大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニック、三洋電機との事業再編に大きく踏み出す

~電工合併などを公表した新事業方針の狙いを紐解く
by 大河原 克行
事業方針を発表するパナソニック・大坪文雄社長

 パナソニックは、2011年4月28日に発表した事業方針のなかで、パナソニック電工との合併や、三洋電機との白物家電事業の統廃合などについて説明した。

 同社では、2012年1月に、パナソニックとパナソニック電工、三洋電機の全事業を再編し、共通技術プラットフォームを中心した従来の5セグメント体制から、「コンシューマー」、「デバイス」、「ソリューション」による、顧客ごとに分類したビジネスモデル別3事業体制へとシフトすることを発表していたが、今回の事業方針説明のなかでは、白物家電、空調機器事業などの集約および統合などに言及するとともに、ブランド戦略の考え方についても改めて言及した。

再編の総仕上げに向けた最後の大なた

 今回の方針説明でパナソニックの大坪文雄社長が打ち出したのは、再編の総仕上げに向けた強い姿勢だったといえる。

 2010年4月1日に完了したパナソニック電工、三洋電機の完全子会社化を受け、総仕上げに向けて発表したのが、まずはパナソニック電工の合併を視野に入れていることだった。

 パナソニック電工は、電子材料や建材・設備関連、制御機器で強みを持ち、パナソニックが今後の柱とする「家まるごと」、「ビルまるごと」の提案に向けたシナジー効果を発揮できる商材を持つ。さらに、「小さな池の大きな魚」と称される、美理容製品や健康関連商品で高いシェアを誇り、パナソニックの白物家電事業を補完する商品に強みがある。

 今回の発表では、「コンシューマー」、「デバイス」、「ソリューション」といった再編後の3事業分野に、9ドメインを配置するなかで、パナソニック電工は、法人格を無くし、新ドメインに完全に統合する考えがあることを示した。

「コンシューマー」、「デバイス」、「ソリューション」の3事業分野三洋電機、パナソニック電工の位置づけ

 「パナソニック電工は新たなドメインに完全統合する。もともと当社ともインフラが近いところがあり、パナソニックへの合併の可能性を検討している」と大坪社長は発言。2012年1月からの新体制時には、法人格がなくなり、パナソニックのなかに統合されることになりそうだ。

三洋電機は法人格を残すが担当領域は最小限に

 その一方で、三洋電機については、しばらく法人格を残す姿勢を示した。

 「三洋電機は、新たなドメインと競合関係にある商品のOEM事業や、海外の合弁事業、収束予定の事業などを持っており、新ドメインには統合できない事業をいくつか抱えている。そこで、当面は法人形態を継続し、新たな9つのドメインとは別に、これらの事業の運営と資産の管理を行なう」とし、当面、三洋電機株式会社を存続させる姿勢を示した。

 つまり、三洋電機は2012年1月以降、基本的には9つのドメインに事業が統合される。いわばワンパナソニックのなかで事業が運営される。しかし、そこから外れた、ドメインに統合しない事業の運営と、三洋電機に帰属する資産の管理運用のみを、三洋電機という会社が担当することになる。三洋電機が担う事業規模は極めて小さいといっていい。

 新たなドメインと競合関係になる商品のOEM事業というのはデジタルカメラなどが該当する。

 現在、国内向けには三洋ブランドのデジカメは発売されてはいないため、存在感を感じない読者もいるだろうが、現在でも年間1,300万台規模のデジタルカメラを生産。これは、日本における1年間のデジカメ市場規模にほぼ匹敵する数量となる。そして、デジカメの登録商標を持っているのも三洋電機である。

 これらの事業を今後どうするかについては、明確な方針が示されたわけではないが、大坪社長が、三洋電機の存続について「当面」という言葉を使ったことを考えれば、今後、デジカメ事業の再編などが終われば、三洋電機の合併という道も検討材料の1つにあがることになりそうだ。

 そして、三洋電機との重複事業の集約、統合はいよいよ本格的に加速することになる。

 今回の会見で、大坪社長は、これまでに三洋半導体や三洋物流、モーター事業などを事業譲渡したことを示す一方、「白物家電」、「空調機器」、「カーナビ」、「プロジェクター」、「監視カメラ」を、集約および統合の対象になる重複事業として掲げた。さらに、本社および本社R&D部門、間接部門子会社、営業拠点や販売会社、寮や社宅などの保有施設などの統合、整理も行なう姿勢を示した。

 「現時点では、白物家電をはじめとして、どの分野が具体的な対象になるかは話すことはできない。合計すれば販売規模で3,000億円規模になるだろう。構造改革費用としては、2011年度は1,100億円、2012年度には500億円の合計1,600億円を想定している」とした。

 白物家電事業および空調機器においては、洗濯機や空気清浄機、炊飯器、掃除機などの事業がパナソニックと重複する。これらをどうするのかが注目されるところだ。

 パナソニックでは、2011年度には白物家電の統合、販売会社の統合などによる減販およびコスト発生によって、営業利益ベースで100億円近いディスシナジーが発生すると見込んでいるほか、白物事業を担当する冷熱アプライアンスドメインでは、2012年度には、2010年度比6%減となる1兆2,000億円規模の売上高を見込んでおり、「重複事業の再編で、一度、売上高が下がることになる」(大坪社長)とみている。

 ここからも、今年度以降、白物家電事業の大規模な再編に取り組んでいくことが想定される。

サブブランドは「必要があれば継続的に利用する」

パナソニック、三洋がそれぞれ持つサブブランドは、必要に応じて活用するとした

 大坪社長は、ブランドの位置づけについても改めて説明した。

 今回の説明では、コーポレートブランドである「パナソニック」については、「一部商品、地域を除いて、全事業分野において、すべてのブランドをパナソニックに一本化する」として、これまで通りの方向性を改めて強調した。

 一方で、サブブランドについては、「グループ全体で整合性をとりながら、必要があれば継続して活用し、地域展開も図っていく」とした。

 ブランドの方向性の説明の際に映し出されたサブブランドには、VIERAやDIGA、LUMIXといったパナソニックの代表的なサブブランドのほかに、eneloop、Gorilla、Xacti、HITといった三洋電機のザブブランド製品が描かれていたが、eneloopに対するパナソニックのEVOLTA、Gorillaに対するパナソニックのStradaといったように、同じ領域のパナソニックのサブブランドも描かれており、今後、これらのサブブランドがどうなるかが注目されよう。

再編後は、現在より3万5,000人程度少ない35万人規模で「最適な体制を目指す」という

 なお、大坪社長は、「パナソニックグループとして、全世界に350近くの生産拠点がある。このうち、同じドメインのなかで、近い拠点があれば1カ所に集約するといったことを考えている。現時点で確定した数字ではないが、おおよそ1~2割の拠点削減はあるだろう」とした。

 さらに、日本で15万3,000人、海外で23万2,000人の合計38万5,000人の社員を、2012年度末までに35万人規模に削減し、「最適な体制の構築を目指す」(大坪社長)という。

 この再編は、当然、白物家電事業も対象となる。

冷熱アプライアンス事業の鍵はグローバル展開

 新たな事業ドメインにおいて、白物家電事業を担当することになるのは、コンシューマー事業分野における冷熱アプライアンスドメインになる。

 パナソニックのHA社を軸に、三洋電機とパナソニック電工の事業を再編。「アプライアンスナンバーワンの環境革新企業を目指す」とする。

 白物家電事業においては、三洋電機との事業統合が1つの鍵になるが、その一方で、成長戦略としては、グローバル拠点の強化および未開拓地域の攻略による海外展開の強化が、重要なテーマにあげられる。

 グローバル展開の強化では、具体策として、2010年度に41%となっている白物セット商品の販売比率を、2015年度には60%にまで拡大。環境コア技術をベースに、地域密着型商品によって需要創造につなげるという。

 また、パナソニック電工が持つ調理小物や美健商品のグローバル増販にも力を注ぎ、「統一コンセプトや、統一デザインによる、群展開を行なっていく」とした。

 白物家電におけるグローバル展開では、「新興国増販」、「未開拓地域攻略」、「欧州事業本格化」の3点を掲げる。

 新興国増販では、インドにおいて、2012年8月を目標に冷蔵庫、洗濯機などの生産を行なう新工場を稼働。ブラジルにも、2012年10月に新工場を稼働させる。インドの工場からはアフリカ市場への出荷、ブラジルの工場からは北米市場にも出荷する計画であるほか、ブラジル市場向けの展開に向けて台湾からの設計、生産支援を行なうという。

冷熱アプライアンスナンバーワンの環境革新企業を目指すという白物家電においてはグローバル展開に力を注ぐという「新興国を攻める」として、インド大増販プロジェクトを掲げる

 また、ベトナムにおいてASEANの中核拠点となる現地開発機能を強化。全社的にも、現在、日本に集中している本部機能のうち、調達・ロジスティクス関連については、2012年度を目標に、シンガポールに本部機能を移転。生産革新におけるアジアのサテライト拠点を大幅に強化し、強い生産拠点づくり、現地調達の強化、戦略的な外部活用を図るという。

 インド市場においては、2011年度からパナソニックビューティー製品の展開を開始することや、白物製品のラインアップを15商品に拡大。ブランドショップを200店舗に倍増するといったアプライアンス事業インフラの整備を図る考えも示した。

 さらに、これまでは活発化させていなかったOEMを積極的に活用することによって、欧州向けおよびインド向けの冷蔵庫、洗濯機の製品ラインアップを拡大。OEMによる生産量を前年比1.5倍、構成比で47%にまで引き上げるという。

 「アプライアンスのセット商品においては、2015年度までの海外での年平均成長率で2桁増を目指す」(大坪社長)という。

 コンシューマー事業分野には、グローバルコンシューマーマーケティングを設置。「この事業分野においては、マーケティング力を徹底的に強化することで、各地域ごとのニーズを商品へとつなげ、各地域に最適な商品を、最速、最強のコストで供給することを目指す」としており、これも海外展開の強化を下支えすることになる。

 さらに、三洋電機が持つ大型空調機事業をベースに、BtoB事業を拡大。コールドチェーン事業を強化し、店舗まるごとの展開を加速させるという。

リチウム世界ナンバーワン、ソーラーで国内ナンバーワンへ

 一方、3つの事業分野のうち、「デバイス事業分野」では、エナジーデバイスドメインにおいて、リチウムイオン電池での世界ナンバーワンシェアの維持と、ソーラー事業での2012年度の国内シェアナンバーワン、2015年度にはグローバルシェアトップ3を目指すことを改めて強調した。

 リチウムイオン電池では、550億円を投資して2012年4月から竣工する中国・蘇州の新工場で、極板、セル、パックの一貫生産を開始。生産の中国シフトにより、韓国勢に対する競争優位性の再構築に取り組むほか、グローバル最適調達、高容量モデルの先行投入などにより、商品力、コスト力を高めるという。

 また、車載市場向けのリチウムイオン電池については、パナソニックと三洋電機がぞれぞれに持つ幅広い顧客基盤と開発実績をベースに事業を拡大。HEV、PHEV、EVの全方位に対応した商品戦略を推進するという。

 さらに、ソーラー事業では、プラズマディスプレイパネルを生産していた兵庫県・尼崎の尼崎P3工場で、2012年度から次世代HIT太陽電池を生産。これにより、変換効率を高めた次世代製品の早期投入と、グローバル供給体制の構築によって、世界市場での存在感を高める考えを示したほか、多結晶パネルを買い入れることでラインアップを拡充し、2012年度には国内シェア35%を目指すという。

 「グリッドパリティを見据えて、ソーラープラス蓄電システムによって、他社との差別化を図る」と語った。

デバイス事業分野においての方向性リチウムイオン電池は、事業拡大を目指し、2015年度には現状の倍を目指すとしたソーラー事業では、2012年度の国内シェアNo.1を目指す

 3つの事業領域の最後の1つであるソリューション事業分野では、環境・エナジーソリューションズドメインにおいて、照明事業の強化を掲げる。

 LED照明のラインアップを強化することで、照明事業におけるLED比率を40%に、また海外比率を40%に高め、「世界中の人々が、環境負荷を軽減させながらも、快適に暮らせる空間を実現する」と語った。

 欧米の器具メーカーとの積極的な連携や、中国の量販店および専売店、政府向けの働きかけを積極化させるといったグローバル展開を推進する姿勢を示した。

 また、新たな照明デバイスとして、有機EL照明による次世代照明デバイスを開発することを発表。「点で光るLEDと、面で光る有機ELは、将来、照明市場を二分する可能性がある」(大坪社長)とした。

 有機EL照明は、省エネ、高輝度を実現しながら、面状発光が可能になるため、蛍光灯の代替に適していると判断。薄い、透明、曲がるという特徴から高いデザイン性を発揮できるという。

 2011年4月11日付けで、パナソニック電工が51%を出資し、出光興産が49%を出資して設立したパナソニック出光OLED照明株式会社では、パソナニック電工が持つ照明用パネルの設計製造技術と、出光興産が持つ低分子材料技術を活用し、照明用有機ELパネルの事業化および市場開拓を推進していくことになる。

ソリューション事業分野ではシステムコミュニケーション、環境・エナジーソリューションズなど4つのグループを掲げるLEDを含む環境・エナジーソリューションズドメインにおいて、照明事業の強化を掲げる店舗まるごと、街まるごとなど「まるごと事業」では、日本だけでなくて中国への展開もすすめる

中期経営計画で営業利益率5%以上を目指す

 パナソニックは、2012年度の売上高として9兆4,000億円、営業利益率5%以上を目標とする計画を明らかにしている。そして、「中期経営計画『GT12』を策定した時に比べて、円、ユーロともに10円の円高となっているが、その影響を吸収しても、5%以上の営業利益率を達成し、できれば5,000億円の営業利益に挑戦する」と語った。

 GT12では、6つの重点事業を掲げており、そのなかには、冷熱コンディショニング、エナジーシステム、LEDといった事業があり、それぞれに白物家電、環境、照明といった製品群が含まれる。

 そして、いずれの分野も、三洋電機、パソナニック電工との融合の成果が求められるものばかりだ。

 パナソニックは、2012年1月の再編の総仕上げに向けて、いよいよラストスパートをかけることになるが、再編の成果を早期に出すことが、2018年に迎える創業100周年における「エレクトロニクスナンバーワンの環境革新企業」の実現につながることになるのは間違いない。

 1+1+1の計算式の結果は、果たしていくつになるのか。2012年1月には、総仕上げに向けた最後の大なたの結果が、問われることになる。




2011年5月10日 00:00