藤本健のソーラーリポート
どうなる、東京電力の値上げ! 担当者に直接話を聞いてきた 後編
「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
東京電力 お客さま本部営業部節電推進プロジェクトグループ 副部長 四ツ柳尚子氏 |
東京電力の値上げに関するインタビュー記事の後編。前回は、どのようなロジックで値上げが行なわれるのかを聞くとともに、安く提供している企業向け電気料金のしわ寄せが家庭の電気代に来てはいないのか、といった疑問もぶつけてみた。
今回は、値上げの話と同時に登場した新料金プランであるピークシフトプランがどんなものなのか、また節電が叫ばれる中、オール電化を見直す可能性はないのか、といったことについて話を聞いてみた。今回も答えてくれたのは、東京電力株式会社 お客さま本部営業部節電推進プロジェクトグループの副部長、四ツ柳尚子氏(以下、敬称略)である。
■ピークシフトプランの目的とは?
――今回の値上げの話と同時に、「ピークシフトプラン」というものが出てきました。これまでも、「おトクなナイト8」や「おトクなナイト10」といった時間帯別の契約がありましたが、なぜこのタイミングで似たものが出てきたのでしょうか?
このピークシフトプランに関しては、元々、値上げ申請とは別に以前から検討してきたものです。この名前からも分かるとおり、ピークシフトに焦点を絞ったものになっています。電力供給の設備は、夏の最大ピークに合わせる形で作っています。実際には、1年のうちの数日、一番暑い日の日中午後1時~4時ごろのために設備をつくっているのです。
そのため、このわずかな時間に発生するピークを下げることができれば、設備投資を抑えることができ、それによって料金還元も可能になります。そうしたピークシフトに寄与できる料金プランとして作ったのが、今回のピークシフトプランです。また、このピークシフトプランをうまく利用することによって、場合によっては今回の値上げの緩和にもつながる、という考えからこのタイミングで一緒に紹介させていただきました。
――ピークシフトプランは夏場の日中がかなり高い料金に設定されていましたよね?
はい、ピークシフトプランでは電力量料金単価を夏季(7~9月)は3つ、そのほかの季節(10~6月)は2つの時間帯に分けて設定しています。電気のご使用時間帯を、ピーク時間から昼間時間・夜間時間に、または昼間時間から夜間時間に、上手にシフトしてお使いいただくなどの工夫で、電気料金の低減が可能となります。
ピークシフトプランでは電力量料金単価を夏季(7~9月)は3つ、その他季(10~6月)は2つの時間帯に分けて設定している | 夏場のピーク時間に当たる午後1時から午後4時を下げることで、電気料金を抑えることができるという |
■「比較的多くの電力を使う家庭や商店ならばピークシフトプランでメリットがでる」
――ただ、実際には利用者はこれにメリットを感じなかったのか、利用の申し込みは少ないようです。先日も5月30日現在での申し込み件数が約130件と報道されていました。
このピークシフトプランについては、多くの新聞やテレビでも取り上げていただきました。ただ「30Aのお宅で試算してみました」といった例が多く、ピークシフトプランにするメリットがでない事例が多かったためではないかと考えております。私どもでは、50Aや60A以上など比較的多くの電力を使うケースでの適用をおすすめしております。とくに商店などは家庭と比較して電力量が多くなりますので、メリットが出やすくなりますので、ぜひご検討いただけたらと思います。
従量電灯B、契約容量60A、月の平均使用量540kWhの人の場合、ピークシフトプランに加入すると、何もしなければ割高になるが、エアコン、洗濯機などの使い方を工夫すると、年間電気料が3,030円安くなるというケース |
――残念ながら私の場合、そもそも使用電力が少ないこともあり、ピークシフトプランでのメリットはあまり感じられませんでした。また現在、おトクなナイト10を使っているので、こちらのほうがメリットが出やすいと感じています。これまでにも、おトクなナイト10やおトクなナイト8など、深夜電力を安く設定するプランもあったので、わざわざ新たにピークシフトプランを設けなくてもよかったようにも思いますが……
確かに時間帯で料金を変えるという点では共通なのですが、おトクなナイト8やおトクなナイト10と、ピークシフトプランでは目的が大きく異なっています。
おトクなナイト8やおトクなナイト10ができたのは、震災前であり、原子力発電所が問題なく稼動していた時期です。昼間にたくさん電気を使われ、夜間はあまり電気が使われないというお客様の電気のご使用状況にリアルタイムの発電量を一致させるために、火力発電所を中心に、夜間の稼働を留めて、昼間のみに稼働させるという状況がありました。そのため、いかに夜間の消費を増やし、負荷の平準化を行ない、設備効率を上げるか、ということから設計したのがおトクなナイト8やおトクなナイト10だったのです。
それに対しピークシフトプランは、いかにピークを抑えて設備投資を下げるかということが目的であるため、見かけ上、似たプランには見えますが、大きく異なるのです。
■「値上げ後もオール電化の経済メリットはある」
――今は「節電」というのが世の中の大きなテーマとなっているわけですが、もともと原発によって余った電力を効率よく利用するという観点から東京電力としても推し進めてきたオール電化は、時代に逆行するようにも思います。今後、オール電化、またエコキュートといったものは取り下げていくことになるのでしょうか?
これまで急速に増えてきていたオール電化住宅ですが、震災以降、新築物件における伸び率は下がっています。しかし、全国的に見ると今でも着実に増えています。関東エリアは計画停電があったことも影響して、特に伸び率が低くはなっていますが、火を使わない安心、燃焼がないことによるクリーンさ、といったことからニーズはあるのです。
もちろん、東京電力として、いまの電力不足の状況においてオール電化を積極的に推奨する立場にはありません。とはいえ、エコキュートのメリットや課題についての問い合わせがあれば、1つずつ丁寧にお答えしています。また、ピークを抑えるという観点からすればオール電化は決して逆行するものではないので、オール電化自体を抑制するという方向にはありません。
――オール電化では、これまで光熱費が安くなるというのを大きなウリにしていたと思います。これは、従来、原発によって夜間に余る電力を安く使え、これでエコキュートを動かして日中に使うお湯を沸かせるからだった、と認識しています。しかし、今回の値上げにより、とくに夜間の電気代が大幅に値上げされてしまったため、オール電化住宅には大打撃のように思いました。それでも、オール電化は安いといえるのでしょうか?
確かに従来と比較すると、メリットは減る傾向にありますが、我々の試算としてはガス併用と比較しても逆転する状況にはいたっておらず、値上げ後も経済メリットはあると考えております。
■ピークシフトプランへの変更は数日で対応可能
――オール電化にするかどうかはともかくとして、ピークシフトプランに変更することでメリットがでるかどうかは、各自がそれぞれ考えて適当に考えて決めるしかないのでしょうか?
インターネットが使える方でしたら、「ピークシフト加入シミュレーション」というページを用意しておりますので、ここで現在の契約と比較して電気料金がどう変わるかなどをシミュレーションして比較できるようになっています。とりあえず、直近の1カ月の電気使用量や契約種別を入力すればシミュレーションできるようになっていますが、過去1年分の使用量が分かったり、時間帯ごとの使用量が分かれば、さらに細かく、正確にシミュレーションできるようになっています。
東京電力のウェブサイトには、ピークシフトプランに加入した場合のシミュレーションができるページが用意されている | 使用月と契約容量、使用電力量を入力する。これらのデータは毎月の電気料の請求書に明記されている |
シミュレーションでは、昼間に在宅しているか、ピーク時間帯に当たる午後1時から4時までの間にエアコンなどの機器を使っているかなどの設問に答える | 最終的には、ピークシフトプランに加入した場合の電気料金が提示される |
――毎月の使用量については、過去の検針票を保存してあれば分かりますが、時間帯ごとの使用量というのはどうやれば測れますか?
かなりお手間をかけますが、時間ごとに電力メーターの値を読んでいただき、その差から算出してみてください。
――結果的にピークシフトプランに変更した場合は、電力メーターが交換されるのですよね? 先日ある新聞では、スマートメーターに交換されるとありましたが、本当ですか?
デジタル電力メーターであって、通信機能などを装備するスマートメーターではありません。スマートメーターの導入は早くても平成26年度以降になる予定です。なお、このデジタルメーターも最近機能強化され、カレンダー機能も搭載するようになりました。ピークシフトプランの場合、月によって料金体系が変わるため、それに対応できるようになっています。従来も月によって変わる「電化上手」というプランがありましたが、日割りで計算していました。このメーターを使うことで、より正確に計測できるようになっています。
ピークシフトプランに変更した場合に導入するデジタルメーター | ピークシフトプランでは月によって料金体系が変わるため、デジタルメーターにはカレンダー機能も搭載する |
――実際にプランを変更する場合、どのような手続きで、どの程度時間がかかるものなのでしょうか?
電話でご連絡いただければ、簡単に変更することが可能です。メーターの取替工事が必要となり、作業員が来てお客様立会いのもと、30~40分で終了します。その間、一旦ブレーカーを落とすので、停電することになりますが、それが済めば、その日からプラン変更となります。先ほどのとおり、今のところ申し込み件数も少なく混んでいませんから、作業員の手配さえつけば、電話をいただいてから数日で工事もできます。もちろん、プラン変更自体は工事も含め無料です。
――プラン変更をした結果、やっぱり料金が高くなったので、元に戻すということは可能ですか?
メーターを変える場合、基本的に1年以上はお使いいただくことを前提としております。極端な話、夏場だけ従量電灯契約で……というわけにはいきませんので。
――最後に、今回廃止になる、おトクなナイト10について伺いたいのですが、なぜ廃止してしまうのでしょうか? また6月までにおトクなナイト10で契約していれば、その後も経過措置として使えると書かれていました。この経過措置というのは、どのくらいの期間になるのでしょうか?
おトクなナイト10は申し込みの伸びが少なくなっていることに加え、今の電力状況から考えて、ピークシフトプランに収れんしていきたいということで、新規の申し込みは終了させていただきます。また経過措置については、いつまでということは決めていないので、当面は引き続きお使いいただけます。その辺は今後のお客様の動向を見守りたいと考えております。
――ありがとうございました。
以上、2回に渡って東京電力に値上げの背景やピークシフトプランについて聞いてみた。新聞やテレビの報道からは分からない、状況がいろいろと見えたように思うが、いかがだっただろうか?
筆者個人的に感じたのは、やはり夜間電力に対する考え方が従来と大きく変わったということ。原発がなくなれば、夜間料金が高くなってくるのは仕方がないところだが、それならば、ピークシフトのための昼間電力節約だけでなく、夜間電力も減らしていく方向へ舵を切るべきときに来ているのではないかと思う。今回の取材の中でCO2に関する話題はまったく出なかったが、燃料が増えるということは当然CO2の排出が増えることでもある。原発を減らすと同時に、使用電力量全体を抑えることに社会全体がもっと真剣に取り組まなくてはならないのではないか、と感じた。
藤本健 本職はオーディオ関連ライターだが、実は30年来の“ソーラーマニア”。自宅に太陽光発電システムを導入し、毎日太陽で作られた電力で生活している。太陽光発電ネットワークの「PV-NET」の会員で、神奈川地域交流会の世話人も務める。僚誌AV Watchでは「藤本健のDigital Audio Laboratory」を連載。メールマガジン「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」も配信中。ブログは「DTMステーション」、Twitterは「@kenfujimoto」。 |
2012年6月15日 00:00