大河原克行の白物家電 業界展望

オールパナソニックで開発を加速、本社直轄「フューチャーライフファクトリー」の取り組みを追う

 パナソニック アプラアンス社のデザインセンターには、「FUTURE LIFE FACTORY(フューチャーライフファクトリー)」と呼ばれるデザイン拠点がある。もともとはアプライアンス社のデザインセンターの一部として東京に拠点を設置したもので、事業部に捉われない新領域の先行開発を行なってきた。

FUTURE LIFE FACTORY

 そして、2019年4月からは、本社デザイン本部の直轄部門として活動をより積極化させている。果たして、フューチャーライフファクトリーはどんな役割を担うのか。

 2019年3月までフューチャーライフファクトリーに在籍し、その実績をもとに、現在、アプライアンス社のデザイン部門で働く、パソナニック アプライアンス社デザインセンタービューティ・クリーンデザイン部 主任意匠技師・足立 昭博氏、同アプライアンス社デザインセンターデザイン統括部 主任意匠技師・中内 菜都花氏、同アプライアンス社デザインセンターウェルビーイングデザイン部・姜 花瑛氏に話を聞いた。

家電から切り離して、10年後の価値観はなにか、どんな社会課題があるのかを逆算

 パナソニックでは、アプライアンス社、ライフソリューションズ社、コネクティッドソリューションズ社の3つのカンパニーに、それぞれデザインセンターが設けられている。

 そのなかで、アプライアンス社では、同カンパニーの基本方針を、単なる憧れの家電製品を提供するだけに留めず、家電からサービスまでを含めた体験を提供する役割へと変化させようとしている。提供する価値においては、デザイン視点からのアプローチを重視しはじめており、それを実現するための体制づくりにも余念がない。

 現在アプライアンス社は、京都と東京にデザインの主要拠点を設置。それ以外にも、上海、ロンドン、クアラルンプールに拠点を置く。デザインの中核機能を持つ京都では、事業部に紐づいた形で、商品開発や先行開発をする一方、東京の拠点では、事業部に捉われない新領域の先行開発を行なっている。

サービスまでを含めた体験を提供する役割へと変化させようとしている
京都と東京にデザインの主要拠点を設置

 とくに、先行開発を行なう東京の拠点を「フューチャーライフファクトリー」と呼び、アプライアンス社デザインセンターの臼井 重雄センター所長の直轄組織としてスタート。

 少数精鋭でのアジャイル開発手法の導入、若手を中心にしたカテゴリー横断による新たな発想、メンバーへの権限委譲を進めている。デザインの視点から、新たな事業の種を作ったり、2030年頃の未来のくらしのビジョンを作るなどの役割を担う。2019年4月からは本社直轄の組織として、体制を強化したところだ。

 「既存のデザインセンターでは、商品に結びついた開発、デザインを行なっているため、家電商品の延長線上の発想になってしまう。しかし、フューチャーライフファクトリーでは、商品と切り離して、10年後の価値観はなにか、どんな社会課題があるのかといったことから逆算してデザインしている。

 そこでパナソニックはどんなお役立ちができるのか、その時には、いまの冷蔵庫や洗濯機、テレビといった商品カテゴリーの枠を、どうやって飛び越える必要があるのか、顧客視点で考えたときには、どの部門が担当するのがいいのかといったことまで含めて考えることになる。未来の豊かさを問い、具現化するデザインスタジオを目指す」(足立氏)とする。

パソナニック アプライアンス社デザインセンター ビューティ・クリーンデザイン部 主任意匠技師・足立 昭博氏

 フューチャーライフファクトリーでは、オープンプロセスによる価値検証を行なっており、社内だけで議論したり、蓄積したりするのではなく、自分たちが考えたものをすぐ世の中に問うことを目指しているという。

 「いままでの先行開発は社内に閉じたものが多かった。でも、フューチャーライフファクトリーで扱っているのは極秘情報ではないため、オープンにしてくことで、より速く、価値を推し量ることができる。

 具体的には、くらしの新たな兆しの種を集めて、新たなくらしの価値観を見出す『未来洞察』、顧客発想をベースに価値創出し、それを見える形で理解できるようにする『具現化』、本当に共感してもらえるものなのかといったことをオープンな発信で検証する『価値検証』といった活動を通じて、考えていることを世間に問うことになる」(中内氏)とする。

パナソニック アプライアンス社デザインセンターデザイン統括部 主任意匠技師・中内 菜都花氏
オープンプロセスで、「未来洞察」、「具現化」、「価値検証」を行なう

クラウドファンディングでの商品化も、パーソナル空間を作る「WEAR SPACE」

 フューチャーライフファクトリーは、2017年4月にスタートして以来、ポイントとなるいくつかの活動を行なってきた。

 最初のポイントは、2017年秋に、東京・六本木の東京ミッドタウンで開催した「パナソニックデザイン展」において、「2030年の人間らしいくらし(Next Humanity)」と題して、2030年における東京の未来を洞察。そこから、いくつかのアイデアを披露した。

 また、WEAR SPACEと呼ぶウェアラブルデバイスを、クラウドファンディングにより商品化。目標額に到達した実績を持つ。同デバイスは、ノイスキャンセリング機能を搭載したヘッドフォンと、視界を調整できるパーティションで構成されたもので、オープンな空間にいながらも、集中できるパーソナルな空間を作り出すことができるという。

 クラウドファンディングはフューチャーライフファクトリーにとって、創出したアイデアが、世の中に対して受容性があるものかどうかを検証する場ともなったが、その点でも成功したといえる。

パーソナル空間を作り出す「WEAR SPACE」はクラウドファンディングで商品化

 また2018年度に入ってからは、遺伝子解析が普及した未来に、家づくりや生活にこの技術を応用した場合にはどんなくらしができるのかを具現化した「GENOME HOUSE」の提案、ファッションの視点から家電を再定義したアイデアをパリコレクションに出展した「FASHION TECH」へ取り組んできた。

 このほか家電だけでなく、住宅建材、BtoBといった事業領域をまたいだデザイナー連携で2030年のくらしに向けたアイデアを提案する「EXPANDED SMALL」、2019年3月にオープンした渋谷区のこども向け施設(子ども食堂)である「景丘の家」と連携して、食と対話を行なう「SHARE COMMUNICATION」といった成果があがっている。

「WEAR SPACE」のほか、遺伝子データをもとにした「GENOME HOUSE」、子ども食堂と連携して食と対話を行なう「SHARE COMMUNICATION」などで成果が上がっている

遺伝子データをもとに最適化した暮らしを提案する「GENOME HOUSE」

 たとえば、「GENOME HOUSE」について、中内氏は次のよう説明する。

 「ヒトの遺伝子データに書かれている体質や感覚にまつわる傾向をもとに、その人に最適化した究極のテーラーメイドの家を目指したのがGENOME HOUSE。これは、遺伝子解析ベンチャーのジーンクエストと連携した取り組みで、遺伝子データをもとに、対象者の肌の保湿力や記憶力、ポジティブ思考といった性格などを分析。それらの要素をもとにした6つのインテリア空間を提案した。

 たとえば、遺伝子データをもとに、乾燥しやすいことがわかれば、シアバターを織り込んだベッドリネンを提案したり、アレルギー感受性が高いことが分かれば、サンゴ礁からつくられた壁紙を使用することを提案した。このプロトタイプを原寸空間で製作し、東京・二子玉川のパナソニックショールーム『リライフスタジオフタコ』で約1カ月間の参考展示を行なった」

遺伝子データをもとに、対象者の肌の保湿力や記憶力、ポジティブ思考といった性格などを分析。それらの要素をもとにした6つのインテリア空間を提案
東京・二子玉川のパナソニックショールーム『リライフスタジオフタコ』では、原寸空間でプロトタイプを製作し、約1カ月間の参考展示を行なった

 また、パリコレに出展したFASHION TECHは、「ウェアフラブルが進化し、家電が身体化していくと考えた場合に、それを人に最も近いファッションとしてとらえたらどうなるかといった未来のパーソナル商品としての提案」と位置づけ、先端素材によるファッションに活用することで注目を集めているANREALAGE(アンリアレイジ)と協業。

 具体的なものとして、巨大なイヤフォンを首にかけて利用する「EARPHONE SPEAKER」を紹介している。

子供向け施設で、上下に振ると喋りだす「talcook」がコミュニケーションの仲介役に

 フューチャーライフファクトリーが開発したもののひとつに、「talcook」がある。おしゃれな調味料ケースのようにも見える小型の筐体を持って上下に振ると、喋りだして、会話のきっかけを与えてくれるコミュニケーションツールだ。初対面同士の人でも会話がしやすくなることを目指している。

調味料ケースのようにも見える「talcook」は、上下に振ると喋りだして、会話のきっかけを与えてくれるコミュニケーションツール

 先に触れた子供向け施設「景丘の家」で、2019年3月に開催したイベントでは、5歳から72歳までの幅広い世代の50人が参加した。家族ではない人たちが一緒に食事をする場を体験した。

 その際パナソニックでは、炊飯器、オーブンレンジ、ホットプレート、洗濯機を提供するとともに、4台の「talcook」を用意。「talcook」は、コミュニケーションの仲介役を果たしたり、ゲームのヒントを出す役割を担った。talcookが対外的に利用されたのはこのときが初めてだ。

 「高齢化や女性の社会進出により、単身高齢者や共働き世帯が増えている現状を踏まえて、今後の家族やコミュニティの在り方が変わり、世代やつながりを超えた様々な人とともに食事を取る未来がやってくると考えた。景丘の家でのイベントは、未来の食卓を疑似体験することができるものともいえ、そこにtalcookがお役立ちできると考えた」(中内氏)

子供向け施設「景丘の家」で幅広い世代の50人が参加し、家族ではない人たちが一緒に食事をする場を体験
「talcook」が、コミュニケーションの仲介役を果たした

 景丘の家のイベントでは、「無口な美食家とおしゃべりな執事たち」と題して、美食家が夢で見た食事をもう一度食べたいというリクエストに対して、talcookが出すヒントをもとに推理するというコーナーも。レストランのオーナー役となった参加者たちが、会話をしながら、こんな料理ではないかと推測して、自由に描いた注文書を作成。これを実際のシェフが食材を使用して、調理するというものだ。

 カレーやハンバーグといった具体的なメニューのヒントは出されず、「ギザギザしていた」、「ふわふわしていた」、「窯で焼いていたようだ」といった内容。さらに、talcookのヒントはランダムに出されるため、参加チームごとに得られる情報は異なる。また、「ふわふわ」といったときに、大人が多くの知識を持っているから優位というわけでもなく、子供の柔軟な発想に驚く大人の姿もあちこちで見られたという。

 つまり、このイベントの場合、正しい回答は存在せず、参加者の創造力によって、新たな料理が作り上げられるイベントだったわけだ。会場には、星の形をしたピザや、顔の形をしたパンケーキなど、様々な料理が並んだという。

 「食材を用意する関係上から、ピザに落ち着く方向のヒントとしたが、参加者の柔軟な発想の結果、慌てて、パンケーキの粉を買いに行った」というエピソードもあったほどだ。

talcookが出すヒントをもとにレシピを考え、実際のシェフが調理してくれる
星の形をしたピザや、顔の形をしたパンケーキなど、様々な料理が並んだ

 参加した親子からは、「いつもは子供と2人で食事をしていたが、今回のように、多くの人たちと一緒に食事する機会を楽しく感じた」という声などがあがった。

 「未来の食卓の姿について、フューチャーライフファクトリーが描いた方向性があることを前提に、そこに向けて、パナソニックはどんなことをやるべきかを考える機会になった」(中内氏)とする。

 そして、「talcookの本体には、手触りのいい素材を使っていることから、子供でも触りやすい。振れば、人に質問をしたり、会話を促すきっかけをしてくれる。また、家においたtalcookから子供にメッセージを伝えたり、小さい子供に言っても聞いてもらえないことをtalcookに言わせることで、素直に聞いてもらえるのではといった期待の声もあがっていた」という。こうした意見も、今後の製品化に向けて反映していくつもりだ。

「多くの人たちと一緒に食事する機会を楽しく感じた」という声もあったという
イベントであがった「talcook」への意見は、今後の製品化に向けて反映していくとする。
「talcook」が喋る様子

国内外から大きな注目を集めている「EXPANDED SMALL」

 一方、2030年のくらしに向けたアイデアを提案した「EXPANDED SMALL」は、フューチャーライフファクトリーの取り組みとして、国内外の関係者から大きな注目を集めているもののひとつだ。

2030年のくらしに向けたアイデアを提案した「EXPANDED SMALL」

 フューチャーライフファクトリーでは、2017年秋に開催した「パナソニックデザイン展」において、2030年における東京の未来を洞察したアイデアを提案。しかし足立氏は、「結果的に、住空間に捉われ、単品の家電の提案が多かったといった反省があった」と切り出す。

 「本当にくらしということを考えるのであれば、カンパニーの領域に捉われず、他のカンパニーのデザイナーと連携したプロジェクトが必要であると考えた」とし、パナソニックデザイン展が終了した直後の2017年11月に、ライフソリューションズ社とコネクティッドソリューションズ社のデザイナーも参加。「自分たちで共感できる未来のくらし方を提案するものを目指した」という。

2017年秋に開催した「パナソニックデザイン展」で、フューチャーライフファクトリーとしてアイデアを提案したが反省があったという

 まずは、すでに新たなくらし方を実践している人たちにヒアリングし、未来を洞察。そこから創出したアイデアを、パナソニック内外の人たちが参加する大阪・門真の「Wonder Lab OSAKA」での公開イベントなどを通じて意見を募った。

 それをもとに、具体的なモデルを作り、東京・茅場町のビルのなかに設置。有識者との議論を通じて、2019年3月には「EXPANDED SMALL」のプロトタイプを展示してみせた。

 フューチャーライフファクトリーが提案したのは、「EXSMALL」と呼ぶ移動可能な4畳半の未来の家と、シェアリング空間である「VILLAGE」だ。住まいをコンパクトにしながらも、様々なサービスと連携することで、新たなくらしを提案するものになる。

 EXSMALLは、人が生活するために最低限のものが揃った移動する家で、普段はここで生活。自動運転によって好きな場所に移動しながら生活ができる。また、VILLAGEに接続すれば、エネルギー供給や上下水処理などの基本機能の提供が得られたり、キッチンなどの生活機能を共有して利用できるようになる。

 地域ごとに設置された各VILLAGEに接続することで、気分や生活の目的にあわせて、様々なコミュニティの人たちと触れ合いながら生活ができるという。

4畳半の部屋が移動する「EXSMALL」と、生活機能を共有する「VILLAGE」

 足立氏は、以下のように話す。

 「初期段階のヒアリングでは、自分が所有するバスを、オフィス兼宿泊所として利用して、長期間滞在して観光ガイドを製作している人のほか、夏場は北の方向に移動し、冬場は南の方向に移動しながら多拠点居住の生活をしている人、自宅をシェアハウスにしたり、ホームスクーリングをしている人などにも話を聞いた。

 また、トレーラーを使って宿泊施設を運営しているところに実際に泊まって、狭小化したエリアでの生活がどんなものなのかも体験して、気づきを得た。一方で、将来は副業が一般化したり、仕事の仕方が変わるなかで、週末はシェフとして自分の店で働いたり、地域で触れ合う世界を広がり、血縁がない人とも共同で生活をするといったことも、未来の世界では考えられる。モノを所有するといった考え方も変わり、価値観に対する考え方もゆらぎが生まれるだろう。

 実際にヒアリングや体験をするまでは、家に対する考え方は固定的なものであったが、未来には、異なるくらし方がある。サービスを活用することで、今は家のなかでやっていることを外に任せるようになったり、ひとつの部屋でテクノロジーを使って、リラックスする部屋や就寝する部屋、テレビを楽しむ部屋に変化させることができる。

 さらに、移動することの価値がさらに重視されることになる。これらのアイデアは、そうした活動を通じて得られたものであり、未来のくらしが変わることを強く感じた」

移動することの価値がさらに重視されることになる、と足立氏は話す

 自動車メーカーが考えるモビリティは、当然、クルマの延長線上で考えられたものだ。たとえば、トヨタ自動車の「e-Palette」は、クルマの観点から、そのサイズを決定している。だが、家電をはじめとした住空間でビジネスを行なうパナソニックの場合、家の間取りからサイズを決めた。「EXSMALL」が4畳半というサイズにしたのは、そのためだ。

 「鴨長明の方丈記では、4畳半という空間のなかでのフレキシブルな生活が描かれている。4畳半は人が快適に過ごすミニマムスペースだといえる」と足立氏は語る。

4畳半は人が快適に過ごすミニマムスペースだという

 そのミニマムスペースでの活用を考えた場合、いまの生活を見直す必要がある。

 たとえば、部屋のなかで多くのスペースを取るクローゼット。洋服の管理をアウトソースすることで、外部の倉庫に保管したり、所有せずにレンタルで借りるといったサービスを利用すれば、部屋のなかのクローゼットのサイズを見直すことができる。

 「EXSMALL」では、手元には数着の服が用意されており、センサーでこれを管理。衣類をミストでケアしたり、AIによってクリーニングサイクルの管理をしたり、タイミングよく必要な衣類の調達などができ、ファッションを楽しめるようになる。

 そのほか、粉末飲料やドライフードが増加することを想定し、サブスクリプション型のドリンクサーバーを利用したり、やりたいことにあわせて変化するプライベートルームを設置したり、単なる窓でなく、景色などを映し出す電化窓とし、香りなどともに移動先の様子を映し出して、これからの体験を期待させるような提案ができるという。

洋服の管理をアウトソースしたり、サブスクリプションサービスのドリンクサーバーを利用するなど、さまざまな提案をする

 「部屋のなかで田園風景を見て、稲穂の香りを感じて、ここに行きたいと思ったら、その近くのVILLAGEを予約して、設定をすれば、夜中のうちに自動運転で移動し、朝にはその場所に到着しているといった利用が可能になる」とする。

 「いまの憧れの生活とは、狭いが眺めがいい都市部のマンションを購入するか、郊外に広い土地を持った一軒家を買うというものだろう。だか、それとは価値観が異なる、新たな住空間を提案できる」と話す。

「VILLAGE」イメージ

 このように、EXPANDED SMALLは、アプライアンス社に留まらないオールパナソニックとしてビジョンづくりやアイデア創出をすることで、家電の発想に留まらない姿をみせることができた。

 「EXPANDED SMALLは、デザイン部門の観点から振り切ったビジョンの提案をした。そして、このアイデアをオープンにすることで、新たな連携のきっかけづくりができた。今後、社内だけでなく、社外との連動した実証実験などにつなげていける」と期待する。

 3月に行なった展示では、ハウスメーカーの社長や、デベロッパー、ゼネコン、モビリティ関連企業、オートキャンプ場運営者、自治体などの関係者が参加したという。

 こうした活動は、次のステップとして、事業部門との連携を通じて、実用化に向けた取り組みなどを開始することになりそうだ。

 フューチャーライフファクトリーは、20~30代の若手7人で構成され、部長や課長といった役職が存在しない。「コミュケーションが取りやすい、全員が集まってピザを食べられる人数」としている点が特徴だ。そして、参加者は、2~3年で入れ替えていくことになる。

3月に行なった展示では、ハウスメーカーの社長や、デベロッパー、ゼネコン、モビリティ関連企業、オートキャンプ場運営者、自治体などの関係者が参加

 長年に渡り、テレビのデザインを担当していた足立氏は次のように語る。

 「商品のデザインの場合には、新製品を事前に外部に公表できず、外からの意見を聞くことはできない。だが、フューチャーライフファクトリーでは、アイデアやデザインをオープンにすることで、様々な意見をもらえ、発想を広げられる。

 これまでは、テレビに関する様々な洞察を行なって、住空間はどうなるのかという観点からデザインをしてきたが、フューチャーライフファクトリーの経験を通じて、暮らし方そのものがどうなるのか、人の価値観はどう変化していくのかという広いスケールで物事を捉え、そこからデザインをする大切を感じた。また、様々な人とのネットワークを作ることができた。こうしたことを肌感覚で理解できたことは大きい」

 足立氏は、2019年4月から、ビューティ・クリーンデザイン部に異動。フューチャーライフファクトリーの経験を活かしながら、商品デザインを行なっている。

パナソニックβ、Game Changer Catapult、100BANCH、多数の新たな取り組み

 一方で、パナソニックには、デザインシンキングの手法を用いて、新たなアイデアを形にするための取り組みとして、パナソニックβやGame Changer Catapult、100BANCH、Wonder LABなどの取り組みがある。

 「それぞれの組織ごとに、ビジネス視点や顧客視点で捉える一方、利益などを考えずに、人々の生活を豊かにしたり、社会課題を解決するためのアイデアを、まずは形にしてみるといった取り組みもしている。だが今は、パナソニック全体が新たなことに取り組もうというなかにあり、重複しているからどちらかを辞めるということではなく、とにかくやってみるということを優先している」(足立氏)とする。

 つまり今は、それぞれの活動に制限を設けず、様々なアイデアやノウハウを蓄積することを重視しているわけだ。そのなかで、他の組織とフューチャーライフファクトリーの違いは、デザイナーが考える新たなアイデアを形にする取り組みという点だ。

2018年に企業内アクセラレーター「Game Changer Catapult(ゲーム・チェンジャー・カタパルト)」として発表された、おにぎりロボット「OniRobot(オニロボット)」プロトタイプ
100BANCHからは、影をデザインする照明器具「RGB_Light(アール・ジー・ビー・ライト)」の先行予約が開始されたばかり

 本社直轄の組織に昇格したフューチャーライフファクトリーは、アプライアンス社だけでなく、ライフソリューションズ社やコネクティッドソリューションズ社のデザイナーとの連携も進め、オールパナソニックの組織として取り組みを加速しているところだ。

 パナソニック アプライアンス社デザインセンターウェルビーイングデザイン部・姜 花瑛氏は、「大きなビジョンを作り上げるうえで、新たな体制は大きな意味を持つ。パナソニックβを行なうビジネスイノベーション本部との連携もさらに強化できるだろう。

 またその一方で、これらの成果を、アプライアンス社の商品や事業化というところで生かしたいという思いもある。フューチャーライフファクトリーの経験を活かしながら、デザイン部門と事業部、研究開発部門が一緒になって、新規事業に取り組むといった動きが加速することになるだろう」とする。

 新たなフューチャーライフファクトリーから、どんなアイデアが生まれることになるだろうか。これからが楽しみだ。

パナソニック アプライアンス社デザインセンターウェルビーイングデザイン部・姜 花瑛氏
現在フューチャーライフファクトリーは、アプライアンス社だけでなくオールパナソニックの組織として取り組みを加速

大河原 克行