大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニックが挑む、「ナノイー」と「エコナビ」を活かした製品作り


パナソニックが9月より発売する空気清浄機の製品群

 パナソニックはこの9月より、加湿空気清浄機などナノイーを搭載した空質製品を発売した。

 今シーズンは、加湿空気清浄機、加湿機、加湿セラミックファンヒーターに加え、デスク上など限られたスペースを加湿する「ナノイー加湿発生機」という、4つの空質製品群を投入し、ナノイー搭載機種をさらに拡大。同社のアプライアンス・ウェルネスマーケティング本部・中島幸男本部長は「“家まるごと快適空間”の実現に力を注ぐ」とする。

 今年度のパナソニックブランド商品は、猛暑の影響で好調なエアコンに加え、エコナビ搭載製品の販売が拡大するなど、生活家電の躍進が目立っている。そこで、中島本部長に対し、今回の空質関連新製品に対する意気込み、そしてパナソニックのアプライアンス(生活家電)事業戦略を伺った。


空気清浄機は“季節商品”から“年中商品”に


パナソニック アプライアンス・ウェルネスマーケティング本部 中島幸男本部長

――まずは空気清浄機について伺います。昨年は「新型インフルエンザ対策」という観点から、売れ行きは過去最高となりました。今年に入ってからの動きはどうですか

 今年に入ってからも空気清浄機の売れ行きは堅調で、対前年同期比で2ケタ増で推移しています。快適な空間にしたいといった要求や、室内の除菌、ウイルス対策といった観点からの関心が高く、空気清浄機が“季節商品”から“年中製品”へと変化してきたことと言えるのではないでしょうか。

――パナソニックではこの9月より、加湿空気清浄機、加湿機、ナノイー加湿発生機、加湿セラミックファンヒーターの4つの空質製品を発売します。この4つの製品群で、年間80万台という出荷計画を明らかにしていますが、これはどの程度の規模になりますか

 前年比で1.4倍という計画です。個人的にはもっとやりたい、もっといけると考えていますから、これに上乗せをして、90万台、100万台といったところも狙っていきたいです。内訳は、加湿空気清浄機が46万台、加湿機が13万台、ナノイー加湿発生機が15万台、加湿セラミックファンヒーターが6万台です。

空質製品群で年間80万台という出荷計画を標榜しているナノイー製品群の広告キャラクターには、女優の小雪さんを起用

 特に、新商品となる「ナノイー加湿発生機」は、パーソナルユースでの新たな利用拡大を想定した戦略的な製品ともいえます。これまでの空気清浄機は、一家に一台というのが標準的な考え方でした。しかし現在では、各部屋でも使えるような使い方が求められています。このナノイー発生機はそのようなニーズに加え、価格設定の観点からもギフト需要が想定できます(店頭予想価格は15,000円前後)。そうした需要を視野に入れた提案を加速させることで、新たな市場を創っていきたいですね。

 また加湿機ですが、これまでは冬場限定の製品と言われてきました。しかし、夏場はエアコンを付けていることから、乾燥しやすい環境にあるため、デスク周りに加湿機を置きたいというニーズが増えています。加湿機や加湿空気清浄機も、年中製品になってきたという点は見逃せません。2010年度は空気清浄機のうち8割が加湿機能搭載の製品になると予想しています。こうした動きも、空気清浄機市場全体の拡大につながっています。

新しくラインナップに加わった、「ナノイー加湿発生機」部屋全体ではなく、スポット的に使用する点が特徴パナソニックでは、2010年度の空気清浄機の8割が加湿機能付きになると予想している
加湿空気清浄機の最上位モデル「うるおいエアーリッチ F-VXF70」。“エコナビ”で省エネ運転するほか、脱臭フィルターも10年交換不要となっている

――今回新たに発売した空気清浄機では、どんな点を強化していますか

 ナノイーやメガキャッチャーといった基本機能は、従来通り継続しています。そのうえで今回の新製品では、センサーで省エネ運転をする「エコナビ」を、初めて空気清浄機に搭載し、環境に配慮した製品へと進化させたのが特徴だといえます。

 空気清浄機は長時間稼働させることが前提となっており、運用面でのコスト削減は重要な課題です。新製品では、汚れを見つける「パトロール運転」と、汚れのパターンを学習する「学習運転」により、室内全体の汚れを把握したり、無駄のない運転パターンを構築することで、約40%の省エネを実現することができます。また、集塵部のガラスフィルターや静電フィルター、加湿部の加湿フィルターに加えて、脱臭フィルターも10年間の交換不要としたことで、メンテナンス性を高め、結果的にはランニングコストの削減も可能になっています。基本性能と省エネ機能とが融合した製品に仕上がったと自負しています。

 2010年度は、空気清浄機市場においてシェア30%以上、できれば35%のシェアの獲得を目指しています。


パナソニックの空気清浄機が選ばれる理由、三洋電機との位置づけは

――空気清浄機市場において、パナソニックの製品が選択されている理由は何だと分析していますか

 ハウスダストやさまざまな菌を除去するという、空気清浄機の本質機能に対する評価が高いといえます。機器前面から吸い取る「メガキャッチャー」機能や、ナノイーの搭載による除菌機能といった、パナソニックならではの機能に対する評価が集まっています。

 特にナノイーイオンは、水に包まれた微粒子イオンであり、空気イオンの約6倍の長寿命があるため、遠くまで飛ぶことができます。衣類や家具に付着したニオイの脱臭やアレル物質の抑制のほか、食品に対しては栄養素向上、鮮度キープといった効果、美容に対しては、弱酸性であることから肌や髪にうるおいを与えるといった点でも効果があります。ナノイー搭載の空気清浄機は、昨年からラインナップを開始しましたが、いまでは販売台数の約7割がナノイー搭載製品で占めています。これもナノイーの凄さといったものが、広く認知されていることの証といえるのではないでしょうか。

ナノイーイオンは、水に包まれた微粒子のイオン。空気イオンと比べて長寿命というメリットがある衣類や家具に付着したニオイの脱臭にも効果があるという

 また、6月に発売した除湿機も、ナノイー搭載モデルの売れ行きが非常に良いです。そのほかにも、エアコンやナイトスチーマー、掃除機、冷蔵庫、バスルームの「ココチーノ」といった製品にも、ナノイー搭載機種が広がっています。異業種では、トヨタの「Passo(パッソ)」といった自動車にも、ナノイーの発生装置「ナノイードライブシャワー」が搭載されています。2009年度は41機種にナノイーを搭載しましたが、2012年度にはこれを64機種にまで拡大することになります。ナノイーのデバイスユニットは、当社使用と当社以外の使用を含めて年間350万個の出荷が見込まれますが、2015年度にはこれが800万個にまで拡大すると予測しています。

 今後、トイレやバス、リビング、キッチン、サニタリーといった様々な住空間において、ナノイーを展開するとともに、「人も、空気も、美しく。」、「スゴイー、ナノイー」をキャッフレーズに、ナノイーに関する市場訴求を積極的に図っていきます。

ナノイー搭載製品は、同社の家電製品や住宅建材のほか、車のような異業種にも採用されている「スゴイー、ナノイー」をキーワードにマーケティング展開していくという

――パナソニックは三洋電機の完全子会社化を発表しましたが、ナノイーと三洋電機の除菌技術「ウイルスウォッシャー」との位置づけはどうなるのでしょうか

 今年の製品に関しては、それぞれのブランドで投入していくことになります。ただ、今後どうなるのかという点については、今後検討していくことになります。パナソニックグループとして最適な回答を出せるように、パナソニックが持つ技術、三洋電機が持つ技術を見極めていきたいと考えています。

 

エアコンは記録的な売り上げ。需要に合わせた生産体制で機会損失も抑制

エアコンはこの夏、記録的な売り上げとなった

――ところで、今年はエアコンが好調な売れ行きを見せているようですね。第1四半期連結業績発表の場でも、日本国内における7月のエアコンの販売台数は記録的なものになっているというコメントが出ました

 エアコンは世界的にみても好調ですが、日本でも確かに記録的な販売台数となっています。7月第1週目には、週間で34万台を販売し過去最高記録となりましたが、これが第3週目には47万台の販売台数となり、さらに記録を大幅に塗り替えました。

 需要増大の背景としては、やはり猛暑の影響が大きいでしょうが、そのなかで買い換えるならば“パナソニックを選ぼう”という人が増えていることが大きい。その理由の1つが、パナソニックが「環境ブランド」として定着してきたことです。買い換えるならばエコに優れた製品がいい、それならばエコナビによる省エネ運転できるパナソニックがいいというイメージができ上がってきたのでは。また、リビング向けの製品だけでなく、子供部屋や書斎といった個室向けの製品をきっちりと品揃えをしてきたことも、パナソニックを選んでいただける要因となっています。

 加えて、需要の急増にあわせて部品調達、生産体制の確保といった「PSI」(生産、販売、在庫の略語)を確実に回せる仕組みとなっていることも、販売の機会損失をなくしている。当初は、“今年は冷夏になる”とさえ言われていたわけですが、毎週行なっている製販会議において需要予測を見直して、安定的に製品供給を行なえるようにした。これも、安心してパナソニックを選択していただくという点で大きな要素となっています。

 2010年度はエアコンでも、圧倒的なシェアナンバーワンを獲得したいと考えています。


人口は減るも世帯数は増加。ターゲットに合わせた商品づくりにビジネスチャンスが

――2010年度第2四半期から下期に向けて、生活家電部門を担うアプライアンス・ウェルネスマーケティング本部では、どんな方針に取り組みますか

今後は、センサーで省エネする「エコナビ」機能に対応した製品を広げていくという

 パナソニックのアプライアンス製品は、常に「エコ」を牽引する製品でありたい。エコナビという優れた省エネ技術が様々な製品に採用されてはじめていますから、これを生かした訴求をさらに加速したい。またエコナビ対応製品の幅も広げていきたいと考えています。

 最近、国内のアプライアンス市場は、普及率の観点や人口減少という観点から、すでに成熟市場になっているのではないかと言われますが、実は人口は減少傾向にあったとしても、世帯数は2015年まで増えるという予測が出ています。4人家族の世帯は減るが、2人家族や単身世帯が増えるというわけです。そこに我々のビジネスチャンスがある。性別、年齢別、所得別といったようにターゲットを細分化し、誰に使ってもらうのかということを明確にしたデモグラフィックマーケティングを展開し、製品づくりもそれにあわせたものにしていきたいです。

 その1つの事例が、今年4月に発売した、小型の電動歯ブラシ「ポケットドルツ」です。20代の女性という明確なターゲットを想定し、それに向けた製品づくりを行ないました。

 男性用の電気シェーバー「ラムダッシュ ES-GA21」も、20代の男性という明確なターゲットに向けた製品開発とマーケティング展開を行ないました。これまでは、競合他社の電気シェーバーとどこが違うのかといったことを訴求してきたが、20代の男性では、電気シェーバーではなく手剃りのカミソリを使っているケースが増えていることが、市場調査からわかった。そうしたユーザーに電気シェーバーを使ってもらうにはどうしたらいいのか、ということを考えて開発した製品です。深剃しながら、すべ肌を実現し、お風呂でも使え、価格も購入しやすい設定としました。イメージキャラクターにアイドルグループ「KAT-TUN」の亀梨和也さんを起用したのも、若い世代に訴求するという狙いからです。他社の電気シェーバーと比べてどこがいいのではなく、手剃りと比べてどごいいのかという提案でした。これは我々にとっては、市場創出ということもできます。

今後はターゲットを細分化した商品がものづくりを狙うという中島氏。上半期にヒットした電動歯ブラシ「ポケットドルツ」も、ターゲットを20代女性に絞って誕生した商品という“ウェット剃り専用”を謳ったシェーバー「ラムダッシュ ES-GA21」は、「20代男性」がターゲット

 ただ、これも単発的に売れるだけでは意味がありません。次につながるような手を打ちたい。一方で、小物製品についても、これからは力を入れていきたいと考えてます。LED電球や充電式乾電池は、社内では、「エコ最寄製品」とし位置づけ、アイデアのあるプロモーションを展開していきたい。

 現在、エアコンや冷蔵庫の購入時にポイントが付与される「エコポイント制度」が実施されていますが、これが終了したあとの生活家電市場では、どんな製品が求められるのか。それは、「ターゲットを明確にした製品」であるといえます。

 しかし、こうした製品は創出するためには、製品開発とマーケティング本部が早い段階から連携した“製販一体型体制”を、より強固なものにしなくてはならない。また、様々な情報をもとに仮説を立てて、それを検証して、いち早く製品に結びつける体制も必要になってきます。

 来年以降のアプライアンス事業を成長させるために、今から手を打ち始めています。今は、それが少しずつ表面化しているといっていいでしょう。これからの製品も、ぜひ楽しみにしていてください。





2010年9月9日 00:00