大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニックの成長戦略に、家電は必要なのか?

~売上目標10兆円を掲げる新戦略を読み解く

パナソニック 代表取締役社長の津賀一宏氏

 パナソニックは、創業100周年を迎える2018年の売上高目標として、10兆円を掲げる。

 先ごろ発表した新たな事業方針のなかで、パナソニックの津賀一宏社長は、家電事業における2018年度の売上高を、当初の2兆円から、2兆3,000億円へと拡大することを発表。なかでも、中国やインドを中心とする戦略事業地域において、家電事業の売上高を9,000億円規模に拡大する計画を公表。日本の1兆円に匹敵する規模にまで拡大させることを示した。一方で、課題事業となっているエアコン事業のテコ入れに乗り出す一方、成長の柱に据える住宅事業においては、このほど「Panasonic Homes & Living」という新たな事業ブランドを創出。事業成長を加速させる考えを示した。パナソニックの中期的な取り組みを、家電事業を中心に追ってみた。

1兆5,000億円規模の赤字からわずか2年で回復基調へと舵

 パナソニックは、4月下旬にも発表予定の2014年度業績において、営業利益で3,500億円を達成する見通しを明らかにしている。これは、2015年度を最終年度とする中期経営計画「CV2015」で掲げた目標を、1年前倒しで達成するものだ。

 また、この中計期間内の3カ年における累計フリーキャッシフローは、6,000億円以上を見込んでいたが、2014年度までの2年累計で8,000億円以上が見込まれており、これも1年前倒しで達成することになる。

 そして、CV2015ではもうひとつの目標として、営業利益率5.0%以上を掲げているが、これに関しては、4.5%という営業利益率に留まり、現時点では達成はしていない。だが、これについても、2015年度計画では、5.4%を計画。パナソニックの津賀一宏社長は、「5%以上の『以上』という部分にこだわっていきたい」とする。

 このようにパナソニックの業績は、着実に回復の道筋を歩んでいる。

 2011年度、2012年度の合計で1兆5,000億円規模の赤字を計上したパナソニックは、それからわずか2年で、回復基調へと舵を切ることに成功した。

 3月26日に行なわれた2015年度経営方針説明会では、課題事業としていた、テレビ/パネル、半導体、回路基板、携帯電話、光デバイス、エアコン、DSC(デジタルスチルカメラ)の7つの赤字事業において、2014年度中に方向付けが完了し、携帯電話、エアコン、DSCでは2014年度中に黒字化することを明言。「CV2015における事業構造改革は完遂したと認識している」と宣言してみせた。

 今後は、通常投資に加えて、1兆円規模の資金を「戦略投資」として計上。非連続な成長を実現するためのM&Aや、成長を加速させるための積極的な研究開発投資、宣伝投資も行なうと発言。戦略投資は、力強い成長戦略を遂行するためのカンフル剤になる。

 津賀社長は、「2015年度からは、売上成長による利益創出の実現に大きく舵を切る」として、今後の成長戦略シフトに強い自信をみせた。

自ら掲げた“売上高10兆円”に自信と裏付け

 こうした自信に裏付けもあったのだろう。

 「昨年、10兆円という目標を掲げたら、達成できるのかとぼろくそに言われた」と津賀社長は振り返りながらも、創業100周年を迎える2018年度の目標に掲げる売上高10兆円の詳細な内容にも言及してみせた。

 これまで同社で明らかにしていたのは、家電2兆円、住宅2兆円、車載2兆円、BtoBソリューション2兆5,000億円、デバイスで1兆5,000億円という構成比のみ。だが、今回の会見では、日本、欧米、海外戦略地域という3つの地域軸、家電、住宅、車載、BtoBソリューション、デバイスという5つの事業軸を組み合わせた15個のマトリクスにおいて、2018年度の個々の数値目標を明確に示してみせた。

2018年度の売上目標10兆円の詳細な内容にも言及した

 このなかで成長事業に位置づける住宅、車載の売上高目標は、ほぼこれまで通りの数値を踏襲したが、その一方で、家電事業については数値が上方修正されるなど、その重要性が改めて強調されたともいえる。

家電を2桁成長の成長事業として再定義

 その家電事業におけるポイントは2つある。

 ひとつは、これまでは2兆円という横ばいの見通しであったが、今回の発表では、2018年度に2兆3,000億円とし、2014年度比での成長率を16%増と、2桁増を見込むことにした点だ。売り上げ規模では住宅の2兆円、車載の2兆1,000億円を上回ることになる。

 だが、津賀社長は、「アプライアンス社において、マーケティング機能を組み込むなど、新たな枠組みとした結果、2兆3,000億円になったまでの話であり、これまでの2兆円の目標とそれほど違いはない」と説明する。しかし、2桁成長という新たな方向性が示されたことは、パナソニックが家電事業を成長事業のひとつとして再定義したことの証ともいえる。

 ふたつめは、その成長戦略において、海外戦略地域における大幅な事業成長を見込んでいる点だ。

 海外戦略地域における2018年度の家電事業の売上高は9,000億円。2014年度比の成長率は60%増となる。いまの事業規模を1.6倍に拡大する計画だ。

海外戦略地域における2018年度の家電事業の売上高を9,000億円とした

 そして、この9,000億円という規模は、2018年度の日本における家電事業の規模を1兆円と見込んでいるのに比べても、ほぼ同等規模になる。つまり、2018年度のパナソニックの家電事業の姿は、日本と海外戦略地域が両輪となる形で事業を推進することになるのだ。さらに、これに欧米の4,000億円を加えると、海外比率は55%以上を占める構図になる。

 また、海外戦略地域という軸でみれば、2018年には同エリアで2兆7,000億円の売上高を計画。そのなかで家電事業が9,000億円と最大規模を誇ることになる。日本と欧米では、家電事業が3番目の売上高規模になっていることと比較しても、海外戦略地域において、家電事業が重要な役割を担うことが明らかだ。

 「成長のコアになるのはアジアと中国」と津賀社長がいうように、海外戦略地域は重要拠点。そのなかで「海外戦略地域では家電事業が成長を牽引する」と位置づける。言い方を変えれば、2018年度までの家電事業の中期的成長においては、海外戦略地域の攻略が最重要課題になる、というわけだ。

アジア地域を本気で攻略しにかかる

 では、海外戦略地域においては、どんな事業プランを持っているのだろうか。

 家電事業において推進役となるのは、4月に設立したAPアジアおよびAP中国である。APとはアプライアンスの意味であり、まさに、海外戦略地域における家電事業の成長を担うことになる。

 両社に共通しているのは、「地域のニーズにあった商品およびサービスを、地域の責任で迅速に市場投入する」という点。さらに、「開発、製造、販売の機能を集約し、日本から、権限を大幅に委譲することで、事業拡大を加速する」と続ける。

 つまり、ミニパナソニックともいえる組織をアジアおよび中国に設置し、そこからそれぞれの市場に向けた製品を、開発、製造、販売するというわけだ。

 津賀社長は、「APアジアでは、ベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国を重点国とし、ここを徹底攻略する。また、Japan Premium商品によって、『憧れ』を生み出すような戦略的なマーケティングを展開する」と語る。

 また、「AP中国では、富裕層にターゲットを絞り込み、プレミアム商品に開発リソースを特化。中国のローカルメーカーとは一線を画した商品展開を行ない、プレミアムゾーンにおけるニッチトップを目指す」とする。

 さらに、海外戦略地域においては、アジア、中国とともに、重点市場となるインドにおいて、同社の山田喜彦代表取締役副社長がデリーに駐在して、インド市場向けの製品づくりに取り組んでいるところであり、これも、同エリアにおける家電事業の成長に弾みをつけることになる。

 これまでにもアジアや中国地域においては、重点地域として家電事業の拡大に取り組んできた経緯があったパナソニックだが、残念ながら大きな成果にはつながっていないのが実態だ。

 津賀社長は、「いままでは、プレミアムゾーンおよび中級以上のゾーンに対して、本気で品揃えができていなかった。いや、やっていなかったといった方が正しい」と前置きし、「結果として、日本に過度な注力をしており、海外で戦えるラインアップが揃っていなかった。これからはそこをしっかりとやっていく」と語る。

 ナンバー2となる山田副社長のインド駐在、APアジア、AP中国という新たな組織の設置は、まさに地域完結型経営の仕組みをそれぞれのエリアに導入するものであり、これまでの取り組みとは大きく異なる。ようやくといっては失礼かもしれないが、本気でアジア、中国、インドを攻略しにかかる姿勢が伝わってくる。

課題事業から脱却したエアコン事業は?

 家電事業が成長戦略を描く一方で、2014年度まで課題事業であったエアコンは、黒字転換したものの、2015年度も「改善にこだわる事業」とする6つの事業のなかに含まれる。ここで示された6つの事業とは、エアコン、ライティング、ハウジングシステム、インフォテインメントシステム、二次電池、パナホームだ。

営業利益率が5%未満の大規模事業部を「改善にこだわる事業」として挙げた

 「これらの6つの事業は、売上高が3,000億円以上の大規模な事業部であるにも関わらず、営業利益率が5%未満。この6事業部の収益性を改善できれば、全社の増益への貢献度が大きい」と津賀社長は語り、売り上げ、利益改善に取り組む姿勢をみせる。

 具体的には、2015年度において、6事業部合計で1,500億円の売り上げ増、390億円の営業利益増を見込んでおり、これが、2015年度の全社の売り上げ増、利益増の大きな部分を占めているという。

 「これを達成すれば、6事業部の営業利益率は3%台から、5%水準へと改善することになる」という。

 パナソニックのエアコン事業は、家庭用ルームエアコンで、国内でトップシェア。グローバルでも約9%のシェアを持つなど存在感がある事業のひとつだ。一方で、ビル用マルチエアコンや吸収式冷凍機などの大型空調事業でも特徴を持つ。

 だが、中国でのエアコン事業が不振に陥り、昨年来、在庫適正化に取り組んできた経緯がある。また、海外生産からの日本への持ち帰り方式による円安の逆効果が収益性を悪化させていた。

 すでに中国市場における家庭用エアコンの在庫適正化は完了。今後は市場の要求に合致した製品づくりに力を注ぐ姿勢を示す一方で、パナソニックでは、4月1日付で、エアコンカンパニーを新設。家庭用エアコンと業務用エアコンの事業を集約し、独立性を高めるとともに、責任を明確化する体制へと移行した。

 津賀社長は、「エアコン、家電プラットフォームに頼ったやり方では限界がある。収益性を高めるため、大型空調、業務用空調にリソースをシフトしていく。大型空調はかなり下の方の順位であり、まだ拡大の余地はある」と語る。

 これまでアプライアンス社の利益の多くを稼いできたエアコン事業の早期復活は、パナソニックの成長曲線の描き方に大きく影響することになる。

家電、設備、住宅事業を合わせ持つ唯一の会社として強みを活かす

 もうひとつ、パナソニックの成長戦略を担う事業として見逃せないのが、住宅事業である。住宅事業は、2018年度までに2兆円の売上高を目指すが、その成長率は2014年度比で51%増と高い伸びを維持することになる。

住宅行では、エイジフリー事業、リフォーム事業、海外事業を核として、2018年度売上2兆円を掲げる

 住宅事業においては、2018年度に1兆6,000億円と、売上高の8割を占める日本での取り組みが最重要テーマとなる。

 津賀社長は、「パナソニックは、家電、設備、住宅事業を合わせ持つ唯一の会社。その技術と知見の掛け合わせで、新しいくらしの価値を提供し、強みを活かす」と語り、「収益源となる国内の住宅設備およびサービス事業では、強みとなる物販事業の拡大に加えて、エイジフリー事業の展開をさらに加速する。エイジフリー事業では、介護用品からサービスまで、介護を必要とする人たちのくらしを、トータルでサポートできるパナソニックの強みを活かせる」とした。

 パナソニックは、今年3月に、ショートステイなどの在宅介護者向けサービスをワンストップで提供できる施設「パナソニック エイジフリー登戸」を開設。同モデルを全国展開し、エイジフリー事業全体として、2018年度には、現在の3倍となる1,000億円の売上高を目指す計画を打ち出した。

 また「パナホームが主体となる国内の住宅事業では、リフォーム事業において、業界No.1に挑戦。ここでは、リノベーションから部品取り付けまでを担う総合リフォーム会社として、事業を拡大する考えだ」と語る。

ショートステイなどの在宅介護者向けサービスをワンストップで提供できる施設「パナソニック エイジフリー登戸」
リフォーム事業では業界No.1を目指す

 リフォーム事業では、ショールームをさらに拡充することで、顧客との接点強化を図る一方、分散していた元請機能の一元化により、商圏エリアを拡大。2018年度には、部材販売を含めたリフォーム事業全体として、5,800億円規模へと売上高を拡大させる計画を示した。これは、現在の売上高の約1.7倍になるという。

 さらに、「住宅事業の海外展開については、台湾およびASEANでの展開を本格化。台湾では、現地デベロッパーとの合弁で事業を推進し、ASEANでは、新工法を用いた地域密着型の専用住宅を投入することにより、ボリュームゾーンの攻略と、スマートシティ案件の展開を進める」と語った。

 住宅事業に関しては、1兆円の戦略投資を活用して、M&Aも視野に入れた事業拡大も想定しているようだ。

新たな住宅および住空間における事業ブランドとして「Panasonic Homes & Living」を創設

 こうした成長戦略を加速させるために、パナソニックは、新たな住宅および住空間における事業ブランドとして、「Panasonic Homes & Living」を創設。リフォーム事業やエイジフリー事業のほか、太陽光発電システム「HIT」、IHクッキングヒーターなどにもこの事業ブランドを使用していくことになる。

 同社では、これとともに、車載関連事業では「Panasonic AUTOMOTIVE」、BtoBソリューション事業では「Panasonic BUSINESS」という新たなブランドを創出。それぞれの事業領域においてブランドイメージを強化していくという。

パナソニックは家電以外のブランドイメージ獲得のため、Panasonic Homes & Living、BUSINESS、AUTOMOTIVEの3つの事業ブランドを導入する

2018年度の成長戦略で家電事業を重視

 パナソニックは、2014年度には、7兆7,500億円の売上高を、2015年度には8兆円、2016年度には8兆4,000億円、2017年度には9兆1,000億円とし、2018年度には10兆円を目指すことになる。

 「2015年度からは、1年1年が勝負の年だという認識で事業を進めていく。そして、2018年度の創業100周年を迎えたときに、どんな会社になるのか、どんな貢献を社会にできるのか、どんなイメージを作るのかということを考え、売上高10兆円、あるいは車載2兆円、住宅2兆円の次はなにかということも考える必要がある」と、津賀社長は語る。

 パナソニックは、今回、新たに打ち出した事業方針において、家電事業を成長戦略に一角に据えることを明らかにした。そして、海外戦略地域における成長エンジンも家電事業に置くことを強調してみせた。

 津賀社長は、社長就任以来、住宅、車載、そしてBtoBソリューションなど、非家電事業への取り組み強化を前面に打ち出してきたが、今回の新たな事業方針では、その姿勢に少し変化がみられた。パナソニックは、成長戦略へと大きく舵を切ったことを、強く印象づける一方、再び、家電事業にもフォーカスする姿勢を示したといえるだろう。

大河原 克行