家電レビュー
現実路線の家庭用蓄電池、エコフロー「DELTA Pro 3」使ってわかったこと
2024年7月25日 08:05
EcoFlowが6月25日に発売した家庭用蓄電池の新モデル「DELTA Pro 3」。一般的にこの手のポータブルバッテリーは、オートキャンプや車中泊といったアウトドア文脈で語られがちで、実際にそうした用途でよく売れる商品だが、EcoFlowでは日本市場へ向けて、家庭用蓄電池として利用可能なモデルを開発している。
その第一弾が、今年3月にレビュー記事を書いた「DELTA Pro Ultra」だった。インバータ部とバッテリー部が分かれた大型モデルだが、日本独自の送電方式である「単相三線式」の入出力を備えたことから、分電盤と家庭内配線の間に挟み込めるのが特徴である。
ただしシステム最小価格で143万円と、かなり本格的なシステムである。一方、新モデルのDELTA Pro 3は、単相三線式に対応しながらも、価格を539,000円に抑えた中型機となっている。現在は超早割30%OFFとして、公式サイトでは377,300円で販売されている。
ポイントは、どちらのモデルも据え置きの固定設置型ではなく、移動可能なポータブルバッテリーだということである。固定設置型にすると、消防法や自治体の条例に関係してくるため、届出や点検義務が発生する。しかし移動可能であれば適用外となるため、家庭用とはいえ動かせるかどうかは重要になる。
今回はこうした家庭用モデルが登場した背景と、新製品DELTA Pro 3の実力を、実際に家庭内で使って検証していく。
ブレイク夜明け前の家庭用蓄電池
EcoFlowが家庭用蓄電池に注力する理由は、一般家庭に設置したソーラーパネルからの電力を固定価格で買い取る「固定価格買い取り制度」が10年の期限を迎え、順次終了していく「卒FIT」が大量に起こると見ているからだ。先に投入されたDELTA Pro Ultraは、EcoFlowとしても最大規模の製品で、かなり規模の大きな発電システムに対応できる製品であった。
一方のDELTA Pro 3は、従来のDELTA Proシリーズ同様、インバータとバッテリー部が一体になっている。単体で完結できるほか、2台までのエクストラバッテリーで拡張もできるという、いいとこ取りをした製品だ。
簡単にスペックを比較してみる。
定格出力 3,600W 6,000W
拡張可能出力
(X-Boost時) 最大5,100W 最大12,000W
定格容量 4,096Wh 6,000Wh
拡張可能容量 最大12kWh 最大30kWh
ソーラー入力 2,600W 5,600W
AC入力 1,800W + 4,000W 2,500W + 6,000W
重量 51.5kg 82.4kg
サイズ 693×341×410mm 690×481×214mm(インバーター)
660×455×204mm(バッテリー)
スペックとしてはざっくり半分強といったところだが、価格は半額以下だ。DELTA Pro Ultraは卒FITにフォーカスした製品だったが、DELTA Pro 3は卒FITにも対応しつつ、高騰する電気代に対抗する商品としての性格を強めている。
天気のいい日は可搬型のソーラーパネルを庭に出して発電、ぐらいのライトなイメージだ。屋根にソーラーパネルを載せていない一般家庭では、価格的にもサイズ的にもこれぐらいが検討できるラインだろう。
一新されたデザイン
では、DELTA Pro 3の細かい仕様を見ていこう。過去のDELTAシリーズからはデザインが一新され、シルバーを基調とした流線型のデザインとなっている。
後部にキャスターを備えており、手前のハンドルを引き出して転がせるようになっている。51.5kgをそのまま持ち上げるのは1人では困難だが、ハンドルがそこそこ長いので、1人でも転がしての移動は難しくない。
前面に大型ディスプレイがあり、その上に電源スイッチがある。前面の出力部は3つのゾーンに分かれている。ディスプレイ下にはType-CとType-AのUSB端子が2系統ずつ。右サイドを開けると、DC5521とアンダーソン型のDC出力もある。
正面のAC出力は左右で機能が分かれている。左側は100V出力で、15A/20A兼用コンセントが4系統。つまりここから出せるのは最大2,000Wだ。
前面右側は200V出力が2系統。上は15A/20A兼用コンセントで、下は単相三線式対応のNEMAL15-30コンセントとなっている。こちらも最大2,000W。
なお、この100V系と200V系は切り替え式になっており、両方同時に使用することはできない。200V系を使う場合は、完全に分電盤と直結して家庭内配線の間に挟み込むことになる。したがって実際には家庭内のコンセントから電力を使用するスタイルとなる。
仕様上の最大出力3,600Wを使う場合は、左サイドにあるNEMAL6-30型コンセントを使用する。この最大出力は、バッテリーからの出力と、入力されているAC電力との合算によって得られる。
バッテリーが空になると、AC入力からのパススルーのみになってしまうので、その際には1,500W出力に下がる。よってDELTA Pro 3利用のコツは、バッテリーが空にならないように、細かく継ぎ足し充電していくことである。
背面には、家庭用100Vコンセントからの入力と、大電力入出力対応ポートがある。この大電力ポートは、EV用充電ステーションからの充電も想定されている。ソーラーパネル入力はXT60端子が2系統。
専用エクストラバッテリーは容量4,096Whで、DELTA Pro 3本体と同容量だ。重量は33kgで、上に積み重ねる格好で2台まで増設できる。接続のためのケーブルも、DELTA Pro Ultra用は硬くて取り回しが大変だったが、DELTA Pro 3用はコシが柔らかく、扱いやすくなっている。
またバッテリー消費も、DELTA Pro Ultraの場合はどのバッテリーから使われるのかは自動判断になっており、法則性がよくわからなかったが、DELTA Pro 3ではエクストラバッテリーから先に消費されるように設定できるようになった。これにより、空になったエクストラバッテリーを充電済みのものに交換して、出力維持するような使い方もできるようになった。
使ってわかった、「うちにはこれぐらい」の感じ
では実際に家庭内でどのように使えるのか、試してみる。分電盤に組み込むには電気工事が必要なので、今回は家庭用コンセントのみでの運用である。
AC100Vからの充電速度に関しては、背面のスライドスイッチで切り替えられるほか、アプリでも制御できる。最大は1,800Wだが、今回は計算しやすいように1,000Wで充電してみた。残量10%からスタートしたところ、満充電までちょうど5時間といったところだ。
今回の注目ポイントは、電力需要のピーク時にどれぐらい助けになるかというところである。実際1日のうちに電力需要が集中するのは、調理家電を動かしている時だろう。特に夕餉の支度は品数も多くなるため、調理家電の稼働時間が長くなる。
調理の最初に手がけるのは炊飯だと思う。炊飯器は最初にドカーンと1,000Wぐらい電力を使うわけだが、ずっと1,000Wを使うのではなく、大きなサイン波状に電力を増減させている。熱の循環を考えれば、ひたすら加熱しても効率が悪いということだろう。とはいえ、電力の山の時に他の調理家電とぶつかると、ブレーカー落ちの原因になる。
電子レンジは、仮に1,200W使っても温めや解凍などはせいぜい5分ぐらいなので、タイミングのコントロールはしやすい家電だ。
油を使わずに揚げ物ができるノンフライヤーは、15〜20分ぐらい使用することになる。これも最初のスタート時にドカーンと1,200Wぐらい使って一定のところまで温度を上げたら、あとは点いたり消えたりのリレー制御となる。傾向としては炊飯器と似ている。
電気ポットは、お湯が沸くまで一直線に1,000W近くの電力を使うが、少量であれば2〜3分程度で沸いてしまうので、電子レンジのような短期集中型である。
こうして考えると調理家電は、稼働時間が長く電力が変動するタイプと、稼働時間は短いが電力が一定のタイプに大別できる。出力の問題からDELTA Pro 3に全部は繋げられないが、炊飯器と電子レンジは必ず稼働するので、この2つをDELTA Pro 3に接続した。
調理中には食洗機も稼働させることがあるが、これも水をヒーターで加熱しながらポンプも動かすので、かなり電力を消費する。これまでは炊飯しつつ食洗機を動かし、電子レンジを使うところまでは耐えられたが、電気ポットまで使うとブレーカーが落ちていた。だが今回はDELTA Pro 3に炊飯器と電子レンジのぶんは任せられるので、ブレーカーも落ちることなく全部使用できた。
DELTA Pro 3には、多少出力をオーバーしてもカバーできる「X-boost」といった機能もあり、厳密にワット数を計算しておく必要はない。耐えられないほどの過大出力になれば、自動的に出力を停止する。
多くの家庭では、電力需要ピーク時にもブレーカーが落ちないよう、50〜60A程度を契約しているのではないだろうか。筆者も戸建てに住んでいるときは60Aを契約していた。しかし平時はどう考えても60A使っていない。エアコンと電灯を使ったとしても、普段は30Aもいかない程度だろう。
つまりDELTA Pro 3を使ってピーク時の調理家電をある程度動かすことができるのであれば、契約アンペア数を見直すということも視野に入ってくる。
「細かい設定」がポイントに
日本の電気エネルギー政策は、途中東日本大震災による電力不安を間に挟んだことで、リニアに推移しなかった。特に再生可能エネルギーは、計画的脱炭素社会実現というより、反原発でヒステリックに進められたこともあり、需要を上回る供給過多となっている。
太陽光や風力などの変動制再エネの出力制限は、2023年には過去最高の18.8億kW、一般家庭の年間消費量の45万世帯分を捨てたことになる。さらに今年は全国規模で悪化の見通しだ。ウクライナ侵攻や円安でエネルギー価格が上昇する中、政府の補助も安定性がない。
日本では米国と違い停電がほとんどないので、家庭内蓄電池はあまり普及していない。だが価格変動、需要変動のバッファとしては有効な手段だ。
例えば出力制限で過去最大を記録した九州電力では、電気のタイムセールを実施している。電気が余る時間帯に安売りしたり、足りない時間帯に節電に協力するとポイント還元するといった施策だが、今年は他の大手電力会社でも導入を検討しているという。
DELTA Pro 3では、アプリを使ってACからの充電時間をタイマーでセットできる。タイムセールの時間を見計らってセットしておけば、余っている電力で充電し、足りない時間帯に放電することでポイント還元が受けられる。
ただ現時点では、毎日や毎週のような繰り返しでは充電開始と充電停止の両方がセットできるが、1回だけの設定では充電開始しか設定できない。タイムセール終わりの時間に充電を止めたいのに、フル充電まで行なってしまうのだ。不定期で行なわれるタイムセールに対応するなら、1回だけの設定にも開始と停止の両方を用意すべきだろう。
とはいえ、そのうち電力会社のセール情報とアプリ設定による充電時間の連動をAIにやらせる人も現われるだろう。バッテリーの挙動を細かく制御できるアプリがあるというのが、想像以上にEcoFlowの大きな強みになりそうだ。
また今回テストしたように、家庭内の電力使用のピークをDELTA Pro 3でカバーすることにより、契約アンペア数を下げて基本料金を下げられる。東京電力の従量電灯B契約では、60A契約を40Aに下げるだけで毎月623円安くなる。
電力系の話だと、ついそれで元が取れるのか、儲かるのかという話になりがちだが、家庭内にこれがあるだけで長時間の停電に対応できるというメリットがある。ソーラーパネルがあればそこから、いざとなれば車から、あるいはEVステーションからも充電できるのは強い。
本格的に分電盤に組み込むと工事費もかかるが、それはあとから考えてもいい。最近は家庭内蓄電池の知名度も上がってきたことで、工事だけ請け負う業者もそこそこ出てきているという。
ひとまずソーラーパネルと中型程度のバッテリーが1セットあるだけで、電力不安への対抗措置となることは間違いない。