パナソニックの理由(ワケ)あり家電~Panasonic 100th anniversary in 2018
初代機から今と変わらないクオリティ! パナソニックのホームベーカリーのおいしさの秘密
2017年11月17日 07:00
自宅で簡単に手作りパンが作れるホームベーカリー。材料を入れるだけで簡単にパンが作れる、タイマーをセットしておけば、毎朝、焼き立てのパンが食べられるなどの利便性が支持を得て、人気のある調理家電製品だ。パナソニックでは、30年前に国産初となるホームベーカリーを開発。以降、変わらないおいしさを食卓に届け続けている。
ホームベーカリーの市場はそれほど大きくはないものの、確実なニーズのもと、堅調な成長を続けており、2017年春には日本累計で500万台を達成した。パナソニックでは、1987年に初代機を出して以来、トップシェアを獲得し続けている。2017年は発売30周年で、市場累計発売台数500万台を達成したホームベーカリーにとってメモリアルな1年でもあるのだ。
そんな記念の年に発売した最新の「MDX100」は従来のホームベーカリーからデザイン、機能をガラリと変更した画期的なモデル。パナソニックの創業100周年を記念した製品群「Creative Selection」にもラインナップされている。パナソニックのホームベーカリーが売れ続けている理由はどこにあるのか、滋賀県草津市にある開発拠点で話しを聞いた。
炊飯器以来の発明。初代ホームベーカリーは年間76万台の大ヒット!
国内初となったホームベーカリー「ST-BT2」は、1987年に発売。「炊飯器以来の発明です」というコピーと共に世の中に送り出され、年間76万台の大ヒット製品となった。そもそも、ホームベーカリーは、炊飯器やミキサー(回転機)、熱機器(トースター)など、パナソニック(当時はナショナル)が持っていた技術を融合して何か新しい製品は作れないかというところからスタートした製品だった。
「当時、パン食派が増加していたという背景があったようです。朝食も、パン派とごはん派が同比率というところまで来ていて、“焼きたてのパン”をウリにしたパン屋さんの数も増えていました」(パナソニック アプライアンス社 ビューティ・リビング事業部 商品企画部 調理器商品企画課 主務 内田 さやか氏)
そこで、パナソニックは“家庭で焼きたてのパンが楽しめる”ホームベーカリーの開発をスタートしたわけだが、その手法がすごい。まずは色々なパンをとにかく試食して、パナソニックが目標とするべきパンを決めるところからスタートしたというのだ。
「100種類を超えるパンを試食した結果、“噛み応えがあって、キメが整っている”大阪国際ホテルの食パンを目指すことにしました。そこからは大阪国際ホテルのシェフにも協力していただき、まずはホテルの厨房に通い、作る工程を勉強するところから開発をスタートしました」(内田氏)
一般的なパン作りとホームベーカリーのパン作りでは工程に大きな差がある。例えば、練り工程では、手作りパンは手作業あるいは、専用の機械を使うが、ホームベーカリーでは練りから焼き上げまで1つの容器で行なわなければならない。一方、ホームベーカリーの強みは温度管理がしやすいというところだ。庫内の温度を自在に管理できるというのは、発酵工程では大きな利点だ。しかし、焼き上げ工程では予熱ができないという問題点もある。
「全くの新製品をイチから開発したので、その苦労は相当だったようです。問題点を挙げて、それをひとつひとつ潰していくという作業でした。例えば練り工程での問題は、パンケースにリブを作ることで解消しました。リブを作ることで、そこで生地が止まり、手作業でいう生地をひっぱる工程が再現できました。温度の問題は、庫内だけでなく、室温もセンシングするプログラムを新たに開発しました」(内田氏)
開発スタートから製品発売までの3年間で、ひたすら検証を繰り返し、約5,000個のパンを焼き上げ、そのために小麦粉1.5トン、バター66kg、砂糖100kgを使ったという。驚くべきは、そのクオリティだ。実は、今回の取材では、初代機で焼いた食パンを実際に試食させてもらったが、30年経った今でも「おいしい」と言える、食パンが焼けるのだ。このパンを食べるだけで、当時の開発チームがいかに、高い品質を目指して製品を作ったのかが伺われる。
「当時の開発チームが理想としたのは、いわゆる“ホテルの食パン“ですね。外観にムラがなく、皮は少々厚め、しっかり焼きこまれている小麦の味が濃いパンを理想としたようです」(内田氏)
90パターン以上のプログラム
このおいしさを支えているのがパナソニック独自のイースト自動投入機能だという。
「他社のホームベーカリーでは、イーストを最初から投入し、材料と練り込む『直種法(じかだね)』を採用していますが、この方法は季節による室温やタイマー予約の影響を受けやすく、また練り込む前にイーストが水に触れてしまい、発酵反応してしまうため、パンの膨らみが足りない、仕上がりが不安定という問題があります。そこで、パナソニックでは、『中麺法(ちゅうめん)』を業界で初めて採用しています。先に生地を作り、後からイーストを投入して練り込むというもので、イーストが水に触れないため発酵が進んでしまうこともなく、発酵による膨らみのバラつきに強いという利点があります」
中麺法では、室温の影響を受けにくく、タイマー設定時でも、失敗が少ないという利点もある。さらにパナソニックでは、気温の影響に左右されずに、一年を通して一定のクオリティを保つために、複数のプログラムを搭載する。
「パンというのは、非常に繊細なもので、気温変化の影響でできあがりにばらつきが出やすいんです。例えば、気温が低いと発酵不足になってしまいますし、逆に気温が高い夏は過発酵になり、酸味が出てしまいます。そこでパナソニックでは、庫内温度センサーに加えて室温センサーも搭載、運転時の室温の変化を検知、最適なプログラムを採用しています」(内田氏)
本体に搭載しているプログラムの数は1つのメニューに対してなんと90パターンも用意されている。発酵時間はもちろん、練り時間など、細かい検証に基づいて調整されている。おいしさはこういった細かい工程に基づいていたのだ。
新たなスタンダード「パン・ド・ミ」への挑戦
独自の機構により、ユーザーからも高い評価を得ているパナソニックのホームベーカリー。しかし、市場を活性化し続けるためには、新たな機能も搭載していかなくてはならない。そこで、2011年モデルで挑戦したのが、基本の食パンに代わる“プレミアム”な食パン「パン・ド・ミ」だ。「パン・ド・ミ」とは、フランス語で「中身のパン」という意味。フランスパンは皮の食感を楽しむパンだが、パン・ド・ミは、中身となるクラムに味わいを求めるという。
新メニューの開発を進めたのは、調理商品部 調理ソフト課 課長 渡邊暦氏を含む調理ソフトのチーム。渡邊氏は、「おいしさというのは進化していくもの」と語る。パナソニックの調理家電には製品開発チーム、技術チームのほか、調理ソフトチームがいる。調理ソフトチームでは、その製品の技術を活かして、どのような料理が作れるか、どのようなレシピやプログラムが最適か日々研究を重ねている。
「従来の食パンはたしかに好評でした。ただ、調理ソフトでは、もっとおいしくするにはどうしたらいいかというのを日々考えています。お客さまの声やトレンドを研究していったところ、噛み応えのあるパンが好きな方ももちろんいますが、やわらかくて、もちもちのパンが好きという声も多かったんです」(渡邊氏)
辻調理学校の先生にも協力を得てスタートした“新しい食パン”の開発だったが、それほど簡単なものではなかったという。
「とにかく色々な種類のパンを食べて、目指す味を決めるところからスタートしました。目指したのは、皮が薄くて、しっとりふわふわ、よりリッチな味わいです。従来の食パンとの違いは、噛み応えと、皮の厚さ、風味にあります。使うイーストの量を少なくして、逆にバターを5gほど追加しています。最も重要だったのは、従来の食パンからの変化です。私達専門家だけでなく、お客様に食べていただいた時に、その違いをすぐに感じていただけるパンを目指しました」(渡邊氏)
実際、食べ比べてみると、その差は歴然だった。従来の食パンがむっちりとした食べ応えと、しっかりとした皮があるのに対して、パン・ド・ミはフワフワとして、皮も薄い。従来からのユーザーにもパン・ド・ミレシピは好評で、今やスタンダードの食パンレシピとして受け入れられている。
「調理ソフトチームのメンバーのパンへのこだわりはすごいです。とにかく色々なパンを食べていて、こういう味にしたい、こういうパンが良いなど、パンの知識を得るためにどれだけの時間と労力を割いているの(笑)と思うくらいです」(内田氏)
一方で、パン・ド・ミのレシピを支えているのが、2014年より搭載したインバーターモーターだ。これにより、練り工程の速度を制御できるようになり、さらにおいしいパンを作れるようになった。
巨大な手ごね市場に挑む新たな製品の開発
11月に発売したばかりの「SD-MDX100」では、これまでとは全く違う新たなアプローチをしている。それは、自分で成型、焼き上げなどを行なうマニュアルメニューの拡充だ。材料を入れて、自動で焼き上げまで行なうホームベーカリーとは真逆の取り組みのようにも思えるが、そこには新たな需要があるという。
「ホームベーカリーの市場は、一定期間でブームが訪れてはまた落ち着いてしまうという波を描いています。ユーザーに飽きられないように、様々なメニュー提案をしてきましたが、ユーザーの興味を惹きつけるためには、これまでにない新たな機能が必要でした。そこで目を付けたのが、手作りパン市場でした。私たちの調査によると、手ごねでパンを作っている層は約114万人にもなり、それはホームベーカリーを使っている人の6倍以上にもなります。こういった市場にどうにかアプローチできないかと搭載したのが、マニュアル機能の提案です」(内田氏)
パン作りに不可欠な練り工程や発酵工程は、うまくできるようになるまでにテクニックが必要だ。練り工程は力仕事だし、作業中には粉が舞う。発酵工程の温度管理も自宅で行なうのは大変だ。パナソニックではそういった作業はホームベーカリーに任せて、成型や焼き上げなど、楽しい部分だけやりませんか、という提案をする。
「従来とは全く違う検証が必要だったのでかなり苦労しました。手ごねパンを楽しんでいる層は、間違いなくパンが好きな方なので、そういった方にも、しっかり満足していただける味や仕上がりを目指しました。インバーターを搭載しているため、練り速度を4段階で調整できるというのが大きな利点です。練り、発酵、焼成をそれぞれ単独で設定でき、弾力のあるパンから、ふんわりとした食感のパンまで、プロに近い仕上がりで練り上げます」(渡邊氏)
ホームベーカリーというと、決まったレシピのパンしか作れないというイメージがあるが、「SD-MDX100」では、天然酵母を使った風味のある生地から、バターなど多く使ったリッチなパンまで、パン屋さん並みに色々なパンが作れる。さらに、オートメニューとしても、ハード生地から、リッチ生地、ピザ生地、スピード生地まで備えるという充実ぶりだ。
デザインも一新した。従来機種ではまず採用することがなかった「黒」を本体カラーに採用。家庭的なイメージから、プロっぽい、職人っぽいイメージへと変化を遂げている。フラットなデザインは、掃除もしやすくなっているという。
「黒を採用するということに関しては最後まで迷いがありました。ただ、実際に黒を採用したところ、思っていたよりも落ち着いた印象で、女性からの評価も高かった。インテリアにもマッチすると好評です。お子様と一緒にパン作りを楽しんだり、お誕生日や年末など、家族のイベントでも活躍できる製品だと思います」(内田氏)
10年使える、家族のスタンダードを作る製品に
実は、パナソニックのホームベーカリーは筆者にとっても馴染みの深い製品だった。というのも実家で母がこの製品を使って毎日、パンを焼いてくれていたのだ。我が家にとって、パンといえば「ナショナルのホームベーカリーで作ったパン」だった。今回の取材で初代機で焼いたパンを食べた時は、「そうそうこの味」と感激してしまった。
「おいしいパンを安定的に作るというのは、本当に難しいことなんです。でもパナソニックのホームベーカリーならそれが可能です。それは、蓄積しているデータや情報が圧倒的に多いからです。その信頼がパナソニックのパンのおいしさです」(渡邊氏)
内田氏は、毎日使ってもらえる製品を目指していると語る。
「私達が目指すのは、毎日使っていただける製品。1年、5年と言わず、10年間でもお客様に愛して頂ける製品を目指しています。新モデルでは、そのための機能を存分に盛り込んでいます。お客様の毎日のくらしや家族のイベントの中にパナソニックのホームベーカリーがあり、またそれがご家族みんなの“家庭の味”になってくれれば、こんなに嬉しいことはありません」(内田氏)