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韓国で爆発的人気! 新しくて便利な「LG Styler」って?

気になるニオイやシワを一晩ですっきり仕上げる

 飲み会から帰宅後、タバコや汗、その他いろいろなニオイにまみれたジャケットをかけておくだけで、翌朝にはあら不思議、ニオイはすっきり消えて、シワまで取れている! そんな夢のような製品があるのをご存知だろうか。それが、独自のスチーム機構と自動でスウィングするハンガーラックが搭載された「LG Styler」だ。

独自のスチーム機構と自動でスウィングするハンガーラックが搭載された「LG Styler」

 大きなロッカーのような本体の扉を開けると、中は一般的なクローゼットのような造りになっている。ハンガーラックと、棚、扉にはパンツをかけられるスペースも用意されている。本体下の部分には、大きなタンクが2つ備えられており、ここで給水と排水が行なわれる。約90℃の高温スチームと1分間に180回の振動で、衣類のシワやニオイ、花粉や埃まで取り除くという。中にタンクが設けられているので、特別な工事な工事なども必要なく、スペースと電源さえあれば、どこにでも設置できる。

縦型のロッカーのような本体
中を明けると、ハンガーラックと棚、扉にはパンツをかけられるスペースも用意されている

 2011年に初めて製品化し、これまで韓国本国を始め、アメリカでも大ヒット。2017年1月に満を持して、日本での発売をスタートした。これまでにない、全く新しいタイプの製品だが、韓国の大手家電メーカー、LGエレクトロニクスはどのように開発、販売を進めてきたのか、韓国にある本社まで、話を聞きにいった。

韓国の家電製品のパイオニア

 そもそも、LGエレクトロニクスという会社は、前身となるラッキー工業という会社が1947年創業で、当初は化粧品や洗剤などの化学製品を扱っていた。1958年に金星社をスタートしてからは、化粧品の中身だけでなく、ケースも作り始め、その後、ラジオの外側カバーを作り始めたのをきっかけに、ラジオそのものの開発をスタート、韓国製のラジオを初めて作った会社だ。洗濯機、冷蔵庫、テレビに関しても韓国製の製品を初めて作ったのは、LG Electronicsだ。ちなみに、現在のLG Electronicsという社名に変更したのは、1995年だという。

 家電製品に関してパイオニア的な役割を果たし、次々に新しい製品を開発してきた。

LG Electronics H&A事業紹介 アプライアンスIMCチーム 課長 ビョン・ホギョンさん

 「LG Electronicsは、ドラムを2つ搭載した二槽式洗濯機のツインウォッシュなど、今までなかった製品を多数発売しています。これらの製品やアイディアは、ユーザーとのコミュニケーションから生まれるケースが多いです。たとえば、ツインウォッシュなら、色柄ものなどを分けて洗う人が多いという声から、ドラム式洗濯機でも、二槽式が可能なのではないかというところに着想を得て、開発をスタートしています。

 LG Stylerに関しても一緒です。韓国では、1日着ていてニオイやシワが付いた衣類は、クローゼットにしまわずに風通しのいいところにかけておいたりしていました。

 またデリケートな衣類をどのように乾燥させるかという問題もありました。乾燥機で衣類を乾かしても、シワが付いてしまって、追加でアイロンがけをする必要があったり、あるいは、そもそも乾燥機にかけられない衣類というものもあります。これらは、人々が生活する上で、日常的に行なっていることではありますが、不便です。出かけるときに、着たい服を快適な状態ですぐ着られるような製品が必要だ、と思い、そちらのカテゴリの開発を進めました」(LG Electronics H&A事業紹介 アプライアンスIMCチーム 課長 ビョン・ホギョンさん)

 製品開発を進める上では、似たような類似製品がないかどうか、全世界をチェック。ユーザーが何を本当に望んでいるか徹底的なマーケティングも行なった。そこで完成したのが、高温スチームと、振動するラックにより、衣類のシワやニオイを除去するという、全く新しい“ホームクリーニング機”だ。

アプライアンスB2B営業チーム日本担当 次長 キム・ホンシク氏

 「スタイラーの主な機能は、衣類の乾燥、殺菌です。スチームが生地に浸透し、振動させることで、微細な汚染物質を外に放出します。太陽光で衣類を乾燥させるよりもはるかに高い除菌効果を得られます。様々な実験を重ねてきて、99.9%の菌を除菌できること証明されました。

 また、パンツプレスについては、当初は搭載していなかったのですが、ユーザーからの声を反映して新たに搭載した機能です。スタイラーでは高温のスチームを発生させるのですが、スチームが強力なため、パンツのセンタープレスが取れてしまうというユーザーからの声がありました。そこで、新たにパンツプレス機能を搭載しました」(アプライアンスB2B営業チーム日本担当 次長 キム・ホンシク氏)

LG Stylerの主な機能。99.9%の除菌、パンツプレス、衣類乾燥のほか、スリムな本体デザイン、スマートフォンによる本体操作が挙げられている
扉の裏側にはパンツプレスを搭載。これは後から搭載した機能だという

 洗濯が難しい衣類もLG Stylerなら、簡単にケアできるという。

 「ミンクのコートや、ゴアテックスなどは、洗濯すると痛みますが、LG Stylerであれば、生地の持つ性質を維持しながら、しっかりケアすることが可能です。またスマートフォンのアプリをダウンロードすることで、さらに細かく分類されたコースを選択、本体にダウンロードすることもできます」(キム・ホンシク氏)

ミンクのコートやゴアテックスといった、家庭でのケアが難しい衣類もLG Stylerがあれば、生地の持つ性質を維持しながらケアできる

“シャワーを浴びるように服のケアができる”製品

 機能的な面では、高いレベルの製品が完成したが、韓国で発売当時は、セールスの滑り出しは順調とはいかなかったという。

 「これまでにない全く新しい製品ということで、お客様に製品をどう伝えればいいかということに苦労しました。私達は、最初この製品を共働きで高収入を得ている人向けといったコミュニケーションを行ないました。しかし、そうしたことで、多くの消費者がこの製品を高収入世帯だけが使う、特別な製品だと感じてしまったのです」(ビョン・ホギョンさん)

 そこで、同社ではPRのやり方を変更した。約2年にわたる市場調査や、大学教授なども巻き込んで、これまでとは全く違うコミュニケーションを行なった。

 「当初はこの製品を使うことで、ドライクリーニングに頻繁に行かなくても良い、と伝えていましたが、衣類を日常的にキレイにできるものとして、紹介しました。シャワーを浴びるように毎日、簡単に服のケアができる製品だということ徹底して伝えました。

 『リフレッシュコース』や『殺菌コース』など、より分かりやすいコース名を付けたのも、変化の1つです。2014年には大学教授を招いて、製品のコミュニケーションについての研究を行ないました。3カ月にわたる研究の中で、スタイラーを紹介するときは、機能ではなくて、文化について語るのがベターだという結論が出ました。

 ターゲットを絞ることはせずに、全ての家族に向けて、衣類をケアするために便利な製品だとし、ニオイを取ったり、コートやズボンのシワを取ることは付加価値としました。さらに、PM2.5や黄砂、花粉、アレル物質などを有効に除去できる製品というアプローチを開始。どのようなお宅にも置くことができるようにと、本体サイズも大幅にスリム化しました」(ビョン・ホギョンさん)

ターゲットを特定することはせずに、全ての家族に向けての製品PRを開始。結果として、LG Stylerは爆発的なヒット製品となった

 このように、消費者に対するコミュニケーションを当初からガラリと変えたことで、LGスタイラーは爆発的な人気を得た。

 「韓国国内での認知度も高まってきました。しかし、ここまで来るのに5~6年かかりました」(ビョン・ホギョンさん)

共働きの増加など時代の変化にマッチした

 一方、2017年(1月にBtoB向け、3月に一般向けの製品をローンチ)に発売を開始したばかりだ。韓国と日本では、生活習慣の違いはもちろん、電気製品にとって重要な電圧も異なっている(韓国では200V、日本では100V)。製品を日本向けにするためにどのような苦労があったのだろうか。

 「LG Stylerを初めて韓国で発売した2011年当初から、日本市場に対してアプローチしていきたいという想いはありました。実際、市場調査も行ないましたが、そのときは本体の大きさがネックでした。しかし、本体のスリム化に成功したことで、再度、日本市場に目が向くようになりました」(キム・ホンシク氏)

韓国では、2台を組み合わせたモデルも展開している

 そういったタイミングの時に、ある転機が訪れた。毎年1月にアメリカ・ラスベガスで開催されている家電見本市「CES」のLGエレクトロニクスブースに展示していたLG Stylerを見て、ある日本人が興味を持ったのだ。日本では展開していない新しい家電製品を視察にきていたのは、蔦屋家電を経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブの社員で、LG Stylerを見て、「これを日本で売りたい」とLGにアプローチしてきたのだ。

 「日本では、LG Electronicsという会社の認知度が低いのが現状です。液晶テレビや、有機ELテレビ、モニターは販売していますが、まだまだシェアは低い。LGという会社を知る最初の製品としてLG Stylerは最適ではないかと感じました。その後、蔦屋家電の協力を得て、2017年1月にBtoB向けの展開を開始、3月には家庭向けの販売もスタートしました」(キム・ホンシク氏)

 製品を日本向けにする上で、やはり電圧の違いには苦労したという。

 「電圧が違うことで、日本向けの製品は運転時間が、韓国国内向けのものより長いです。しかし、性能については、同一程度を維持しています」(キム・ホンシク氏)

 日本市場でのコミュニケーションについては、韓国市場で得た経験を活かせると話す。

 「韓国国内でのやり方と方向性は一致していると考えています。日本は、衛生や清潔といったことに関しての感心も高く、日本の住環境からいってもスタイラーは合っていると思います。韓国国内で、認知度を高めるのには5年かかりましたが、日本ではそれを1~2年短縮できるのではないかと感じてします。日本においてLGスタイラーは成功し、多くの人に使っていただけるという確信を持っています」(キム・ホンシク氏)

 様々なマーケティングや、ユーザーへの効果的なコミュニケーションを行なうことで、製品認知度を上げ、LG Stylerをヒットへ導いた訳だが、それ以外にもヒットの要因があるという。

 「一番は、生活の変化だと思います。2011年に初めてLG Stylerを発売した時よりも、今の方がさらに共働き世帯が増加しています。夫の服だけでなく、自分の服、さらにバッグや色々なものをケアしたいというニーズがさらに高まっているといえます。また、LG Stylerそのものは、とてもシンプルに出来ているので、使い方に迷うようなことがありません。より様々なコースを使い分けたいという人は、アプリをダウンロードして、使いこなしています」(キム・ホンシク氏)

アプリをダウンロードすることで、本体に搭載されている以外のコースを使うこともできる

 LG Electronicsでは、ユーザーニーズをしっかり把握することで、これまでにない新しい製品を提案。それにより、人々のライフスタイルまで変化してきたという。来週公開予定の後編では、実際にLG Stylerをどう使っているか、ユーザーにインタビューした模様をお伝えする。