大河原克行の白物家電 業界展望

シャープの小型ロボット「ホームアシスタント」の開発は、今どうなっているのか?

2017年度上期発売に向けて開発を加速

 シャープが、2017年度上期中(2017年4~9月)にも、「ホームアシスタント」を発売する。据え置き型の小型ロボット形状のホームアシスタントは、家電のリモコンに使用されている赤外線通信や、家庭内の無線LANを通じて、自宅にある家電や住設機器と接続。ホームアシスタントを介して、スマートホームを実現する。

シャープが開発発表している据え置き型のロボット「ホームアシスタント」

 会話を通じて機器を制御できるだけでなく、利用者の意図を理解して、最適な機器制御を行なえるのが特徴だ。しかし、ホームアシスタントは、2016年秋に開催されたCEATEC 2016で展示されただけで、詳細は謎のまま。どんなコンセプトで開発されているのか、あるいは、どんなことに利用できるかといった、具体的なシーンが思い浮かばない。

 そこで、ホームアシスタントの事業を統括するシャープIoT通信事業本部IoTクラウド事業部プロダクトマーケティング部の阪本実雄部長に、ホームアシスタントの製品化に向けた基本的な考え方や、ホームアシスタントによってもたらされる新たな利用シーン、そして、現在の進捗状況などについて聞いた。

ロボホンやヘルシオの対話とは異なるコンセプト

 ホームアシスタントは、2016年10月の「CEATEC JAPAN 2016」で初めて公開された。シャープブースには多くの人が集まったほか、ニュース番組などでも取り上げられたのは記憶に新しい。

 ホームアシスタントは、様々な家電機器と赤外線や無線LANを通じて連携。同時に、音声でコミュニケーションを図れるのが特徴だ。クラウドによって、シャープのAIoT(AI+IoT)サービスに接続され、同サービスで提供されるビッグデータ解析、シナリオ対話、機械学習、音声認識、音声発話などのAI機能を活用し、音声によるコミュニケーションを実現する。

 シャープでは、すでに家電製品に、音声対話機能を搭載してきた経緯がある。

 2012年に発売したロボット家電「COCOROBO(ココロボ) RX-V100」は、同社独自のココロエンジンでユーザーと対話しながら掃除をする機能を搭載。「掃除をして」だけでなく、「きれいにして」という表現でも、その言葉を理解して掃除を始めることができた。

 2016年9月に発売した「ヘルシオ AX-XW300」では、「献立相談」機能を搭載。AIとクラウドの連携により、食材や天候、好みなどをベースに、1000件のメニューから最適な献立を提案。さらに、家庭の嗜好や最近の調理履歴を学習して、献立を提案したり、食材やジャンルに偏りがある場合はバランスを考えたメニューを提案したりする。

対話できるロボット掃除機「COCOROBO(ココロボ)」
AIを搭載し献立を相談できる「ヘルシオ AX-XW300」
シャープIoT通信事業本部IoTクラウド事業部プロダクトマーケティング部の阪本実雄部長

 だが、シャープの阪本部長は、これらの家電製品に搭載される対話機能と、ホームアシスタントで実現される対話機能とは、基本的な考え方が異なるという。

 「それぞれの家電製品に搭載される対話機能は、その製品が担当するエリアだけを対象にしています。ヘルシオであれば調理、ココロボであれば掃除という守備範囲での対話に限定されている。では、これらの家電製品の中から、対話機能を取り出したら何ができるのか。様々なカテゴリーの家電と結びついたときに、対話を通じて、どんなことができるのか。それが、ホームアシスタントの基本的な考え方」だとする。

 その一方で、シャープは、ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」を発売している。これも対話が可能なロボットである。同製品を取り扱う事業部の名称が、コミュニケーションロボット事業部であることからもわかるように、通話や会話を通じたコミュニケーションを主体とした製品と位置づけている。

音声対話技術などを搭載したモバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」

 だが、ロボットによるコミュニケーションという意味でも、ホームアシスタントとロボホンとは基本的な考え方が異なるという。

 「ロボホンとの比較という意味では、ホームアシスタントは、人とのコミュニケーションだけでなく、家電とのコミュニケーションまでをカバーする製品。それによって、人をアシストし、家電をアシストすることになる」とする。

「今日はとても寒かったよ」と話しかければ、「わかりました。いつもより強めに暖めますね」と、自然な対話をしながらエアコンを起動する

 例えばホームアシスタントでは、帰宅した際に、「エアコンをつけて」と言わなくても、「今日はとても寒かったよ」と話しかければ、その言葉を理解して、「わかりました。いつもより強めに暖めますね」と、自然な対話をしながらエアコンを起動する。単に家電を制御するという、家電とのコミュニケーションだけでなく、人との自然なコミュニケーションとを両立するからこそ実現できるものだといえる。このあたりはココロボで培ってきたノウハウを活用したものだといえる。

「聞き上手」にこだわるホームアシスタント

 ホームアシスタントは、「喋り上手」ではなく、「聞き上手」を目指した製品だと、阪本部長は語る。

 例えばホームアシスタントでは、クラウドから入手する各種情報をもとに、家を出る際には、「夕方から、にわか雨のようなので、傘をお持ちください」といったアドバイスもしてくれる。こうしたある種、「おせっかい」ともいえる情報を提供してくれるのが特徴だ。

 だが、これはホームアシスタントが自らおしゃべりなのではなく、人との対話などから、それを察知して、話しかけてくるもの。このベースにあるのは「聞き上手」という考え方だ。

 実は、阪本部長は、2016年12月に「痛恨のミス」をしたという。TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」の最終回を見逃してしまったのだ。

 最終回の前の回には、ロボホンが登場して、「恋ダンス」を披露。それを見た阪本部長は、最終回の行方が、気になって仕方がなかったのだ。だが、師走のなか、録画予約も忘れ、気がついたときには、放送が終了していた。

 「もし、聞き上手なホームアシスタントが居てくれれば、前回、ドラマを見ていたことを知り、家のなかでも『逃げ恥』の会話をしていることを聞いていたはず。放送日を、数日前に教えてくれたり、録画予約を忘れないよう促してくれたりすれば、見逃すということはなかったはず。聞き上手なホームアシスタントだからこそ実現する役割は、家庭内で多いはずだ」とする。

「もし、聞き上手なホームアシスタントが居てくれれば、見たいと思っているテレビ番組を見逃すこともなくなるはず」

 発売時に、ここまでの機能を実現できるどうかは不明だが、これは、ホームアシスタントが人とのコミュニケーションと家電とのコミュニケーションを両立するからこそ実現できる事例のひとつであり、近い将来の姿であるといえよう。

 「ロボットには、自らの意思で物事を解決していく鉄腕アトム型と、人に言われて、それを見かねて助けてくれるドラえもん型に分類することができます。ホームアシスタントは明らかにドラえもん型」と阪本部長。ホームシスタントが目指す「聞き上手」という狙いと、まさにドラえもんの姿は合致する。

家電を少し便利にする役割を担う

 一方で、阪本部長は、「ホームアシスタントは、テレビのリモコンを誰が取りに行くのかという、家庭内の重要な問題を解決するツールにもなる」と冗談交じりに語る。

 「リビングでテレビを見ていて、チャンネルを変えたいと思ったときに、自分の座っているところから離れたところに、テレビのリモコンが置かれているというのはよくあることですよね。しかも、一緒にテレビを見ている家族からも遠い場所にある。誰かが少し動けばいいのだが、それすらも面倒なときがある。もちろん、肌身離さず持っているスマホを使ってもチャンネルを変えられるが、それも操作が繁雑。果たして、誰がテレビのリモコンを取りに行き、チャンネルを変えるのか。ホームアシスタントなら、話しかけるだけでチャンネルを変えてくれ、家族間の揉め事の一つも解決できます」とする。

 そして、「その場にいながら、テレビのチャンネルを変えられるのは、リモコンが登場したとき以来のドラスティックな変化になる」とも語る。

ホームアシスタントによって家電が「少し便利になる」

 この話は一見、冗談で終わってしまう話のように聞こえるが、ここには、家電を便利に使うための重要な要素が盛り込まれている。それは、今の家電にとって「少し便利になる」ということが、実は重要な要素になっているからだ。

 ホームアシスタントに音声で話しかけることで、家電が「少し便利になる」という場面はいくつもありそうだ。

 例えば、照明の明るさを音声で調節したり、就寝時や外出時には、テレビやオーディオ、照明など、家中の家電の電源を一斉に消すことも、ホームアシスタントに話しかけるだけで済ませられる。ホームアシスタントが複数の家電を制御するメリットはここにある。将来的には、施錠まで一緒にやってくれるだろう。

 「家電は生活を便利にし、豊かにすることで進化してきた。家電を使うことで、時間を節約できたり、満足を生んだり、余裕を生む。そのことが、家電そのものの評価につながります。振り返れば、昭和30年代の家電の普及期は、家電製品を購入すること自体で、生活を大きく変化させることができ、そこに喜びを感じた人が多かった。でも、それから40年の間、そうした喜びを経験することがほとんどなかった。ホームアシスタントは、家電をさらに便利にし、家電を購入したことのうれしさを体感できるものにしていきたい。使えば使うほど進化する家電を実現したいのです」と阪本部長は語る。

「ホームアシスタントは、家電をさらに便利にし、家電を購入したことのうれしさを体感できるものにしていきたい」

安全な生活を送るためのアシストも

 もうひとつ、ホームアシスタントの役割として与えようとしているのが、家電を安全に使うことや、健康にも配慮した生活を送れるように支援すること。

 例えば、この時期であれば、ヒートショックの問題がある。

 お風呂上りの脱衣所が寒く、それによる温度差が原因で身体に悪影響を及ぼすといったことをヒートショックと呼ばれる。このヒートショックを回避するために、ホームアシスタントが脱衣所を暖めるなどの指示や、家電製品の制御を行なうことで、ヒートショックによる血圧の変動をもとにした心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こさないように支援できる。これも、複数の家電がつながり、人とのコミュニケーションを図っているからこそできる機能のひとつだ。これによって、ホームアシスタントが、安心して過ごすためのアシスト役にもなるわけだ。

なぜ丸みを帯びたデザインなのか?

 一方、ホームアシスタントのデザインは、小さな雪だるまのように見える。

 「これまでの経験からわかったのは、人が最も親しみを持ってもらえるのは、丸みを帯びたデザイン。赤ちゃんのイメージには丸みがあり、子供に人気のキャラクターも丸みを帯びたものが多いです。そして、丸みを帯びたデザインは飽きが来ないデザインでもある。ホームアシスタントの開発に際しては、丸くしてほしいとデザイン部門にお願いしました」と阪本部長は語る。

「人が最も親しみを持ってもらえるのは、丸みを帯びたデザインです」

 確かに、アンパンマン、ドラえもん、そして、ちょっと古いがオバQなど、子供に人気のキャラクターは丸いのが基本だ。

 そして、自らが主張しないデザインが、ホームアシスタントの基本的なデザインコンセプト。シュガーポットや小型の湯沸かしポットのように、ダイニングテーブルの上に置いても、違和感がないデザインとしている。

 「ホームアシスタントに、長い時間、しゃべりかけて欲しい。また、長期間に渡って使ってほしいという期待を込めたデザイン」だと言う。この丸みを帯びたデザインはこだわりを持って採用したものだ。

住設機器メーカーとの連携を強化する理由

 ホームアシスタントの製品化において注目されるのが、どんな家電製品とつながるのかということだ。

 同社では、赤外線機能を持った既存の家電製品や、後付けのデバイスを活用することで、家電製品と無線LANで接続することも視野に入れている。

「現在、所有している家電でも、IoTを体験できるようにする必要がある」

 「スマートホームの実現における最大の課題は、家電製品や住設機器の使用年数が長く、IoT対応機器に移行しにくいという点。それを解決するには、現在、所有している家電でも、IoTを体験できるようにする必要がある」とする。

 さらに、シャープ製以外の家電や住設機器とも接続できるように、関連技術を公開していく予定だという。

 競合する電機メーカーが自らの製品を、ホームアシスタントの接続に対して、前向きに取り組む環境を作るのは一筋縄にはいかないが、まずは、住設機器メーカーなどとの連動によって、対応機器を増やしていくという手法を取り入れる考えだ。

 「住設機器メーカーやハウスメーカーとのアライアンスを推進し、それらの企業にクッションになってもらうことで、家電メーカーと連携していくことも考えています」

 さらに、ホームアシスタント対応機器の広がりにおいて、鴻海グループ全体として、どうバックアップするのかも今後注目したいポイントだ。他社製品との連携がどこまで進むのかが、ホームアシスタントの広がりに影響するのは明らかだからだ。

販売ルートはどうなるのか?

 ホームアシスタントは、2017年度上期中(2017年4~9月)の発売に向けて、製品開発が進められている。価格は数万円というCEATEC 2016の時点で発表した水準からは変更はなさそうで、1台2~3万円程度で購入できるイメージだろう。赤外線や無線LANが届く範囲を考えると、家の中に複数台設置するという用途を見据えた価格設定ともいえる。

 デザインは、発売までに若干の変更があるようだが、基本線は、CEATEC 2016で公開されたデザインをそのまま継承することになるという。また、現時点では、据え置き型を前提としているが、将来的には可動型も検討材料には入っているという。

 「人を感知して、『通りま~す』といって、人の間を移動するようなキャラクター設定もできるようになる」と笑う。これはココロボでも実現されているキャラクター設定のひとつ。

 一方で、販売方法も気になるところだ。

 発売までに時間があるため、具体的な販売ルートは決定していないが、これまでにない製品だけに、どんな販路を活用するのか、あるいはどんな売り場に展示されるのかといったことも、これから検討されることになるだろう。

 まずは、ロボホンがそうであったように、同社直販サイトを通じた販売は行なわれることになるだろう。

 もちろん量販店ルートでの販売も検討されている。「量販店では、テレビ売り場に置いた方がいいのか、エアコンの売り場に置いた方がいいのか、照明売り場に置いた方がいいのかといったことも考えないといけません。また、家電売り場以外にも展示できるかもしれないと考えています」と、可能性の広がりに期待する。

ホームアシスタントの製品名は「りんちゃん」?

 もうひとつ気になるのが、ホームアシスタントの名称。製品化される段階で、どう変更されるのか。当然、製品化される際には、ホームアシスタントというカテゴリーを示すような名称ではなく、ロボホンのような愛着がわく名称がつくのではないかとは思われる。

 その点については、現在検討中のようだが、社内では、すでにある呼び名で呼ばれている。それは、「りんちゃん」だ。

 ホームアシスタントの開発コードネームは、「000」である。この開発コードの語源もユニークだ。0という意味には、ホームアシスタントという新たなカテゴリーの最初の製品であるという意味もあるが、それを3桁で表現したのは、0を「レイ」と呼び、それが転じて「レレレ」としたからだ。

 レレレとは、赤塚不二夫氏の人気漫画「天才バカボン」に登場するキャラクターに由来する。言うまでもなく「レレレのおじさん」を意識したもの。耳が大きいことは、人の話を聞くことに通じ、「聞き上手」を目指すホームアシスタントのコンセプトとまさに合致していた。そこで開発コードを「レレレ(000)」と3桁にしたという。

 そして、中国語で「0」は、「リン」。そこから社内では「りんちゃん」と呼ばれているのだ。

 このままの名称で登場することはなさそうだが、開発コードにも、ユニークで、かつ思い入れのある名称がつけられている。

 CEATEC 2016以降、ホームアシスタントは、その姿を見せる機会がない。だが、今回の取材は、発売までの中間報告といえるものになった。これから発売までの間に、どんな進化を遂げるのかが楽しみである。

大河原 克行