藤本健のソーラーリポート

なぜ“実質0円”で蓄電池が導入できる?
ONEエネルギーの蓄電池レンタルサービスに迫る

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
オリックスら3社が共同で、蓄電池のレンタルサービスを行なう「ONEエネルギー」という会社を設立した。しかし、なぜ蓄電池のレンタルサービスを始めたのか?

 この3月、オリックス、日本電気(NEC)、エプコの3社が、家庭用蓄電池のレンタルサービスを行なう新会社「ONEエネルギー」を共同で設立した。現在、蓄電システムの設置がスタートしているという。

 蓄電池を家庭で使うメリットは、家庭の電気代を削減するとともに、停電時にも電気の利用ができるというところ。また、太陽光発電と組み合わせることで、さらに効率的な電気の利用法が可能になるという。

 レンタル価格は、容量5.53kWhのリチウムイオン蓄電池とコントローラなど、システム一式で月額5,145円。東京都であれば、都の補助金によって割り引かれるため、月額3,045円になる。また、太陽光パネル設置のための屋根貸しサービスのオプションもあり、同時利用で実質負担額0円での導入が可能だという。

 でも、実際に買うとなると100万円以上はする高価な定置型のリチウムイオンバッテリーの蓄電システムを、本当にその価格で借りることができるのか? どこかに落とし穴はないのだろうか? 一体、どんなシステムになっているのか?

 そこで、蓄電池レンタルサービスの仕組みについて、ONEエネルギーに直接話をうかがってみた。対応していただいたのは、このビジネスにスタート時点から関わっている、ONEエネルギー株式会社取締役兼営業部長の吉田中氏と、同社取締役の吉田精孝氏のお二人だ(以下、敬称略)。

蓄電池は無いと困るごはんのようなもの。既築住宅のスマートハウス化のため誕生

――家庭用の蓄電池を低価格でレンタルするというサービスですが、非常にユニークで魅力的にも感じますが、そもそもどのような経緯でこうしたサービスを行なうことになったのでしょうか?

ONEエネルギー株式会社取締役兼営業部長の吉田中氏

吉田中:きっかけは2年ほど前、東京大学のリチウムイオン電池に関する研究会でこの二人が出会ったことでした。数多くの企業からさまざまな人たちが参加している中、私はオリックスから、吉田精孝さんはNECから参加していたわけです。ここで、未来のエネルギー社会に対してどう対処していくべきかというテーマで話し合っていました。

 内容としては、太陽光のブームはやってきたけれど、補助金やFIT(再生エネルギーの全量買取制度。フィード・イン・タリフ)によるバブル的な面は否定できない。そうした中で、蓄電池の重要性は増してくるだろう、“蓄電池はごはんのようなもの。主役じゃないけど、無くては困るものであり、すべての基本になるツールだろう”と。

 みんな、新しいものを入れたがっているんです。物欲というよりもコストセーブのためであったり、節電のためであったり。地球環境のために何か貢献したいという思いで新しいものを欲している人は数多くいるんです。そうした人たちのために、何かできないだろうかと模索していました。

ONEエネルギー株式会社取締役の吉田精孝氏

吉田精孝:ちょうどその当時、NECでは家庭用蓄電システムの第一世代で、プロトタイプに近い製品を出していたころで、まもなく第二世代の本格量産機が発売になるというタイミングでした。本格量産機はサイズも小さく、コストパフォーマンスも高めることができたので、これを上手く利用して市場を拡大できないかと模索していました。

――パナソニックやシャープなど、すでに住宅用の蓄電システムは存在しています。そこに、なぜオリックスとNECが参入したのでしょうか?

住宅用の蓄電池は、新築時に導入されるケースが多い。写真は積水ハウスのスマートハウスの蓄電池

吉田中:多くのメーカーのシステムは、新築時に設置する形となっていますが、そもそも今から家を新築する人の数はそう多くはなく、そこを狙って一生懸命やっても、大きな広がりは見込めません。また、モデルハウスなどで蓄電池を利用したスマートハウスの実証実験などはいろいろ行なわれていますが、億単位の立派なスマートハウスなど一般の人からは縁遠い存在です。

 それなら既築住宅に設置し、既築住宅をスマートハウス化することができたら大きな意義があるんじゃないか、と。そう考えると、これまで未来のものと思っていた定置型の蓄電池が一般化するのは、意外と早いのではないか、と思うようになりました。

 定置型蓄電池は、非常に容量の大きいものを変電所の隣に設置するのが一番効率がいいのですが、工事やスペースの面でそれはなかなか困難。小口分散化して各住宅に設置していくことができれば、大きな波及効果があるはずです。そうなると、オリックスのような会社が、ファイナンス(資金調達)も含めて提案していくことができるはずだと考えました。

NECの蓄電池技術は、日産リーフ(写真)の蓄電池に採用されている

吉田精孝:NECとしては、日産自動車の共同事業として電気自動車の「リーフ」用のバッテリーの開発生産を行なっています。この技術を定置型に転用することで、ボリューム、コスト、品質ともに、世界一のリチウムイオン電池を作り続けることができると考えています。

「工事費込みで、初期コスト0円」の理由

――今回のサービスの構成がどのようになっているのか、もう少し具体的に教えてください

吉田精孝:5.53kWhのリチウムイオン電池を内蔵する家庭用蓄電システム本体とともに、システムコントローラ、分電盤、それに操作パネルから構成されるシステムとなっています。

蓄電池レンタルサービスのシステム全体図

 蓄電池本体は173kgもあるため屋外設置となっておりますが、狭小地でも短時間で工事できるよう、基礎部分は予め作ってあるコンクリートのブロックを敷くなどの工夫を行なっています。また、停電時に自動的に電気をバックアップするために追加する分電盤も、お客様のニーズに合わせていくつかのタイプを用意しています。

 さらに、NECの蓄電システムはインターネットと接続して常に自動監視、リモートコントロール(遠隔操作)が可能となっていますが、既築住宅では工事を簡素化するために無線LAN環境下での工事を前提としています。

――先日の発表内容を見ると、5.53kWhの蓄電池を、月額5,145円とか3,045円という安い価格で導入できるシステムだとのことですが、本当なのでしょうか? 別に大きな初期コストがかかったり、メンテナンス費用がかかるとか、多大な工事費がかかったりというようなことはありませんか?

吉田中:初期コストは基本0円です。これは工事費も込みです。また、メンテナンス費用がかからないのはもちろん、通常使用で故障があった際もレンタルですので、こちらの責任で修理をします。

月々の料金は、税込みで5,145円(税抜き4,900円)。東京都の場合は補助金を申請することにより、月3,045円(税抜き2,900円)で利用できる

 当初は頭金のあるプランなども考えたのですが、一般的に考えて月額5,000円を切らないと無理だろうという感覚がありました。NECにも破格値での提供をお願いしましたが、やはり現状は無理があり、普通に試算すると月額3万円とか5万円になってしまい、これでは普及しません。

 それならば、オリックスがリスクをとり、将来的なモデルを今、多少無理をしてでもやってしまおうと考えました。すぐに大きな利益につながるわけではありませんが、来るべき社会に備えようという考え方です。

 普通に工事を行なうと、それだけでもかなり高くなってしまいますが、この事業に賛同してくれている協力会社に、安く工事をお願いしています。その結果、お客様からは基本的には工事料金をいただかずに、設置工事ができるようになっています。

吉田精孝:ただし、お客様のご要望で完全に配線を隠してほしいとか、特殊な配線工事が必要なケースなど、所定の範囲を超えるものについては、追加料金をいただく形にしています。

蓄電池は電気代の抑制や非常時の電源に利用できる。既設の太陽光との連携も

――実際、このシステムを導入することで、ユーザーにとってはどのようなメリットが出てくるのでしょうか?

吉田中:さまざまなメリットが得られますが、まず大きいのは電気料金の節約です。電力会社との契約を電化上手などの料金プランに変更することが前提となりますが、割安な夜間電力を貯めて、それを昼間に利用することで電気料金を下げることができます。

蓄電池を導入することによる効果の1つ目が「電気料金の節約」。電気料金が安い深夜に電気を貯め、電気料金の高い時間帯に使うことで、電気料金が節約できる

 また家庭内の消費電力量が設定値を超えた場合、超過した分を蓄電システムに貯めた電力で一部補うことにより、ピークカットに貢献できるというのも大きなメリットだと思います。さらにもしも停電が発生したら、これを非常用電源として使うことができ、バックアップ用の配線をした部屋に対して電気を供給することが可能になります。

効果の2つ目が「ピークカット」。蓄電池に貯めた電気を、電力使用量の多い昼間に使うことで、ピークカットに貢献できるという
効果の3つ目が「非常用電源」。停電が起きても、バックアップ用の配線をした部屋に蓄電池の電気を送ることで、電気が使用できる

――電気料金がどのくらい下がるのかというのが気になりますが、具体的な数字は出ているのですか?

吉田中:これは各家庭によって生活スタイルが異なるので、一概には言えませんが、月額で2,500~3,000円程度の削減効果があると見込んでおります。

 またテストケースということで、社員の家に導入したケースでのデータもあります。まだ7月までの数値しかありませんが、その結果と今後の予測値を合わせたところ、導入しなかった場合と比較して、月額平均6,600円の電気代を減らせるという結果が出てきたのです。電力の見える化が図られたこともあって節電意識が高まり、結果的に使用電力量を大きく減らせたということも1つの要因にはなっていますが。

――なるほど、6,600円というのは、理想形だとしても2,500~3,000円減らすことができ、ピークカットなどの社会貢献ができると同時に、もしものための備えとして導入すると考えると、月額5,000円程度のレンタル料というのは魅力的に感じますね。

吉田中:その通りです。今後、電気代がますます高騰していくことが考えられますが、そうなっていくと、ますます蓄電システムの意義が高まっていくと思われます。

吉田精孝:蓄電システム単独ではなく、これに太陽光発電と組み合わせた場合には、さらに活用範囲が広がります。「経済モード」と「グリーンモード」という2種類があるのですが、経済モードにしておくと、太陽光で発電した余剰電力を電力会社に無駄なく売電することができるようになります。

 またグリーンモードにすると、できるだけ電力会社からの電気購入を減らすることができます。自宅で発電した電気をできる限り自分で使う、エネルギーの自給自足を実現するのです。

太陽光発電との連携もできる。上の図は、太陽光で発電した余剰電力を売ることをメインとした「経済モード」
「グリーンモード」も選択できる。太陽光で発電した電気を、売電よりも蓄電池に充電することを優先する

――太陽光発電とバッテリーを組み合わせたときによく問題になるのが、「ダブル発電」の扱いになるということです。電力会社にダブル発電と認定されると、売電価格が大きく下がってしまいますが、その点はどうなっているのでしょうか?

吉田精孝:NECのシステムは、太陽光で発電した電気が住宅内で消費しきれずに余っている間は、蓄電システムから家庭の電力負荷への電気の供給を行なわないプログラムになっております。逆に太陽光発電だけでは電力が賄いきれずに不足する場合は、バッテリーから電気を供給する仕掛けになっています。これによりダブル発電とみなされることなく、通常の買取価格で電気を売ることができるのです。

――すでに太陽光発電を設置しているユーザーが、この蓄電システムを追加設置することはできるのでしょうか? その場合、系統連系の契約をしなおす必要が出てきたりはしませんか?

吉田精孝:設置は可能ですし、新たな契約は不要です。また、当社が採用した蓄電システムは、特定メーカーの太陽光発電システムにのみ接続できるのではなく、基本的にどこのメーカーのものとも連携が可能です。各メーカーの製品との接続で検証を行なっておりますので、安心してお使いいただけます。

「屋根借り」なら蓄電池のレンタル料は実質0円になる

――御社では、ユーザー宅の屋根に太陽光パネルを設置する「屋根借りプラン」も行なっているとのことですが、これについてもう少し詳しく教えてください

ユーザーの家の屋根にソーラーパネルを設置する「太陽光屋根借りプラン」も用意されている

吉田中:これはお客さまのご自宅の屋根をお借りして太陽光発電システムを設置させていただき、われわれが発電事業者となって、電気を電力会社に売電するサービスです。売電額は弊社の収入となりますが、代わりに屋根の賃料(平均2,000円~
3,000円)をお客さまに月々お支払いする仕組みです。

 このプランのご利用には弊社基準による発電量を得るために設置場所に関する所定の審査がありますが、その基準をクリアされた場合、屋根の賃料でレンタル料の負担を軽減することが可能になります。設置容量によっては、完全にレンタル料との相殺も可能となり、サービスの利用額が“実質0円”になるケースもあります。

 屋根借りプランで発電された電気は、再生可能エネルギーの全量買取制度を利用するため、平常時はお使いいただくことはできませんが、停電時には利用できますので、屋根を貸して発電した電気を設備投資のご負担なく、非常用電源として使えるメリットもあります。

――そこで設置する太陽電池のメーカーはどこになるのですか?

吉田中:現在、複数社のメーカーと話し合いをしており、性能と価格面から判断して決める予定です。ほぼ提案が出そろってきたので、間もなく確定する予定でおります。

――話は変わりますが、先ほどコントローラ部分をインターネットに接続するというお話がありましたが、インターネットに接続することによって、どのようなメリットが出てくるのでしょうか?

蓄電池や太陽光発電システムの情報は、スマートフォンやパソコンで確認できる

吉田中:蓄電池や太陽光システムの状況を、インターネットで常に管理サーバーへと送り出しており、パソコンやスマートフォン、タブレットで利用できるアプリを使うことで、様々なことが可能になります。

 具体的には、家庭の電力使用状況、蓄電池の稼働状況、太陽光の発電状況の見える化が実現できます。さらに天気予報と連動した各種シュミレーション機能があるので、これを利用した太陽光発電量の予測、消費電力の予測を基にした蓄電池の充放電開始時間の自動設定といったことも可能です。

 もちろん、ユーザー自身による充放電開始時間の手動設定もできます。さらに、ユーザーに最適な節電メニューをご提案し、アプリを使って日々の節電と連動したゲームにより、楽しみながら節電ができるようになっています。

月平均で6、7千円という節約効果を実感するユーザーも

――蓄電システムの募集は、記者発表のあった4月下旬頃からかけていたようですが、申し込み状況はいかがですか?

吉田中:テレビなど多くのメディアに取り上げられたこともあり、お蔭様で非常に多くのお問合わせをいただいております。今はそれぞれのお客さまと個別に連絡をとりながら設置が可能かどうかについて、確認をさせていただいているところです。先行モニターユーザーへの設置はすでに開始しており、百数十カ所の設置が完了しました。

 初年度で1万件、3年で10万件の導入を目指すという高い目標を掲げていますが、手ごたえはあり、潜在的なニーズをレンタルという手軽な仕組みで掘り起こせるものと信じています。

――実際取り付けたユーザーからはどんな声が届いているでしょうか

吉田中:「電気代値上げのニュースに不安を感じていたとき、手ごろな価格で導入できるレンタルの仕組みを知って導入を決めた」というお客さまが多かったのですが、期待どおりの結果が出はじめているようです。「夜間貯めた電気を昼間利用するという蓄電システム導入による直接的なメリットはもちろん、電気が初めて『見えた』気がして、それが結果として節電行動につながっていて、月平均で6、7千円という節約効果を実感し、暮らし方が変わった」という喜びの声も聞かれています。

――わかりました。今回はありがとうございました。

藤本 健