藤本健のソーラーリポート
中国・台湾メーカーが日本の太陽電池市場に続々参戦!「PV EXPO」イベントレポート

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


 今年で5回目となった日本最大の太陽電池展「PV EXPO 2012(第5回国際太陽電池展)」が2月29日から3日間、東京有明の東京ビッグサイトで開催されている。

 今回は同時に「PVシステムEXPO(太陽光発電システム施工展)」、「BATTERY JAPAN(国際二次電池展)」など7つの展示会も行なわれた。全体では「スマートエネルギーWeek2012」と題され、計1,950社が出展。“世界最大級”という謳い文句にふさわしい、大規模な新エネルギー・省エネルギーの展示会となった。

 初日に一通りを見てきたが、会場で一番大きかったのはやはり「PV EXPO 2012」だ。ブース内容について、目立っていた点、面白かったものをいくつかピックアップしてみよう。

PV EXPOのほか、計7つのエネルギー関連の展示会が行われた。全体で「スマートエネルギーWeek2012」と謳われているPV EXPO 開始時のテープカット。かなり賑わっていた

 PV EXPOの開催日程は2月29日~3月2日の3日間。最終日の公開時間は10時~17時。入場料は5,000円だが、事前登録を行なうことで無料となる。


日本の企業との連携で勢いを増す中国・台湾メーカー。パソコンの「BenQ」も参戦

 太陽電池というと、もともと日本のお家芸といわれていた分野だが、世界市場を見渡すと、すでに中国、台湾のメーカーにシェアを奪われているのが実情。確かに国内の住宅用太陽電池においては、まだ国内メーカーがほとんどのシェアを持っているが、ヨーロッパを中心に大規模な普及が進むメガソーラーにおいては、中国、台湾メーカーが強い。

 その流れは日本にも届いている。日本は今年7月1日より、再生可能エネルギー法が施行されることにより、企業での太陽電池設置において、全量買取が行なわれる。それにより、メガソーラーの設置や企業での導入が加速度的に進むといわれているが、これに向けて中国メーカーの日本市場への進出が着々と進んできているようで、今回のPV EXPO 2012にも色濃く現れていた。

 すでに日本の住宅用の市場でもシェアを広げつつある、世界最大の「サンテックパワー」が出展しているのはもちろんだが、まだ日本進出していないメーカーや、住宅用で小さなシェアしか持っていないメーカーまでもが、ズラリとブースを並べていたのだ。

中国「JA SOLAR HOLDINGS」のブース。丸紅と提携し、日本の住宅向けシステムの販売を開始している

 まず紹介するのが、生産で世界2位を誇る「JA SOLAR HOLDINGS」。上海に本社がある太陽電池セル、太陽電池モジュールのメーカーで、PV EXPOへは昨年に続き2回目の出展となる。現時点ではドイツ、アメリカに支社は持つが、日本にはこれから本格参入するという。すでに昨年、丸紅と提携し、住宅向けシステムの販売を開始している。しかし、狙いはやはり産業用。ラインナップとしては単結晶、類似単結晶、多結晶の製品を持っているが、生産量や価格を武器に力を入れてくる模様だ。

 世界4位のTrina Solar(トリナ・ソーラー)も中国のメーカーで、巨額の資金を工場建設に投資していることで知られている。同社は2010年2月に日本法人、トリナ・ソーラー・ジャパンを開設しており、やはり産業向けを狙っているようだ。

 今回は、変換効率16.4%という単結晶太陽電池モジュールと、15.9%の多結晶モジュールを展示し、産業用での設置を呼びかけていた。これらのモジュールはJ-PEC(太陽光発電普及拡大センター)への申請も通ったとのこと。これによって今後は住宅用での販売もOKとなったため、住宅方面での展開も気になるところだ。

中国「トリナ・ソーラー」のブース。写真は変換効率16.4%の単結晶モジュールこちらは変換効率15.9%の多結晶モジュール。左の単結晶タイプと合わせて、住宅用の販売の申請を通っている

 世界6位は中国の英利(インリ=YINGLI GREEN ENERGY HOLDING)。同社は現時点では日本法人はないが、昨年4月に、住宅用太陽光発電施工の大手「ノウエストホールディングス」と販売提携を行ない、日本への本格参入をスタートさせている。

 また7位の台湾のMOTECH(モテック)は、北海道のゼネコンである伊藤組土建と合弁で「伊藤組モテック」という会社を2010年3月に設立している。ここでは台湾のMOTECHで生産された太陽電池セルを日本に持ってきてモジュールを生産しているため、最終製品としては「Made in Japan」となる。現在は多結晶製品を使った住宅用製品を販売しているが、今年5月~6月には、より高効率な単結晶製品をリリースするという。もちろん産業用にも力を入れていくようだ。

 ほかにも9位のGINTECH(ジンテック)、12位のNEO SOLAR POWER(ネオソーラーパワー)など、台湾勢がブースを出展し、日本進出を狙ってきていた。

中国「英利(インリ)」のブース。国内の太陽光発電施工業者と組んで、日本に参入する台湾「MOTECH」は、北海道の伊藤組土建と合弁会社を設立MOTECHのパネルは、セルは台湾製だが、モジュールの生産は日本。最終的に「Made in Japan」となる
台湾「GINTECH」のブース台湾「NEO SOLAR POWER」のブース
パソコンのディスプレイメーカーとして知られる台湾「BenQ」も、太陽光発電の日本市場に参入予定

 個人的にちょっと気になったのが、「BenQ Solar」だ。そう、台湾のパソコン用ディスプレイメーカーとして有名なBenQ(ベンキュー)のロゴがついたメーカーのブースがあったのだ。軽量な単結晶および多結晶のモジュールの展示を行なっており、これから日本市場に参入するという。

 BENQのブースでは、よく見てみると、ユニークな製品も置かれていた。それは太陽電池パネル本体裏側に小さなインバーター(パワコン)を搭載したもの。国内では今年の秋以降に製品投入するが、アメリカではすでに実績が出てきているというもの。あれ?去年の「PV EXPO」でも見た? と思って係員に聞いてみると、これまで「AOU」という社名/ブランド名で展開してきたが、より知名度の高いBenQに変更したのだそうだ。今後、BenQブランドの太陽電池がいっぱい出てくるのかもしれない。

太陽光発電パネルにインバーターを搭載した製品。表面を見ると、ただのパネルモジュールの裏側から見ると、小さなパワコンが搭載されている屋内や屋外にパワコンを設置することがないため、省スペースになるという

 そのほかにも、まだ世界シェアランキングでは下のほうだが、Hyundai(ヒュンダイ)、Hansol(ハンソル)、Hanwha Solar(ハンファソーラー)など、韓国メーカーも日本市場を狙って進出してきている。

 また、アメリカからは、住宅用で東芝が独占契約をして販売している高効率の太陽電池メーカー、「SUNPOWER(サンパワー)」が独自ブースを出していたのも気になったところ。話を聞いてみると、今後も日本国内の住宅用はすべて東芝が販売していくが、産業用は別とのこと。より大きな市場となると考えられる産業用は東芝だけでなく、別ルートも開拓するべく、今回ブースを出していたようだ。

韓国メーカーも登場している。写真は「Hyundai」同じく韓国の「Hansol」

 このように、世界各国のメーカーがPV EXPO 2012に集い、大きなブースを出していたことをみると、やはりこれから日本の太陽電池市場での競争はますます激しくなっていきそうだ。

 

日本メーカーの対抗策――シャープは「高効率」、パナソニックは「蓄電」も

 では、こうした海外勢に対して、日本メーカーはどう対抗していくのだろうか? 

攻勢を強める海外メーカーに対し、国内メーカーはどう対抗するか。写真はシャープのブース

 日本最大シェアを持つシャープは、“高効率”を掲げていた。今回参考出品されたのは、セルで21.5%、モジュールでは19.0%の変換効率を持つ次世代パネル「次世代BLACKSOLAR(ブラックソーラー)」だ。セル裏面のPとN層の数を増やし、高効率化を実現した単結晶太陽電池だが、量産化が難しいため、発売はまだ未定とのこと。付加価値の高いこうした製品を、今後の主力製品として展開していく考えのようだ。また現行のBLACKSOLARを、寄棟屋根用に並べた製品も参考出品しており、配置によってより高い出力を実現するという。

 同様に、日本の狭い屋根により多くのパネルを設置できるように小さなモジュールを2つラインナップに追加していたのが三菱電機。参考出品ではあるが、組み合わせによって、より多くのモジュールの設置が可能になるという。

セルで21.5%、モジュールでは19.0%の変換効率を持つという「次世代BLACKSOLAR(ブラックソーラー)」セル裏面のPとN層の数を増やし、高効率化を狙っている現行のBLACKSOLARを、寄棟屋根用に並べた製品も参考出品されていた
三菱電機のスリムモジュール。「日本の狭い屋根により多くのパネルを設置できるように小さなモジュールを2つラインナップ小さなモジュール。よく見ると、セルが縦に4行しか並んでいない

 パナソニックは、単結晶系ハイブリッドHITの新製品をお披露目した。従来のHIT製品と抜本的に構造が変わったわけではなく、生産技術などによってさらなる高効率が実現できたとのことだが、公称最大出力233Wのモジュール「HIT-233」シリーズは、モジュール変換効率18.2%で定価152,250円を実現している。これは現行のHIT-230よりも安い価格設定であり、来年度で補助金が減ってもユーザーの負担額は変わらない、あるいはさらに安くなる設定になっているそうだ。また、やや割高にはなるが、新たに変換効率の高い18.7%を実現した「HIT-240」も受注生産品という形でリリースされる。

公称最大出力233Wのモジュール「HIT-233」。現行のHIT太陽電池よりも、価格が安いHIT-233と比べるとやや割高にはなるが、新たに変換効率の高い18.7%を実現した「HIT-240」も受注生産品でリリースされる
パナソニックの住宅用蓄電システム。太陽光のみで充電する点が特徴だ。左はリチウムイオンで、右が鉛電池

 そのパナソニックが、災害時での安心をテーマに製品化を実現したのが、住宅用の蓄電システムだ。一般的な蓄電システムとは大きく異なり、太陽光からの充電のみに対応したというもの。つまり、普通の商用電源から充電するのではなく、太陽光発電からの電気のみで充電する形になっているのだ。

 これにより、災害時に停電が起こった場合でも、夜間や雨の日でも電気が使えるようになるという。電池は鉛蓄電池ではあるが、太陽光発電のシステムに組み込んでいるだけに価格的にも安く、0.96kWhのシステムで定価が459,900円という。

 また今回は、リチウムイオンを使った同様の製品も参考出品された。こちらは、まだ発売時期や価格などは未定だが、1.6kWhの容量を持つとともに、5年以上の寿命を持つとのことだ。


発電と温水の“ハイブリッドパネル”や、軽くて曲がるフィルム状の太陽電池も

 このほか、大手メーカー以外にも、ソーラー関連の面白い展示がいろいろあったので、いくつか紹介していこう。

太陽光発電と太陽熱温水器を組み合わせた1つの製品にしたという「スーパーソーラーパネル」

 まずは、太陽光発電と太陽熱温水器を組み合わせて1つの製品にしたという「スーパーソーラーパネル」。静岡県富士市にある「GF技研」が展示したものだが、表面に単結晶の太陽電池セル、裏面に集熱パイプと断熱材をつけたハイブリッド構造になっており、なんと53%のエネルギー変換効率を実現しているという。内訳は太陽電池が13%で、太陽温水器が40%。これによって電気だけでなく給湯も実現する。

 また、給湯用に水を流すので、太陽電池の冷却も可能で、太陽電池単体での発電よりも夏場は効率が上がるそうだ。

 ここで作られた熱は蓄熱層の熱交換器によって水を温めることができ、55度のお湯が作られるシステムになっている。蓄熱層は別売となるが、スーパーソーラーパネルだけでいうと、通常のパネルより1~2割高い程度に価格を抑えたいとしている。

裏側は管が通っている。給湯用に水を流すことで、太陽電池の冷却にも効果があるとのことだお湯を温める蓄熱槽
富士電機のブースでは、巻き取って持ち運べるシート状の太陽電池「どこでも発電」も置かれていた。販売はオーエスだが、太陽電池は富士電機が開発している

 先日、レビューで紹介した、オーエスの「どこでも発電 モバイルソーラーユニット 緊急災害セット」も展示されていた。しかし、これが置かれていたのは富士電機のブースだった。なぜ? と思ったら、実はここに採用されていたフィルム状のアモルファス太陽電池が、富士電機が開発・生産したものだったからだ。この軽くて曲がって、薄い太陽電池は、オーエス以外にもさまざまなメーカーが製品化を検討しており、参考出品も含めユニークなものが展示されていた。

 たとえば帝人からは、バッグに太陽電池を取り付けたもの、iPadのカバーとして太陽電池を取り付けたもの、東レからはTシャツやパーカー、リュック、ヨットの帆などに取り付けたものが展示された。また住友ベークライトは、カーポートの屋根に取り付けるLED照明とセットになったタイプの開発中のプロトタイプを展示し、「20万円で買いますか?」というメッセージも掲げていた。

富士電機が開発した、曲がるシート状の太陽電池シート状の太陽電池の活用方法として、さまざまな製品が展示された。写真はバッグに太陽電池を取り付けたものiPadのカバーとして太陽電池を取り付けたもの
Tシャツやパーカーに太陽電池を取り付けるなんてものもカーポートの屋根に取り付ける例も。「20万円で買いますか?」というメッセージが添えられていた
フジプレアムでは、従来よりも半分程度という軽い太陽電池「希」を展示していた

 兵庫県のメーカーであるフジプレアムは、とにかく軽量をアピールした太陽電池、「希(のぞみ)」を展示。215W出力だが、従来品の重量が16.5kgだったのに対し、この製品は半分以下の8.0kg。従来品は、他社製品のパネルとほぼ同等の重さだったので、今回の新製品は他社製品に比べても、圧倒的に軽い。確かに耐震性の問題で重いパネルを取り付けることができない家やビルも少なくない。こうした軽量太陽電池というニーズは結構ありそうだ。


今後のトレンドになる? 「マキシマイザー」「オプティマイザー」って何

 今回、最後に紹介しておきたいのが、今後大きなトレンドになるかもしれないと感じられた「マキシマイザー」や「オプティマイザー」と呼ばれる機器だ。

 太陽電池は「半永久的に使えるもの」と考えている人も少なくないが、実際には故障するケースも少なくない。しかし、屋根の上に何十枚も設置された太陽電池パネルのうち、1つが故障しても、それに気づかないケースが大半だ。

 しかし、実際には1つ故障しただけでも、その系統すべての出力が大幅に低下してしまうという問題がある。さらに、これがメガソーラーなどとなるとさらに問題は大きくなる。何千枚、何万枚というモジュールの中でどれが壊れているかを発見するのは至難の業であり、点検するのには大幅なコストがかかってしまう。

 そこで、各パネルごとに、現在の出力がどうなっているかをチェックし、モニターできるようにしようというのが、「マキシマイザー」、「オプティマイザー」と呼ばれる機器なのだ。

 今回は、こうした機器を搭載したパネルも各社から展示されていたが、元をたどってみると、その機器を提供しているのはアメリカの「タイゴエナジー」という会社だった。また、タイゴエナジーとほぼ同様のシステムを、イスラエルの「ソーラーエッジ」という会社も作っており、日本法人がブースを出展していた。

マキシマイザー・オプティマイザーを搭載したパネルは各社から出ていたが、元をたどると、アメリカの「タイゴエナジー」という会社のものだったトリナソーラーやアップソーラーなどにも提供しているようだタイゴエナジーのマキシマイザー
イスラエル「ソーラーエッジ」社のオプティマイザーバラツキのある書くパネルの出力を調整し、出力の向上を図るのが、マキシマイザー/オプティマイザーの役割だ

 これらに共通するのは、各パネルに搭載し、その出力を計測するとともに、無線で飛ばすというもの。しかし、これらの機器は単にモニターするだけではない。マキシマイズ(maximize)=最大化する、オプティマイズ(optimize)=最適化する、という名称からもわかるとおり、この機器を使って各パネルの出力の最適化をはかり、ほかのパネルと系統を組んだ際に、最大の出力が得られるように調整することができるようになっているのだ。

 これによって、ばらつきのある各パネルの出力を調整し、最大で数10%の出力向上が図れる。また、火事や地震といったトラブルが発生した際に、出力を止めることができるなど安全性の面でも大きな威力を発揮するというのだ。

 各パネルに取り付けるとなると、かなりコストが高くなりそうにも思える。しかし担当者に確認してみたところ、各パネルに入れるのは基板1枚だけであり、もともと接続部のモジュールがあるので、これに組み込んでしまえば、最終的な製品のコストは大きく変わらないという。しかも、これを組み込むことで、故障チェックはもちろん、日々の発電量を向上させることができるので、十分に元をとることが可能だ、とのことだ。

 まだ国内メーカーでこうしたシステムを組み込んでいるパネルはほとんどないが、メガソーラーなど産業用の普及にともない、標準的に搭載されていく可能性もありそうだ。




2012年3月2日 00:00