藤本健のソーラーリポート
太陽光で作った電気をリチウムイオンに貯める“住宅用創蓄連携システム”の秘密

~ついにパナソニックから登場

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


パナソニックの「住宅用 創蓄連携システム」。右がリチウムイオン蓄電池ユニット、左が「パワーステーション」

 災害などで停電した際に、どうやって暮らしていけばいいのか。そうした観点から太陽光発電が注目を集めているが、その暮らしをより安定したものにするためには、「蓄電池」との組み合わせが重要となる。

 しかし、これまで太陽光と蓄電池をうまく組み合わせた製品はなかなか出てこなかった。そんな中、パナソニックが太陽光発電とリチウムイオン蓄電池を有機的に結びつけた「住宅用創蓄連携システム」という画期的なシステムを発表した。

 そのシステムとは、実際どのようなものなのか。パナソニック エコソリューションズ社に話を伺ってみた。

 対応して頂いたのは、エナジーシステム事業グループ新事業推進グループ エネマネ事業推進グループ商品企画 参事の川勝正晴氏と井上真人氏、そして同グループ商品技術の直井祐一郎氏と安藤聖師氏の計4名だ(以下敬称略)。

停電時にコンセントを付け替える手間なし、専用分電盤で電源を自動切り替え

――まずは、簡単に住宅用創蓄連携システムの概要について教えてください

パナソニック エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ新事業推進グループ エネマネ事業推進グループ商品企画 川勝正晴参事

川勝:東日本大震災以降、停電に備えた安心なシステムが欲しいという声を多くのお客様からいただくようになりました。しかし、太陽光発電システムだけでは、夜間に利用することができないし、日中でも天候が悪いと電力供給ができません。一方、蓄電システム単独の場合は、蓄電した電気を使い切ると終わり、ということになってしまいます。では、両方を買い揃えて接続すればいいのかというと、うまく発電できなかったりと、いろいろな問題がありました。

 そこで、この住宅用創蓄連携システムは、太陽電池と4.65kWhのリチウムイオン蓄電池ユニットに加え、太陽電池と蓄電池をインテリジェントにコントロールできるパワーステーションの大きく3つで構成されるものとなっております。


創蓄連携システムの全容図
太陽光から発電する「太陽電池」容量4.65kWhのリチウムイオン電池ユニット太陽光とリチウムイオン電池ユニットのパワコンを兼ねた「パワーステーション」

 これによって日中は太陽光で発電した電力を使用できるとともに、余剰電力は蓄電池に繰り返し充電できるようになっています。そして蓄電池に蓄えておいた電力は日中の電力供給を安定化させると同時に、夜間での利用も可能になっているのです。

――以前、私も太陽光発電の自立発電モードを使って、停電時にどれだけ使い物になるのかを試してみました[過去記事はこちら]。もちろん、まったくないのに比べればとても役立つものであることは確かでしたが、予想していた以上に不便な点も多かったです。まずは非常用コンセントからしか電源供給できないので、使いたいものを接続しなおさなくてはならないという点ですよね

川勝:そうですね、そこがとても使いづらいところで、たとえば冷蔵庫やテレビといったものに1つずつ延長コードを使って配線するというのは、なかなか大変です。またあくまでも非常用コンセントからの供給となるため、天井に設置された照明機器を点灯させるということもできません。

 それに対して、今回の住宅用創蓄連携システムでは、大きく考え方を変えています。先ほどのシステム概要図にもある、「バックアップ用の分電盤」というものが大きなキーになっています。これは一般的な住宅用の分電盤のうちの1回路を独立させたものと考えてください。通常、分電盤の1回路は20Aとなっていますが、その1つがまるごと非常用コンセントのように使えるようになっているのです。

――となると、いざというときのために使う照明や電気機器などをすべてバックアップ用に別途備えておく、ということですか?

川勝:そうではなく、普段から使うところをバックアップ用に切り替え可能ということです。

 つまり、平常時は普通の分電盤の1回路として使っておきます。でも、停電時はそのバックアップ用分電盤だけに電力供給するように切り替えるというわけです。たとえばテレビやミニ冷蔵庫などを置いている2階の子供部屋をバックアップ用分電盤からの接続にしておけば、停電時でもその部屋だけは通常通り使えるというわけです。

 しかも、単に太陽電池からの電力だけでなく、蓄電池からも電力供給できるようになっているため、夜間でも利用できるのが、このシステムの最大のポイントです。

緊急時のバックアップ用分電盤を備えており、停電時でも、この分電盤に接続している機器は使用できる通常時と停電時における、バックアップ用分電盤とパワーステーションの関係。

 実は、先日、創蓄連携システムを組み込んだモデルハウスで一晩過ごしてみましたが、とても快適でしたよ。その部屋だけは、停電時でも普段どおりの電力利用ができるので、夜間も明るく過ごせるし、テレビも見れるし、携帯電話の充電もできる。何の不自由も感じませんでした。

――なるほど、それはすごいですね


リチウムイオン電池との連携で、停電時でも2kWの安定出力

――もう1つ、我が家の太陽光発電の非常用コンセントで実験をして困ったのは、使用電力が供給電力を超えるとシステム全体が落ちてしまい、再起動が必要になるなど、不安定であること。とくに太陽が射したり、雲で陰ったり……というような天気だととても使いづらかったですね

パナソニック エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ新事業推進グループ エネマネ事業推進グループ 安藤聖師氏

安藤:その不安定さを、蓄電池とパワーステーションによって補えるようにしています。この蓄電池は単純に夜間に切り替えて使うというのではありません。陽が陰って電力が足りなくなったときに、太陽電池を補うという使い方ができるようになっているのです。


太陽光の発電量が少ない場合は、蓄電池の電力を使って、2kWで安定して出力する

――これは画期的ですね。太陽電池の弱点を蓄電池がうまくカバーしてくれるわけだ。また、自立運転時の出力が2kWというのも非常に気になります。私の使っているパワコンに限らず、どのメーカーのどの製品でも、非常用コンセントの出力はみんな1.5kWに制限されているため、快晴時で3kW発電していたとしても、1.5kW以上は無駄になってしまうというのにフラストレーションを感じていました

川勝:太陽電池単独での自立発電の場合、少しでもシステムを安定させるというために1.5kWに制限していたのは、仕方なかったという面もあると思います。また従来、非常用コンセントはサブ的な位置づけでしかなかったり、一般的なコンセントの容量が最大1.5kWのため制限をしていた、という点もあったかもしれません。

 それに対し、この創蓄連携システムでは、非常用分電盤の1回路に対して、安定して2kWの電力供給がいくようになっています。まあ、1.5kWと2kWと、0.5kWの差でしかありませんが、安定して供給できるという点も含めて見ると、実は非常に大きな差になっています。

安藤:さらに、太陽電池が2kW以上の発電をしている場合も無駄にならないように、蓄電池の充電に回せるような設計になっています。こちらは最大で1.5kWでの充電ということになりますが、両方足すと最大で3.5kWを有効に使うことができる、というわけです。

余った電力は蓄電池の再充電に利用できる

 また、上の図にもあるように、1.5kWで充電していった場合、約3時間でフル充電することができ、これを夜間などに使っていくことが可能です。

――そういえば、以前、ベンチャー企業が太陽光発電と組み合わせる鉛蓄電池を出していましたが、現在は発売停止になっています。確か、夜間電力で蓄電池に充電をし、日中この蓄電池に溜まった電力を売電できてしまうために、問題になったのだと記憶しています。この創蓄連携システムでは、そうした問題は起きないのでしょうか?

安藤:そうですね、電力会社との契約において、夜間充電して、昼間にそれを売電することは禁止されています。そこで、このシステムでは充電池を放電している際には売電しないようなシステム的な制御をしています。とはいえ、この蓄電池は停電時に使うだけでなく、平常時でも活用し、系統電力のピーク抑制に貢献できるような設計になっています。


「節電」や「環境優先」など各種運転モードを搭載。電池の安全対策も

――具体的には、平常時の蓄電池利用というのはどのようになっているのですか?

川勝:平常時は、ライフスタイルやお好みに合わせて「経済優先モード」、「環境優先モード」、「蓄電優先モード」の3つの選択を可能にしています。

 まず、多くの方が利用されると思われる経済優先モードでは、電力会社と時間帯別電気料金契約をしていただきます。つまり電気代が日中や高く、深夜の時間帯で安くなるというものです。この際、深夜に蓄電池に充電し、夕方から晩の時間帯など太陽光発電がされない時間に放電して、電力会社からの購入を抑えます。こうすることで、電気代を抑えることができるだけでなく、ピーク電力を抑えるという意味でも貢献することができます。

 それに対し環境優先モードは、太陽電池で発電した電力のうち、自宅で消費していない余剰電力を売電するのではなく、蓄電池への充電に回し、その電力を夜間などに利用するというものです。こうすることにより、太陽光発電によるクリーンエネルギーを最大限に利用することができるようになります。

 そして蓄電優先モードというのは、停電や災害に備え、常に満充電になるようにするものとなっています。

経済優先モードは、電気料金が安い深夜電力で電気を蓄え、昼間に放電する環境優先モードは、昼間に発電した余剰電力を蓄電池に溜め、その電気を夜使用することで、なるべく電力会社の電気を使わないモードだ

――ここで気になるのが蓄電池の寿命です。毎日充放電を繰り返していると、すぐに寿命がきて使えなくなってしまうということはないのでしょうか?

パナソニック エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ新事業推進グループ エネマネ事業推進グループ 直井祐一郎氏

直井:確かに蓄電池の容量を使い切って、またそこにフル充電して……ということを繰り返すと寿命の面では厳しくなります。そこで、経済優先モードと環境優先モードでは、残量が50%を切らないように制限をしています。

――もう1つ蓄電池について気になったのは、なぜパワーステーションと別ユニットになっているのか、という点です。セットで使うものであれば、一体化したほうがよかったのではないですか?

直井:これも寿命と関連する話になります。パワーステーションは、一般のパワコンと異なりさまざまな制御を行なうシステムであるために、大きいサイズになっており、屋外設置の仕様になっています。しかし、温度変化など環境変化が大きい屋外に蓄電池を置くと、どうしても寿命の面で厳しくなってしまいます。そこで蓄電池ユニットだけは屋内設置にしてあるのです。ただ、屋内におくと邪魔になるのも事実。そこで、高密度で薄型の蓄電池ユニットとして設計しました。

――とはいえ、高密度となると安全面も気になります。とくに屋内設置とした場合に問題ないのでしょうか?

直井:一昔前の蓄電池は、いろいろと問題のあるケースがありました。しかし、今回の蓄電池ユニットでは安全面をとくにケアしながら設計しました。まず、使っているバッテリーセルは、当社のノートパソコン「Let's note(レッツノート)」などにも採用している「NCR18650」というものです。これは累計で1億7千万個も出ているリチウムイオン電池であり、安全面でも大きな実績があります。また、過放電、過充電など電池特有の不安全事象の評価は当然のことながら、住宅用途として、火事などを想定した外部要因の評価も実施しています。

蓄電ユニットの中には、パナソニックのノートパソコンで使われている「NCR18650」という電池が使われているNCR18650の電池を120本×4セット搭載している(写真は別の製品の電池モジュールです)

 さらに、東日本大震災のときのように、津波で海水をかぶった後で使ったらどうなのか、といった実験もおこなっています。パワーステーション側からの連携においても、安全装置が働くようしており、考えられることはすべて行ないました。何が起こっても大丈夫というと言い過ぎかもしれませんが、1つがダメでも次の安全装置が働くよう、二重三重の安全構造にしてあります。

――なるほど。それなら安心できますね


まずは電力会社に頼り過ぎない生活を

――ところで、既存の太陽光発電ユーザーの間では、蓄電池との組み合わせを考えている人も多いと思いますが、すでに設置しているユーザーにパワーステーションと蓄電池ユニットを追加する形でシステム構築をするということはできるのでしょうか?

パナソニック エコソリューションズ社 エナジーシステム事業グループ新事業推進グループ エネマネ事業推進グループ商品企画 井上真人参事

井上:残念ながら、この住宅用創蓄連携システムは新築の方に限らせていただいています。

 もちろん、われわれとしてもより多くの方に使っていただきたいので、いろいろと検討はしてきました。しかし、既存住宅に導入するのが難しい大きな理由は、20Aのバックアップ用分電盤を設置するなど、宅内配線をいじるなど工事が発生してしまいます。

 中にはそうした配線変更が困難な家もあるため、安易に「できますよ」と言っていいのだろうか、という議論になりました。そのためお客様に誤認があってはまずいため、基本的に新築ユーザーに限らせていただいています。

 また、すでに太陽光発電を行なっている方であれば、売電単価が48円や42円として契約されていると思います。しかし、もし、この創蓄連携システムを導入するとなると、仮に太陽電池パネルを残せるとしても、パワコンを含め、すべてを交換してシステムを構築しなおすために、従来の契約を破棄した上で、新たに電力会社と契約を結ぶことになるため、売電金額という意味でも不利になることがいろいろと出てきそうです。

 そうした面を考えると、既存ユーザーへの設置というのは、あまり現実的ではないだろうと思っています。

――そうなると、今後は住宅メーカーなどとタッグを組んで普及に取り組んでいくということですね

パナソニックでは2012年を「スマートハウス元年」と設定している

井上:ぜひ、そうしたいと思っております。今後の営業努力ではありますが、創蓄連携システムをアピールすることで、当社製品を採用していただけるようになればと思っております。

川勝:本当は太陽電池パネルにおいては、他社メーカー製品とも組み合わせられる形で進められるといいのですが、10年保証などの問題もあるのですぐにはできないかもしれませんね。

――まだ規模的に見て、災害時、非常時の停電の際に活用するものというレベルだと思いますが、今後パワーステーションや蓄電池の容量がもう少し大きくなっていけば、極端な話、電力会社と契約をせずとも、完全なエネルギーの自給自足ができるようになっていくのでしょうか?

川勝:どこまでつつましい生活をするのかにもよりますが、実際には難しいでしょうね。ある程度普通に生活するためには、蓄電池の容量だけでも電気自動車数台分が必要になってきます。さらに梅雨など晴れない日が続くことを考えると、100kWh以上の蓄電池容量となってしまいます。

 将来的には自給自足が理想ではありますが、まずは電力会社に頼り過ぎない生活を実現するという段階ではないでしょうか。まったく頼らないわけではないけれど、自分でできることは、できる限り自分でする、と。創蓄連携システムがそんなことの一助になればと思っています。

――本日はありがとうございました





2012年6月21日 00:00