大河原克行の「白物家電 業界展望」
パナソニックが海外事業拡大の切り札とする3つの戦略商品
パナソニックは、2012年度を最終年度とする中期経営計画「GT12計画」において、海外売り上げ比率を55%にまで引き上げる計画を掲げている。
2010年度の海外売上構成比は約48%。2012年度の55%の計画の先には、創業100周年を迎える2018年度に60%以上にまで高める方向性を打ち出している。
この成長の切り札になるのが、新興国市場の攻略である。
パナソニックの中期経営計画「GT12」の指標。海外売上高比率を55%にまで引き上げるとしている | グローバル戦略では新興国の売り上げ拡大が鍵となる |
先進国における経済の実質成長率は2018年度まで年率1~2%程度であるのに対して、新興国経済は7~10%の成長が見込まれているのは周知の通り。エレクトロニクス業界においても先進国市場での成長は今後鈍化するとみられており、なかでも日本の市場成長はマイナス成長に転じると予想されている。
しかも、新興国市場は引き続き高い成長を継続することで、数年後には、世界のエレクトロニクス市場の半分以上を新興国市場が占めるとみられているのだ。
新興国の市場成長を支えているのは中間所得層の増加だ。
2009年には年間5,000ドル以下の所得層は25億7,000万人と、新興国人口全体の42億5,000万人の半数以上を占めていたが、2020年にはこの層が13億4,000人に縮小。代わって、5,000ドル~15,000ドル未満の所得層が19億7,000万人に増加。年間5,000ドル以上の所得層は全体の72%に達するとみられている。
■新興国を攻めるパナソニック
パナソニックでも、新興国での事業拡大に力を注ぐ。
同社の中期経営計画「GT12」では、2009年度実績で4,400億円だった新興国における売上高を、2012年度には7,700億円に高める計画を掲げ、BRICs+V(ブラジル、ロシア、インド、中国、ベトナム)と、MINTS+B(メキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコ、サウジアラビア、バルカン諸国)を重点国市場とし、これらの市場では、2012年度までの平均成長率を20%とする。これにより、新興国市場における全社売り上げ構成比を、2009年度の25%から、2012年度には31%にまで引き上げる計画だ。
製品分野別の年平均成長率は、2012年度までの3年間で、エアコン、冷蔵庫、洗濯機の電化戦略3商品で17%増、小物家電で16%増と、家電製品が牽引役となる。最も事業規模が大きいAVC製品でも年平均12%の成長率を目指す。そのほか、AVCシステムなどのシステム製品で10%増、まだ規模が小さい環境関連製品では277%増という大幅な成長を目指す。
■新興国攻略のための3つの戦略商品とは
パナソニックでは、ボリュームゾーン商品を新興国攻略のための戦略的商品と位置づけている。
そして、2011年度からは、ボリュームゾーン商品を含めて、新興国を攻略するためのグローバル商品を、大きく3つのカテゴリーに分類している。
1つは、「グローバルリーディングV」商品である。年間所得2万ドル以上の1億7,500人を対象にする商品で、先進技術で市場を創造し、パナソニックブランドを牽引する商品と位置づける。
日本をはじめとする先進国で人気がある付加価値型商品を、新興国の富裕層に対して販売するもので、パナソニックの優位性が最も発揮できる部分だともいえよう。
2つめは、年間所得3,000ドル以上の所得層を狙う「グローバル・ボリュームゾーンV」商品である。
同商品は、グローバルの主戦場で他社と真っ向から戦う製品であり、ベースモデルを共通化し、複数国に展開。各国においてシェア拡大を目指す戦略的商品となる。
そして3つめには「新興国MOP(ミドル・オブ・ザ・ピラミッド)・ボリュームゾーンV」商品である。現地発想で新興国中間層を攻略するための商品で、今後パナソニックが力を注いでいく領域となる。
現在、中国、インド、ブラジル、ドイツ、ベトナムの5か国に、生活研究センター及び、それに準ずる体制を整えており、実際に家庭に出向いて利用実態を調査。これによって、それぞれの国の生活に必要とされる機能を搭載した商品を創出するという仕組みだ。
2011年度における重点国での販売目標 | 現地での生活研究により、市場性にあわせた商品企画を行なう |
例えば、インドネシアでは7都市70世帯を訪問して電気製品の使用実態を調査。その結果、4人暮らしの家庭でも、日本の一人暮らしの家庭で使用するような160Lのワンドア冷蔵庫を使用している例が多く、冷蔵庫のなかには多くの果物が入っており、飲料水として煮沸した水道水を入れているというケースが目立ったという。そこで野菜庫を従来の9Lから、16Lに拡大し、ペットボトルを13本収納できるように設計した商品を開発。その結果、5%だった市場シェアは、12%弱まで拡大したという。
インドネシアでは野菜庫を16Lに拡大。ペットボトルを13本収納できる冷蔵庫 | 市場の要求にあわせたインドネシア向けの商品 |
インドネシアでは小型の冷蔵庫が中心 | インドネシアの家電量販店の様子 |
こうした取り組みが、各国で開始されており、それがシェア拡大という成果につながっている。
パナソニックによると、この2つのボリュームゾーン商品で、年間所得3,000ドル以上となる約14億人のMOP層を攻略していくことになる。
ボリュームゾーン商品の定義については、「一律に決まったものはない」(同社)とするが、「ひとことでいうならば、各地域における最も多くの消費者が、欲しいと思う商品を生み出すこと」と語る。
現地拠点や人材の積極活用により、各国における生活研究を強化し、暮らしに根ざした真のニーズに特化した商品を開発する「お客様起点、現地中心の商品企画、設計」、原材料まで遡ってあるきべき原価の追求する「非連続なコストダウン」、モノづくりプロセス全体からあらゆる知恵を結集し、いままで見えていなかった価値を具現化する「新たなボリュームゾーンの創造」という3つの観点から取り組む商品が、ボリュームゾーン商品ということになりそうだ。
■ボリュームゾーン商品の横串展開も
もう1つボリュームゾーン展開で見逃せないのが、アジアの製造拠点を活用した「赤道ボリュームゾーン」である。
CIMA(中近東、ロシア)、ASOM(アジア、大洋州)、中南米といった赤道を軸にしたエリアに対して、各エリアで開発した製品のノウハウを共有するというもので、電化小物や冷蔵庫、エアコンなどの横展開、インド向けモデルのアフリカ展開、イスラムマーケティングといった横串による提案で、新興国市場を開拓していこうというものだ。
例えば、赤道付近のエリアは、シャワーなどのお湯の温度は、ある程度ぬるくても使用できる環境にある。そうした点を考慮してモノづくりを横展開していこうというものだ。
同じ市場性を考慮した横展開も今後は加速していくことになろう。
一方で、年間所得3,000ドル未満のBOP(ベース・オブ・ザ・ピラミッド)に対しては、まだパナソニックとしては手つかずの領域。約40億人の人口があるが、将来に向けて今後着手していく分野と位置づけている。
■新興国各国に応じた展開を加速
では、新興国におけるいくつかの取り組みについてみてみよう。
中国市場においては、これまでの1級都市を中心とした取り組みから、内陸部に多い、2級都市、3級都市への展開を開始している。これらの新たな市場においてのパナソニックブランドの訴求展開とともに、Panasonic生活館やショールーム型直営店を展開。生活館では、2010年9月に第1号店をオープンしたのを皮切りに、今後数100店舗にまで拡大させる考えを示す。
インド市場は、韓国2社が先行し、パナソニックにとっては一度市場から撤退した経緯がある市場だが、「Just on Time!(まだ間に合う)」を合い言葉に、2012年度のインド国内の売上高を2,000億円としたインド大増販プロジェクトを展開。パナソニックグループにとって、21世紀における成長に不可欠な市場と位置づけている。
インド市場は最も重視する市場の1つ。2000億円という具体的な販売目標を公表している | インドにおける販売店での展示の様子 | インドの都市部には大型看板なども設置 |
インド市場は、同社が唯一、具体的な目標を対外的に公表している市場であり、また、大坪文雄社長直轄のプロジェクトとなっている。それだけ力を注いでいることが明確にわかる市場でもある。インド人が好む、大音量、重低音を実現するインド市場向け専用テレビの投入や、インド15州70都市における販売促進キャンペーン「Sound for India」を展開。国内で使用される15言語をそれぞれに使用し、ご当地映像を盛り込んだ地域密着カタログの展開のほか、人気俳優や、インドで人気が高いクリケットやサッカーチームへのスポンサードなどにも乗り出している。
インド15州70都市で行なった販売促進キャンペーン「Sound for India」の様子 | インドの販売キャンペーンでは現地の有名女優なども参加 |
昨年末には、インド向けエアコンのボリュームゾーン商品「Cube」の発売にあわせた販売プロモーションを実施。さらに前年度の21機種から40機種へと商品ラインアップを拡大し、シェアを倍増させたという。また、生産拠点であるPanasonic Techno Parkも設置し、同工場を活用した環境革新企業としてのイメージづくりにも余念がない。
一方、ナイジェリアでは電気事情が悪く、自家発電が必要な地域も多い。いまだ電気製品は贅沢品という市場だが、世帯数の19%を占める年収50万円~350万円未満の540万世帯、全世帯数の1%となる年収350万円以上の28万世帯を対象に、エアコンや炊飯器といった白物家電商品のほか、薄型テレビなどの販売を強化する。
国内ではエイズの割合が高いこともあり、自分用のバリカンを持つという傾向が強いということもあり、欧米では出遅れているトリマー商品を、ナイジェリアでは事業拡大の戦略商品にも位置づける考えだ。また、ナイジェリアでは都市部にはショッピングモールなども進出しており、富裕層を対象にした展開にも今後は拍車がかりかそうだ。
■サムスン、LG、地元メーカーの牙城を崩せるか
パナソニックの大坪文雄社長 |
パナソニックでは、このように各国の市場動向にあわせ、現地中心での事業戦略を展開している。
しかし、新興国ではサムスンやLG、そして中国では地元ブランドが強く、パナソニックのブランドはまだまだ浸透していない。大坪社長が「チャレンジャー」という言葉を繰り返し使うのも、こうした市場背景があるからだ。
例えば、薄型テレビ市場では、ロシア、インド、ベトナムでサムスンが首位。ブラジル、メキシコ、インドネシアではLGが首位となっており、パナソニックは4~6位のポジションにある。白物家電でも、インド市場ではエアコン、冷蔵庫、洗濯機でLGが首位、ベトナムでは冷蔵庫と洗濯機で三洋電機が首位だが、これは今後中国ハイアールに売却されることになり、パナソニックは、いずれも現在3位のシェアを自力で引き上げる必要がある。
また、中国市場のように地元メーカーが上位を独占する市場においても、いかにパナソニックのシェアを引き上げるのかといった取り組みも重要だ。
そして、薄型テレビでは、サムスンが独占している米国、英国、ドイツ、フランス、オーストラリアといった先進国市場でのシェア拡大も重要な課題となっている。ここでは映画会社や放送局との連動を図り、3D普及を加速するといった戦略を前面に打ち出している。欧州では白物家電事業の拡大も戦略的なテーマといえる。
こうしてみると、パナソニックが海外で首位を獲得している市場はまだまだ少ない。
パナソニックは、グローバルエクセレンスカンパニーへの成長に向けて、海外事業への取り組みを急速に拡大していく姿勢を示している。毎年毎年の海外事業を一歩ずつ成長させることが、2018年度の創業100周年のグローバルエクセレンスカンパニーの実現につながることになる。
2011年9月6日 00:00