家電レビュー

太陽光発電を売電から自家消費へ エコフローの蓄電システムはアリかも

お借りしたDELTA Pro Ultraの最小システム

日本で屋根にソーラーパネルを取り付ける動きが高まったのは、東日本大震災後である。計画停電に伴う電力不安に加え、脱原発の動きから、再エネ導入ブームが起こった。設置費用に対する助成金を出した自治体も多かったし、一定期間高値で電力を買い取る固定買い取り制度(FIT)も導入された。

だが制度開始から12年が経過し、FITによる買い取り価格はおよそ1/4まで下落している。今となっては電気料金が売電価格を上回る、いわゆる「逆ざや」状態となっている。また春秋のエアコンが稼働しない時期には、再エネで発電する電力が余る状態となり、買い取りを停止する「出力制御」が行なわれるようになった。2023年には出力制限が過去最多となり、およそ45万世帯分の年間消費電力が無駄に捨てられた。

そうした状況ならば、発電した電力を自家消費したほうがましという、いわゆる「卒FIT」を検討する家庭が増加するとみられている。とはいえ、発電している日中に大量の電力を使用する用途がなく、通常は朝夕の食事時や夜に使いたいことだろう。

ポータブル電源で大手のEcoFlowでは、こうした卒FITへ向けて、同社としては初となる大容量蓄電システム「EcoFlow DELTA Pro Ultra」を発売した。インバータ部とバッテリー部に分かれており、1×1の最小システムの価格は143万円。バッテリー部は最大5台まで連結できる。

今回はこの1×1のシステムをお借りすることができた。実際どのように動くシステムなのか、同社の従来モデルとどのように違うのか、実際に試してみたい。

大容量だがポータブル

DELTA Pro Ultraは大容量の蓄電システムだが、固定設置ではなく台車に載せて持ち運べる「ポータブル電源」のジャンルになる。製品にはキャスターが付属しており、これに載せて移動できるようになっている。インバータ部の重量は31.7kg、バッテリー部の重量は50.7kg。両脇にハンドルが付いているので、設置や移動には大人2人が必要になる。左側面に接続用のソケットがあり、専用ケーブルで上下を接続する。

専用ケーブルでインバータとバッテリーを接続

インバータ部のAC出力としては、正面左から20msUPS付き100V 20A出力×2、0msUPS付き100V 20A×2、20msUPS付き200V 20A×1、20msUPS付き単相三線式対応100V/200V 30A×1。DC出力としては、5V 2.4A 12WのUSB Type-A端子×2、5V〜20V 5A 100WのUSB Type-C端子×2、12.6V 30A 378WのDC端子×1となっている。定格出力は、トータル6,000W、瞬間出力9,000Wとなっている。

正面の出力部分。200Vと単相三線は特殊コネクタになっている

入力は、ACが2,500W コンセント入力×1、6,000W 単相三線式入力×1、ソーラー入力としては高圧PV 4,000W×1、低圧PV 1,600W×1となっており、複数の方式で同時充電もできる。トータルの最大入力は7,600W。

右側のACおよび低圧ソーラー入力部
ソーラーの高圧PV入力にはスイッチが付いている

こうした家庭用大型バッテリーは米国仕様のものが多く、日本特有の単相三線式に直接対応しないものも多いが、DELTA Pro Ultraは日本市場を考慮した設計になっているのが特徴だ。

バッテリーユニット1台ぶんの容量は、6,144Wh、102.4V。4人家族の電気使用量平均を1日あたり13.1kWhと仮定すると、約11時間ぶんの電力が貯められる計算になる。

右側面。バッテリー追加時は、左下のソケットを使って連結していく

家庭内へシステムとして組み込むには、系統電力から引き込まれている単相三線式の電力線をDELTA Pro Ultraへ入力し、同じく単相三線式出力を家庭内配線へ接続することになる。つまり一般の配線の間にDELTA Pro Ultraを割り込ませる格好だ。ソーラーパネルからのDC出力は、DELTA Pro Ultraへ直接接続すれば良い。ただし単相三線式の接続変更は電気工事士の資格が必要なので、設置事業者等へ依頼することになる。

システム構成例

今回はそこまでの工事はできないので、屋内配線のコンセントから充電、DELTA Pro Ultraから出力という方法で試用している。

柔軟な充放電設定が可能

実は筆者宅マンションは電力契約が40Aしかなく、朝夕に調理家電がフル稼働すると、ブレーカーが落ちてしまう。そこでキッチンにDELTA Pro Ultraを設置し、この問題を解決しようというわけだ。DELTA Pro Ultraは最大6,000W出力できるので、家庭用100Vで考えれば60A出せることになる。一方充電は、専用アプリで入力ワット数が変更できるので、1,000W(10A)ぐらいでゆるゆる充電すれば、ブレーカーが落ちる心配はない。

【訂正】初出時、電力契約を40Wとしていましたが、正しくは「40A」のため訂正しました(3月6日/編集部)

オペレーションとしては、本体のフロントパネルでACやDC出力をONにするだけだ。家庭内コンセントとして使用する場合は、前面のフタを跳ね上げてコンセントを繋ぐことになる。ただずっとこの状態だと、樹脂製のフタがずっと飛び出したままになるので、近くを通ったときに服などが引っかかってしまう。このフタは一応取り外せるようにはなっているのだが、取り外したフタをどうするかもまた困る。

フロントパネルは簡単なスイッチのみ
正面のフタは使用時に邪魔になる
側面ソケットのフタは本体内に収納できる

フロントパネルやアプリでは出力ワット数がわかるので、調理家電を1つずつ動かせばそれぞれの実消費電力がわかる。案外電力を食っているのはIH炊飯器で、炊き上げ時は1,600Wぐらい消費している。ただ常時1,600Wではなく、点いたり消えたりしながら温度調節しているようだ。また保温時は常時60Wぐらい消費している。60Wと言えば、40インチのテレビぐらいの消費電力である。長時間保温するぐらいなら、さっさとラップに包んで冷凍してしまった方がいい。

アプリでは各ポートごとの出力が確認できる

筆者宅で想像以上に電力を食っているのは、電子レンジだった。マニュアルによる温めは600Wまでしかないので、消費電力はそんなものだろうと思っていたのだが、自動温めモードでは2,500Wぐらい食っているのがわかった。炊飯しながら電子レンジを使っただけで瞬間4,100Wである。そりゃブレーカー落ちますよね、という話だ。

だが間にDELTA Pro Ultraを挟んだことで、ブレーカーが落ちることなく調理できた。さらに電気ケトルや食洗機を動かしても余裕である。大電力を使うのは調理時の中でも30分程度しかないので、家庭内にこうした電力バッファがあるのは有効だ。

一方充電に関しては、アプリで細かく設定できる。今回は充電スピードを1,000Wに設定しているので、一時的に大電力を使っても、コンセントからは10Aで充電されるだけである。

チャージ電力を自分で設定できる

またEcoFlow独自の、「バックアップ予約」機能も使える。例えば予約レベルを50%に設定しておくと、ACからは50%までしか充電されない。それ以上はソーラーパネルから充電するために空けておく、という設定になる。

下位モデルで標準の「バックアップ予約」も搭載されている

「自動化タスク」という機能もある。下位モデルではまだラボ機能として試験運用中だが、DELTA Pro Ultraでは正規の機能として実装されている。これは充電や放電のタイミングを、時間で限定できる機能だ。例えば深夜料金が安い電力プランを契約している場合、AC充電を深夜のみに限定することで、電気料金が節約できる。

充電・放電スケジュールを設定できる「自動化タスク」

なお自動化タスクは上記のバックアップ予約と併用できないので、どちらか一方の選択となる。筆者は自動化タスクで、深夜に3時間だけ充電するという設定で、充放電のバランスを取っている。

また昨今電力会社では、スマートメーターを利用して特定の日時のみ電力を安くしたり、逆に節電に協力するとポイントが貰えるといったサービスを展開しているところがある。要するに電力シフトして、使用電力を平坦化して欲しいわけだ。こうしたサービスに対応する際に使用してもいいだろう。

DELTA Pro Ultraは、BluetoothやWi-Fiはもちろん、4Gモジュール用のUSBスロットも用意されている。バッテリーが通信網に繋がることで、将来的にはスマートメーターと連動し、こうした電力需要の平坦化に自動対応するといったことができるようになるかもしれない。

左側にある4Gモジュール用のコネクタ

卒FITの現実的な解

EcoFlowとしては初となる大型バッテリーだが、設定はすべてアプリで完結できるあたりは、同社製の小型・中型モデルと同じになっていて、安心できる。容量がデカいというだけである。

そして日本独自の送電仕様である単相三線式に対応しており、さらには系統電力とソーラーパネルを常時接続するという使い方も想定されているため、まさに卒FITしてソーラー発電を家庭用として使うという転換にはピッタリの製品となっている。

ただ系統電力の配線を行なう場合には事業者に頼むことになるので、購入も設備事業者に工事費込みでお願いするというルートが妥当だろう。逆に系統電力に繋がない場合は、普通にネットで買えてしまうのも面白い。

元々米国では停電が多く、一度停電すると復旧まで8時間ぐらいかかるので、こうした大容量の家庭用バッテリーが普及しつつあるという。一方日本では系統電力が停電するケースは少ないが、FITによる売電ではいくらにもならなくなったことから同じバッテリーでも使い方が異なり、自家発電のバッファが想定されるというわけである。

最小システムの価格は143万円と決して安くはないが、固定式の家庭用蓄電池を導入するよりは安く上がりそうだ。藤本健さんのように、電気自動車の日産サクラを家庭用バッテリーにしてしまうという作戦も面白いが、「モバイルバッテリーのオバケ」を利用するというのも、1つの方法だろう。DELTA Pro Ultraがあればインバータは不要になるので、インバータの寿命と共に卒FITを検討している方は、選択肢として考えてみてはどうだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。