老師オグチの家電カンフー

100万ユーザー達成間近のスマートロック「セサミ」現在と今後を代表に聞いた

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
CANDY HOUSE JAPAN代表取締役のジャーミン・グー(古哲明)さん

CANDY HOUSEのスマートロック「セサミ(SESAME)」シリーズ。先日は、より薄型化された「SESAME 6 Pro mini」と、日本の古い家に多い引き戸に対応した「SESAME 6 Pro 引き戸」を発表。宅配ボックス製品やMatter対応のハブなど、家の扉以外にも領域を広げている。セサミの現在と今後について、CANDY HOUSE創業者・CEOのジャーミンさんに聞いてきました。

――ジャーミンさんがスタンフォード大学留学中に創業してから、今年で12年になります。ちょうど干支一回りですね。

ジャーミンさん(以下敬称略):恥ずかしながら、非常にノロノロとした歩みです。現在のアクティブユーザーは97万人。毎月約1万人増えていますので、あと3カ月で100万人を達成できると思います(取材日は7月27日)。売り上げは、もうすぐ20億円になります。

――日本市場がメイン?

ジャーミン:6割が日本で、4割が米国・カナダとヨーロッパです。海外へは、この日本のオフィスからDHLで出荷しています。今はロックが中心ですが、2024年に発売した「Hub3」では、スマートホーム向けの機能を充実させています。

――スマートホームの共通規格であるMatterに対応していて1,980円と激安(公式オンラインストア価格)。ハブはロックを遠隔で施解錠する用途以外にも使われているのでしょうか?

ジャーミン:今は暑いので、外からのエアコン操作が多いです。あとは、スイッチを物理的に操作できる「SESAME Bot」との連携で、例えば17時にお風呂を入れるというシーンで皆さん使われています。

全国のセサミ設置場所と稼働状況がリアルタイムで表示されているモニター。アクティブユーザーは97万人を突破
「Hub3」MatterとWi-Fi、Bluetooth、赤外線に対応。エアコンやテレビなどのリモコンとしても動作する
「SESAME Bot 3」物理的にスイッチを遠隔操作できる

引き戸用スマートロックを開発した理由

――先日は、より薄型化された「SESAME 6 Pro mini」と、引き戸に対応した「SESAME 6 Pro 引き戸」を発売されました。日本の古い家屋に多いイメージのある引き戸ですが、需要は多いのですか?

ジャーミン:全ての鍵の中で、引き戸でパチンとロックするタイプは10分の1ほどです。

――そこに製品を投入するのはリスクじゃないですか。

ジャーミン:単純にやりたいんですよ。日本が好きなので、要望があればそれに対応したい。お金を稼ぐのももちろん重要ですけど、起業したからにはこの社会をもっと良くしたいという気持ちがあります。

「SESAME 6 Pro mini」横幅がスリムになり、サムターン中心軸からドア枠まで20mm以下の扉にも対応する
「SESAME 6 Pro 引き戸」上下にロックをスライドさせる引き戸にも対応

――本体のスリム化と引き戸への対応は同時に開発を進めていた?

ジャーミン:はい。実際は同時に4つの商品を設計していました。先の新製品以外には、宅配ボックスの大手メーカー、ユニソンの「ヴィコスマート DB」に技術提供。セサミのように、交通系ICカードやスマホ、指紋認証で解錠できます。もう一つは、美和ロックと共同開発した組み込み式のスマートロックで、この10月に発売されます。

宅配ボックスの「ヴィコスマート DB」
美和ロックと共同開発した組み込み式のスマートロック(10月頃発売予定)。両面テープなどでの設置作業が不要。美和ロックとCANDY HOUSEは、2025年10月に資本業務提携している

対応アダプターは500種類

――引き戸対応は、ユーザーからの要望も多かった?

ジャーミン:はい。ホームページにはいろんなレビューやコメントがつきますが、すべて私が毎日返信しています。というのも、これでお客さんが何を求めているか、情報が集められるからです。引き戸対応もそのひとつです。

――ほかにもユーザーのコメントから実現したものはありますか?

ジャーミン:たくさんあります。カードリーダーに施錠ボタンを搭載したこともそうですし、室内から鍵を開閉できるリモコンボタン「CANDY HOUSE Remote」もそうです。最初は手でサムターンを回せばいいだろうと思っていました。でもお客さんがこういうものが欲しいと言うので、作って実際に使ってみたら、やはり便利だなと思いました。

室内用のボタン「CANDY HOUSE Remote」。サムターンよりも手が届きやすい場所に設置できるし、スマホを取り出す必要もない
ホームページに寄せられたコメントには、自ら毎日返信しているという

ジャーミン:あともう一つ。サムターンのアダプターも、お客さんから送られてくる写真やお声に基づいて、どんどん種類が増えています。

――初期は、3Dプリンターで作って送っていましたよね。

ジャーミン:はい。ある程度数が多いものについては、金型で作り始めました。それが現在は500種類あります。日本で流通しているタイプはだいたい500種類ぐらいに分けられるんですね。

――1個の単価が数十円なことを考えると、結構途方もない数です。ここまで対応されたら、他社は追いつけなさそうです。

ジャーミン:マーケットがゼロの状態からスタートしたので、こういうやり方しかなかった。大変でしたが、逆にやる気が出ましたね。そのぶん、会社の成長がちょっとノロノロしていますが。だからこそ、他社が撤退する中でも生き残れたと思っています。

――自分の家の鍵にどれが合うかは、どうやって調べたらいいんですか?

ジャーミン:写真を送っていただければお答えしています。ただ、これからはAIで対応するような仕組みを考えています。

――確かに、人が1個1個見て判断するのも大変ですし、AIの方がいいですよね。

あらゆるメーカーのサムターンに対応させるためのアダプター

自社開発のロボットが動く直営店

――今後の予定を教えてください。

ジャーミン:セサミが抱える課題として、単価が安すぎるのでなかなか量販店に展開できないという問題があります。メインはAmazonや自社サイトなので、今までリーチできない人にリーチするため、直営店を東京・東日本橋にオープンします。

――セサミを付けたい人が相談できるお店のイメージですか。

ジャーミン:はい。半分は販売のスペースで、もう半分はカフェになります。まずは、この1号店で経営のノウハウを蓄積して、ゆくゆくは東京都内に10店舗を作りたいですね。そして、店舗の前には、キャンディハウスの深圳オフィスで開発しているロボットを置いて、近未来の雰囲気を作りたいと思います。

――えっ、ロボットも売るんですか?

ジャーミン:売り物ではありません。20年前、ホンダの「ASIMO(アシモ)」の時代は、ロボットを制御するコードを1行1行、人間の手で打たなければなりませんでした。しかし、今は全部ニューラルネットワークで仮想空間上で学習させることができるので、ロボットを作るのはそんなに難しくないんです。

――ソフトバンクのショップにも「ペッパー」がいますが、歩くロボットは目を引きそうです。目指せソフトバンク!

ジャーミン:ノロノロとした歩みでしたが、3年後には東証への上場を目指しています。

――マジですか、上場したら株を買いますよ!

ジャーミン:いえいえ。株にはリスクがありますから、慎重に考えてお願いします。

8月中旬オープン予定の直営店(店内イメージ)
同社が開発中の二足歩行ロボット
台北と深圳のオフィスとは24時間オンラインで接続されている

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>