大河原克行の「白物家電 業界展望」
プラズマクラスターイオンのPRにシャープが仕掛けた
バイラルマーケティングとは
■ウェブ限定の新しい“口コミ”マーケティング
シャープは、プラズマクラスターイオンのブランド認知度を高める施策として、バイラルマーケティングに乗り出している。
一般的なマーケティング方法が、広告を利用して、消費者に直接的に働きかけるのに対して、バイラルマーケティングは、自社商品を利用しているユーザーや、技術やサービス、商品を知るユーザーなどが、間接的に第三者に口コミのようにして広げ、認知や評価を高めていく手法である。
バイラルマーケティングにはメール、ブログ、SNSなどが活用されることが増えており、シャープでは、こうした動きを捉えて、ウェブに限定したコンテンツを用意したバイラルマーケティングに初めて取り組んだ。
同社が、2009年11月から今年3月までの期間限定で、ウェブサイト上に公開している「プラズマクラスタープレゼンツ でんじろう先生の魔宮実験室」がそれだ。科学の実験のユニークさが評判となっている米村でんじろう先生をメンイキャストに起用。ドラマ仕立ての実験ムービーとして、全6話のオムニバス形式で公開している。
URLは、http://jikken.plasmacluster.jp/。シャープの企業情報、製品情報を提供するsharp.co.jpとは別のサイトとして切り分け、サイトのトップページも、シャープであることはプラズマクラスターの表記以外はわからない。
実際にムービーを見てみると、シャープが後ろに隠れているのがわかる。映像全体のほぼ8割が、でんじろう先生による実験の映像。女子高生役の大澤亜季子さんがドラマとしての雰囲気を盛り上げる。そして、最後に、その実験に関連するプラズマクラスターの技術を紹介する。2009年11月25日から2010年1月29日までの間に、順次公開された全6話の構成は、すべてこの形となっている。
ムービーの後半に挿入されたプラズマクラスターの技術説明を見て関心を持った人は、そこから、「プラズマクラスターって何?」と題したユーザーの声をまとめたサイトへと移動できるようになっている。
第2層となるユーザーの声をまとめた「プラズマクラスターって何?」と題したサイト |
ここもまだplasmacluster.jpのサイトのなかだ。
「プラズマクラスターって何?」のサイトでは、実際にプラズマクラスター搭載機器を所有している人へのインタビューを通じて、プラズマクラスター搭載機器の利用メリットや、効果などが、生の声でまとめられている。
このサイトを見て、さらにプラズマクラスターに興味を持った人に対して、初めてsharp.co.jpのなかで公開されているプラズマクラスターのページへの誘導することになる。
シャープ ブランド戦略推進本部Web企画室長・溝端利文氏 |
シャープでは、gooやMSN、ニコニコ動画などのポータルサイトに、誘引するためのバナー広告を掲載。でんじろう先生による実験サイトという切り口から、幅広い層にリーチ。さらに、ブログやSNSなどを通じたネットによる口コミ誘引も想定した。
■「これまでとは違うアプローチで技術的側面にも触れて欲しい」
実は、プラズマクラスターに対する認知は、かなり広がりつつある。
新型インフルエンザが蔓延するのにあわせ、空質に対する関心が高まり、空気清浄機の需要も増大しているといった要素のほか、5秒CMとした話題となった「♪プラズマクラスターはシャープだけ~」というジングルもそれを後押ししている。また、ウェブの検索ワードとしても、空気清浄機やプラズマクラスターといった言葉が年々増加している。
シャープでは俳優の佐藤隆太さんと水川あさみさんが歌う「プラズマクラスターはシャープだけ」というCMソングを着うたとして無料配信している |
「プラズマクラスターという言葉や、ロゴマークの認知度は浸透してきた。量販店店頭でも、プラズマクラスターのロゴマークを見て、購入していただくという例も増えている。だが、プラズマクラスター独自の技術的特徴に関する認知度や、他社のイオン関連商品との差別化ができているのかどうかという点では、まだ努力する必要がある。昨年春以降、プラズマクラスターの内容をきちんと理解してもらうための仕掛けを模索しており、その1つとしてバイラルマーケティングに取り組んだ。わかりやすく、親しみやすく、そして一過性のものにならないことを前提として検討を続けてきた」(溝端室長)という。
わかりやすく、親しみやすくという点では、動画の訴求が最適だと判断した。そこで、映画のトレーラーを意識した動画づくりを進め、ミステリー風のストーリー構成とすることや、でんじろう先生の実験による驚きという観点から訴求することに決定した。また、sharp.co.jpのサイト内では、実現しにくいような楽しさ、面白さも、plasmacluster.jpという別のサイトにすれば、実現しやすくなるという点も考慮し、別サイトで展開することも決定した。
■良い意味でつっこみどころのある内容に
一般的にプラズマクラスターのユーザー対象となるのは、30代以上だろう。だが、今回のコンテンツでは、でんじろう先生とともに、女子高生役に大澤亜季子さんを起用した。ターゲットにやや違和感を感じざるを得ない。
この点について、溝端室長は次のように説明する。
「バイラルマーケティングの狙いからすれば、メーカーが思うターゲットだけを想定していては効果がないと考えた。プラズマクラスターを老若男女に広く知っていただき、そこから多くの人に広がることを想定すれば、我々が考えるターゲット以外に訴求することが大切。大澤亜季子さんが、バイラルマーケティングで重要な役割を担う若年層に知名度があることを考えると、効果が期待できるという観点で決定した」
その点でも通常のマーケティング手法とは異なる発想を持ち込んでいるのだ。
そして、こうも語る。
シャープ ブランド戦略推進本部Web企画室主事・西村玄一郎氏 |
「気になる要素、興味をもってもらう要素という、良い意味で突っ込みどころのあるものを入れることで、ネット上で話題を作る工夫もしている」(シャープ ブランド戦略推進本部Web企画室主事・西村玄一郎氏)という。
でんじろう先生を起用し、ユニークに実験内容を公開するもの、話題を提供する要素をふんだんに盛り込むという観点のものだ。これも、バイラルマーケティングならではの発想だといえよう。
では、今回の取り組みは、どの程度の成果につながっているのだろうか。
溝端室長は、「初めての試みであり、どの程度までいけば成果があったといえるのかは、現時点では算定しにくい」と前置きしながらも、「でんじろう先生の魔宮実験室を第1層とすれば、第2層となる使用者レポートにまで至った人は約1割。そこから第3層となるシャープのサイトに至ったのはさらに1割。少なくとも、これだけの顧客層を公式サイトに誘引し、プラズマクラスター技術を詳しく知っていただけたのではないだろうか。また、100を超えるブログで、このサイトが話題として取り上げられるといったことも確認できた。楽しんでもらい、理解してもらうという点では満足できるものになったといえる」とする。
シャープにとっては、初めての取り組みだが、手応えはそれなりに感じているようだ。
その手応えは、「シャープがもっと認知度を高めたい製品や、知っていただきたい技術については、ウェブが有効なツールになるのではないか」というコメントからも裏付けられよう。
2008年の9月にシャープが発表した中期計画の中で「21世紀の主要技術」と位置づけられている、プラズマクラスター技術、LED照明技術、ウォーターヒート技術 |
シャープでは、健康・環境関連商品では、ヘルシオに搭載しているウォーターヒート技術、電球をはじめとする照明事業におけるLED技術、そしてプラズマクラスターイオン技術を、「21世紀の主要技術」と位置づけている。
溝端室長は、「具体的な計画は現時点ではない」とするが、2010年度以降は、こうしたシャープの独自性を発揮できる技術を訴求する手段としてバイラルマーケティングを活用することも検討材料となりそうだ。
今回のバイラルマーケティングを担当したWeb企画室は、2006年2月に発足し、5年目を迎えたところ。これまでは、シャープの商品サイトやプロモーションサイトの企画を中心としてきたが、2009年度からはバイラルマーケティングに関する予算を計上。今回の手応えぶりからすれば、2010年度もこれを継続するのは間違いなさそうだ。
今後、シャープがどんなバイラルマーケティングに取り組むのか興味深い。
2010年3月10日 00:00