという基本性能を重視したモノづくりを進めていることを理解いただきたい。基本性能の高さで選んでいただける製品づくりをコンセプトとしている」と語る。

 もちろん、イオンを放出する形での除菌機能についても検討は進めているというが、市場動向を睨みながら結論を出す考えのようだ。

 「夏の冷房商戦では、省エネいう点で高い評価を得たことが、大きな成果。エコポイント対象製品の販売構成比を75%にまでを占めることを目指していたが、それが8割に達した。そして、市場シェアも引き上げることができた。省エネならばノクリアというイメージをさらに定着させていきたい」(花田部長)としている。

 基本性能の強化と省エネ化に愚直にこだわる富士通ゼネラルらしいモノづくりが、2009年モデルの特徴といえそうだ。



2009年8月11日 00:00