大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニックの中期経営計画「GT12」にみる期待と課題

~“おどり炊き”や“AQUA”は生き残れるか
by 大河原 克行


売上高や利益率では大幅な未達に終わった「GP3計画」、GT12で再チャレンジ

5月7日の決算発表会にて、GT12を発表する、パナソニックの大坪文雄社長
 パナソニックは5月7日、新中期経営計画「Green Transformation 2012(略称・GT12、ジー・ティー・トゥエルヴ)」を発表した。

 このGT12は、最終年度となる2012年度のゴールとして、売上高で10兆円、営業利益率が5%以上、ROEが10%、フリーキャッシュフローが3年間累計で8,000億円以上、環境目標として2005年度比5,000万トンのCO2削減貢献を目指すというもの。

 しかし、売上高10兆円、ROE(株主資本利益率)10%という数値は、パナソニック・大坪文雄社長は「当社が追求するグローバルエクセレンス指標をクリアする水準」とするものの、2009年度を最終年度とした中期経営計画「GP3」の目標値をそのままスライドさせたものともいえる。

GT12で掲げられた目標
 「GP3計画では、生産によるCO2排出量削減については目標を達成したものの、売上高、ROEについては大幅な未達となった。経営体質の強化では一定の成果を得たが、成長性、収益性ではきわめて不本意な結果に終わった。変化に対する感度不足、変革へのスピード、実行力の欠如を反省し、構造的な課題の解決に根本から取り組まなくてはならない」と大坪社長は語る。

 GP3の最終年度となる2009年度は、連結売上高が7兆4,180億円、営業利益は1,905億円、営業利益率は2.6%。税引前損失は293億円の赤字で、当期純損益も1,035億円の赤字となった。そしてROEは、マイナス3.7%に留まった。同計画が売上高10兆円、ROE10%であったことに比べると、大幅な未達となっているのだ。

 今回のGT12は、その名に込めたように、GP3で実現できなかった指標に対して、再度挑戦を前提にしたトランスフォーメーションを推進するものであり、その機軸として、パナソニックと三洋電機が得意とする環境(グリーン)を置き、先行する韓国サムスンとの違いを明確に示そうとする姿勢がみてとれる。

2009年度は約1,000億の純損益、ROEはマイナス3.7%と、GP3計画には未達となったGT12のグラフ

目標達成の鍵は三洋電機

パナソニックの大坪文雄社長と、三洋電機の佐野精一郎社長。2008年11月の記者会見より
 そしてこのGT12は、大坪社長が「三洋電機を加えた新パナソニックグループとして、エレクトロニクスナンバーワンの環境革新企業になるというビジョンの実現に向けた、最初のステップを刻む中期経営計画になる」と位置づけるように、三洋電機を子会社後初めて打ち出す中期経営計画になる。その点で、三洋電機とのシナジーをどう生かすか、そして統廃合をどう図るかが大きな焦点といえる。

 GT12では、三洋電機との重複事業で3,000億円規模の事業からの撤退を見込む一方、2012年度には、営業利益で800億円のシナジー効果を予想。さらに、白物家電においては、開発、生産体制の一元化を図ることにまで言及し、2010年7月1日からは、三洋電機のHIT太陽電池をパナソニックブランドでも発売する計画を明らかにした。

 「4月1日に立ち上げたグループ・コラボレーション戦略ワーキングを牽引役として、スピーディーに、確実に、刈り取りを進めていく」と大坪社長は語る。

 ただし、三洋電機とのコラボレーションに関する発言は、ブランドを一本化するというところにまで踏み込んだものではない。白物家電に関しても開発、生産を一元化するものの、ブランド戦略を含む、マーケティング、営業、商品企画の一元化するといったことにまでは言及していない。

 例えるならば、パナソニックとNECが携帯電話で3Gプラットフォームの一本化を図ったが、それと同様に、今回の白物家電事業の再編でも、まずは開発、生産の一本化により、共通プラットフォームを構築するものの、その上に載せる付加価値は、それぞれのブランドごとに異なり、さらに生産は共通のインフラを活用するという仕組みと捉えるのがいいだろう。

 だが、「白物家電の戦略を一元化する」といった発言や、「基本的な考え方は、パナソニックの経営インフラの上に、三洋電機の開発、生産を一元化する」という発言からも、将来に向けてより踏み込んだ形で一元化を図る可能性は捨てきれない。

 「両社にとって、ラインアップの強化、売り上げの増加、くまなく海外に展開できるという観点で最もいい方法を模索する」という大坪社長の発言は、今後の事業再編がかなり大規模に進んでいくことを予感させるものだともいえよう。

炊飯器「おどり炊き」や洗濯機「AQUA」は残る?

 では、どんな形で白物家電事業の再編を進めていくことになるのだろうか。

三洋電機の佐野精一郎社長
 すでに開発の一元化、拠点の統廃合、コラボ商品の投入といった観点での再編が進むことが明らかにされているが、三洋電機の佐野精一郎社長は、「グループとしてなにが最適であるかということも考える必要がある」としながら、「パナソニックとの間で事業を一元化していくもの、単純に事業を縮小および撤退するもの、M&Aを考えるものという3つに集約されるだろう」と語る。

 これまでに一部言及されたものを示せば、次のような形だ。

 家庭用エアコンに関しては、三洋電機が、国内向けエアコン事業をすでに縮小していることもあり、パナソニックへと事業を一元化し、グループとしての総合力を発揮することになる。

 冷蔵庫に関しては、三洋電機が中国ハイアールとの提携関係にあるため、この提携関係をどうするのかが、パナソニックとの一元化戦略のなかでは鍵になる。今後、ハイアールとの関係を捉えた上での再編に乗り出すことになろう。

エアコンはパナソニックへ一元化される三洋は中国のハイアールと冷蔵庫事業で提携関係にある点が鍵となる

三洋の洗濯乾燥機「AQUA(アクア)」は、水をオゾンで浄化して、洗濯・乾燥に再利用する「アクアループ」機能が特徴
 また、国内の洗濯機事業に関しては、三洋電機の洗濯機「AQUA(アクア)」の浄化技術を生かしながら、事業の一元化を図ることになりそうだ。

 佐野社長も、「洗濯機はパナソニックによるワン・マネジメントで考えていくのが自然な姿である」とする一方で、「三洋電機のブランド、商流を生かせるというのであれば、三洋電機のブランドを継続するものもある。事業戦略を一元化するのと、ブランドを統一するのとは別の話」とする。

 SANYOブランドのAQUAを残しながら、洗濯機のラインアップをトータルで拡充していくという戦略も想定できるだろう。

 一方で、圧力を使った炊飯技術“おどり炊き”が人気の炊飯器や、除菌/脱臭機能「ウイルスウォッシャー」が高い評価を得ている空気清浄機などは、むしろSANYOブランドが生きる領域だともいえる。

 そして、地域ごとにSANYOブランドとパナソニックブランドを使い分けたり、付加価値製品と普及製品というように商品レンジで切り分けるといった選択肢もあるだろう。つまり、事業の一元化というのは、SANYOブランドの消滅を意味するものではない。

三洋の炊飯器は、圧力を使った「おどり炊き」が人気を博している空気清浄機や加湿器に搭載されている除菌・脱臭技術「viruswasher(ウイルスウォッシャー)」も、SANYOブランドが生きる領域といえる

 だが今後、どんな再編策に動き出すかは未知数だ。

 なかでも、「アレルバスター」と「ナノイー」の統合を完了したばかりのパナソニックが、今後は、ナノイーとウイルスウォッシャーの統合をどう図るかは注目されるところだ。これらの再編に向けては、ワーキングチームで検討をしており、上期中にもある程度の方向性を打ち出すことになるという。


“今のままでは競争力がない”――HIT太陽電池は三洋とパナブランドの併売に

三洋の「HIT太陽電池」のセル
 もう1つ三洋電機との再編シナリオのなかで注目されるのが、太陽電池や二次電池を核とするエナジー事業領域での再編である。

 太陽電池では、先にも触れたように、パナソニックブランドでもHIT太陽電池を発売することを明らかにしており、当面、SANYOブランドとの併売という体制を取ることになる。

 パナソニックの大坪社長は、「いまのままではHIT太陽電池に競争力があるとはいえない。パナソニックのノウハウおよびリソースを投入し、次世代太陽電池の開発を加速し、高性能、低コストを追求していく」とする。また三洋電機の佐野社長も、「価格下落、グローバル競争の激化のなかで、コスト競争力を高めていく必要がある」とする。

 GT12では、2015年度にはグローバルトップ3入りを目指し、グループ販売体制の強化、グループ拠点の活用による投資効率化に乗り出す姿勢を示している。

 GT12で公開された具体的な取り組みは以下のとおりだ。

パナソニックの尼崎工場を、太陽電池の生産拠点とする計画もある
 1つは、パナソニックがプラズマパネルの生産を行なっている尼崎第3工場(通称P3)を、太陽電池の生産拠点として活用する計画である。「プラズマパネルは、現在、P5の生産計画を止めている段階にあり、P3を止めても、増産するための場所はある。尼崎での太陽電池の生産は、この中期経営計画のなかで実行する」(大坪社長)とする。パナソニックでは、将来に渡って、1,000億円規模の投資を三洋電機の太陽電池事業に投資する姿勢を明らかにしており、尼崎への投資がこれにあたることになろう。

 2つめには、尼崎で生産する予定の太陽電池は、「次世代」と呼ばれる製品であるということだ。その詳細については明らかにしていないが、薄型化、コストダウン化を図ったものになり、2012年度末までにパイロットラインを稼働。「開発が早まれば、前倒しで量産していきたい」(佐野社長)という。

 そして、3つめには業務用市場の開拓だ。ここでは、多結晶型の太陽電池を外部調達するという新たな施策を展開。これをパナソニック電工が持つ住宅建材、電材の販売ルートも活用していくことになる。

 さらに、変換効率21%というHIT太陽電池の強化、生産革新によるコストダウンへの取り組みなども展開していくことになる。製品開発、生産、販売、外部調達といったあらゆる観点での強化を図っていくというシナリオだ。


中国人向けシェーバーなど、その国に合った“ボリュームゾーン家電”は成功するか

 もう1つ注目されるのが、ボリュームゾーン戦略における足並みをどう揃えるかという点だろう。ここでは、パナソニック、パナソニック電工、三洋電機の3社の戦略が絡み合うことになる。

パナソニックの海外売上比率は、2009年度は48%。これを、2012年度には55%、2018年度には60%以上に引き上げるという
 パナソニックでは、現在、48%に留まっている海外売り上げ比率を2012年度に55%に引き上げ、さらに2018年度には60%以上とする計画を打ち出している。パナソニックが、世界規模で健全な事業活動を展開し、世界中のステークホルダー(利害関係者)に支持される企業と定義する「グローバルエクセレンス企業」を目指すという上では、6割という海外事業比率は重要な指標の1つ。そして、そのためには著しい成長が見込まれる新興国での存在感を高めることが必須条件となってくる。

 パナソニックの中期計画計画では、2012年度までに、新興国市場において、3,300億円の増販を計画。2012年度の売り上げ規模を7,700億円に拡大するほか、ボリュームゾーン商品は、2012年度に全世界で1兆円規模の売上高を目指すという。

 ボリュームゾーン製品は、それぞれの地域の生活研究を行ない、それにあわせた商品として投入するものだ。

 「中国では、節水意識の高まりにあわせて省エネ性能を重視した洗濯機を発売。普及価格帯で初めて節水一等級を達成したものである。その一方で、マニュアル運転をなしとした割り切りを行なった。また、6月に発売を予定しているインド向けの32型液晶テレビでは、業界ナンバーワンの省エネ、高出力スピーカーというこだわりの一方で、台座は簡易型、バックライトは一本と割り切った商品。これにより、インドの中間所得層が月収で購入できる価格を実現した」(大坪社長)

中国の家電下郷制度(農村部に対する家電購入の補助金制度)に対応したボリュームゾーン向けの洗濯機インドネシア向け冷蔵庫のパンフレット

パナソニック電工の長榮周作副社長。6月から社長に就任する
 パナソニック電工でも、AC&I(アジア、中国、インド)市場の徹底攻略を中期経営計画の重点ポイントの1つにあげ、1級都市から、2級都市、3級都市にも市場を広げる計画を明らかにした。

 現在16.4%の海外売上高比率を2012年度までに22.5%に、2018年度には倍増以上となる40%に引き上げる意欲的な計画を掲げる。

 6月からパナソニック電工の社長に就任する長榮周作副社長は、「中国人の髭の特性にあわせた商品の開発、中国人が好むデザインによるドライヤーやマッサージチェアの開発を計画している。日本向けの製品よりもコストを抑え込んだ製品として投入する」と語る。

中国・上海にある中国生活研究センター
 こうした取り組みのベースになるのが、パナソニックが取り組む生活研究だ。これはグループ会社のボリュームゾーン製品の開発にも活用されることになる。すでに、中国の中国生活研究センター、ベトナムのディスカバリー・ベトナムプロジェクトが稼働しているが、新たにインドにボリュームゾーンマーケティング研究所、ブラジルには生活くらし研を設置。パナソニックの本社機関としてはグローバルコンシューマリサーチセンターを開設し、これらの活動を横串で取りまとめる。

 「エアコン、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、掃除機、調理小物などの白物セット商品で、海外年率15%の成長を計画している」(大坪社長)とするなかで、3社のシナジーがどう発揮されるか。ボリュームゾーン攻略は、新たな中期経営計画の成否を占う上で重要なバロメータになろう。

早期に内部を再編し、シナジー商品の投入でサムソンに追いつけ

 パナソニックの大坪文雄社長は、2012年度の必達目標の1つに、5%以上の営業利益率を掲げている。

 2009年度連結業績での営業利益率は2.6%。セグメント別にみても、アプライアンス事業が5.8%の営業利益率となっているが、デジタルAVCネットワークの2.6%、電工・パナホームの2.1%、デバイスの3.6%といったようにいずれも5%を大きく割り込む。これらのセグメントにおける営業利益率の拡大は、次の成長に向けた基盤づくり構築に向けた指標になる。

 そして、2012年度までのグループ2社の中期経営計画を見ても、パナソニック電工は、1兆6,200億円の売上高に対して、営業利益は770億円と営業利益率は4.8%に留まり、三洋電機も2兆円の売上高に対して、900億円の営業利益となり、営業利益率は4.5%と、やはり5%を下回る。

大坪社長は“営業利益率5%以上に達しない事業は無くす”という意思を明らかにした
 「社内目標として5%の達成を計画している」(三洋電機・佐野社長)、「創業100周年を迎える2018年度には10%の営業利益率を目指す。2012年度の中期経営計画はそれに向けた第1弾として着実な成長を目指す」(パナソニック電工の長榮次期社長)とするが、「GT12で掲げた営業利益率5%以上という目標は、5%に達しない事業は無くすという強い意志によるもの」(パナソニック・大坪社長)とする点では、三洋電機、パナソニック電工の営業利益率も、2012年度に5%達成することが、社内計画としては必達目標に位置づけられることになりそうだ。

 営業利益率5%以上の目標は、同社がグローバルエクセレンスの指標として掲げる10%以上の数値とは大きな隔たりがある。また、売上高という観点でも、韓国サムスンが、2020年に売上高4,000億ドル(約40兆円)という、驚くべき数値を掲げているのに比べると、グローバルエクセレンスの指標にも変化が求められる可能性がある。

 GT12では、まずは三洋電機との「内部再編」に労力を割かなくてはならないため、若干の足踏みは仕方がないだろう。いかに早く、三洋電機の再編を完了させ、新たなシナジー商品をいち早く投入できるかが、サムスンの早期キャッチアップ、そして、グローバルエクセレンスを目指す次の成長に向けた重要なポイントになる。



2010年5月27日 00:00