大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニックが打ち出した重点事業戦略における白物家電の位置づけ

~国内市場の優等生は、海外攻略の武器になるか
by 大河原 克行
パナソニックの大坪文雄社長

 パナソニックの大坪文雄社長は、先日、2012年1月からスタートする新たな事業体制と、重点事業戦略について発表。ソーラー事業やリチウム事業、LED照明事業などへの取り組みについて明らかにした。

 さらに、家やオフィス、コンビニやスーパーなどを対象に、製品を組み合わせた形でソリューション提案を行なう「まるごと」事業を強化する姿勢を改めて強調した。ソリューション事業分野において、エコソリューションズ社を新設し、その中に、まるごとソリューションズ本部を設置。早い時期に100案件のまるごとソリューションを獲得する方針を打ち出した。また、白物家電事業については、三洋電機の白物家電事業を中国ハイアールに譲渡し、約3,000人が移籍することについて言及。今後は、パナソニックのホームアプライアンス社でも人員体制のスリム化を図る考えを示した。

2012年1月から3つの事業部門で新体制をスタート

2012年1月から事業分野を再編。コンシューマー、デバイス、ソリューションの3つの枠組みとなる

 パナソニックは、2012年1月から、コンシューマー、デバイス、ソリューションの3つの事業分野に再編する。

 従来は、デジタルAVCネットワーク、アプライアンス、テバイス、電工・パナホーム、三洋電機の5つのセグメントに分類。これを技術プラットフォーム別セグメントとしていた。

 これに対して、新体制では、ビジネスモデル別体制と呼び、「お客様接点の強化による価値創出の最大化」、「スピーディーで筋肉質な経営の実現」、「大胆なリソースシフトによる成長事業の加速」に取り組む姿勢をみせる。

 大坪社長は「どれかの事業が突出するのではなく、3つの事業分野がそれぞれに3兆円規模で拮抗するような体制を目指す」と語る。

 白物家電事業を担当するアプライアンス社については、コンシューマー事業分野に含まれ、1兆3,000億円の事業規模でスタート。白物家電や空調機器、理美容製品、健康製品のほか、業務用冷熱機器なども対象となり、43,000人の体制となる。

白物家電事業を担当するアプライアンス社については、コンシューマー事業分野に含まれる充電器や電池応用製品、ソーラー関連商品はデバイス事業分野に含まれるソリューション事業分野では、システムネットワークやヘルスケアのほか、パナソニック独自の「まるごとソリューション」などが含まれる。

 さらに、横串する形で国内外事業を統括したマーケティング、販売、サービス部門として、グローバルコンシューマーマーケティング部門を設置し、グローバルコンシューマーリサーチセンター(GCRC)を軸とした各地域に根ざした生活研究の強化、マーケティングノウハウの横展開、流通コストの合理化、海外ヘのリソースシスフトなどに取り組む。

 白物家電製品の開発に、現地の生活環境を反映した体制が、グローバル規模で強化されることになる。

 そのほか、新興国攻略を重点課題に掲げ、インド大増販プロジェクトでは、2012年度まで年率80%増の成長を見込み、2012年度以降、エアコン、洗濯機、溶接機の新工場を立ち上げる。またブラジル大増販プロジェクトでは、白物家電およびソリューション・デバイス事業の育成を掲げるとともに、冷蔵庫、洗濯機の新工場を立ち上げ、2011年度から2013年度までの年成長率で40%増を見込む。さらに中国では、急成長する内陸部の都市を攻略する中国A23作戦を展開。支店数を2倍に、Panasonic生活館を7倍にするなど販売網を拡大し、2012年度までの年率成長率で20%増を見込んでいる。

現地の生活環境を反映した戦略で、新興国攻略を掲げる新興国攻略に全社を挙げて取り組む予定で、特にインドとブラジルを成長拠点として見込んでいる

成長戦略に掲げるソーラー、リチウム、蓄電、LED

ソーラー事業は、グループが持つ基盤を最大限に活用して事業を展開していくという

 一方、パナソニックの大坪社長は、重点事業戦略のなかで成長を担う分野として、ソーラー、リチウム、蓄電システム、LED照明への取り組みにも言及する。

 ソーラーでは、HIT太陽電池により、国内での販売を拡大。2011年度は上期には国内で前年同期比48%増となったのに続いて下期には同73%増とさらなる成長を見込む。また、日本や欧州の住宅用には高効率HITを中心に展開。米国市場向けや業務用では標準品の活用やソリューション提案、大規模システムでは個別プロジェクト対応を図るという。

 「HIT太陽電池はコストダウンを図るとともに、標準品調達の拡大によるラインアップ拡大にも取り組む。HIT太陽電池の次期モデルは2013年度以降に製品化する予定。さらに、創蓄連携システム展開や川下事業への新規展開によるソリューション販売を強化し、2012年度には国内トップシェア、グローバルで750MWの出荷を目指す」とした。

 リチウムイオン電池については、スマートフォン向けの角形リチウムイオン電池を2012年度末には現在の1.5倍、PCおよびタブレット端末向けのパウチ型リチウム電池を2.5倍規模に拡大する一方、生産拠点の再編を実施。中国・蘇州工場においては、生産前倒しによるパウチ型リチウムイオン電池を増産のほか、中国での一貫生産体制を強化。国内では、和歌山工場での生産を縮小し、大阪の住之江工場に集約するという。

 だが、住之江工場でも予定していた2期工事は見直すことにした。そのほか、円筒型の18650では、米ステラ社の電気自動車モデルSへの供給が決定。今後4年間で8万台分以上の供給を行なうことで、「18650をEVの動力につかうという新たな需要が創出できる」とし、「リチウムイオン電池でのグローバルシェアナンバーワンを早期に奪還する」(大坪社長)と意欲をみせた。

 車載搭載のリチウムイオン電池では、基本戦略を「全方位」とし、多数の自動車メーカーへの積極提案を進め、2012年度には前年比5倍、2015年度には2012年度比3倍となる1,000億円以上の事業規模を目指す。「この分野における生産体制強化は必須であり、積極的な拡大を進める。既存工場の生産を増強するとともに、新ラインおよび新工場を検討し、成長市場に対して継続的に投資を行なう。環境対応車の地産地消への対応、技術、品質、コストの最適化により、グローバル最適生産体制の確立に臨む」とした。

リチウムイオン電池については生産拡大を進めるとともに、生産拠点の再編も実地する車載搭載のリチウムイオン電池では、生産体制を強化・拡大し、今後の市場成長に備える構えを見せた

 蓄電システムでは、住宅向け、公共施設向けのほか、店舗、ビル、電力施設を対象に展開。ポータブル型、ソーラー充電型のほか、AC充電型、創蓄連携エネマネ型などを順次発売。さらに欧米市場にはデバイスから参入し、住宅での自家消費用途や、系統安定化に向けた蓄電池の活用提案などを行なう。

 一方、LED照明では、日本国内において2011年度第2四半期で35%を獲得したトップシェアを強みに、現在ランプで30品番、器具で2,000品番のLED関連製品数を、2015年度にはランプで400品番、器具で5,000品番にまで拡大。2012年度には、前年比42%増の1,200億円を計画し、2015年度に向けてさらなる積み増しを行なっていく姿勢を示した。グローバル展開を重要な柱としており、ランプは全世界で展開、器具は中国・アジアを中心に展開。デバイスでは欧米の器具メーカーとの連携を図る。「デバイスの標準化、ユニット化から、プラットフォーム化や外販展開を図っていく」とした。

震災後に高まった蓄電システムへのニーズについては、現在扱っている住宅用や店舗用のみならず、ビルや電力施設を対象にしたものも展開していく2011年度第2四半期で35%のシェアを獲得したLEDについては、品揃えを強化していくと共に、海外展開を重要な柱とした

まるごと提案で3度稼ぐビジネスモデルを構築

 一方で、ソリューション事業領域においては、まるごと事業を推進。「3度稼ぐモデルを目指す」という。

 ソーラーや蓄電池、LED照明などの単品ごとの強さに加えて、揃える、つなげるといった複数の製品を連携させた提案、メンテナンスやサービスといった保守関連での収益を得られる提案を行なうことで、長年に渡って継続的に収益を得ることができるモデルを構築する考えだ。

 具体的にはコンビニ向け省エネソリューションを提案。照明、空調、業務用冷凍冷蔵庫などの個別商品のほか、連携制御(SEG)システムの提案、さらにモニタリングや改善コンサルティング、保守・メンテナンスを提供する。

 「コンビニ向けまるごとソリューションの市場規模は約5,000億円と想定される。これをスーパーなどに展開すれば、さらに市場が拡大する」と横展開も視野に入れている。

 続けて、「まるごと事業では100本の矢として、早期に100案件の獲得を目指す。コンビニまるごとでは日本、中国、アジアで展開。家まるごと、工場まるごとなど、すでに全世界で30案件の姿が見えている。市場と地域でまるごと提案をできる価値を明確化していく。また、藤沢サスティナブルスマートタウンをはじめとするスマートシティ案件を積極的に推進し、先進事例を作っていく」とした。

「まるごと事業」では、製品だけでなく、メンテナンスやサービスも踏まえたビジネスモデルを構築するまるごと事業では、早期に100案件の獲得を目指す「100本の矢」作戦を展開。すでに30案件が具体化しているというまるごと事業には、戦略投資として100億円規模を想定している

 まるごと案件推進のために、コンシューマー、ソリューション、デバイスの各事業分野を横串にする「まるごとソリューションズ本部」を設置。グローバルでの大型プロジェクト案件の獲得にも乗り出すほか、グループまるごと事業推進コミッティーを設置して事業を加速。この分野への戦略投資として2012年度には100億円規模を想定している。

 2012年度はまるごと事業で1,055億円以上、2015年度には3,000億円以上の事業規模を見込んでいる。

尼崎の太陽電池新工場の稼働を凍結

 一方で、テレビ事業に関しても大幅な事業構造改革に乗り出したことも見逃せない。

 今回の事業構造改革の発表では、液晶パネルおよびプラズマディスプレイパネルの生産拠点をそれぞれ1カ所に集約。液晶パネルでは、千葉県茂原市の茂原工場を休止し、姫路工場の減損処理を行なう。また、プラズマディスプレイパネル(PDP)では、兵庫県尼崎市の第5工場の生産休止および減損処理するとともに、太陽電池工場への転換を予定していた第3工場既存設備の海外移転を中止するとともに設備を廃棄。上海での生産停止し、PDPの生産は第4工場の1カ所に集約する。PDPの生産台数は、42型換算で年間1,380万台から年間720万台規模と、約半分に縮小する。

 尼崎の第3工場においては、次世代HIT太陽電池の生産拠点への転換が予定されていたが、「ソーラーの増産に向けて移行を考えていたが、2年前と状況が変わった。電力不足の問題もあり、円高の課題もある。いまやソーラーを国内生産として積極展開する理由はなく、海外で生産するメリットの方が大きい」などとした。

 一方、半導体事業においては、システムLSIの生産委託への切り替えや、一部先端工場の減損処理を実施するとともに、スリム化を実施。センサーやパワー半導体といった「伸ばす事業」へのリソースシフトを図るという。

パナソニック、三洋電機、パナソニック電工の3社が統合することになる本社だが、人員は現在よりも少なくするという

 また、本社のスリム化を図るとともに、グローバル展開を強化。新たにグローバル本社を設置し、全社戦略機能を統合する。「新たな本社は、パナソニック、三洋電機、パナソニック電工の3社を加えることになるが、現在のパナソニックの本社よりも少ない人数になる」とした。

 大坪社長は、「2012年1月からの新体制スタートに向けて、構造改革を、積み残しなくやりきる考えである」とし、「36万6,000人のグループ従業員を、2012年度末には35万人以下にするとしていたが、これを1年前倒しとなる2011年度中に実現する。構造改革費用は全体で5,140億円を予定しており、2012年度における効果は1,460億円を見込んでいる」と語った。

優等生の白物家電事業の今後はどうなるのか?

 今回、発表した2012年1月からの新体制および重点事業戦略においてはテレビ事業の再編が注目されるが、白物家電事業においても、1つの転換期を迎えたことを示すものになったといえよう。

 現在、パナソニックの白物家電事業は、付加価値製品の構成比が高い国内市場を中心に展開。同社の技術力を生かした製品の売れ行きか好調で、2011年度第2四半期(7~9月)は、営業利益率が8%という同社のなかで最も高い利益率を誇る。AVC事業が赤字であるのに対しても、対照的な位置づけだ。

 だが、国内市場の白物家電の普及率は高く、今後、大幅な成長を見込めない。白物家電事業の成長には海外への進出が不可欠になるのは明白だ。

 パナソニックでは、インドやブラジルにおいて大増販プロジェクトを展開。世界経済の成長を牽引するこれらの市場での成功が、パナソニックの全社の成長にもつながる。

 ここでも白物家電事業は重要な武器になる。しかし、日本を中心とした現在の事業構造で実現している高い収益性を維持できるかは不明確だ。

 ボリュームゾーン型の製品が主力となることで、低価格化が進展するのは明らかで、白物家電事業のビジネスモデルの転換が余儀なくされる。EMSによるモノづくりなどを活用することや、付加価値製品を受け入れることができる市場文化の醸成などによって、どこまで採算性を維持できるかが課題となる。

 その一方で、家まるごと提案のなかでも、白物家電は重要な役割を果たすことになる。世界各国で推進されているスマートシティプロジェクトにもパナソニックは積極的に参画しており、これらの事例を横展開していくことで、白物家電事業にも広がりが見込まれることになる。

 利益率では優等生となっている白物家電事業を、どう成長させることができるかが注目点だといえる。





2011年11月14日 00:00