大河原克行の「白物家電 業界展望」

決算から見る2010年の白物家電業界

by 大河原 克行

大手8社すべてが黒字

 2009年度の電機大手の決算が出揃った。

 大手8社の業績は、全社が減収となったものの、営業利益は、全社が黒字という結果。成長路線よりも、体質強化による黒字化という側面が強い内容となった。

 実際、構造改革効果は、各社幹部が異口同音に示すように削減目標を上回る実績となった企業が相次いでいる。

 そのなかで、白物家電事業に目を転じてみると、エコポイント制度の影響で国内における冷蔵庫の販売が比較的好調な様子。エアコンはエコポイントというプラス効果はあったものの、冷夏の影響で厳しい状況となっている。また、空気清浄機やLED照明、太陽電池といった成長商品の伸びが著しいのも特筆できよう。

 一方で、一部企業においては、構造改革の成果もあり、収益改善に成功している例も出ている。

 2009年度決算から、白物家電事業の業績を見てみよう。

海外事業拡大で増収を目指す――パナソニック

パナソニック 上野山実常務取締役

 パナソニックは、アプライアンス部門の売上高が前年比7%減の1兆1,423億円、営業利益が36%増の665億円。

 「冷蔵庫は好調だったものの、エアコンやコンプレッサーなどの売り上げが伸びずに減収。営業利益は材料合理化などにより増益となり、営業利益は5.8%を確保した」(パナソニック・上野山常務取締役)という。

 主要製品では、エアコンの売上高は前年比6%減の2,294億円、冷蔵庫は10%増の1,198億円となっている。

 増益の原因としては、鉄や樹脂などの材料費が下落傾向にあること、材料コストの合理化などが進んだことなどをあげている。

 2010年度は、前年比4%増の1兆2,500億円、営業利益が16%増の770億円と増収増益を見込み、営業利益率は6.2%増という水準になる。

 「売上高ではアジア、中国、新興国を中心に海外事業の拡大を図り、増収を目指す」(上野山常務取締役)とする。

大坪文雄社長

 パナソニックの大坪文雄社長は、2012年度を最終年度とする中期経営計画において、5%以上の営業利益率確保を掲げながら、「この計画は、5%に達しない事業は無くすという強い意志によるもの」としており、アフライアンス事業の利益率はそれをクリアするものとなっている。

 電工・パナホームは売上高が8%減の1兆6,321億円、営業利益が13%減の347億円。

 「パナソニック電工は電材、住設建材などの売り上げ減少により減収。パナホームは住宅市況の低迷が続き減収。営業利益は販売減の影響などにより減益となった」(上野山常務取締役)という。

 パナソニック電工の畑中浩一社長は、「国内ではマッサージソファやラムダッシュ、ナイトスチーマなどの『ながら美容』商品が好調に推移。海外では、中国、アジアでメンズシェーバーを中心に売上高が第3四半期から回復。損益分岐点の引き下げで、収益構造が改善し、増益を達成している」とした。

 電工・パナホームの2010年度の計画は、売上高が1%増の1兆6,500億円、営業利益が24%増の420億円。「前年度の減収減益から増収増益への転換を図る」とする。

パナソニックのシェーバー「LAMDASH ES-LA94」家具のようなマッサージチェアというコンセプトがうけて、累計6万台を達成したという「マッサージソファ EP-MS41」


白物家電事業が9年ぶりに黒字――三洋電機

三洋電機 代表取締役副社長の前田孝一氏

 パナソニックグループ入りした三洋電機は、エアコン、洗濯機などのコマーシャル部門の売上高が前年比14.6%減の3,001億円、営業利益は前年の21億円の赤字から72億円の黒字に転換。冷蔵庫や炊飯器などの家庭用機器を含コンシューマエレクトロニクス部門は売上高が前年比0.6%減の2,127億円、営業利益は前年の21億円の赤字から94億円に黒字化。これら分野を含むエコロジー事業領域では、売上高が6,612億円、営業利益は167億円となった。

 「白物家電事業だけを取り出すと、9年ぶりに黒字化した」(三洋電機・前田孝一副社長)という。

 洗濯機の売上高は前年比1.5%減の394億円、冷蔵庫の売上高は2.7%増の411億円。家庭用エアコンは減少したという。

 「冷蔵庫が国内のエコポイント制度の影響で販売数量が増加したほか、炊飯器や掃除機、電動アシスト自転車といった付加価値商品が堅調だった」(前田副社長)。

電動ハイブリッド自転車 eneloop bike CY-SPL226三洋電機のHIT太陽電池シングル男性向けの冷蔵庫「&Smart SR-SD27T」

 太陽電池などのエナジー部門の売上高は、前年比7.4%減の4,418億円、営業利益は49.5%減の238億円。太陽電池は25.3%増の1,017億円となった。

 各国の景気刺激策や環境政策の導入により太陽電池の需要が喚起され、太陽電池は国内を中心に売り上げを増加。二次電池は販売数量が前年を上回ったものの、価格下落の進行のため売上高は減少し、前年比18.9%減の2,778億円となった。

 一方、2010年度については、エコロジー事業領域の売上高が6.5%増の7,040億円、営業利益は19.8%増の200億円を見込む。

 白物家電商品については、パナソニックとのコラボレーションを加速。「開発の一元化、拠点の統廃合、コラボ商品の投入といった事業戦略の一元化を図るほか、家庭用空調の事業戦略の一元化もはかり、グループとしての統合力によって付加価値の高い商品を投入する」(三洋電機・佐野精一郎社長)と語る。

 パナソニック、パナソニック電工、三洋電機という新パナソニックグループにおける白物家電事業の一元的な戦略が、2010年度の白物家電市場の注目点の1つになりそうだ。


減収・赤字もLED電球では国内シェアNo.1を維持――東芝ホームアプライアンス

 東芝の家庭電器部門の売上高は前年比14.0%減の5,798億円、営業利益は前年から217億円回復したものの、54億円の赤字となった。

 「白物家電商品、照明、空調は、景気後退の影響および天候不順の影響を受けて、いずれも減収となった。だが、家電商品、一般照明がコスト削減効果により、黒字化している。空調が減収のため損益が悪化したものの、家庭電器全体では改善傾向にある」(東芝・村岡富美雄副社長)という。また、LED電球では国内シェアナンバーワンを獲得したとしている。

東芝のLED電球「E-CORE(イーコア)」は、2009年度の省エネ大賞において資源エネルギー庁長官賞を受賞した2010年3月には価格を抑えたモデル「E-CORE(イー・コア) 一般電球形6.4W LDA6L」を発売して注目を集めた

 2010年度の家庭電器事業は売上高で3.5%増の6,000億円、営業利益が84億円改善の30億円と黒字転換を予想している。

 東芝では、2009年度中に家庭電器事業の構造改革として、愛知工場の製造終息により、生産を中国現地法人や東芝ホームテクノへ移管。また開発では秦野工場での開発終息により、愛知工場および東芝ホームテクノへの拠点集約を図った。さらに、家庭用ルームエアコン事業を東芝ホームアプライアンスへ統合するなどの事業再編を行なってきた。

 「2010年度においては、国内市場において確かな技術力でナンバーワン商品を創出。海外では、現地密着型の機種の設計、開発体制を拡充し、冷蔵庫、洗濯機で約40モデルを海外市場向けに展開する。2012年度までの家庭電器事業における海外売上高の平均成長率を22%とする」(東芝・佐々木則夫社長)と、とくに海外での事業拡大に意欲をみせている。

 国内においては、世界初の可変磁力モーターを採用した洗濯機、デュアルコンプレッサーによる家庭用エアコン、冷蔵および冷凍の2つの冷却器を搭載した冷蔵庫、チップ・オン・ボードによる高密度実装技術を採用したLED電球などで他社との差異化戦略を加速する考えだ。

東芝のエアコンの最上位モデル「大清快 UDRシリーズ」エアコンに搭載している東芝独自の「デュアルコンプレッサー」。内部にシリンダーを2つ搭載している。低能力時の高効率運転で“扇風機並みの消費電力”を実現するという世界初の可変磁力モーターを採用したドラム型式洗濯乾燥機「ZASOON(ザブーン) TW-Z9000」

 LED照明システムに関しては、設備投資や研究開発費も増加させ、新機種の開発や製造の自動化などにも着手する。2015年度にはLEDを中心とした新照明シテスムで3,500億円の売上高を目指す。

 一方で、住宅用太陽光発電システム事業にも参入。すでに代理店を通じた2010年5月時点の契約累計数は1万軒に達しているという。


プラズマクラスターイオンで利益は4.3倍――シャープ

シャープ 片山幹雄社長

 シャープは、健康・環境機器事業の売上高が前年比7.9%増の2,441億円、営業利益は337.2%増の162億円となった。

 「プラズマクラスターイオン搭載製品や太陽電池などの健康・環境関連製品は好調に推移。利益は4.3倍になった」(シャープ・片山幹雄社長)という。とくにプラズマクラスターイオン搭載製品では、新型インフルエンザの広がりにあわせて、発生機や空気清浄機の販売が増加したという。冷蔵庫の売上高は3.6%増の674億円、エアコンは3.4%減の462億円。

 また、太陽電池事業は売上高が32.8%増の2,087億円、営業利益が前年のマイナス161億円の赤字から33億円の黒字に転換した。

 「住宅用太陽電池システムは、補助金や余剰電力の買い取り制度などにより、国内を中心に堅調に推移している」と語る。

プラズマクラスター採用製品に付けられているマーク。プラズマクラスターイオンは、空気清浄機などの空調機器だけでなくエアコンや冷蔵庫、洗濯機にも搭載されているシャープの住宅用太陽光発電システム「多結晶太陽電池モジュール」。屋根の形状に合わせて選べるように様々な形をラインナップしている

 2010年度の健康・環境機器事業の売上高は、10.6%増の2,700億円、営業利益は1.4%減の160億円。冷蔵庫の売上高予想は前年比18.5%増の800億円、エアコンは14.6%増の530億円を目指す。LED照明や太陽電池、プラズマクラスターイオン技術搭載商品などにより、事業拡大を図るという。

 太陽電池事業は、売上高が19.8%増の2500億円、営業利益が196.6%増の100億円。販売数量は前年の792MWから、51.5%増となる1,200MWを目指す。

 「太陽電池は、欧州市場はフィードインタリフ制度(自然エネルギーによる電力を、電力会社が高値で一定期間買い取る制度)の影響のほか、日本での補助金制度、グリーンニューディールの米国、政府の普及政策が立ち上がりつつある中国というように、世界各国で市場伸張が期待できる。独自技術によるセルの効率化や、薄膜太陽電池の生産体制の拡充と、結晶太陽電池の新規製造プロセスの導入を図り、グリッドパリティ(既存の電力料金とコストが並ぶこと)の早期実現を目指していく。3月からグリーンフロント堺で薄膜太陽電池の生産を開始しており、4月から全世界に向けて出荷していく」とした。


プレミアム戦略とコスト削減でシェア拡大を目指す――日立

 日立製作所では、白物家電などを含むデジタルメディア・民生機器の売上高が16%減の9,292億円、営業損失は1,033億円改善したが、72億円の赤字となった。

 「デジタルメディア・民生機器部門は、第1四半期の赤字が大きく影響したが、事業構造改革の効果が出た部門ともいえ、第2四半期からは黒字化。大きく損益を改善できた」(日立製作所・三好崇司執行役副社長)とした。

 空調機器が、設備投資の抑制や、冷夏の影響で減少したが、家電事業全体では黒字化しているという。

 白物家電事業を担当する日立アプライアンスは、過去最高の業績を達成。国内、海外とも黒字化しているという。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの主要製品で20%を超えるシェアを獲得したほか、世界最安調達などによる材料コストの低減に取り組んだという。さらに、プレミアム製品の国内生産にこだわる一方、組立ラインのセル化、見える化現場の実践、生産時間の短縮にや人件費の削減効果などがあるという。

日立アプライアンス 石井吉太郎常務取締役

 「状況は厳しいが、プレミアム戦略が実ってきている。また、タイでは現地に最適化した炊飯器を発売し、一気にシェアを拡大するなど、アジア、中近東での存在感を高めている」と、日立アプライアンスの石井吉太郎常務取締役は語る。

 2010年度のデジタルメディア・民生機器の売上高は1%減の9,200億円、営業損益は142億円改善して、70億円と黒字転換を見込む。

 「エコポイント制度が今年末に終了することを想定すると、デジタルメディア・民生機器事業の売上高は前年比99%とみざるを得ないが、事業構造改革の効果を見込んでおり、黒字への転換を計画している」(日立製作所の三好副社長)とした。

 総合空調事業においては、ブラジルをはじめとする新興国におけるグローバル事業の拡大のほか、家電事業では各国のニーズに対応した事業拡大により、黒字の維持・拡大を図るとした。

 「国内では、エコポイント非対象製品の販売拡大にも力を注ぎたい。とくに、7位に低迷している炊飯器に関しては、悲願の10%シェア獲得を目指す」(日立アプライアンス・石井常務取締役)と意欲をみせる。

6月10日より発売を開始する炊飯器の最新モデル「蒸気カット 極上炊き 圧力&スチーム RZ-KV100K/180K」。スチームと圧力を使った独自の炊飯機構が特徴国内シェアトップを占めるスチームオーブンレンジでは餃子が焼けるなど独自の機構で他社との差別化を図る。写真は6月10日発売の「焼き蒸しふた料理 ヘルシーシェフ MRO-GV300」容量616Lのプレミアムタイプの冷蔵庫「フロストリサイクル 真空チルドS」


売上高、営業利益ともに減少――三菱電機

 三菱電機の2009年度における家庭電器事業の売上高は9.5%減の8,246億円、営業利益は86.2%減の48億円となった。エコポイント制度をはじめとする政府補助金制度の効果などにより、国内向け太陽光発電システムなどが増加したものの、国内外の空調機器および海外向け太陽光発電システムの減少が影響。減益は売り上げの減少が影響したという。

 2010年度の売上高計画は、3.1%増の8,500億円、営業利益は3.7倍となる180億円を見込む。


エアコン不調も空清の販売台数が前年の約2倍――ダイキン工業

 一方で、空調分野の企業の業績も見てみよう。

 ダイキン工業では、空調部門の売上高が前年比14%減の9,086億円、営業利益は36%減の458億円となった。

 国内空調事業は、住宅着工の低迷、民間整備投資の抑制、販売台数では前年割れとなったが、住宅用、業務用ともに台数シェアを向上させたという。

 とくに住宅用では静音性に優れたフィルター自動清掃機能に加えて、選べる気流を搭載した高付加価値商品を中心に省エネ環境提案や、快適空間の提案の訴求活動によってシェアを高めたという。また、空気清浄機は、新型インフルエンザ対策を追い風に、販売台数は前年の2倍となる50万台を達成したという。

加湿機能や、気流制御などの機能を搭載したダイキン「うるるとさらら Rシリーズ AN40LRS-W」加湿/除湿/脱臭/集塵の4つの機能を搭載した空気清浄機「クリアフォース」

 2010年度は空調事業で、売上高が前年比11%増の1兆120億円、営業利益は41%増の645億円を目指す。

 国内向けの住宅用エアコンでは、高付加価値商品の展開に加えて、中国の格力電器への生産委託によるコスト競争力の強化や、全機種でエコポイント対象機として省エネ性能を訴求する計画を打ち出すほか、光速ストリーマ技術を核とした製品を拡販。季節にあわせた販促展開による空気清浄機の拡販や、住宅用および業務用エアコンへの光速ストリーマ技術の搭載を進める計画を明らかにしている。

 同社では国内向け住宅用空調機器で、業界全体の4%増の伸びを上回る13%増の販売台数計画を掲げ、シェア拡大に乗り出す。

 また、中国市場向けにはノンインバータエアコンへの規制が6月から実施されるという動きに対応。大手量販店、専売店、PRO SHOPを核に4,000店舗の販売網を構築し、年間50万台のルームエアコンの販売を計画。4月からは、珠海格力電器有限公司との合弁会社において、基幹部品、金型などの生産を開始しており、供給体制も整える。そのほか、マレーシア、ベトナム、インドネシアなどの新興国市場で小型ルームエアコンの販売拡大にも乗り出す計画だ。


付加価値エアコンと脱臭機が好調――富士通ゼネラル

 富士通ゼネラルは、空調機部門の売上高が前年比14.4%減の1,391億円。そのうち、国内向け売上高は6.5%減の414億円となった。

 エアコンは、期初からの低調な需要に加えて、冷夏により売り上げが減少したが、従来の普及機種中心から、2010年度省エネ基準をクリアしたJシリーズなどの高単価機種へのシフトが進んだことに加えて、今年1月に発表した新製品も貢献しているという。またホーム機器については、除菌脱臭機能に優れたプラズマイオンUV脱臭機「PLAZION(プラズィオン)」の販売が増加したという。

 2010年度の空調機部門の売上高は前年比11.6%増の1,553億円。そのうち、国内向け売上高は15.2%増の477億円を見込む。

高級タイプの「nocria(ノクリア)」。上がSシリーズ、下がZシリーズ脱臭と除菌に機能を絞った「プラズィオン DAS-301V」


エアコン事業での巻き返し、白物家電事業の収益改善にどう取り組むか

 各社の決算を俯瞰すると、太陽電池、LED照明、空気清浄機などの高伸張分野で事業を拡大する一方、エコポイント制度の追い風となった冷蔵庫での売り上げ増加が見られるものの、エアコンでは、冷夏の影響でエコポイント制度の効果がそれほど見られず、苦戦を強いられたという構図になっている。

 2010年度は、成長事業をどの程度の成長にまで引き上げられるかが注目される一方で、業界全体でプラスと見込まれる国内家庭用エアコン事業での各社の巻き返し、そしてシェア争いが注目される1年となりそうだ。

 加えて、継続的に実施される構造改革の効果が、白物家電事業の収益改善にどう寄与するかも注目されることになるだろう。

 付加価値製品と普及価格製品の二極化が進むなかでの各社の舵取りも大きな焦点となりそうだ。





2010年5月20日 00:00