そこが知りたい家電の新技術
食事の好みや洗濯の仕方まで! パナソニックが世界各地で進める“生活研究”とは
by 大河原 克行(2015/9/25 07:00)
パナソニックは、白物家電の製品化において、世界各地で生活研究に取り組んでいる。現在、全世界12カ所に生活研究機能を持った拠点を設置。
そのなかでもドイツ・ヴィースバーデンにある、アプラインス社 欧州生活研究所は、技術本部と連携し、技術的要素を踏まえた製品企画提案へとつなげている点が、他の生活研究拠点とは異なる。パナソニックの欧州生活研究所の取り組みを追ってみた。
それぞれの国に合わせた製品開発を、全世界12カ所に生活研究拠点
パナソニックは、アプライアンス事業のグローバル展開において、生活研究を重視する姿勢を取っている。
もともと白物家電は、それぞれの国や地域の文化に根差した製品が多い。主食の違いや気候の違い、生活習慣の違いによって、求められる製品が異なるからだ。また、グローバルスタンダードの規格によって全世界共通仕様で展開できる製品が多いAV機器でも、大音量を好んだり、より大画面のものが好まれるといったように、やはり国や地域ごとの特性が出てくるものだ。
こうしたそれぞれの国や地域における嗜好、ニーズなどを捉えた製品開発を行なうための組織が、生活研究所ということになる。
パナソニックでは、中国、ベトナム、インド、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、台湾、パナマ、ブラジル、ドイツの11か所に生活研究拠点を設置。日本を合わせると12拠点体制で生活研究を行なっている。
ドイツ・ヴィースバーデンの欧州生活研究所は、市場ニーズの調査だけでなく、白物家電などに関わる最先端技術の調査を行なう役割も担っている。
パナソニック アプラインス社 欧州生活研究所・梶浦智彰所長は、「欧州生活研究所は、欧州市場向け白物家電に関して、欧州における中長期の商品コンセプトおよび技術戦略を立案する組織。現在、日本人3人、ドイツ人3人と、英国人、ハンガリー人8人で構成。生活研究に基づく商品企画や仕様の提案、環境・技術・社会トレンドを把握し、商品戦略に反映する役割を担う」とする。
所員は、マーケティングリサーチの経験者、商品企画の経験者、欧州家電メーカーの経験者などさまざまだ。
多岐にわたるリサーチ方法でそれぞれの国の状況を把握
生活研究活動においては、洗濯機および冷蔵庫を担当するスタッフと、ビューティー関連製品を担当するスタッフに分かれている。
そして、生活研究のリサーチ方法は、いくつもの手法を用いている。
たとえば、ウェブを活用したアンケートや、利用者のもとを直接訪れる家庭訪問、実際に家電製品を使っているところをモニターして使い方を観察するエスノグラフィー、専門家へのインタビュー、さらには環境規制などの動向についても研究、調査することになる。
「聞き取り調査も行なっており、最低18人を集めて、2時間の聞き取りをし、それを4回繰り返し、約80人に話を聞いている。また、調査は各国ごとに行なっており、それぞれの国の状況を把握することになる」(梶浦所長)という。
欧州をひとくくりにせず、各国ごとに異なる生活習慣
欧州生活研究所では、いくつかのユニークな視点を持って、生活研究に取り組んでいる。
ひとつは、欧州というひとくくりの捉え方をせずに、国ごとの生活習慣や文化を浮き彫りにするという点だ。
「たとえば、宗教の違いや、天候の違いが地域ごとにある。嗜むアルコールがワインの地域、ビールの地域、ウォッカの地域に分かれていたり、副菜として用いるものがポテトの地域、トマトの地域に分かれるといったことも見受けられる。紅茶とコーヒーでも分けることができるほか、食事を簡単に済ませようとする地域と、ゆっくりと楽しんで食事をする地域という分け方もできる。生活研究をする上では、それぞれの国や地域の特徴をしっかりと捉えることが必要」と、梶浦所長は語る。
ドイツでは、75%の人が白い洗濯物と、色柄の洗濯物を別々に分けて洗濯している。また、英国では75%が昼食にサンドイッチを選択し、短時間に済ませるのに対して、フランスでは多くの人が昼食に1時間以上かけるという風潮がある。
こうした国ごとの違いはキッチンの様子にも見て取れる。
英国では、61%の家庭でガスコンロを使用。バスルームが狭い家が多いため、キッチンのなかにビルトイン型のドラム洗濯機が設置されていることが多いという。
フランスでは、昼食に時間をかけているということからもわかるように、料理に対する関心が高い。その分、キッチンには調理のための、小物家電が数多く置かれている。「料理に関心があるということをアピールするという要素もあるようだ」と、欧州生活研究所では分析する。
さらに、ドイツでは、71%の家庭でセラミックコンロを使用。68%の家庭に食器洗浄機が普及しているという。日本での食器洗浄機の普及率が25%程度であることに比べても普及率の高さがわかる。
「ドイツの人たちはきれい好きという特徴があり、さらにメーカーの技術に対する信頼感も高い」というのがその背景にあると梶浦所長は分析する。
商品企画や仕様を決定する上で、こうした国ごとの違いは重要な要素になる。
2つめには、国ごとの市場動向をしっかりと見極めるという点だ。
たとえば、ドイツのコンロの販売価格は、過去15年間に渡って、平均単価が500ユーロ程度で推移している。だが、最近の購入状況を販売価格別に分析してみると、500ユーロ以下が70%を占めているものの、1,000ユーロ以上の価格帯の購入者が全体の9%を占めていることがわかったという。
「約1割の人が、平均単価の2倍以上のコンロを購入しているのがドイツ市場の特徴。付加価値ゾーンに需要があることが浮き彫りになる」というわけだ。
エモーショナルなニーズを反映
そして、3つめが、エクストリームユーザーの調査に力を注ぎ、そこをターゲットにした製品づくりに着手しているという点だ。これは、日本の市場ではあまり行なっていないアプローチだともいえる。
先に触れたドイツでのコンロの販売動向をさらに分析していくと、実は年齢層などからは、明確なターゲットが浮き彫りにできないという課題があった。どんな調査をしても、1,000ユーロ以上のコンロを購入している人たちのプロフィールが明確にはなりにくかったのだ。
そこで欧州生活研究所が打ち出したのがエクストリームユーザーの特定であった。
エクストリームユーザーとは、いわば極端に振れた考え方や行動をするユーザーのことである。パナソニック アプラインス社 欧州生活研究所の西脇三智子氏は、ユーザー調査について次のように語った。
「高価格の製品を購入した人を調査していくと、特徴的な性格を持った人たちがいることがわかる。たとえば、話好きであるとか、自慢をすることが好きな人。裏を返せば、周りからよく思われていないという人もいる。こうした人たちと1対1で2時間程度話をすると、なぜその製品を購入したのかという特徴的な要素が浮き彫りになる。毎週、パーティーをやっていて、ステーキが焼けるところを見せたいという要望もある。また、素材はステンレスの方が、重厚感があっていいというようなニーズも出てくる。サイズや重さについても、要望がある。そうした話をまとめて、エモーショナルなニーズを製品仕様へと落とし込む活動を行なっている」
もうひとつの特徴が、技術本部と連動した体制を構築しているという点だ。
生活研究によって得た衣類や洗剤、保存食品などの最新トレンドと、実際に使用されている生活空間の床材、背面材、周辺温度の環境などを組み合わせ、ラボを活用したテスト環境を実現。求める衣類の柔軟性、芳香に対する官能評価、冷蔵庫のユーザビリティや、周りの環境と組み合わせた本体外観に対する評価などをしている。
実際に使用する場所を想定し、温度や材質を柔軟に組み替えて再現。より生活空間に合わせた形での実験が行なえるという。
欧州プレミアムの定義の明確化へ
パナソニックは、2009年に欧州白物市場に本格的に参入した。
「当初は、使用実態調査をもとにして、初期設定をどうするか、操作ボタンの位置をどうするかといったことを基本仕様に反映した。家庭訪問をして、ドアの大きさや小物ケースのサイズは、どのぐらいが最適なのかといったことも考えた。だが、2014年度以降は、調査から顧客ターゲットを明確にし、そこに向けた商品企画や仕様の決定へと反映させる活動へと歩みを進めている。IFA 2015で展示した、ワイヤレスで通電するコードレスキッチン家電もその提案のひとつになる」(梶浦所長)とする。
2017年度までは、顧客ターゲットを明確にした上で、調理家電やビューティー家電を中心に、新たな商品コンセプトを提案していくことが、欧州生活研究所の役割になるという。
そして、2018年度以降は、プレミアムライフスタイルの提案へとつなげていきたいという。
「未来を予測した中長期のロードマップを描くことになる。欧州現地の産官学と連携し、商品を横串で結んだ住空間を提案するモノづくりを目指したい。また、欧州視点でのプレミアム商品のコンセプト提案にも取り組む。セレブリティの徹底研究とともに、欧州プレミアムの定義の明確化と、欧州生活研究所から発信した商品を連打していきたい。さらに、お客様の言葉を商品仕様に反映するなど、エモーショナルなニーズを商品仕様へと落とし込むことにも取り組む。技術本部との連動によって、先行技術開発を活用し、憧れを具体的な形にしていきたい」と、梶浦所長は語る。
パナソニックは、2018年度には、欧州のコンシューマ製品で177億ユーロ(約2兆3,500億円)の販売目標を掲げるとともに、アプライアンスの売上高を、2018年までに2倍以上にする目標を打ち出している。
そして、「コンシューマ製品を、欧州における次の柱にする」(パナソニック アプライアンス社・本間哲朗社長)と宣言。白物家電事業においては、「憧れの暮らし」の提案を加速する姿勢を打ち出した。
欧州の白物家電事業の成長戦略において、欧州生活研究所が果たす役割は大きいといえる。欧州生活研究所による研究、調査活動が、次のパナソニックのモノづくりにどう反映されるかが楽しみだ。