大河原克行の白物家電 業界展望
世界中の人々のQOLを高める生活ソリューションカンパニーへ ~発足9カ月目の日立グローバルライフソリューションズが考える課題
2019年12月20日 10:00
日立グローバルライフソリューションズの谷口 潤社長は、2019年7月に発売した炊飯器「ふっくら御膳 RZ-W100CM」が、前年に発売した同等クラスの製品と比べて5割増という販売実績を達成していることや、スティッククリーナー「ラクかるスティック PV-BFL1」が2019年2月の発売以来、計画比1.5倍の販売台数を達成していることなどを明らかにした。
また、2018年度上期には3.7%だった生活・エコシステム(家電および空調)の営業利益率が、2019年度上期には5.5%に拡大。通期で5.6%を目指す考えを示した。谷口社長は「営業利益率およびEBIT、ROIC(投資資本利益率)といった経営指標にこだわり、2021年度には8%の営業利益率を目指す」とした。
発足以来、堅調な推移を見せた2019年上期
日立グローバルライフソリューションズは、2019年4月1日付けで発足した。家電および空調の販売、サービスを展開してきた日立コンシューマ・マーケティングと、家電の設計、製造および空調の販売、サービスを提供してきた日立アプライアンスが合併。日立グループの家電および空調に関する商品企画から設計、製造、営業、アフターサービスまでのバリューチェーンを、一気通貫で提供する組織となる。
発足と同時に、谷口 潤氏が社長に就任。就任時には46歳という若さと、システムエンジニア出身で、社会イノベーション事業を担当してきたものの、家電事業の経験がないという点で話題を集めた。
谷口社長は、「生活者のライフスタイルの変化が激しくなったことで、お客様の声をいち早く製品やサービスに変換し、ビジネスのスピードアップを主眼に置く目的で、製販一体とし、バリューチェーンの統合を行なった。新会社発足から9カ月を経過して、お店やお客様からはポジティブな意見をもらっている。
実際に経営がスピードアップしており、2つの会社で別々にもっていた売上げ、収益などのKPIがひとつになり、同じ目標のなかで活動ができるようになった。弁当箱の間仕切りをどっちに寄せるのかといったような議論がなくなり、立ち上がりとしては順調であると判断している」と、これまでの取り組みを総括した。
物流拠点の統合により、物流のストップポイントがひとつ減少。ビジネスプロセスの清流化や効率化、リードタイムの短縮効果があがっているほか、生産現場でのデジタル化も推進。茨城県日立市の多賀工場では、洗濯機の生産においてデータを活用した生産性向上など、IoT化による成果があがっているという。
谷口社長は、新会社発足以来「生活ソリューションカンパニー」を目指すことを標榜。それについては「社長就任以来、国内外の拠点をまわり、20回ほどのタウンホールミーティングを行ない、社員と対話をしながら会社の方向性を明確にした。生活課題を解決する会社になるという意識は、社員の間にかなり浸透してきたと考えている」などと述べた。
生活ソリューションカンパニーとは、「お客様の生活課題を解決する商品、サービスの提供、日立グループの強みを生かした新たな生活ソリューションを創出し、生活課題の解決を通じて、世界中の人々のQOLを高めること」と定義している。
谷口社長は、「生活ソリューションといった場合に、モノづくりとしては製品ごとにさまざまな段階がある。はいはいの状況のもの、よちよち歩きのもの、ピカピカの1年生のようなもの、成人となりダッシュできる状況のものが混在している。いま、どの成熟レベルにあるかということを捉えながら、これらを適切な割合で入れ替えていくことが、私の大切な役割であると考えている。
また生活ソリューションカンパニーの実現のために、多彩な人財がワクワクし、いきいきしながら働くことができる企業風土を実現していきたい」と語っている。
谷口社長は、2019年度上期(2019年4~9月)の主要5製品(冷蔵庫、洗濯機、掃除機、レンジ、炊飯器)は、市場全体で前年同期比6%増となり、同社もほぼ同等の成長率を達成したことに触れながら、「消費増税前の駆け込み需要もあり、堅調に推移した。10月、11月に駆け込み需要の反動が見られているが、通期では前年よりも増加すると見ている」と分析。「海外に関しては、中国、香港、東南アジアを中心に堅調に推移している」と述べた。
ストーリー作りやデータの活用など、家電の新しい提案方法を実践
一方で、新製品や新サービスの成果についても振り返る。2019年7月に発売した炊飯器「ふっくら御膳 RZ-W100CM」は、前年度に発売した同等クラスの製品と比べて、5割増の販売実績を達成。「京都の米問屋であり、お米にこだわる料亭・八代目儀兵衛の協力を得て、同店が理想とする“外硬内軟(がいこうないなん)”を実現した炊飯器である。
京都で育った私自身も期待していた炊飯器であり、お米をより美味しく食べてもらうことができる。市場からも好評であり、私も親戚に配ったら、玄米も美味しく食べられると喜ばれた」などとした。
“外硬内軟”とは、外はしっかりとして、中がやわらかく、ひと粒ひと粒がしっかりとした食感で、噛むと甘みが広がる美味しさを実現したご飯を指す。
「日立はもともと無骨なメーカーであり、従来の訴求方法は釜が重厚だからいいとか、炊き方の技術が優れているといったものが多かった。だが、ふっくら御膳では、京都のお米にこだわる一流の料亭と一緒に、ストーリーを作ったことが成功につながっている。いまはストーリーで市場が動くということがトレンドとなっている。日立にとっても新たな取り組みであった」と振り返った。
冷蔵庫の「ぴったりセレクト」では、家庭のライフデータを分析した結果をもとに製品化したことを強調する。
「冷蔵庫のなかの占有比率を調べてわかったのが、子供が小学校や中学校にあがると冷凍庫の満杯率が急上昇するということ。我が家でも同じことが起こった。子供がお弁当を持って行くようになると、朝の忙しい時間帯にお弁当を作る時間を短くするために、おかずは週末に作り置きし、冷凍庫に入れておくということが増え、これによっていつも冷凍庫が満杯になる。
一方で、シニア層は野菜を保存することが増え、野菜室が一杯になる。ライフステージで求められるモノが変わってくる。そこで、ぴったりセレクトでは、下段の2つの庫内を冷凍室と野菜室に切り替えられるようにした。データを活用しながら、お客様に寄り添う提案を行なった例である」と述べた。
また、スティッククリーナーの「ラクかるスティック PV-BFL1」は、2019年2月の発売以来、計画比1.5倍の販売台数を達成しているという。
「スティッククリーナーの人気が高いなか、吸引力が重視されている一方で、軽くないと駄目という声がある。重いと掃除をしていても疲れてしまう。そこで、本体質量1.4kgという軽量化を実現した。発売以来、強力パワーと軽量であることが受けている」と述べた。
さらにコネクテッド家電では、2019年に冷蔵庫、洗濯乾燥機、レンジ、IHクッキングヒーターをそれぞれ製品化。「評価はおおむね好調であり、嵐のテレビCMで訴求しているように、外から洗濯機を操作するといった使い方も評価されている。帰ったときには洗濯が終わっており、時間価値を提供することができた。増加している共働き世帯に好評である」などと述べた。
そのほか、業務用空調・冷熱機器のサービスソリューションである「Exiida遠隔監視サービス」は、すでに7,000台で稼働。遠隔監視を行ない、稼働状況をもとに予防保全サービスを提供している。
「予兆診断により、事前に保守ができる。病院や水産加工業では、空調や冷熱機器が止まると業務継続ができなくなる。ミッションクリティカルな場所に対して価値を提供でき、社会に必要とされるものを止めないで済む。また古い空調機器は、冷媒が漏れると環境に良くないが、それを未然に止められる。こうした経験をほかの製品やサービスに横展開していきたい」とした。
また同社では、単身高齢者向け見守りサービス「ドシテル」、食をテーマにしたSNSサービス「ペロリッヂ」などのサービス事業にも乗り出している。
一方で、デザインへの取り組みについても触れてみせた。同社では「毎日の暮らしを彩るデザイン価値の創造」を打ち出し、「Hitachi meets design PROJECT」を発足。「Less but Seductive(一見控えめなれど、人を魅了するモノのありよう)」というデザインフィロソフィを実現することを目指している。
この考え方に準拠した製品として、2019年度には冷蔵庫、レンジ、IHクッキングヒーター、炊飯器、衣類乾燥除湿機など6機種を発売。深澤 直人氏がデザインし、中国で発売した空気清浄機がグッドデザイン・ベスト100に選ばれたという。
「力を入れたところにおいては、一定の評価を得ている。デザインの観点でも、お客様に近いところで寄り添えるプロダクトになっている」とした。
日立グループでは「2021 中期経営計画」において、「社会イノベーション事業でのグローバルリーダーを目指す」とし、「社会価値」「環境価値」「経済価値」の3つの価値を追求し、地球と共存することを目指している。
谷口社長は、「日立グローバルライフソリューションズは、冷蔵庫のぴったりセレクトのように、製品やサービスを通じて、生活者の暮らしの時間価値を創出するなど、変化を先読みして、課題を解いていく存在でありたいと考えている。そのためには、データ活用やデジタル化が重要であり、これは日立グループが強みを発揮できる価値になる。2020年は、データ活用やデジタル化に主眼を置くことになる」とした。
また、「これまでのビジネスは、洗濯機や冷蔵庫でも、売ったら終わりということが標準であり、そのために売るものを磨くことに力を注いできた。言い換えれば、どう使うのか、どう使われているのか、ということに興味がなかった。今後は、この領域を詳しく知り、ここにどんなサービスがあるのかということを考えていく。
自動車産業には、CASE(コネクテッド オートノマス シェアリング エレクトリック)という言葉があるが、これが家庭のなかにもやってくると、個人的には思っている。モノの価値を買ったり、モノをシェアしたりといったことが増えていくだろう。この変化を逃してはいけない。機能を上げ、価値を上げることに注力する」と述べた。
また、生活・エコシステムでは、大型家電の設計、製造、物流改革により、顧客チャネルを革新して、高収益化を図るほか、戦略パートナーとの協業によるアジア成長地域の白物家電事業の規模拡大を図る考えを示している。ここでは、ECチャネルの強化も重要な要素のひとつだ。
「ECチャネルは、物理的にみてもサプライチェーンが極端に短いというメリットがある。実際に、ECを通じた取り扱い量は増えており、そこで何ができるかを考えたい。据え付けや工事など、ECチャネルでは足りないところを補完することもできる」とした。
2021年度の営業利益率を8%へ
一方で、日立グローバルライフソリューションズの課題は、収益性の改善だ。谷口社長は、「営業利益率やEBIT、ROIC(投資資本利益率)といった経営指標にこだわり、2021年度には8%の営業利益率を目指す」とする。
2018年度上期には3.7%だった生活・エコシステム(家電および空調)の営業利益率は、2019年度上期には5.5%に拡大。通期で5.6%を目指すことになる。EBITやROICの社内指標はあるが、それは公表しなかった。
生活・エコシステムのほか、オートモーティブシステム、ヘルスケアビジネスユニットで構成される「ライフセクター」全体では、2021年度に、調整後営業利益率は10%超、EBIT率は10%超、ROICでは15%超を目指す計画を掲げている。
生活・エコシステムの営業利益目標は、それに届いていない状況にあり、ボトムライン重視で白物家電事業の構造を改革する必要がある。日立製作所の東原 敏昭執行役社長兼CEOは、「ライフセクターにおいては、次の成長に向けた事業の再構築を行ない、引き続き構造改革をしなくてはならない領域だと認識している。2019年度は収益の改善に取り組み、将来の成長戦略を立案することになる」とした。
ライフセクターのなかにおいても、生活・エコシステムの構造改革は急務だ。谷口社長は、「空調の製造はジョンソン・コントロールズとともに行なっているため、EBITに影響する。そのためこの指標を重視する。新たな価値を作るには、研究開発投資が求められ、その源泉が必要である。
またROICにより、資本投資に対する回収を可視化し、価値があるものに資本を使っていくことを重視する。多くの営業・サービス拠点を持っているが、資本投資が効率的でなければ、開発側に回していくことも考えている。
価値をデザインして、作り込んでいくところに集中するためのKPIを重視していく。顧客が、我々のモノを欲しいといってもらえたり、選ばれるものを作ったりすることが差別化につながり、経営指標の達成につながる」とした。
日立グローバルライフソリューションズは次の成長に向けて、1年目のスタートを着実に切ったといえそうだ。