大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニック、2015年のLED事業で2,000億円以上を見込む

~「lx」に代わる独自の明るさ指標「Feu」とは何か? 
by 大河原 克行

 パナソニックは、2015年度までにLED照明事業におけるグローバル販売目標を、2,000億円以上に拡大する計画を明らかにした。同社では、LED照明事業を今後の重点事業のひとつに位置づけており、家庭用、オフィス用以外にも、防犯灯、街路灯へと製品範囲を拡大。

 「まるごとソリューションを担う製品のひとつであるとともに、今後、グローバル展開も進めることで、LED照明市場におけるグローバルリーディングカンパニーを目指す」(パナソニックの松蔭邦彰役員)とした。国内を中心とした高付加価値戦略とともに、新興国市場などを対象にしたボリュームゾーン展開も推進し、両翼での事業展開を図る考えだ。同社のLED事業戦略を追った。

2012年1月にパナソニックとパナソニック電工の照明事業を一本化

 パナソニックのLED事業は、国内市場において、2011年度第2四半期(7~9月)に、35%のシェアを獲得し、ナンバーワンシェアを誇る。

 これまではパナソニック電工の照明事業本部と、パナソニックのライティング社に分かれていた組織を、2012年1月には、エコソリューションズ社のライティング事業グループとして一本化。国内では、大阪府高槻市と門真市にある2つの拠点を再編し、企画開発部門を門真の拠点に統合。高槻の拠点は生産拠点として位置づけるほか、欧州、米州、中国、アジアを含めた5極体制でグローバル展開を行なう体制を整える。

パナソニックの松蔭邦彰役員

 「パナソニック、パナソニック電工の2社のシナジー効果が発揮できることになる。これまでは、ランプと器具の光源部分がバラバラだったが、LEDではこの部分を一本化し、調達メリットを生かせる。これまで以上に収益性を高めることができる」(パナソニックの松蔭役員)と、新体制による統合が、LED時代の到来において、タイミングよく威力を発揮することを強調する。

 現在、パナソニックグループにおける照明事業の規模は3,500億円。これを2015年度には4,000億円に拡大し、そのうち、LED照明で2,000億円規模に拡大する考えだ。

 LED照明の2010年度実績は323億円。今後5年で6倍以上に拡大することになるが、パナソニックの松蔭邦彰役員は、「2,000億円以上という数字は保守的なものだと考えている」と、急速な勢いでLED事業を拡大する姿勢をみせる。

LED照明市場は今後5年で6倍以上に拡大すると見込まれている2015年の全世界のLED市場規模は、2兆円を突破すると見られている

 とくにLED照明における海外売上高は、現在の37億円から400億円へと10倍以上に拡大。そのうち欧州では35億円から135億円に、米国ではこれまでの0から40億円に、中国では2億円から155億円に、アジアでも0から70億円への拡大を見込む考えだ。海外では欧州以外はほとんど手つかずだったものを一気に拡大することになる。

 欧米では主に照明器具メーカーを対象にしたデバイス販売が中心としながらも、コンシューマ向けランプ製品も展開。中国やアジアではランプ、照明器具によって事業拡大を見込む。

 「日本では約3億個の口金があるが、全世界では300億個の口金がある。LED照明は世界的にみても、導入期から成長期へと入りつつあり、事業拡大のチャンスはまだまだ大きい」とする。

 2015年の全世界のLED市場規模は、2兆円を突破すると見られていることから、パナソニックグループではグローバルシェア10%獲得がひとつの目安になりそうだ。

付加価値とボリュームゾーンの両面展開

 パナソニックは、LED照明事業において、これまでにも業界初や業界最高と呼ばれる製品を相次いで投入してきた。

 2009年10月には、業界初となる小形電球タイプを市場投入。2010年4月には業界最軽量となる小形電球タイプを、2010年6月には業界初の斜め取り付けタイプ、2010年11月には業界ナンバーワンの明るさと省エネ性を実現した一般電球タイプをそれぞれ市場投入した。

 さらに今年に入ってからも、業界最高の配光角を実現し、全方向に光を拡散する一般電球タイプや、業界初の断熱材施工器具対応の小形電球タイプを投入した。

 そうしたなかでも、2011年10月に発売したクリアタイプのLED電球は、美しいあかりを実現するデザイン性の高い製品に位置づけるとともに、「グローバル市場拡大の先兵になる」と、戦略的位置づけを担うことを示した。

2011年10月にクリアタイプのLED電球を市場に投入戦略製品ともいえるクリアタイプのLED電球
クリアタイプのLED電球はLEDモジュールを中空配置しているパナソニックの電球製品群。豊富なラインナップを揃える

 こうした付加価値製品を強化する一方で、ボリュームゾーン製品の展開にも本腰を入れて取り組む。

 「付加価値製品では、光の質や光のコントロール、性能、デザインといった点にこだわる一方で、ボリュームゾーン製品はコストパフォーマンスや豊富なラインナップを重視する。ここでは、パナソニックブランドとしての品質や安全性が確保できることを前提に、EMSを活用した委託生産にも乗り出す」とした。

 パナソニックでは、多品種創出を下支えする仕組みとして、回路基板やレンズ、電源などのデバイスの標準化に乗り出し、これらを活用することで、LEDランプや照明器具の品揃えを拡大しやすい構造を作り上げる考えだ。

 「これまでの照明事業はすり合わせのビジネスであったが、LED照明事業においては、モジュラー化が進み、デバイスの標準化がキーになる。幅広いニーズにあわせたラインナップを効率的に取り揃えることができるかどうかが、勝者の条件。デバイスの組み合わせの自由度の拡大のほか、開発およびモノづくりのスピードを2.5倍に高め、調達コストを2分の1に引き下げる。さらに、グローバルにデバイスを同時開発し、LEDの寿命評価試験を4分の1に短縮することも競争力を高めることにつながる。コスト競争力のある製品を、他社よりも早く市場投入していく」とも語る。

 品揃えという点では、現在2,000品番の国内LED照明器具を、2015年度には5,600品番に拡大。30品番に留まっている国内LEDランプは、2015年度には400品番に拡大するという。

 「各国の生活研究をもとにして、それぞれの地域に最適化した製品を品揃えしていく」と意欲をみせる。

同社では、家中の白熱電球・シーリングライトをLEDに変える、“まるごとソリューション”を提案している右からクリア電球タイプ、光が広がるタイプ、通常モデルのLED電球。幅広いニーズにあわせて品揃えする

パナソニックの独自指標「Feu」とは

 しかし、パナソニックが差別化策に位置づけるのは、やはり付加価値製品だ。

 「パナソニックの強みはハードウェアの技術だけではない。長年に渡って蓄積してきた照明ソフトウェア技術こそが大きな差別化になる」とする。

 例えば、街路灯である「アカルミナ」は、どの波長が人にとって明るく見えるのかといったことを研究した成果を活用。シンクロ調光機能では、部屋の明るさによって、最適な光色を導きだし、快適な生活空間を演出することができる。

 「なかには何千種類もの調光が可能だとする製品もあるが、それは機能を提供しただけであり、快適性を提供したものではない。利用者が何千種類もの中から色を選ぶのは不可能。パナソニックでは、利用シーンや用途に応じて最適な調光を提案することができる」とする。

夜道を明るく照らすための工夫を凝らした「アカルミナ」飲食店向けLED照明器具。空間の明るさを保ちながら器具台数を削減する提案

 パナソニックの提案のなかで特筆できるのが、「Feu(フー)」という同社独自の明るさを示す指標の存在だ。

 一般的に明るさは「lx(ルクス)」という単位で表されるが、これは水平面照度を示したものであり、床の明るさなどの単一面が対象になる。しかし、日常の生活のなかでは、床だけではなく、壁や天井といった立体的な環境のなかで明るさを感じる。これを捉えたのがFeu。つまり、より日常に近い立体的な照度を示した明るさの指標となる。

 「Feuは空間の明るさ感を照明設計にも活用できるレベルで数値化した指標。lxでは高い数字でも実際の空間は暗いという場合がある。lxに頼った形で照明の配置設計を行うのではなく、Feuをもとに設計を行えば、より省エネを実現でき、上質なあかり空間を作ることができる」と語る。

euは空間の明るさ感を照明設計にも活用できるレベルで数値化した指標朝や夕方などの太陽の光を感知し、シンクロ調色を行うLED照明製品
照明製品でもエコナビを展開。明るくなったら自動で消灯する機能を搭載し、快適性とエコを両立させる

 同社では、Feuを測定するソフトウェア技術のほかにも、照明空間のシミュレーションを行うリアルCGや、明るさの検証を行うLSRやルミナスプランナーといったソフトウェアを利用して、より効果的な照明空間の設計を行えるように提案できるという。

 「ハードウェアとしての品揃えだけでなく、調光制御技術、センサー制御技術、空間設計技術を活用することで、ソリューション型のビジネス提案が可能になる。さらにパナソニックグループ全体のインフラを活用し、まるごとビジネスを創出できる」と語る。

 パナソニックならではの光に関するノウハウが、グローバル戦略でも大きな意味を持つと、パナソニックの松蔭役員は語る。

 調光しやすいLED照明では、同社のノウハウが活かしやすい環境に転じるともいえ、さらに部材の調達メリットも享受しやすい事業へと移行することになる。

 つまり、LED事業は、これまでの照明事業よりも大きく体質を改善することができる事業ともいえるのだ。

 パナソニックグループが蓄積したノウハウが活用できるとともに、成長性と収益性の改善が見込める優良事業として、今後の展開が注目されよう。






2011年11月9日 00:00