そこが知りたい家電の新技術
東芝ホームアプライアンス・石渡社長と神原サリーさんに聞く! 次世代“スマート家電”とは
by 阿部 夏子(2013/12/6 00:00)
スマート家電という言葉はこの1年で、だいぶ浸透してきた。スマートフォンやパソコンから家電製品を操作・管理するというのはもはや当たり前で、最近ではクラウドを使ったサービスもみかけるようになってきた。
ただし、それが消費者に浸透しているかというと、話は別。従来の家電製品からは考えられないような新しい提案に戸惑っている人も多いのではないだろうか。
今回は、今年の11月から冷蔵庫、エアコン、ドラム式洗濯乾燥機を対象としたスマート家電活用のサービス「家電コンシェルジュ」をスタートした東芝ホームアプライアンス株式会社の取締役社長 石渡敏郎氏と、奇しくも同じ「家電コンシェルジュ」として、活躍されている神原サリーさんに、“スマート家電とはなにか”をテーマに対談していただいた。(以下敬称略)
「知らない世界につれていくようなワクワク感が必要」
神原:最初から単刀直入に聞いてしまいます。ずばり、東芝にとってスマート家電とは何ですか?
石渡:そもそもスマート家電は、お客様の生活自体をもっと潤いのあるものにしたいというところからスタートしています。電力の見える化や節電を提供する機能に加えて、お客様の生活を豊かにするようなサービスができないかと考えました。
神原:そもそも家電製品とインターネットがつながるというのは画期的な出来事ですよね。
石渡:インターネットと家電をつなぐことで、一番のメリットは、家庭電器とユーザーが双方向で情報をやり取りができることだと思っています。さらに、ネットを使うことによって、ユーザーと我々メーカーがつながり、様々なサービスを提供することもできます。
神原:それが、東芝の提案するスマート家電システム「家電コンシェルジュ」なんですね。
石渡:実は東芝がスマート家電といわれる分野に参入したのは、今年が初めてではないんです。2002年からフェミニティというサービスを開始しておりまして、スマートフォンを使った外出先からのエアコンのON/OFF操作などは、去年の段階でも可能でした。しかし、これがスマート家電ですとまだ言えるほどではなかった。だから、去年はメディアの方にスマート家電について聞かれた時の答えは、「1年待ってください」でした。
神原:満を持しての参入だったと?
石渡:エアコン、冷蔵庫、洗濯機という白物家電の代表的な製品で、それぞれ一応の形ができたかなと思っています。たとえば、「家電コンシェルジュ」では、冷蔵庫の中をカメラで写して、外出先から確認することができます。これって、家電の未来としてある程度想像していた世界だと思うんです。でも、実際にやったのは、東芝が初めてです。スマート家電には、ある意味、消費者の方を次のステージ、まだ知らない世界につれていくようなワクワク感が必要だと思っています。
神原:確かにカメラで冷蔵庫の中が見られるというのは、聞いただけでワクワクするような機能ですよね。
石渡:家電がネットにつながるとこんなことができます、という代表例としては良かったと思います。ただし、あくまでこれはスタート地点だと思っています。冷蔵庫の使用状況や状態をユーザーにお知らせするというようなこともできる様になりました。
神原:それが本当のユーザーフレンドリーですよね。
「ユーザーと一緒の目線、ユーザーに寄り添うような形が大事」
石渡:例えば、家電製品のエラー表示ってユーザーにとってはあまり親切じゃないですよね。「エラー1」と言われても、分からない。家電コンシェルジュでは、それをメールでわかりやすくお知らせすることができます。
神原:確かにそうですね。東芝の「家電コンシェルジュ」で私が「新しいな」と思ったのは、そこなんです。これまでのスマート家電はあくまでユーザーがスマートフォンなりパソコンにアクセスして、自分で、運転状況などを確認するのが普通でした。でも、「家電コンシェルジュ」は、家電の方から教えてくれるプッシュ型のサービスですよね。それって本当の意味での“家電コンシェルジュ”だな、と。私も、自分の職業を家電コンシェルジュと名乗っているんですが、それは、ただ今ある家電製品を教えるのではなく、選び方や使い方、さらには購入後の使いこなし方法まできめ細かく提案していきたいと思ったからなんです。同じような言葉として、ソムリエっていう言葉がありますが、私のイメージの中ではソムリエはあくまで選ぶだけ、コンシェルジュはさらに踏み込んだ、ユーザーと一緒の目線、ユーザーに寄り添うような形なのかなと。だから、東芝のスマート家電が「家電コンシェルジュ」っていうネーミングだと聞いた時は素直に嬉しかったです。
石渡:ありがとうございます。神原さんと同じにしてしまっては失礼かなとも思ったんですが、そうおっしゃっていただけて嬉しいです。
神原:もう1つ、私が「家電コンシェルジュ」でいいなぁと思ったのは、さっき石渡さんがおっしゃっていた、未来の理想を形にしたことです。カメラを冷蔵庫に本当につけちゃうというのは、いよいよ新しい家電が始まったというか、そういう夢物語のようなインパクトがありました。
石渡:嬉しいです。ただし、カメラで冷蔵庫はあくまで代表例であって、使い方はまだまだあります。
「冷蔵庫とレンジで会話ができたら面白い」
神原:いくつか具体的な案はあるんですか?
石渡:今のトレンドは、家電製品同士の連携ですよね。家電コンシェルジュも東芝のテレビ「REGZA(レグザ)」と連携していますが、本当は東芝同士だけで連携してるだけではダメだと思っています。「家電コンシェルジュ」に対応した冷蔵庫、ドラム式洗濯乾燥機、ルームエアコンは、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)を実現するための共通通信規格「ECHONET Lite(エコーネットライト)」を準拠しています。この規格に沿えば、メーカーに関係なく使えるようになります。そうならなければいけません。
神原:確かに、東芝とかある特定のメーカーだけの製品といわれると、なかなか広がらないかもしれないですよね。でも、機器の連携によってできることってなんでしょう。
石渡:少し先の話になるでしょうが、例えば、冷蔵庫と電子レンジが会話を始めるみたいなことがあると面白いかもしれません。調理家電がお互いに情報を持っているわけだから、レシピを考えたりするときに、レンジが冷蔵庫に相談してみたり。オーブンレンジが「今日なにがある?」と冷蔵庫に聞くわけですよ、すると冷蔵庫が「これとこれ」と答えて、オーブンレンジが「だったらこれを作ろう」と……そういう形こそがコンシェルジュとしてあるべき姿かなと。
神原:それってすごく面白い!
石渡:その結果、会社帰りに「今日はこういう料理ができますけど」っていう連絡がいく、さらに、エアコンの温度センサーの情報も入ってきて「今日は寒いからシチューにしましょう」とか、「寒いから暖房を入れておきますよ」とか、そういった提案に繋がる機器の連携が始まったら、いいなと思っています。
神原:これまで製品ごとに別々にしていた操作が、機器どうしが連携していることで一気にできてしまうんですね! それはかなりワクワクしますね。
石渡:もっと言うと、スーパーの宅配サービスも連携したりすると、さらに便利ですね。今日作りたいレシピがあるけど、足りない材料がある、それはスーパーが自宅まで届けてくれる……と。家電製品とネット、さらに機器同士の連携が進めば、そういう世界が現実になってくると思います。それこそが、東芝の「家電コンシェルジュ」が目指す姿だと思います。
神原:まさに本当のコンシェルジュですね。昔だったら、お手伝いさんがいてやっていることですもんね。オーブンレンジにデータが蓄積されれば、ユーザーの嗜好まで把握できますもんね。旦那さんのお昼に食べたものもコンシェルジュに言えば、メニューが重なることがなくなったり……そうなると、その人の健康管理までできますよね。
石渡:そうですね。家族の健康まで含めた管理ができると良いと思います。お父さんは尿酸値が高いから、子供たちは成長期だから、という風に家族にあったメニューを提案することもできますよね。
神原:そうなると単に楽しいだけじゃなくて、家族に寄り添った、つながるサービスになりますね。
「消費電力を減らすことだけが省エネじゃない」
石渡:それこそが、機器がつながることのメリットですね。でもそうなると、いずれ人工知能を持ったようなシステムが、見えてくるような気がします。ユーザーのライフスタイルにアドバイスできるようなシステムがいいと思いますね。冷蔵庫の中身がわかれば、賞味期限の管理もできるわけですから。
神原:その考え方って東芝の製品には色濃く反映されている気がします。たとえば、野菜室の湿度を維持することで、野菜を長持ちさせる冷蔵庫「ベジータ」にしても、使い始めてから、野菜を捨てることが減りました。それに加えて、カメラで冷蔵庫の中身を管理してくれて、賞味期限までみてくれたら、もう怖いものなしって感じです(笑) 私は、省エネって決して消費電力を減らすことだけを指すんじゃないと思うんです。物を捨てないとか、長く使うというのも省エネ行動の1つですよね。
石渡:人々の暮らしや生活を豊かにするのが東芝の考えかたです。顧客の幸せというのが一番大切なところだと考えています。東芝は、日本で初めて電気釜や冷蔵庫を作ったメーカーなんですが、その原点は家庭の主婦を少しでも楽にしたいというところからスタートしています。家電製品は、家庭生活の負荷を軽くするというのが、目的です。例えば、ドラム式洗濯乾燥機1つとっても、東芝の「ZABOON」は時間ピッタリに終わるんです。朝の洗濯が29分ぴったりで終われば、忙しい朝の時間でも考えながら行動できますよね。
神原:そう。実は、ドラム式洗濯乾燥機って時間通りに終わらないんですよね。でも、意外と知らない人が多い。
石渡:いかに消費者の生活を楽にするか、というのが東芝の家電のコンセプトです。
「小容量・高機能の製品が必要になってくる」
神原:もう1つ、石渡さんに是非、お伺いしたいのが、今後の家電製品がどうなるか、についてです。私は、これからの家電製品はどんどん変わってくると思っているんです。たとえば、家族構成1つとっても、一昔前とはずいぶん変わってきているし、高齢者社会はますます加速しています。
石渡:ひとつは見守り機能ですね。スマート家電の考え方から言うと、ネットでつながるのは、その家で過ごしている家族だけではなく、まわりのコミュニティともつながることができます。たとえば、高齢の親が離れて一人で暮らしている。それを子供世代が見守ることができる。冷蔵庫を開閉しているのか、エアコンを通じて温湿度管理もできる。スマート家電には、お互いを思いやる気持ちというのも含まれていると思います。
神原:ライフスタイルそのものもずいぶん変わってきていますよね。
石渡:そうですね。食事の仕方も様々になってきていると思います。お年寄りが買い物に行けない場合、生協などを利用して食材を取り寄せる人もいれば、ケータリングを活用する人、三食全てをコンビニエンスストアで済ませる人もいる。高齢者に限らなくても、若い人でも、毎日の食事全てがお弁当だったりする人もいる。そういうライフスタイルに対して、東芝の調理家電に何ができるかというのは、考えなくてはいけないところだと思います。
神原:今までの調理家電とは質が変わってきます。
石渡:今の家族構成って、3人以上の家族よりも3人以下の家族の方が多いんですよね。でも、それが若い人の2人暮らしなのか、シニアの2人暮らしなのかで、欲しい家電製品も変わってくる。日本は約5千万世帯あるんですが、人口は減っているのにこの世帯数というのは、実はここ何年も変わっていないんです。おそらく、2019年頃まではこの世帯数を維持すると予測されています。人口のデータというのは、実はものすごい精度の高い、重要なデータなんです。今何歳の人が何人いるというのは、もう分かっていますよね。だから、未来の予測がしっかりできる、確実なマーケティングのデータになりうるんです。
これから我々が考えなくてはならないのは、一人一人のライフスタイルに合わせた家電製品ということだと思います。冷蔵庫の使い方だって、ドリンクしか入れない人と、野菜も食べたい人では全く違いますよね。
神原:確かに、今の市場に出回っている小型の冷蔵庫って、飲み物しか入れないような若い世代をターゲットにしているものが多いですよね。
石渡:今の家電製品の大きな流れとして、高機能製品イコール大容量というのはありますが、今後は容量が少ない製品でも、しっかりと機能を備えた製品が必要になってくると思います。
東芝は品質が第一
神原:最近、巷では単機能ながら安価の「ジェネリック家電」なんて言葉も聞くようになりました。
石渡:我々が目指すところとは全く違う方向性の製品なので、一概にはなんとも言えないですが……東芝は、消費者にとって付加価値のあるものを目指しています。その1つは品質です。品質にお金をかけることを止めてはいけない。低品質というのは東芝ブランドとしてはありえないことなんです。
たまにいつ買い替えたらいいのですかっていう、ご質問をいただくこともあるんですよ。消費者もいつが買い換え時かっていうのがわからなくなってしまうのでしょうね。ただ、新しい製品というのは、省エネ性能の面でものすごく飛躍しているので、なるべく買い換えをオススメしています。自宅で使っている東芝のエアコン「大清快」なんて、1時間の電気代が1円ですよ。夏に一晩中使っていても、6時間6円と表示される。自社の製品ながら「えらいなー」と(笑) ただ、うちの母親の世代だと、エアコンは高いものという思い込みがあるので、暑くても使わなかったりするんですよね。1日使っても10円とか20円しかかからないのに、それで熱中症になってしまったりするのは悲しいことです。
神原:よくわかります。今のエアコンって本当に電気代が安いですよね。リモコンで消費電力と電気代が確認できるので、そのたびに「こんなに快適なのに、こんなに安いなんて、エライ!」と驚きます。
石渡:今後、スマート家電やHEMSがもっと進化すれば、高齢者の脈拍や血圧まで管理できるようになると思います。ヘルスケアというのも、これからの家電製品の大きなテーマですから。
神原、石渡:本日はありがとうございました。