大河原克行の「白物家電 業界展望」
2017年「ヘルシオ」シリーズは次の領域へ。シャープ・鈴木事業部長インタビュー
2016年12月28日 07:30
「2016年は、ヘルシオの良さを多くの人に知っていただける環境が整った。2017年は、この間口をさらに広げていきたい」
シャープ 健康・環境システム事業本部スモールアプライアンス事業部の鈴木 隆事業部長はこう切り出す。
シャープにとって、白物家電事業の中核製品のひとつである、ヘルシオシリーズ。同シリーズは、2004年の第1号機発売から12年目を迎えた今季、ウォーターオーブン「ヘルシオ」の新モデルを投入。加えて、2015年11月発売の「ヘルシオ ホットクック」については、今年11月に2.4Lの大容量タイプを追加した。
さらに、ウォーターオーブン専用機として「ヘルシオ グリエ」を10月に発売し、3つの特徴ある調理家電を揃えてみせた。
これにより、2016年は新たな顧客層を開拓することにも成功。2017年は、この流れをさらに加速して、対象とするユーザーの間口をさらに広げていきたいとする。ヘルシオシリーズの取り組みについて、鈴木事業部長に話を聞いた。
手軽なだけでなく、健康で美味しいのが「ヘルシオ」
――2016年は、ヘルシオシリーズにとってどんな1年でしたか。
鈴木:2016年のヘルシオシリーズは、「健康って、おいしい」をコンセプトに、新たな製品群を投入してきました。一部では、食材を切っただけで調理ができる、あるいはトレイの上に並べるだけで料理ができるといった点がクローズアップされて、「ほったらかし家電」という表現がされていますが(笑)、ヘルシオは、手軽にできるという即物的な部分だけが特徴ではなく、作った料理が美味しく、健康的であるという「仕上がり」に強みがあることが最大の特徴なのです。
簡単にできるが、それが美味しい。しかも健康的である。振り返ってみれば、こうしたヘルシオの特徴を多くの人に体験していただける土壌が整った1年だったのではないでしょうか。
とくに、ヘルシオ グリエの登場は、より多くの人にヘルシオの過熱水蒸気の良さを知っていただく機会になったと考えています。
――ヘルシオ グリエの売れ行きはどうですか。
鈴木:発売以来、好調な売れ行きを見せており、現在、当初計画の1.5倍の増産体制を敷いています。ヘルシオは、どうしても本格的な料理をするために使用するケースが多い。それに対して、もっと過熱水蒸気を日常で使ってもらいたいと考えて製品化したのが、ヘルシオ グリエです。
オーブンレンジの買い替えは、7、8年と長期化しているため、なかなかヘルシオに買い替えていただく機会が少ない。しかし、オーブントースターであれば、毎日使うものですし、買い替えサイクルはもっと短い。オーブントースターをヘルシオ グリエに置き換えてもらうことで、過熱水蒸気を多くの人に体験してもらえる。ここにヘルシオの新たなビジネスチャンスがあると考えました。
――発表時には、高価格トースターとして先行していたバルミューダのThe Toasterとも比較されましたが。
鈴木:ヘルシオ グリエは、過熱水蒸気というシャープ独自の技術を採用したものです。その点で、出所がまったく異なる製品だといえます。美味しいだけでなく、健康とも両立できる製品であるという点でも差別化が図れます。
実は、この製品は、私が、健康システム機器事業推進センターの所長を務めていたときから企画していたもので、先にも触れたように、多くの方々に、日常的に過熱水蒸気を活用してもらうことを狙った製品です。
特定の機能を毎日利用してもらうために、その機能に特化し、価格を引き下げた専用機として投入するという手法は、かつてもありました。空気清浄機に搭載していたプラズマクラスターイオン技術を、小型化したプラズマクラスターイオン専用機として製品化し、より多くの人に使っていただくことができたのと同じやり方です。
ただ、オーブントースターの置き換えという提案において、ヘルシオ グリエの価格帯はどうしても高いものになってしまいます。
その点では、他社から高付加価値トースターという製品が登場したことで、「一人旅」の製品にならなかったことは、ヘルシオ グリエの市場を広げるという点でプラスの効果があったとは思っています。
――ヘルシオ グリエのモノづくりにおいて、こだわった点はどこですか。
鈴木:私はかつてPDAの「ザウルス」を担当していたことがありましたが、こうしたデジタル製品の場合は、新たなものを受け入れる市場特性があります。
しかし、食の場合は、これまで定着している料理の仕方や、生活のリズムといったものに影響しますから、なかなか新しいものが受け入れられにくい環境にあります。
例えば、朝の忙しい時間において、これまでのオーブントースターでは3分でトーストが焼けるのであれば、買い替えたオーブントースターでもやはり3分で焼けて欲しい。時間がかかるようでは、朝の忙しい時間のリズムが狂ってしまう。そうした製品であってはいけません。
ヘルシオ グリエでは、トーストが3分半で、美味しく焼けるという仕組みを作ることにこだわりました。オーブントースターから置きかえた場合にも違和感がない調理器具であることを目指す工夫は随所に施しています。
一方で、早朝や遅い時間帯には、スーパーやコンビニで男性が一人で買い物をしている姿がよく見られます。たぶん単身赴任だったり、一人暮らしをしている男性なのかと思います。また、充実したスーパーの総菜を買って、家で食事をするといったケースも増加しています。
このような中食(なかしょく)が増えるなかで、冷めた総菜などを、単に温めるだけでなく、美味しく「復元」することにこだわりました。
これはヘルシオが得意とするところでもあるのですが、過熱水蒸気による水のチカラで、食材の内部にまで熱が入り、それでいて、外は焦がさずにすむ。
また、天ぷらや唐揚げも、過熱水蒸気ならではの脱油を実現することで、美味しさを逃さずに、健康的に食べることができる。これは、過熱水蒸気の技術だけでなく、庫内の温度を変化させながら最適な調理ができるようなソフトウェアの進化が可能にしています。
実は、私もヘルシオ グリエを使いだしてから気がついたのですが、いろんなものをヘルシオ グリエに入れてしまいたくなる楽しさがあるんですよ。
最初は、菓子パンを入れてみたら、これがとても美味しくなる。続いて、総菜パンを入れてみるとこれもまた美味しい。そのまま食べていたら味わえない美味しさがあるんです。
我が家は3人暮らしなのですが、それぞれが食べたいものを、それぞれのタイミングで、ヘルシオ グリエに入れていますから、一日に5、6回は動かしていると思いますよ。オーブントースターでは、うなぎの白焼きは入れにくいものですが、ヘルシオ グリエならば、これもカリッと焼いてくれます。
実は、マクドナルドのフライドポテトもヘルシオ グリエに入れると美味しくなるんですよ(笑)。過熱水蒸気のチカラで、作りたてのおいしさを復元できるのが、ヘルシオ グリエの特徴です。
――「グリエ」という名称にはどんな意味を込めましたか。
鈴木:本当は、オーブントースターといった方がわかりやすいのかもしれませんが、過熱水蒸気の機能を表現したいと考えると、トースターという表現の範囲には収まりません。ウォーターオーブンの専用機として、もっと幅広く調理ができることを示したかったのです。
しかし、グリルといった場合には、「魚を焼く」といったイメージでとらえてしまう人もいる。そこで、フランス語の「グリエ」を用いたわけです。ヘルシオが過熱水蒸気の複合機であるのに対して、ヘルシオ グリエは過熱水蒸気の専用機と位置づけています。
――デザインもこれまでのヘルシオとは異なる雰囲気のものですね。
鈴木:私が持っているヘルシオのイメージは、冷凍のピザを入れて、スイッチを押すと、ピザが窯から出てきた直後のように、「元気」になって顔を出すというものなんです。料理を「元気」にし、「元気な顔」をして出てくるのがヘルシオの大きな役割だと感じています。
ヘルシオ グリエは、ちょっとクラシカルなデザインに見えますが、それはピザ窯のように、熱を封じ込めて焼くというイメージを打ち出したいと思ったからなんです。そして中が見える窓を小さくしたのは、その窯の中を覗くというイメージを表現したかったからです。
また、丸みを帯びたデザインは、「過熱水蒸気のカプセル」というイメージを持たせました。一方で、赤一色としたのは、ヘルシオのイメージカラーに合わせたからです。発表直後から、「赤色以外だったら買ったのに」という声をいただいていることも知っていますが、第1号製品は、ヘルシオシリーズの製品であるということを明確に宣言したかったという意味が赤一色での展開の背景にあります。
もうひとつ、デザイン上で考慮したのは、一目見て、水を使っていることを示したかった。これを隠してしまったら、この製品は失敗するとも思いました。
そこで、ヘルシオ グリエでは、水を入れるタンクを本体に装着し、それがそのままスイッチになるという仕組みを取り入れました。水を入れて焼くということは、ヘルシオであることの証明であります。もしこれがなかったら、デザインだけを見て、数1,000円のオーブントースターと同じ形なのに、なぜシャープだけこんなに価格が高いんだということになりかねない。
水タンクに水を入れて、それがスイッチになるというのは、店頭においても、オーブントースターとは異なる製品であるということをアピールする目的もありました。
もちろん、ここに水を入れることが手間に感じられては、使われない商品になってしまいますから、私自身、何度も使ってみて、これならば苦にはならないと判断して、この仕組みを採用しました。
――どんなユーザーが購入していますか。
鈴木:ヘルシオユーザーが2台づかいの形で購入している例もありますし、ヘルシオシリーズを初めて購入するといった人もいます。
ヘルシオ グリエのCMでは、父親と娘がいろいろな食材をヘルシオ グリエに入れて、美味しさを楽しんでいる内容としましたが、実際、家族のなかでは、娘や息子がまずは新しいものに飛びついて、その次にお父さんがそれに追随し、最後にお母さんが参加するということが多いのではないでしょうか。
そうした家族の様子を示すように、子供にヘルシオ グリエに興味を持ってもらう流れを作ることも大切だと考えています。いずれにしろ、ヘルシオ グリエによって、これまで過熱水蒸気のメリットを感じることができなかった人が、身近に感じることができる製品が登場したことは間違いありません。
献立を相談できるIoTウォーターオーブン「ヘルシオ」
――ウォーターオーブン「ヘルシオ」では、9月に発売した「AX-XW300」が、12年目のヘルシオとして注目を集めましたが。
鈴木:新たなヘルシオでは、基本性能の強化に加えて、新たに搭載した「献立相談」が高い評価を得ています。人工知能とクラウド連携により、食材や天候、好みなどをベースに、1,000件のメニューから最適な献立を提案してくれますし、それを学習することによって、家庭の嗜好や最近の調理履歴に配慮した献立を提案します。
また、食材やジャンルに偏りがある場合はバランスを考えたメニューを提案してくれます。
さらに、調理方法がわからない場合も、ヘルシオが作り方を教えてくれますから、それに沿って調理をすればいいわけです。私は、家族に対して、「調理でなにかわからないことがあったらヘルシオに聞け!」と言っているんです(笑)。
これは、私自身に対する言葉でもあるのですが(笑)、スーパーで美味しそうなサツマイモを見つけて、これで焼き芋を食べたとい思い立ち、家に買って帰っても、そのあとの調理は、どうしても妻にお願いするしかありませんでした。調理の手を煩わせてしまうなぁ、ということも考えてしまうわけです。
また、時間をかけて、クッキングブックやネットで調理方法を調べ、自分で作ろうとしても、あの美味しい石焼き芋のような、ほっくりとした焼き芋を作れる自信がありません。これまでのように調理をする際に、ボタンをたくさん押さなくてはならないということも手間でした。
ところが、ヘルシオに「焼き芋」とひと声かければ、あとはそれにあわせて、いくつかボタンを押せば簡単にできてしまう。しかも、ほっくりとした美味しい焼き芋になる。焼き芋が、「元気」な顔をして、ヘルシオから出てくるんです。これは、料理ができない男性にとっては、大きなメリットです。
一方で、スーパーで美味しそうな食材を見つけたら、すぐに買いたくなってしまうという、悩ましい問題も発生することになりますが(笑)。
ヘルシオシリーズの共通点は、料理を支援してくれること
――こうした調理の手軽さは、ヘルシオ ホットクックにも共通したものですね。
鈴木:料理が得意な男性というのは、実は、ひと握りだけだと思うんです。ただ、料理が苦手な男性でも、キャンプになると中心的役割を果たして料理を作ろうとします。それは、食材を切って、焼いて、食べるという単純な作業で済むという要素も大きいのではないかと(笑)。
ホットクックでは、食材を切って、あとは入れるだけで、おいしい料理が完成します。
これは、キャンプの状況と一緒ですよね(笑)。ホットクックの中で食材をかき混ぜるアームは、何100通りものパターンで動いております。それぞれの料理に最適な調理を自動的にしてくれますし、煮物やカレーを作る場合にも、鍋の前にずっと付いていなくて済むというメリットもあります。
ホットクックも、ヘルシオ同様、料理ができない男性にとって、料理を支援してくれる家電だといえます。
こうしてみると、今年、投入したヘルシオシリーズの新製品は、健康である、あるいは美味しいというこれまでの差別化要素に加えて、より手軽に調理できるようになったことで、自分で調理をしたくなる新たな調理家電へと進化したことが特徴だといえます。これまでのヘルシオに比べて、より多くの方々に使ってもらえる環境が整ったともいえます。
――2017年のヘルシオシリーズは、どう進化しますか。
鈴木:ヘルシオシリーズをもっと多くの人に使っていただく領域へと、ステージをさらに上げていきたいと思っています。一度、ヘルシオシリーズを使っていただくと、料理の楽しさがわかっていただける、その自信があります。
ですから、多くの人に使ってもらえるための仕掛けもしたいですね。ヘルシオ グリエは、過熱水蒸気の技術を多くの人に使ってもらうための製品ですし、ヘルシオはIoTやクラウドによって、さらに進化を遂げることになります。
また、ヘルシオ ホットクックで採用している「まぜ技ユニット」は、ロボティクス技術です。まさに最新の技術が、ヘルシオシリーズに生かされています。これらの新たな技術を生かしながら、新たなステージへと製品を進化させ、誰もが、「元気な顔」をした料理を作れるようにしたいと考えています。
鴻海傘下での開発体制はプラスに作用
――シャープは、2016年8月以降、鴻海精密工業の傘下で経営再建がスタートしていますが、ヘルシオシリーズの開発、製造、販売、マーケティングにはなにか影響はありますか。鴻海の郭台銘会長は、ヘルシオシリーズを台湾での会見場に持ち込むなど、気に入っている様子ですが。
鈴木:鴻海傘下によるマイナスの影響はまったく感じていません。開発体制にも、販売、マーケティング施策にも影響はありませんし、むしろ、今後は、調達、生産といったモノづくりのサプライチェーンにおいて、鴻海の仕組みを活用できますから、そこにプラス効果が発揮できると考えています。
ただ、その一方で、鴻海が持つスピードの速さを感じています。シャープには、もともと緊プロ(緊急プロジェクト)という仕組みがあり、重要な製品にはリソースを集中し、短期間に開発し、それをいち早く市場投入することに取り組んできた経緯がありますが、これと同じようなスピード感をもって、全社規模で事業を推進しているという感じです。
我々ももっと頭を使って、効率化を進めながら、新たな製品をいち早く市場に送り出していかなくてはならないと感じています。
鴻海は、世界最大のEMSとして、全世界に多くの取引先を持っていますから、世界市場に対しても、ヘルシオシリーズをはじめとする家電製品を、新たなチャネルを通じて展開していくといったことも、前向きに検討していきたいですね。
2017年も、これまでとは異なる切り口の新製品を投入していくつもりですので、楽しみにしていてください。