ぷーこの家電日記

第508回

美味しいのに悲しいバレンタインのオランジェット作り

先週ひとつ歳を重ねて、またひとつ大人になった。人生において、おばさんと呼ばれる時期とおばあさんと呼ばれる時期がかなりの時間を占めるのだなぁと今更気づき、若者と呼ばれる時期の短さと貴重さを懐かしんだりする。歳を取るにつれて気楽に生きていけるようになった方なので、おばさんになるのも悪くないぞーと心から思っていることに違いはないのだけれど、若い頃のあの感受性の塊のような、心が大きく動く感覚はもう味わうことがないのだろうなと思うと少し寂しい。

懐かしい歌を聴いた時にフワッと若いころに気持ちも戻る感覚があって、「あー、懐メロを歌う人の気持ちが今は超わかる!」と中年もベテランになってきた50歳手前。そろそろ老眼とか始まりそうだし、ずっと裸眼なのでメガネを使うことに慣れず「あれ? メガネメガネ。どこ?」と毎日言っていそうで怖い(笑)。唯一の若づくりとしては、いまだに白髪がないことくらい。これもただの遺伝というか体質だ。今年もなんとか健康に楽しく中年を謳歌したいものである。

そんな誕生日、今年も夫と友人が盛大に祝ってくれた。いくつになっても何となく誕生日は特別で嬉しいもので、それを精一杯祝ってくれる人がいることがありがたい。誕生日を祝ってもらうこと自体も嬉しいけれど、誕生日が近づくと、どんなご馳走を作ろうかと夫が一生懸命考えてくれる、その時間が尊すぎる。

そしてイベントごとは本気で張り切って楽しむことが信条なので、何でも全力で乗っかりたい派。我々が子供の頃にはなかったハロウィンとかも、日本で定着してそれを楽しんでいる人を見るとワクワクするし、まだ何なのか私自身分かっていないイースターのお祭りだって収穫祭だって、両手広げてウェルカムだし全力で乗りたい(笑)。

過日のバレンタインデーに関しても、イベント大好きな私は嫌いではない。でもここ数年、職場では完全なるスルーを決め込んでいる。「職場での義理チョコなんて無駄!」とか、「そんな無駄金払いたくない!」とか、そんなはっきりとした意思があるわけではない。むしろ意思なんてない。でも上述の通りいい歳になった今、それが慣習だったり、ただ自分が楽しんでいるだけだったとしても、誰かにとって無言の圧力になるかもしれないという気持ちがあるからやらないと決めている。中年の私はもう存在自体が圧という自覚なのだ(笑)。

それでもこの時期しか並ばない色々なチョコレート売り場を見るのは、ものっすごく楽しくて大好き。自分と夫と友人とかに自分が好きなチョコレートを選んで渡したり。でも夫は高級チョコレートよりもスーパーで買える大袋入りのチョコレートの方が喜んじゃうし、私が大好きなチョコレートはちょっとお高くて自分に買うには少しもったいない気がしてかなり躊躇してしまう。

そこで、この頃ちょっと私の中で下火になっていたお菓子作りを久々に楽しんじゃおう! と思い、めちゃくちゃ美味しそうなオレンジとレモンのセットを買って、大好きなオランジェットを作っちゃおうと張り切って挑んだのだ。

1週間かけて本格的に作るオランジェット。まずは5日ほどかけて少しずつ砂糖の濃度を上げて染み込ませ、柔らかくて美味しいコンフィを作る。浸透圧の関係で、最初から濃い砂糖の中で煮ると一気に果実の水分が外に出てしまい、硬いコンフィになってしまう。梅酒を溶けにくい氷砂糖で漬けるのと同様に、少しずつ砂糖の濃度を上げていくことで、美味しいコンフィになるのであーる。それからある程度乾燥させて、最後にチョコレートをかけて完成。のはずだった……。

コトコト毎日煮ると部屋中がオレンジの香りに包まれて、もう幸せで仕方がない。難しい作業ではないのだけれど、「手間と時間かかってるんですねぇ。お高いわけだわ」と妙に納得する。そして物凄く美味しそうなコンフィが出来上がったら、水分をキッチンペーパーで軽く取ってから100℃のオーブンで1時間ほど乾燥。「うーん。全然乾燥足りないじゃん」と思った私がバカだった。

1時間追加でオーブンかけた私のバカバカバカ! 乾燥が終わった後「さて、いい感じかなぁ?」とオーブンを開けると、明らかに色が変わったオレンジがいて膝から崩れ落ちてしまった。1つ試しに食べてみると焦げているわけでもなく、めちゃくちゃ美味しい。何なら今まで作った中で過去イチの美味しさなのだけれど、鮮やかで美しい色は枯れたような色になってしまった。夜中に1人でおいおい泣いて、とりあえず寝た(笑)。数日間は引きずった。もうあの美味しく美しいオランジェットはできない。

仕方がないので、激ウマなコンフィはお菓子の材料にしようとバレンタインにはコンフィ入りのオレンジガトーショコラにして、残りは冷凍して少しずつ使っていくことに。そしてコンフィを作った時にできる、果汁たっぷりのシロップ。この使い道にいつも結構悩むのだけれど、お肉を煮込む時に使ったり、ワインに少し入れたりと活用している。レモンを煮たシロップはペクチンたっぷりでそれだけでゼリーのようなジャムのような感じだったんだけれど、濾した後に卵とバターを入れて、なんちゃってレモンカードのようにしてみたらもう最高に美味しい。

思っていた着地とは全然違うところに辿り着いてしまったけれど、何となくイベントは楽しめた(笑)。いや、でもバレンタインに関係なく、もう1度ちゃんとリベンジしたい!!! 美味しいオランジェットを何としてでも作りたい! と心に決めてやる気に燃えているのでありました(笑)。

徳王 美智子

1978年生まれ。アナログ過ぎる環境で育った幼少期の反動で、家電含めデジタル機器にロマンスと憧れを感じて止まないアラフォー世代。知見は無いが好きで仕方が無い。家電量販店はテーマパーク。ハードに携わる全ての方に尊敬を抱きつつ、本人はソフト寄りの業務をこなす日々。