そこが知りたい家電の新技術

なにもしなくてOK! 100のセンサーが快適な生活をサポートしてくれる最新スマートハウス

 スマートハウスと聞いてどのようなものを想像するだろうか。音声認識するスピーカーに向かってしゃべりかける? ロボットがあなたの生活を助けてくれる? 今、アメリカや日本で実際に進んでいるスマートハウスはもっと現実的で賢いものだ。

 米国で100軒以上の導入事例があり、今後2万軒への導入を予定しているスマートハウスシステム「CASPAR.AI」を開発したBrain of Things社(以下、BOT)相談役、飯原淳一氏と、CASPAR.AIの日本への導入を決めたエコライフエンジニアリングの藤井晃氏に話を聞いた。

スマートハウスシステム「CASPAR.AI」を導入した部屋(アメリカ)

米スタンフォード大の研究者が開発

 CASPAR.AIとは、AI研究者が開発したインテリジェンス・ホーム・オペレーティング・システム。スタンフォード大学教授で数々の起業を成功させたデービット・チェリトン教授と、アメリカのロボティクス界の第一人者であるアシュトシュ・サクセナ博士が起業したBOT社で開発された。

 「CASPAR.AIは、100以上のセンサーでユーザーの生活を学習するというシステム。温度、湿度、照度、振動などを感知するほか、カメラ(モーションセンサー)も備えており、ユーザーの動きを常に検知している。センサーは、玄関やキッチン、トイレ、浴室、寝室に至るまで家中の様々な場所に張り巡らされており、ユーザーの生活を学習していく」(飯原淳一氏)

Brain of Things社相談役、飯原淳一氏

 例えば、毎朝6時に起きて、トイレに行って、シャワーを浴びる、その後キッチンで朝食を作る、という生活を続けていた場合、CASPARがこのユーザーの動きを学習する。すると、毎朝6時になったら室内の照明と空調が自動でつくようになる。トイレに行くタイミングや浴室にいくタイミングも学習し、照明や空調システムを自動で制御するようになるのだ。

室内には約100個のセンサーが張り巡らされている

 BOTは、2年前にスタートした比較的新しい会社であるにも関わらず、米国の大手不動産業者との協業により既に100件以上の導入実績があり、現在2,000軒を建設中だという。

 「米国大手のウルフ不動産と進めているビジネスは、2,000~3,000ドルの家賃の部屋に対して、月50ドル払うと、CASPAR.AIのシステムが使えますよというもの。初年度シリコンバレーで20軒程度実施したところ好調で、既に100軒に導入、今後家賃3,000ドルの部屋には全てCASPARを入れるという取り組みが始まっている」(飯原淳一氏)

アメリカシリコンバレーにあるウルフ不動産のアパート

スマートハウスと聞いて期待するようなことは何もしてくれない

 飯原氏は、CASPAR.AIを「スマートハウスと聞いて、期待するようなことは何もしてくれない」と話す。

 「メイドロボットがいるわけでもないし、音声認識による操作も不要。アプリもタブレットも必要ない。ユーザーは普段と同じようにただ生活しているだけ。AIが自動で学習、自分の暮らしにあった動きをしてくれる。使い始めてしばらくは、ユーザーの生活パターンを学習しているので、動きも少ない」(飯原淳一氏)

ユーザーの生活リズムを学習して、照明やカーテンなどが自動で動くようになる。写真は東京・四谷にあるCASPARを導入したモデルルーム
カーテンも自動で開閉する

 CASPAR.AIのセンサーは、コンセントや、照明の壁スイッチなどと一緒に設置されており、収集されたデータは、ユーザーのプロファイルとして自動で設定されていく。そのデータは5秒ごとに収集されている。これらのデータはクラウドではなく、ローカルのコンピューターに一旦集められ、その後、削除されていく。

 「自分が生活しているスペースのデータをとられていると思うと、抵抗があるという人もいるかもしれないが、スマートフォンを持っている時点で、我々の行動データというのは常に収集されているようなもの」(飯原淳一氏)

 現時点ではこれらのデータは室内のシステムのみで活用されており、外にこれらのデータが出てしまうことはないという。

高齢者の見守りサービスとしても期待

 CASPARは高齢者の見守りサービスとしても期待されている。センサーでは居住者の転倒や、火の付けっぱなしなど、様々な情報を得ることができるので、離れて暮らす高齢の家族の安否なども確認できる。実際、アメリカでは、今年10月に同システムを使った高齢者向けアパートがオープンするという。

 「センサーで情報を収集していくことで、例えば、照明のオンオフ1つとっても、それが通常の動きなのか、それとも異常なのかというのを判断できる。異常を検知した場合、しかるべきところに連絡を入れるといったシステムを想定している」(飯原淳一氏)

日本でも100万円ほどで、導入可能

 米国での成功に目を付けたのが、エコライフエンジニアリングだ。空調機の取り付けからスタートした電気屋で、最近は家庭用太陽光発電システムの設置なども多く取り扱っているという。

エコライフエンジニアリングの藤井晃氏

 「CASPAR.AIのセンサーはスイッチの中など表面上は見えないように設置する。そこに我々のノウハウを活かせる。システムだけでなく、施行もセットで考えている。まずは、既築の家、特に太陽光発電システムを発注した家庭を対象に営業を進めていく」(エコライフエンジニアリングの藤井晃氏)

 エコライフエンジニアリングが販売するシステムでは、照明、カーテン、換気扇、冷暖房、ドアロック、玄関カメラ、火の元、防犯などの機能を組み込む予定で、価格は2DKマンションに基本仕様の機器導入で100万円前後、システム使用料として月8,000円前後を想定する。

“WoW"が溢れた存在感を感じさせないスマートハウス

 ウルフ不動産がアメリカで行なった調査がある。用意した住宅では、照明、温度管理、監視カメラ、カギ、カーテンの開閉を自動で行なえる。その方法として、センサーで感知して自動で行なうCASPAR.AI、アレクサなどに代表される音声認識、アプリによる操作、従来同様スイッチによるマニュアル操作の4つの方法を用意した。

 1日平均で110回ほどの動きがあったが、そのうちAIによる動きは90回、音声操作による操作は6回、アプリ操作は1.5回、マニュアル操作は9回だったという。つまり、AIによる自動操作がで動きを検知する方法が圧倒的に便利だったということだ。

 「CASPAR.AIを実際に導入した家庭からは、たくさんの“Wow!”が帰ってきた。例えば、1年間エアコンのリモコン操作をしなかった、カーテンの閉め忘れがなくなった、カギの閉め忘れがなくなった、家の鍵の閉め方すら忘れてしまった、壁にあるマニュアルスイッチの位置や機能を忘れてしまったという声もあった。

 ただし、これらの驚きをユーザーが実際に目撃することはない。全ては自然に、自動的に行なわれているので、ユーザーはただいつも通りリラックスして過ごしていればいい。どう使うのか、マニュアルもないし、ユーザーが仕組みを知る必要もない。それがCASPAR.AIなのです」(飯原淳一氏)

 同社のシステムは、アップルやAmazonの音声認識サービスとも互換性を持たせているほか、フィリップスのLED照明「Hue」とも連携している。BOTが作っているのは、あくまでAIのシステム部分のみで、照明や家電のハードウェアは他社が開発したものを使う。

フィリップスのLED照明「Hue」とも連携している

 「スマートハウスはまだ発展途上で、アプリや音声認識、クラウドシステムを使ったものなど玉石混合の状態だ。それらが間違っているとはいわないが、我々は、存在感を感じさせないスマートハウスを目指している。必要としているのは、居住者の習慣を覚えるシステムであって、メイドロボットではない」(飯原淳一氏)