家電製品ミニレビュー

ロボット掃除機対決第1話 一般的なLDKで吸引力を競う!

家具が多いLDKで最新機種の性能をチェック

 最近の家電量販店の掃除機売り場は、大きく変わった。どの店にも、4平方mに仕切られたロボット掃除機の実演コーナーがどの店にも設けられている。

 2004年に、アメリカiRobot社のルンバが発売されてから早10年。昨年は出荷台数が日本で100万台を突破した。2014年は国内外のメーカーが続々参入し、ロボット掃除機市場は急速に広がり、日々目覚ましく発展、進化している。しかし、それらが実際、自宅で使えるかどうかは店頭ではわからないと、まだ信じられない人もいるのでは? いずれも5万円を超す高級な製品だけに、失敗せずにいいものを選びたいものだ。

 そこでこの記事では、量販店にあるような単純で小さな四角いスペースではなく、リビングとダイニングがカウンターでつながり、廊下もある一般的な間取りで、ソファーやダイニングテーブルなどの家具がある場所でもきちんと掃除できるかをテストしてみる。

 テスト項目も多いので、前後編の2回に分けてその結果を見てみよう。後編はこちら

エントリーは2014年モデル! 王者ルンバ最新モデル&東芝の最新改良型&ドイツのミーレから

 対象としたロボット掃除機は、2014年に発売された3製品だ。

メーカー名ミーレ東芝ライフスタイルiRobot
製品名Scout RX1トルネオロボルンバ880
購入場所ビックカメラビックカメラビックカメラ
購入価格74,640円73,120円64,593円

 まずは、ドイツの有名家電メーカーMiele(ミーレ)が開発・販売し、日本でも販売を開始したロボット掃除機「Scout RX1」。同社は業務用の食洗機や洗濯機でも有名で「ロゴをどこかで見た」という人も多いだろう。

 続いては大幅リニューアルして、その名もスマーボからトルネオロボに変えた東芝ライフスタイルのロボット掃除機。スマーボはサムスンからOEM供給を受けていたが、「トルネオロボ」は東芝が遂に本気を見せ、完全自社開発したロボット掃除機だ。

 3台目は、ロボット掃除機の王者iRobotから最新モデルの「ルンバ880」。ロボット掃除機の代名詞とも言えるルンバは、唯一ロボット専業メーカーが開発、製造しているテクノロジーが詰まった製品であり、世界中で圧倒的なシェアを誇る。国内での人気も高く、ルンバを置いていない量販店はないと言ってもいいほどだ。

飾り気のないシンプルなデザインが好きなファンも多いミーレ。名前は知らなくても、赤いロゴでピンとくる人も多いだろう
本体から飛び出した集塵ブラシで、壁ぎわのゴミを逃さずかき集めるトルネオロボ。充電ステーションに合体すると本体のゴミを自動的に吸引するため、ゴミ捨てがラクになった
これまでのブラシでゴミをかき出して吸い込む方法ではなく、2本の特殊なローラーでゴミをかき出し、強力に吸い込むルンバ880。新しいブラシを採用しており、メンテナンスも楽になった
Scout RX1の吸い込み口
トルネオロボの吸い込み口
ルンバ880の吸い込み口

 この3台をリビングダイニングとキッチンがつながった、ごく一般的な間取りでテストしてみた。広告や記事では動きを分かりやすくするために、家具もないような四角い部屋で実験や説明をすることが多いが、実際の家では、リビングダイニングとキッチンが廊下でつながっているという間取りも多く、実力が分かりにくいからだ。

写真のとおり、本体の大きさはどれも同じ。トルネオロボのみブラシが飛び出している
擬似ゴミはコーヒーのかすと、人工授粉用のパウダー。キッチンマットを絨毯に見立てて、フローリング以外でもキレイにできるかを確かめている。なお、マットは軽くめくれるため、テープで床に固定している

 実験内容は、先の間取り図のピンクの部分には、コーヒーを入れた後の出しがらや、パウダー状のゴミ、糸くずなどを規定量セットして、各社のロボット掃除機が自動モードでどれだけキレイにできるかを試すというものだ。

青線枠内が掃除した部分。緑色の線は家具を示し、色が塗ってある家具は掃除機が潜り込めないもの。ピンクはテスト用のゴミを設置した箇所。カメラは天井付近に3台設置して、1秒間隔で撮影した。充電台(スタート位置)は右側中央のドアの横

 また、キッチンとつながっているLDKの間取りで各ロボット掃除機がどのような動きをするか、どのようにごみをとっていくのかを見るため、部屋に3台のカメラを設置してコマ撮りし、時間を早回ししたムービーも用意する。

 今回実験したのは、キッチンとリビングが一緒になった約15畳の間取り。家具などがおいてあるスペースを除くと約13畳ほどのスペースだ。

走行パターンや集塵メカ、吸引力のバランスと性能が大切なロボット掃除機

 まずは、ロボット掃除機の動きとキレイになっていく様子をムービーで見てみよう。

・ミーレ:Scout RX1
 合理的で素早い「コ」の字型に掃除するも、吸引力不足で取り残しがかなり残っている。

 天井カメラを搭載し、部屋の形や現在の位置を把握している。コの字型に掃除していくため、清掃時間が15分ぐらいとダントツに早いが、取り残したゴミも一番多かった。

 前方にある2本の集塵ブラシも改良の余地が多くあるようで、回転によりゴミを周囲に撒き散らしてしまう傾向がある。また吸引力が弱いので、取り残しも多いのが気になる。早いぶん作業が荒いという印象だ。

取り残しも目立つが、集塵ブラシで撒き散らしてしまい、緑の枠外までコーヒーが飛び散っている
パウダー状のゴミが、フィルターを目詰まりさせてしまったようだ。タイヤ痕と集塵ブラシの回転跡が残っている
絨毯の上に置いた糸ゴミも撒き散らした。軽いゴミなのに取り残しも多い

・東芝:トルネオロボ(VC-RVD1)
 一見ランダムにも見える動きだが、部屋を×字と十字で掃除するパターンがある。また壁ぎわは直線的に、ゴミの多い場所では渦巻き状に動いて掃除する。部屋全体がキレイになっている。

 壁ぎわやテーブルやイスで入り組んだ箇所は、速度を落とし、両脇に飛び出した集塵ブラシでていねいに清掃している。また障害物のない場所では、速度を上げ清掃時間を短縮しているようだ。結果は、清掃時間は一番長くかかってしまったが、自動モードではもっとも壁ぎわをきれいにした。

遠目に見るとほとんどゴミがない。ミーレでは残っていた絨毯上の糸ゴミも吸い込んでいる
緑の枠内に残っていたコーヒーかすを左下に寄せてみた。なんとなくザラツキ感が分かる程度の取り残し
パウダー状のゴミは、フローリングの目に入ったものは吸い取れなかった。部屋を裸足で歩くと、なんとなく粉っぽい

 ムービーを見ると、ほとんど取り残しのないキレイな部屋に見えるが、裸足で部屋を歩くと、薄くゴミが残っている場所があった。

 吐き出し口が本体底にあるため、ゴミを巻き上げてしまい、パウダー状のゴミを部屋に飛散させていると思われる。

ロボット掃除機の多くは、ダストボックスのある背面や側面に吐き出し口を備えているが、トルネオロボは底面の指を差している部分にある
フィルターで捕らえきれなかったパウダー状のゴミが、フタに付着している。それ以外は、本体内部にある吸引モーターに吸い込まれ、吐き出し口から床に吹き出してしまう
掃除をかけた後、本体を指でなぞると、巻き上げたパウダー状のゴミが多く付着しているのが分かる。床が粉っぽいのは、巻き上げたゴミのようだ

・iRobot:ルンバ880
 ルンバ880の特徴は、一見ランダムに動いているように見えるが、状況を判断しているかのような細かな動きを見せる点だ。例えば、ゴミが多い箇所を見つけると雑巾がけをしているように、ゴシゴシと何度かその部分をていねいに掃除する。ムービーでは何回もその姿が見られる。さらに「そこゴミが残ってるぞ!」というところへ、確実に移動しているように見える。裸足で歩いても取り残しを感じないほど、一番キレイに掃除できた。

 清掃時間は、1時間以上かかったが、計4方向からていねいに掃除をしている印象だった。

 Scout RX1やトルネオロボと違うのは、絨毯の清掃力。パウダー状のゴミもコーヒーかすも、糸ゴミもキレイに吸い取ってくれる。

集塵ブラシは1つしかないのに、よくここまでキレイになるものだと関心してしまうほどの仕上がり。裸足で歩いても粉っぽいゴミの取り残しを感じない
絨毯はピンクのパウダー状のゴミもほとんど残っていない
よーく見ると、左上のフローリングの目にピンクのゴミがわずかに残っている程度。粉っぽさは微塵もない

 また、これまでの2台が苦戦したパウダー状のゴミもルンバ880は全て捕集していた。同社によれば「0.3μmのゴミを99%以上除去できる」としており、実験で使ったパウダーがピッタリそのサイズだったので、それを証明した。

 さらにルンバ880だけの特徴として挙げられるのが、髪の毛や長い糸くずがブラシに絡まない点。詳しくは後編で紹介するが、ルンバ880のブラシは、髪の毛や糸がブラシに絡まないので、お手入れがウソみたいに簡単だ。

左上に写っているのがフィルター。ピンクのパウダー状のゴミがビッシリ濾し取れている。裏はほぼ真っ白で、他の掃除機とはまったく異なる結果になった
ルンバ880オンリーワンなのが、特殊ゴムでできたゴミ掻き出し用ブラシ。従来品は、まさにプラシが回っていたので、髪の毛や糸が絡むと取るのが大変だった

清掃時間と床のキレイさは相反するもの

 ムービーの左上に表示されている時刻を元に、おおよその清掃時間をグラフにしてみた。メーカーが公表している値は、何回か清掃させてその平均時間だが、グラフの清掃時間は、ムービーでテストした1回のみの値となっている点に注意して欲しい。

 コの字で合理的に走行する、Scout RX1の圧倒的な早さに注目してしまいがちだが、掃除能力は別の話。

 ロボット掃除機は、人がいないときなどに、自動で部屋を掃除するものなので、よほどの事情がない限り清掃時間の早さは気にしなくていいだろう。「よほどの事情」とは、たとえば30分の休憩時間ごとに部屋を掃除したい、常に人がいる部屋なので早く掃除を済ませたいという場合だ。

 また、これまで何台ものロボット掃除機を見てきた筆者が言えるのは、「部屋の形にそって最短経路で掃除する製品より、様々な方向から部屋を走り回る方が床がキレイになる傾向にある」という点。これは、同じ箇所を違う方向から掃除することで、溝などに入ったゴミをより多く取れるからだ。

 ここで紹介したトルネオロボやルンバ880は、ムービーで説明したとおり、一見すると無秩序だが、実はパターンがあり、まだ掃除していない部分を把握している。ただ安価なロボット掃除機は、本当に無秩序で闇雲に動いているだけのものもあるので注意。

一番部屋のゴミを吸い込めたのはルンバ880

ロボット掃除機の性能実験は、かなり地味な準備の連続。コーヒーかすは、フライパンで炒ってある程度水分を飛ばし、大きな容器にためて湿気を均一にしている

 清掃実験では、床に擬似ゴミをセットして3台に掃除させた。部屋の6カ所に10gずつのコーヒーかす、2カ所にパウダー状のゴミを撒いている。

 そのほかにも、短い糸ゴミ、長い糸ゴミ6本に加え、絨毯は1週間掃除機をかけていないものを利用した。

 また清掃実験前に空のダストボックスの重さを、実験後にはゴミが入った状態のダストボックスの重さを測定。重さの差から、吸い込んだゴミの量を割り出している。

空のダストボックスと、掃除を終えたダストボックスの重さを量り、どれだけゴミが吸い込めたかを調べる
トルネオロボの場合は、充電台に合体すると本体のゴミは充電台のダストボックスに吸い込まれるため、両方のダストボックスの合計値を測った。下段が本体、上段が充電台のもの

 これらの測定値を元に、合計で66g撒いた擬似ゴミの何割を吸い込めたかをグラフにしてみた。

 実際にダストボックスに溜まったゴミを比較してみると、次のようになる。

Scout RX1。「ピックアップ率20%台だよな」と納得させられるコーヒーかす。ピンクのパウダーも少ない
トルネオロボは、コーヒーかすの量はルンバ880と大差はないが、ピンクのパウダーの量がまったく違う。フィルターで濾し取れず、部屋に飛散させたようだ
ルンバ880。コーヒーかすも圧倒的に多いが、パウダー状のゴミの多さにも注目。フィルターの細かさと吸引力を両立するバランスがすごい

 フィルターの目を細かくすると、空気が通りづらくなるため、小型のモーターしか搭載できないロボット掃除機の多くは、キャニスタータイプに比べてフィルターの目が粗い。トルネオロボとScout RX1がその代表例だ。しかし、ルンバ880はフィルターの目が細かいにも関わらず、高い清掃能力を備えているというバランスが絶妙だ。

複雑な間取りでもOKだが床のキレイさは差が出る

 リビングとキッチンがつながった一般的な間取りでもロボット掃除機は迷子にならず、部屋全体をキレイにできるかを実験してきた。結果いずれのロボット掃除機も部屋全体をエラーにならず動けるものの、清掃後の床のキレイさには大きな差が出ることが分かった。

 床のキレイさという点に着目すると、iRobotのルンバ880はやはり強い。フローリングや絨毯、大きなゴミから細かいゴミ、長い糸状のゴミまで確実に吸い取って、自分で掃除する以上のキレイさに仕上げてくれた。とくに吸引力の強さとフィルターの目の細かさのバランスがよく、他社の追従を許さないルンバ880の強さを見せつけられた思いだ。

 東芝のトルネオロボの健闘も称えたい。今回はパウダー状のゴミが仇となってしまったが、綿ゴミが多い一般家庭での通常の使い方なら、ルンバ880に迫る性能を見せるだろう。

 残念な結果に終わってしまったScout RX1は、まだまだ改良の余地があるというところだ。

 次回は、部屋の角や壁ぎわ、運転音や使い勝手などを紹介する。

壁ぎわや窓ぎわを、ロボット掃除機はキレイにできるか?

藤山 哲人