大河原克行の白物家電 業界展望

半導体不足の次は円安と原材料高騰。家電メーカーを取り巻く厳しい環境

家電メーカーを取り巻く厳しい環境が長期化している。

コロナ禍前から続いていた半導体不足や部品不足は解消しつつあるものの、2022年2月以降のウクライナ情勢の影響などによるサプライチェーンの混乱や原材料価格の上昇、3月以降の中国・上海のロックダウンによる生産の遅れの影響に加え、4月以降からの急激な円安の影響もマイナスに働いている。

大手家電メーカーでは、コスト上昇分を商品価格へと転嫁する動きも見られており、メーカーにとっても、消費者にとっても厳しい状況はしばらく続きそうだ。

一般社団法人日本電機工業会(JEMA)が発表した、2022年6月の民生用電気機器の出荷金額は2,693億円となり、前年同月比では9.2%減と2桁近いマイナス成長となった。これで、2022年4月以降、3カ月連続での前年割れとなった。

分野別の出荷台数を見ても、ルームエアコンは前年同月比17.5%減と3カ月連続のマイナスとなり、電気冷蔵庫も4.1%減と2カ月連続のマイナス。電気洗濯機は23.2%減と13カ月連続の前年割れとなった。電子レンジやジャー炊飯器も前年割れが続いている。

2022年6月の民生用電気機器の出荷金額(JEMA)

JEMAでは、比較対象となる2021年6月が過去3番目の高水準であったことに加えて、中国・上海で約2カ月続いたロックダウンによって、生産および供給の影響が残ったことを理由にあげている。

一方、一般社団法人電子情報技術産業協会が発表した2022年6月のテレビの国内出荷台数は前年同月比26.5%減の38万5,000台。4分の3にまで市場が減少しており、前年度の巣ごもり需要の反動とともに、やはり、中国・上海のロックダウンにより品不足の影響があったことをあげている。

パナソニック くらしアプライアンス社の松下理一社長は、「中国・上海のロックダウンでは大きな影響を受けた。2022年度第1四半期(2022年4~6月)で90億円弱の影響が出ている。これを各種対策によって50億円程度の影響に留めたい」とする。

半導体や部品不足の影響はほぼなし

主要各社に聞くと、2022年度第1四半期は、半導体不足や部品不足は局所的なものとなり、ほとんど影響はなくなってきたという。代替部品への設計変更、業界標準部品の採用率の向上、複数のサプライヤーからの調達といった手段によって、特定部品が不足するといった課題にも対応できるようになってきたからだ。

ある電機メーカーでは、「エアコンや冷蔵庫、洗濯機、調理家電、テレビなどの重点製品では、一部モデルの品薄はあったとしても、すでに半導体不足の影響はない状況にまで回復している。供給先の変更や部品の先行確保、代替部品の調達によって、カバーできている」とする。

共通的に利用している部品の場合は、重点製品に部品を優先的にまわし、需要が少ない製品への供給は後回しにするといった対策も講じているようだ。

エアコンや冷蔵庫など重点製品は、半導体不足の影響はない状況にまで回復

また、別の電機メーカーでは、「すべての部品が潤沢に調達できているわけではないが、生産に必要な数量は、現在のところは確保できている」と語る。

「部品メーカーでは、付加価値の高い部品の生産、出荷を優先しているところもあり、それにあわせて、低価格の普及モデルの一部では部品が調達できなくなり、出荷を止めたものもある。だが、現時点では、付加価値モデルにおいては、影響はほとんどない」とする。

上海のロックダウンが大きく影響

それに対して、上海のロックダウンは、6月まで影響したようだ。

今回の中国・上海のロックダウンは、世界的に経済がまわりはじめ、サプライチェーンが軌道に乗り始めたなかで、いわば想定外のものであり、しかも緊急的に行なわれたことが影響。日本向けの家電製品の生産や供給に支障があったという。

7月以降は、上海でのロックダウンの影響は改善されているとはいえるが、感染力が高いBA5が世界的に広がっており、中国における感染が拡大すれば、再度、上海でのロックダウンがされないとも限らない。家電メーカーにとっては、それが懸念材料となっている。

パナソニックでは、これまで中国で生産していたスティック掃除機を、滋賀県の八日市工場での生産に移行。さらに、冷蔵庫や洗濯機、美容家電の国内生産体制の強化に乗り出したほか、日本向け製品の生産拠点を中国からアジアに分散し、中国生産に依存した体質からの脱却を目指す姿勢を明らかにしている。

パナソニックは、これまで中国で生産していたスティック掃除機を、滋賀県の八日市工場での生産に移行

パナソニック くらしアプライアンス社の松下社長は、「一極化の怖さを学んだ」と語りながら、「調達、生産の複線化などを図る考えである。だが、サプライチェーンが複雑であり、生産拠点だけを動かすものに加えて、サプライチェーンを含めて、根こそぎ動かすものも想定しなくてはならない。どのように変えていくかは考えている」とする。

中国生産に依存している国内家電メーカーは多く、継続性や回復性を視野に入れながら、各社が生産、調達体制の見直しを検討しているところだ。

だが、中国を中心とした生産体制から脱却は検討しているものの、これが国内生産への回帰に直結するとは言い難い部分もある。

「サプライチェーン全体を考えれば、部品メーカーの多くが海外にあり、生産拠点だけを日本に移転するという判断は現実的ではない」との声もあがっている。

大きな懸念は円安と原材料価格の上昇

一方、現在、家電メーカー各社が頭を抱えているのが、為替による円安の影響と、ウクライナ情勢やサプライチェーンの混乱をもとにした原材料価格の上昇だ。

パナソニック くらしアプライアンス社では、2022年度は調整後営業利益で約400億円の外部環境要因があるとみているが、そのうち約6割が材料高騰、為替影響が3割弱、残りが物流費の高騰によるものと見込んでいる。

原材料価格の高騰は、あらゆるものに及んでおり、「エアコンで使っていた銅をアルミニウムに代替したが、いまではアルミニウムも最高値をつけている。代替の効果が薄れている」(パナソニック ホールディングス)という状況も生まれている。

パナソニックでは、エアコンで使っていた銅をアルミニウムに代替していたが、アルミニウムも最高値に

各メーカーの値上げ状況

また、円安は家電事業にとってはマイナスに働く場合が多い。

シャープは、「家電を含むブランド事業は、円安はネガティブに働く」(常務執行役員管理統轄本部長の小坂祥夫氏)とコメント。

バルミューダでは、「海外で生産し、国内でのビジネスが中心となるバルミューダにとっては、円安は悪化方向に進む」(バルミューダ 寺尾玄社長)と語り、「円安が継続するのであれば、頑張り抜くしかない」とする。

こうした原材料価格高騰や円安の動きを捉えて、主要各社は価格転嫁の動きに出ている。

日立グローバルライフソリューションズは、「これまで生産の効率化、サプライチェーンの見直し、取引先との交渉の見直しなどによるコスト低減を図ってきたが、材料費の高騰分を吸収しきれない状況になってきた」(常務取締役COO ホームソリューション事業部長の伊藤芳子氏)と言及。

同社では2022年4月以降、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、炊飯器の主要5製品で順次値上げを行なっている。

日立グローバルライフソリューションズは、冷蔵庫や洗濯機など主要5製品で順次値上げ

バルミューダでも、2022年4月から、家電製品の値上げを行なっている。

寺尾社長は、「バルミューダの商品は価格が高いから、少し値上げしても影響はないと思われるかもしれない。だが、事業をしている側としては、値上げはとても怖いことである。実績がある商品ほど、値上げは怖い」と本音を漏らす。だが、現時点では値上げによる売上げへの影響は限定的のようだ。

バルミューダは、スチームトースターやオーブンレンジ、サーキュレーターなど10製品以上を値上げ

パナソニックも、先行して実施した中国での価格転嫁に続き、2022年春以降に、日本国内でも白物家電への価格を転嫁する計画を示していた。8月1日以降、順次、価格を引き上げることを正式に発表。改定率は約3%~23%増になる。

同社では、「生産性向上および合理化への取り組みによるコスト削減などを続け、商品供給に努めてきたが、原材料価格の上昇が依然継続し、加えて半導体をはじめとする部材の供給逼迫による調達費用の増加、社会的情勢による為替の変動など、内部努力だけではその影響を吸収しきれない状況となってきた」と理由を示す。

対象商品は、冷蔵庫や洗濯機、食洗機、電子レンジ、炊飯器、オーブントースター、掃除機、ドライヤーなど幅広い。

パナソニックは、8月1日以降順次、価格を引き上げていく

また、シャープも、「新製品への切り替えにあわせて価格対応を検討していく」とする。季節商品などの価格改定などからスタートすることになりそうだ。

メーカーによって、中国ODMから調達する汎用品などでの価格引き上げをすでに実施している例もある。たとえば、夏場に売れる扇風機の低価格モデルの場合は、中国のODMから調達してブランドを付けて販売する例もあるが、基本的には同じ仕様でも、毎年、品番を変えている。

2022年モデルでは、基本仕様は変わらなくて、実売価格の設定が5~10%高く設定されているケースが見られる。原材料価格の高騰、物流価格の高騰、さらには円安のマイナス影響により、中国ODMからの調達価格が上昇しており、それが製品価格に転嫁されている。

2022年に入ってから、原材料価格の高騰や物流費の高騰は、電機大手各社の家電事業の業績には大きなマイナスに働いている。さらに、海外で生産している商品や、海外から調達する製品の輸入価格も、円安によってマイナス影響となっている。

継続的なコスト削減活動や価格転嫁などの動きがあるが、2022年度は、家電メーカーにとって、厳しい1年になるのは間違いなさそうだ。

大河原 克行