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東京電力とゼンリンが手掛ける大規模プロジェクト「ドローンハイウェイ構想」とは?
2017年5月23日 07:00
東京電力が面白いことをやりだした。しかも電気とぜんぜん関係ないし(笑)、地図屋さんのゼンリンを巻き込んでの大規模プロジェクト。この珍妙な異文化交流で世界が楽しくなりそうなプロジェクト、それが「ドローンハイウェイ構想」だ。
「ドローンの東名高速道路でも作って通行料取る気かよ!」と思ったあなた! 当たらずといえども遠からず! 一般に公開するか否かは別として、東京電力の持つ送電線網と、日本の99.6%をカバーするというゼンリンの地図を使ってドローンを自動運転して、出発地から目的地まで、自動で飛ばそうというのだ。
近頃報道にあったヤマト運輸の過酷なドライバー業務と、通販サイトのamazon間での請け負い業務見直しなど、物流の問題が表面化している。ドローンハイウェイ構想は、近未来の物流を大きく変える、革命的なインフラになるかもしれない!?
貨物専用の高速道路はどうやって作るのか?
実は貨物専用線は、すでにあなたの家の近くにも設置されている。それは、東京電力はじめ、各電力会社が維持・管理している高圧送電線だ。そう、おそらくあなたの家からも見える巨大な鉄塔。おもに発電所から遠隔地の都市などにつながっているが、万が一電線が切断されてとしても、そこを迂回して電力を供給できるように送電網はグリッド(格子)状になっている。さらに原子力発電所などでご存知の通り、長距離ダイレクトの直通経路などもある。
東京電力の場合は、高圧送電線の鉄塔が5万基、電線の総延長は15,000km(東京-南米ペルーあたりぐらい)。家の前にあるコンクリート製などの配電柱が590万基、配電線の長さがおよそ34万km(地球8周)あるのだ。
ドローンのハイウェイは、この高圧線をはじめとした送電網に沿って飛ばそうというのだ。しかし高圧送電線は、家庭用の電源ケーブルのようにビニールで被覆していない。多くの場合は、極太のアルミの電線よじったもの。イメージで言うなら正月の神社の太いしめ縄がアルミでできた感じのものなのだ。
えっ! マジ!? 危ねぇーじゃん! なのだが、高圧送電線に流れる電圧は、何十万から何万ボルト。一般家庭の何千倍のあるので、たとえビニールで被覆しても、数m近寄っただけで、ビニールを通り越して青白いアーク放電というのが飛んでくるのだ。言い方は悪いが、焼け石に水なので被覆しても無駄ってわけ。
そこでドローンは、高圧送電線から少し離れた場所を、送電線に平行して飛行する。これなら落下しても送電線をショートさせたり、切ってしまうことがない。
さらに高圧送電線は、一定区間ごとに変電所を持っている。ドローンハイウェイ構想では、この変電所をステーションとして活用しようという。出発地や目的地、ドローンの離陸・着陸を行おうというのだ。言うなれば宅配便の近所の営業所というワケ。
これらの変電所や送電線の位置情報を、地図上にプロットして経路や位置情報を把握したり、経路そのものを探索するために必要なのが、日本全国をカバーするゼンリンの地図なのだ。
経路の目印と地図があれば、あとはドローンに搭載のGPSを使い自動運行ができる! はずなんだが、詳しい方はお分かりの通り、車のナビゲーションなどで利用する一般的なGPSでは、電線と平行して飛行する精度は期待できない。これは筆者の予測だか、おそらく高精度DGPSのOmniSTAR(精度20cm)、さらに高精度なRTK-GPS(精度数cm)などのインフラ整備も必要になるだろう。
ドローンでどうやって長距離便を運航するか?
さて電池とモーターで飛行するドローンの問題点は、なんといっても飛行時間の短さ。必然的に、飛行距離も短い。しかも荷物を運ぶとなれば、最大荷物積載重量(ペイロード)を稼ぐために、本体はできるだけ軽くしたい。となるとドローンに搭載できるバッテリーもますます少なくなり、飛行距離が短くなってしまう。
理想はリチウムイオン電池以上にエネルギー密度が高く、軽い電池の開発が待たれるところだ。しかし現実的に考えると、電池の充電や交換が必要になる。もっとも燃料水素電池なら、水素を充填するだけで、車にガソリンを入れるように短時間でチャージできる。しかし、スパークする可能性のある電気の近くで、水素を扱うのは安全上問題がある。
そこで自らのバッテリを充電する充電ステーションとして機能するのが、各地にある変電所だ。本来変電所は、高圧送電線の電圧を落とし、近所の電柱に送電をする電圧まで下げる施設だが、わずかに余った敷地を有効活用し、ドローンの充電ステーションを作ろうというのだ。
ロボット掃除機よろしく、電池が足りなくなったドローンは自動的に充電ステーションに着陸。自動的に充電が始まり、フル充電となると再び次の目的地や充電要の変電所まで飛び立つ。速達便の場合は、充電に時間がかかるため、すでに充電済みのバッテリーと交換するという案もあるという。
ん~、めっちゃSFチックなんだけど、すぐにも実現できそうな仕様だけに、完成が楽しみでならない!
セキュリティ対策や飛行経路維持管理、管制はどうするのか?
実際にコンクリートやアスファルトを打って整備する道路ではないが、ドローンを安全・正確に飛ばすには、それなりのインフラ整備が必要だ。東京電力では、2020年の運用開始に向かって次の3ステップのロードマップをひいている。
第1段階となる2017年は、3次インフラ情報の整備開始。「セーフティー」をキーワードに、送電線や送電鉄塔、変電所、配電線(電柱の送電網)、電柱など、送電網をレイヤー化してインフラの整備を進めるという。
第2段階は、2018年に予定している「セキュリティ」。ドローンをいかに誘導するかという「誘導プラットフォーム」の研究開発。おそらくこの中には、ドローン同士の衝突回避や、急激な気候の変化によるアクシデントへの対応、またその防御策なども含まれるだろう。さらに悪意ある外部からの物理攻撃からの回避もクリアすべき課題のひとつだ。
最終的には、2年後の2019年に「ロングフライト」を目標としている。先ほど紹介した、変電所で充電を行なう「ドローンポート」の開発などが予定されている。
すでに飛行機というお手本があるので、敷居の低い課題もあるだろう。しかし無人、低高度、飛行距離の短さ、ドローン自体の経験の浅さもあるため、高い山を越えなければならないことも多い。
筆者が注目したいのは、飛行機でも最近になってようやく実現できた、ダウンバースト対策だ。局地的な下向きの強烈な風は、予測できなく検知するレーダーが必要になる。これをどう小型化し、実装するのか楽しみだ。
電柱を使えばドアtoドア配送サービスも可能に!
東京オリンピックが開催される3年後の2020年に、ドローンハイウェイ構想は実用化するとしている。実現の暁には、何がどのように変わるだろうか?
まず考えられるのが、ネット通販の当日配達サービスの拡充だろう。個別のお宅への配送までドローンがやってくれるのは無理としても、各地域にある通販のロジスティックセンターや、スーパーなどの倉庫から、配送近所の変電所やコンビニまでの配送などは、格段に早く、ドライバーの負担も少なく、大量の小口貨物の移動手段を大きく変えるはずだ。
筆者が言葉をつけるとするなら「μ(マイクロ)ロジスティクス」。重さ数kg以下の小型貨物のロジスティクスを大きく変えるだろう。
さらに送電設備そのものの維持管理にも役立つことは確実だ。どちらかというと、東電はそちらをメインで、その合間に物流事業も兼業し研究開発を平行するかも知れない。
さらに期待できるのは、農業への転用だ。日本の農業の大部分は、アメリカや北海道のように大規模ではないため、飛行機や大型機械を使った農業はやりづらい。とはいえ、高齢化も進んでいるため人手で作業するには土地が広すぎというジレンマに陥る。こんなときに有効なのが、ドローンによる空中散布や作物の監視だ。
災害対策などでも大きな威力を発揮するだろう。東日本大震災のように、点々と孤立してしまった地域への物流網として、また当初の連絡網として活躍するのは確実だ。災害時に足りないヘリコプターの代用として、ヘリが離着陸できない場所へのアクセスも可能だ。
さらに瓦礫で地上からはアクセスできない場所、精度が上がればいまだ立ち入ることができない原子力発電所内部に入り込み、現場の把握や作業のピッチを進められる可能性だってある。
今はオモチャでも数年で確実に「使える」ものになるドローンに期待
今はまだ「ブラタモリ」のオープニング映像で毎回使われたり、観光地のPVなどで使われ、これまで見たことのない映像を撮る程度にしか使われていないドローン。
しかし政府がロジスティクスに活用することを本気で考え、法整備を進めるなかにあって、確実にドローンハイウェイ構想は現実に近づくだろう。しかもここ数年で実現するプロジェクトだけに、日々の変化も大きく、着実に未来が近づいてくるのが分かる。
今までSF映画出しか見られなかったような光景があと数年で見られるのが楽しみだ。