パナソニックの理由(ワケ)あり家電~Panasonic 100th anniversary in 2018
第2回
JOBAのDNAを引き継ぐ、パナソニックの新たな“トレーニング家電”とは
2017年8月30日 07:00
すぐそこまでやってきている“超”高齢化社会。自分や家族を含めて、いますぐできる対策の1つは「健康寿命」を延ばすことだろう。健康寿命とは、人の手を借りずに健康的な自立した生活を送れる年月のこと。その健康寿命を延ばすための取り組みが色々なところで始まっている。
健康寿命を延ばすために最も重要なことの1つが、適度な運動だ。とはいえ、日常生活に忙殺されて、十分な運動の時間が取れないという人も多いだろう。運動不足は重々承知だが、なんの対策も取れていないという人に知ってもらいたいのが、パナソニックの「コアトレチェア」と、「ひざトレーナー」という製品だ。
健康寿命を延ばすことを目的に開発された“トレーニング家電”だという。健康寿命を延ばすためにはどういったトレーニングが必要なのか、滋賀県・草津市にパナソニック アプライアンス社を訪ねた。
“健康寿命”を延ばし、“自立できるシニア”へ
話を聞いたのは、2017年2月に発売した体幹トレーニング機器「コアトレチェア EU-JC70」と、2015年8月に発売した筋力トレーニング機器「ひざトレーナー EU-JLM50S」を開発した、パナソニック アプライアンス社 ビューティ・リビング事業部 ヘルシー・アクア商品企画課のチームだ。
コアトレチェアは、座面がVの字に揺れ、揺らされる身体を反射的に支えようとする力でトレーニングを行なう。座った状態でトレーニングができるほか、リビングにも置いておけるようなデザイン性の高さが特徴だ。
一方の「ひざトレーナー」は、ひざ周りに巻き付けて電気刺激を与えることで、効率的に筋力がアップできるというもので、ウォーキングや普段の散歩など、日常生活に取り入れやすい点が特徴。いずれも健康寿命を延ばすことを念頭に開発されたもので、シニア世代にも使いやすいように工夫されている。
「平均寿命が延びるなか、いきいきと元気に過ごせる“健康寿命”を延ばすこと、“自立できるシニア”を目指す方が増えています。そのためにはやはり将来設計が重要になってきます。50代をすぎたあたりから、健康問題に悩む方が増えてきます。そういった方に向けて、家庭のなかで手軽に始められるトレーニングとして、“トレーニング家電”をおすすめしたいというのが、最初のコンセプトです」(パナソニック アプライアンス社 ビューティ・リビング事業部 商品企画部 ヘルシー・アクア商品企画課 主幹 三井雅之氏)
冒頭でも触れたように「運動をしなければ」という意識を持った人は多いが、実際、何から初めていいかわからないという人が多いのだという。
「運動のために、いきなりトレーニングジムに通い出したりするのは、かなりハードルが高いです。そこで、コアトレでは、“運動しましょう”という訴求よりも、“きれいでかっこよくありましょう”というポジティブなメッセージを込めました。そのため、デザインに関しても、リビングに置いてもマッチするようなデザインを採用しています」(三井雅之氏)
コアトレで具体的なターゲットとして掲げたのが「美に対しての意識が高い50代の夫婦」だという。
「当初は、メインターゲットとして、女性を想定していましたが、開発を進める中で、これは、女性だけでなく、男性にも響くぞと。コアトレを使うことで、若々しい姿勢を維持できる、体型を保てるという訴求は、奥さんだけでなく、旦那さんのニーズでもあるわけです。製品の特性上、どうしてもサイズが大きくなってしまい、価格もそれなりに高額になってしまう。それを導入してもらうには、ご夫婦2人に納得してもらうことが必要だと考えました」(三井雅之氏)
トレーニング家電に引き継がれる「JOBA」のDNA
そもそもパナソニックが考えるトレーニング家電というコンセプトの根底には、2006年に大ヒットした「JOBA(ジョーバ)」という製品がある。JOBAは、当時、フィットネス機器を作るという目的で開発されたものだ。
「当時のフィットネス機器は、身体を鍛えるという目的に特化しており、楽しさや達成感というものを体感できるような製品はありませんでした。そんな中、JOBAはトレーニングの楽しさと同時に、乗るだけでOKという簡単さを実現した製品でした。当時、ヨーロッパで流行していた乗馬セラピーにヒントを得たもので、乗馬の際におなか周りが8の字に動くことに着目、その動きを忠実に再現しました。本体に乗るだけで、簡単に受動的に運動できるというのは、それまでの機器にはなかった発想でした」(ビューティ・リビング事業部 ヘルシー・アクア商品企画課 課長 樺山雅樹氏)
従来にはない機能や発想を備えたJOBAは、大ヒットし、最終的には14機種を展開。類似品も次々と出てきた。しかし、JOBAのヒットの裏には反省点もあるという。
「1番はJOBAがダイエット向けの製品だと認識されてしまったことです。製品の人気が高まるとともに、製品の機能自体がだんだんスポーティーになり、ダイエット訴求に向かってしまいました。しかし、ダイエット市場というのは、流行り廃りが大きく、爆発的な人気を得た製品というのは、その後、ブームとともに消えてしまうというパターンがあります。JOBAもその波に乗ってしまったというのが、非常に大きな反省点ですね」(三井雅之氏)
しかし、JOBAの開発で得たノウハウというのは現在も活きている。コアトレに関しても、基本の動作はJOBAと変わらないという。
「コアトレチェアは、身体の軸をずらすようなV字の動きが基本となっています。バランスをとろうとする身体の反射して身体を支えようとする力を使って、トレーニングをしていきます。この動き自体は、JOBAと変わりません」(樺山雅樹氏)
しかし、JOBAの反省点を活かして、様々な点が改良されている。まずは、安全性だ。
「メインターゲットを50代の夫婦としていることもあり、安全性にはかなりこだわっています。たとえばJOBAでは本体にまたがって使うため、不安定で、シニアの方からは恐怖を感じるという声もありました。コアトレは、お尻周りをしっかり支える構造にし、背もたれを設けたことで、安定感が増しています」(三井雅之氏)
またイス型にするという点もこだわった。
「従来のJOBAはトレーニングに特化した形やデザインだったため、置き場所に困り、結局しまい込んでしまうというお客様が多かったんです。コアトレは、とにかく使ってもらえることを重視して、リビングに出しっぱなしにしてもらえるデザインを目指しました。普段はイスとして使えるように、座り心地にもこだわっています」(ヘルシー商品部 ヘルシー商品設計課 主任技術師の高谷昭広氏)
木場先生のアドバイスでコアトレチェアに魂が吹き込まれた
プログラムに関してもJOBAの反省を活かしている。
「JOBAは乗っているだけでトレーニングできるとはいえ、ずっと同じ動きの繰り返しで、面白味や進化が感じられませんでした。ユーザーがトレーニングを継続する喜びを感じられるような取り組みがなにかできないだろうかと、ずっと検討は重ねていたのですが、なかなかいいアイディアが出ませんでした」(三井雅之氏)
発売時期が迫ってくる中、まさに藁にもすがる思いで訪ねたのがプロトレーナーの木場克己氏だったという。同氏は、イタリアのサッカーチーム、インテル・ミラノで活躍する長友佑都選手や競泳リオ・オリンピック日本代表の池江瑠花子選手のパーソナルトレーナーのほか、ガンバ大阪ユースを始めとした多くのチームでアドバイザーを努める。木場氏に製品についてのアドバイスを求めたところ、健康寿命を延ばしたいというコアトレの思想や、機能に賛同してくれ、快く的確なアドバイスをくれたという。
「まさにコアトレチェアに魂が吹き込まれた瞬間でした。木場先生のアドバイスによって、姿勢をひねる動作を加えることで、筋肉に刺激を与え、より効果的なトレーニングが可能になりました。発売前に実施したモニター試験では、3週間毎日、1日30分コアトレチェアに座ってもらったところ、平均でウエストが-8cmという想定以上の結果がでました」(三井雅之氏)
実際、社内でもコアトレチェアの効果を実感している人が多いという。主任技術師の高谷昭広氏もその1人だ。
「会社にあるコアトレチェアに毎日座っていたところ、ベルトの穴2つ分、ウエストが細くなりました。コアトレチェアの効果だということを実感するためにも、食事制限やほかの運動は一切していないのにです。続けて使っていただくことで、確かな効果を感じてもらえると思います」(高谷昭広氏)
ビューティー・リビング事業部では、扱う製品が美や健康に関わるものということもあって、スタッフの意識も高いのだという。事業部長の方針もあって、オフィスの一角にはトレーニングジムが併設されているほどだ。
「始業前やお昼休みなど、積極的に活用しています」という言葉通り、今回取材させていただいた方は皆さん、すっきりとしたスリムな体型を維持していた。
弱くなりがちな膝の筋肉に直接アプローチ
一方の「ひざトレーナー」は、「コアトレチェア」とは違う経緯で開発された。
「そもそものきっかけは、久留米大学医学部・志波直人主任教授を中心としたグループが研究を進めている『ハイブリッド・トレーニング』への技術提供でした。ハイブリッド・トレーニングとは、人間の動作と電気刺激を融合させたトレーニング方法のことで、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究により、宇宙滞在における筋力低下への対処方法として開発されたものです」(樺山雅樹氏)
宇宙空間の微少重力下でレーニングするのは難しく、宇宙に長期滞在する時の筋力低下というのは、深刻な問題だという。ハイブリッド・トレーニングは、実証実験も行なわれ、微少重力下での筋肉萎縮の予防効果が期待できることが確認されているという。
「ハイブリッド・トレーニングを活用した、一般向けの機器ができないか、という気持ちはずっとありました。その中でもやはり、メインターゲットとしてでてきたのが、シニア世代であり、健康寿命を延ばすという問題でした。中でも着目したのが『歩行』と『ひざ周りの筋肉』です。自分の足で立ち、歩くためには、ひざ周りの筋肉を鍛えることが重要なのですが、効率的に鍛える方法というのがなかなかないんですね。ひざトレーナーは、電気刺激で効率的に鍛えることができます」(三井雅之氏)
ひざトレーナーでは、独自のセンシング技術により足の動きを正確にとらえ、筋肉が伸びている時に電気刺激がかかる。
「伸びる筋肉、縮む筋肉どちらにも負荷を与えることで、普通に歩いているよりもはるかに効率的に筋肉を鍛えられます。モニター調査でも、1日30分、約3カ月の使用で筋肉が付いた、足が軽く感じるという声をいただいています。私自身、時々ひざトレーナーを使っていますが、30分間みっちり使うと、翌日筋肉痛になります」(三井雅之氏)
ひざトレーナーのもう1つの特徴が、毎日の生活に取り入れやすいという点だ。1日30分程度の使用で効果があるので、例えば犬の散歩、朝晩の散歩、買い物への道中などの際に本体を装着するだけで良い。
「運動したいという意識はあっても、これまではしてこなかったという方に使っていただきたいので、とにかく無理せず、毎日使えるものを目指しました。電気刺激を使うという製品の構造上、どうしても素肌に装着していただく必要はあるのですが、充電式で、コンパクトなリモコンを採用するなど、使いやすさに配慮しています。正しい装着の仕方やメンテナンスまで、しっかりフォローしていきたいとの想いから、販売ルートも全国のパナソニックショップに限定しています」(三井雅之氏)
シニアはもちろん、若い世代にも
今回、取り上げた2製品は、いずれも健康寿命を延ばすために、シニアにも使いやすいというコンセプトで開発された製品だが、実際には若い世代のトレーニング機器としても十分通用するという。
「特に普段、全く運動していないという人にとっては、最初はかなりきつく感じると思いますよ。コアトレでは、9段階のスピード調節、ひざトレーナーでは電気刺激の強さを1~50までのレベルで用意しています。スピードや電気刺激を上げることで、普段からトレーニングをしている方にとっても、やりがいのあるトレーニングができます」
実際、筆者もひざトレーナーを装着して30分ほど歩いてみたが、これまで体感したことのない筋肉への刺激が感じられ2日後にはしっかり筋肉痛になった(翌日ではないところに年齢を感じた……)。“ユーザーに飽きられない工夫”“使い続けられる工夫”がふんだんに盛り込まれたトレーニング家電。今、まさに直面している高齢化社会の中で、さらに進化を続けそうだ。