藤本健のソーラーリポート
電気自動車を家の電力にする「V2H」個人向け補助金は減った? 経産省に聞いた
2024年9月30日 07:05
個人で太陽光発電を導入したり、蓄電池を導入することで、エネルギーを効率よく利用できるようになり、CO2削減という観点からも大きく貢献することができるが、数百万円と高価なため、なかなか導入に踏み切れないという人も多いはず。そうしたシステムの中でいま注目されているのがV2Hだ。
V2HはVehicle to Homeの略であり、電気自動車を家庭用蓄電池として利用することを可能にするもの。筆者も2023年に日産サクラとニチコンのV2Hを導入し、日々奮闘しながら活用している。
このV2Hは国が補助金を交付しているため電気自動車を持っている人、電気自動車の購入を検討している人にとっては、比較的少ない出費で導入が可能になる。今年度の補助金交付申請は9月30日までとなってはいるが、今後どうなっていくのかなど、経済産業省を訪ねて気になることを質問してきた。話をうかがったのは経済産業省 製造産業局 自動車課 戦略企画室の岡林俊起 総括補佐と、同室 奥山雄大 係長だ。
V2H普及に、経産省はどんな役割を持っている?
――まず補助金に関する具体的なお話に入る前に、製造産業局 自動車課という部署について少しお話を聞きたいのですが、ここは自動車に関する部署ということですね?
岡林俊起 総括補佐(以下敬称略):その通りです。日本の基幹産業である自動車産業のさらなる発展のため、自動車市場の活性化施策に取り組んでいる部署です。近年は、特にエネルギー・環境制約の高まりを受けて、次世代自動車など環境性能に優れた自動車の普及促進施策に力を入れており、電動車の購入補助もしておりますし、充電器の設置などに関する補助もしております。その一環として、V2Hの導入に関する補助も行なっているのです。
――経済産業省ではこれまで太陽光発電の導入に対する補助金、家庭用蓄電池の導入に対する補助金を出してきた経緯があったので、そうした部署がV2Hの補助金を……という流れなのかなと思っていましたが、部署の面ではちょっと違うわけですね。
岡林:もちろん資源エネルギー庁という別の部署があり、こことも密接に連携しながら展開をしていますが、自動車課からすると、電動車をどう普及させていくかということが主眼で、V2H導入に関する補助を行なっている形です。
――改めて、V2Hの補助金はどういった経緯で始めったのでしょうか?
岡林:まず、我々は電動車の普及促進をしているわけですが、乗用車において2035年までに新車販売において100%実現を目標に設定しています。この電動車には動力源の100%が電気である「電気自動車(EV)」のほかにも、ガソリンと電気の両方を使う「ハイブリッド自動車(HV・HEV)」や「プラグイン・ハイブリッド自動車(PHV・PHEV)」、水素を使って電気をつくる「燃料電池自動車(FCV・FCEV)」がありますが、これらを普及させるためには電気自動車そのものへの購入の補助金と同時に、充電インフラも非常に重要な要素であるため購入補助を進めています。
ここでいう充電インフラには大きく3つの柱があります。一つは街中にある充電器を増やしていこうといことで、ここに補助金を出しています。もう一つは水素ステーションを増やしていくということ。電動車としてFCVも重要なものであるとの位置づけから、水素ステーションの設置にも補助金を出して支援しているわけです。
そしてもう一つが本日のテーマでもあるV2Hに関してです。V2Hに関しては公共施設、災害拠点のようなところでの設置を進める一方で、個人住宅への設置も進める形で、両方を支援しています。これらの機器に対する補助を出すとともに、工事費に対しても補助を出していくという形で進めています。このV2Hの補助金は令和元年度(2019年度)の補正予算からの開始となっています。
V2Hの補助金はこれから減る? 増える?
――2024年で6年目ということですね。太陽光発電への補助金を振り返ると、当初は非常に大きい額だったのが年々減って、現在はなくなってしまいました。V2Hに関してもやはり年々減ってきているのでしょうか?
岡林:V2Hの補助金に関していうと、必ずしもそうではありません。昨年もかなり早めに補助金が終了してしまったと状況で、かなり人気が高いものでした。そこで昨年度は50億円で1年間促進してきましたが、今年度(令和5年度補正・令和6年度当初)は10億円積み増して60億円としているので、今のニーズに合わせて金額を増やしております。
――なるほど、総額としては増えているんですね。ただ個人がV2Hを設置する上でもらえる補助金額としてみると、減っていますよね?
岡林:確かにそういう側面はあります。今年度の総額60億円のうち「公共施設/災害拠点」が15億円、「個人宅/その他施設」が45億円という配分。また「個人宅/その他施設」に関しては6月中旬~7月中旬での募集となる第1期は30億円、そして8月下旬~9月末の第2期は15億円としています。限られた予算において、できるだけ多くの方に行きわたるように補助率、補助の上限に関して昨年度からの変更を行なっています。
具体的には昨年度まで機器の補助率が1/2で上限75万円、工事の補助率が1/1で個人の上限が40万円、法人の上限が95万円としていましたが、今年度は機器の補助率を1/3で上限が30万円、工事は1/1で上限が15万円としています。さらに「EVなどを保有または発注済の場合に限る」という条件を付けたことにより、予算が限られる中でも、足元のニーズに応じて、偏りなく、幅広く予算が行きわたることを狙いとしています。
――昨年の2023年は早期に補助金がなくなってしまったとのことですが、昨年V2Hを購入したけれど、補助金がもらえなかったという場合、今年度申請することは問題ないのですか?
岡林:基本的には今年度導入する方が対象とはなるのですが、その点については何も制限はしておりません。したがって昨年申請したけれど間に合わなかった、申請しようとしたけれど、すでに終了してしまっていたという方は今年申請していただいて問題はありません。
――区分として「公共施設/災害拠点」と「個人宅/その他施設」となっている、とのことでしたが、「公共施設/災害拠点」とはどういうところになるのですか?
岡林:これは地方公共団体などが保有・管理している施設を意味しており、庁舎や公民館などがそれにあたります。また地方公共団体などとの間で災害協定を結んでいるようなところに関しては、災害拠点として配分をしていくかたちです。具体的には医療機関や福祉・老人施設、町内会施設などが対象となります。災害拠点には災害発生時に人が集まってくるので、そういうところにV2HがあればEVから電気を繋いで使うことができるだろう、ということを想定しています。
気になるV2Hの効率、今後のEV普及は?
――個人的には、昨年この補助金制度を使わせてもらい、V2Hを導入して活用していますが、EVを蓄電池として捉えた際の効率が期待していたものと比べてかなり低かったことが残念に感じています。具体的なことは先日記事に書きましたが、100の充電に対して57前後しか取り出せないという問題です。こうした情報は経済産業省側に集まってきているのでしょうか?
岡林:経済産業省としてもV2Hに関するさまざまなデータを集めているところで、今おっしゃったようなエネルギー効率に関しては、より細かく見ていく必要があるとは思っています。ただ、具体的に各個人の方から情報を集めるのは難しいため、事業者さんに伺いながら情報を得ているという状況です。もっともまだそうした情報がまとまりきってはいないため、具体的なことをお伝えするのが難しいところではあります。
また我々の部門は、電動車の普及というのが主要テーマとなるため、エネルギー効率などについては、資源エネルギー庁が中心に見ていく形になると思います。そうしたところと連携しながら、今後展開できればと考えています。
――個人的には、EVへの充電は電力会社から購入する電気ではなく、太陽光発電の電気のみを使う、という利用の仕方をしています。国としてはCO2削減のために電動車の普及を進めるわけだから、そうした利用法に関する指針などもあっていいように思いますが、その点はいかがですか?
岡林:グリッドからは充電をしない、ということですね。それは非常に優れた利用法だとは思いますが、そこに関して経済産業省として指針があるかというと、ないのが実情ではあります。やはり我々はどうしても自動車から物事を見ている部署になりますので、どういう時間帯にどんな電気を使うのか、たとえば太陽光発電に関してはどういう時間帯に売電し、どういうときにEVに充電すべき、といったことは資源エネルギー庁で精査していっているところだと思います。
――そこはデマンドレスポンスなどと関係してきそうですね?
岡林:まさに資源エネルギー庁のデマンドレスポンスを担当している部署が、そういった話を計画しているので、我々の部署から責任を持って答えるのは難しいところです。
一方でEVを安心して使えるようにするためには、家庭での充電、放電の一方で、外出先で電池切れにならないように、充電インフラを増やしていくことも重要だと考えています。インフラを育てつつ、EVの普及も同時に進めていっているところです。ヨーロッパなどと比較して日本はEVの普及が遅れているのは事実です。一気に普及させるのはなかなか難しいので、2035年に向けて着実に進めていければと考えています。
【お詫びと訂正】初出時、担当者のお名前を誤っておりました。お詫びして訂正いたします(10時32分)