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かっこいいから、乗るのが楽しい! 便利なスクーター型近距離モビリティを試乗してきた

WHILLの本社内にある試乗スペース(会議室を中心にぐるりと一周できるようになっている)で最新モデルのスクーター型近距離モビリティ「WHILL Model R(ウィル モデル アール)」を試乗してきました

「近距離モビリティ」という言葉を聞いたことがありますか? 2012年創業のWHILL(ウィル)が提案する、歩道を走れる免許不要の乗り物のことです。電動車椅子のことをそう呼ぶようにも思われがちですが、すでにスクーター型も登場しています。

昨年9月に発表されたスクーター型近距離モビリティの2代目モデル「WHILL Model R(ウィル モデル アール)」の試乗を通じ、その乗り心地や使い勝手をお伝えするとともに、自分自身の少し先の未来を考えてみました。

WHILLのミッションは「すべての人の移動を楽しくスマートにする」

先進的なデザインの電動車椅子のスタートアップとして知られるWHILLのミッションは「すべての人の移動を楽しくスマートにする」こと。日産のデザイナー・杉江理さん、ソニーのエンジニア・内藤淳平さん、オリンパスのエンジニア・福岡宗明さんの3人が、いずれも20代の頃に創業しています。

日本では電車やバス、飛行機などの公共交通機関は充実していますが、歩行領域においては徒歩以外の移動手段があまり充実していないのが現状です。もっと手軽に外に出て、移動する楽しみを体験してほしいという思いから生まれ、進化を重ねているWHILLの近距離モビリティ。

フラグシップモデルのチェア型の近距離モビリティ「Model C2」のほかにも、折り畳み可能な「Model F」もあり、豊富なカラバリも魅力です。2022年9月には、同社初のスクーター型近距離モビリティ「Model S」が発表され、歩道を走れるスクーターとして注目を浴びました。

実はこのスクーター型が発表される半年ほど前にWHILL本社を訪れ、チェア型の2モデルの試乗をしたことがあります。手元で操作でき、安定した乗り心地ですいすい進む「動く椅子」にびっくりし、まだ存命だったけれど、すでに寝たきりに近い状態だった高齢の父に「これに乗せてあげたかった」と思ったものでした。

WHILLのフラグシップモデルとなるチェア型の近距離モビリティ「Model C2」
折り畳み可能なチェア型の「Model F」には2022年に試乗経験があります

ハンドルがあると無いのとでは大違い。自転車感覚のスクーター型

今回、再びWHILL本社を訪れ、試乗体験をしたのは新モデルとなる歩道のスクーター「Model R」。2022年秋に発売された「Model S」は、手頃な価格や高出力モーターと大きな車輪で7.5cmの段差も乗り越えるパワフルさが特徴でしたが、このモデルはよりスマートなデザインと、着脱可能なバッテリー、狭い場所でもスムーズに動かせる小回りの利く操作性がポイントです。つまり、より都会的な場所でも乗りやすい近距離モビリティという感じでしょうか。

さて「Model R」に乗ってみることにしましょう。まずはキーを差し込み電源をオンにします。座り心地もよく、広々としたフットプレートにしっかりと足を乗せられるので快適です。ちなみに体のサイズや好みに応じて、シートの高さや奥行き、シャフトの角度の調整もできるとのこと。購入後も「WHILL点検パック」(1回コース・4回コースあり)の利用で、こうした調整やフィッティングはもちろん、メンテナンスもしてくれるようなので、安心ですね。

まずはキーを差し込み電源をオンに

スクエアなハンドル部は、パッと一目で操作方法やバッテリーの残量などがわかるディスプレイがあり、右のアクセルレバーを引けば前進、離せば停止、左のレバーでバックという直感操作ができる設計になっています。

両手を掛けられ、安心感のあるハンドル。バッテリー残量が一目でわかり、+-の速度調整ボタンで4段階で調整できます
右のアクセルレバーを握ると前進し、手(指)を離すとブレーキがかかる仕組み

初めは時速1㎞の「速度1」でスタート。かなり遅いはずですが、どうしても肩に力が入ってしまいます。WHILL本社には会議室のまわりをぐるりと1周できるような広めの廊下があって、これが試乗スペースになっているのです。角を曲がるときには少しハンドルを切りながら、ゆっくり前進。でも1周するころにはかなり慣れてきて、速度も2、3と上げていきました。

広報さんによれば「最初は恐る恐るでもすぐに慣れて、最大の速度4でも遅すぎるという方がほとんどですよ」と。速度4とは時速6㎞で早歩きや小走り程度。これ以上のスピードが出ないので、「歩道を走れる近距離モビリティ」として認められているのですね。

最初は速度1(最高速度1km/h)で恐る恐るスタート。ハンドルを切って方向転換も
2周目になると慣れてきて、速度2(最高速度1.5km/h)でも大丈夫になり、肩の力も徐々に抜けてきました

3年前のチェア型のモビリティでの試乗と比べて、圧倒的な安心感や楽しさがあったのは「ハンドルがあること」が大きいなと。チェア型はコンパクトで圧倒的に小回りが利きますが、前に何もないので慣れないとどこか不安感が付きまといます。スクーター型は、足で漕がないものの自転車感覚で、その名のとおり「スクーター」そのもの。1つの乗り物として誰でも楽しんで乗れるイメージがあるなと感じました。

椅子の下に標準装備されているバスケットは容量15Lで耐荷重6㎏。愛用のリュックも楽々入りました
足元が広々しているので乗り降りもラクで、安定した乗り心地。段差も5cmまで乗り越え可能なので普段の生活に十分とのこと
Model Rを後ろから見たところ。後輪には独立懸架サスペンションを採用していて、車輪が独立して個別に動くため、あらゆる路面で安定性を保って振動を吸収します

その場での旋回もOK。狭い場所でも方向転換できる

Model Rの2大ポイントの1つである“その場旋回”も実際に試してみることにしましょう。広報さんのアドバイスのもと、ハンドルをグイッと右に切って旋回します。途中で少し力が抜けそうになりましたが、無事に1周完了。最小回転半径970mm、つまり1m以内でくるりと回れるのはすごい! これなら、狭い小道やエレベーターの中、駐輪場などでも簡単に方向転換ができて使い勝手がよさそうです。

Model Rの大きな特徴の1つが「その場旋回」。90度近くハンドルを切れるので、後輪を軸にその場で旋回OK。最小回転半径は970mm
その場旋回に挑戦! ハンドルをグイッと右に切って旋回します
途中で力が抜けそうになったのをなんとか堪えて、ぐるりと1周できました!

着脱式のバッテリー搭載で重量も2.7kgなので、本体は車庫は駐輪場に置いておいて、バッテリーだけ外して持ち帰り、家庭用のコンセントで充電して保管するという使い方も可能。まるで電動アシスト自転車のような使い方ができるのはいいですよね。

重量2.7㎏の着脱式のバッテリー搭載。電動アシスト自転車のバッテリーのように簡単に抜き差しできます

先にも述べたように、ハンドル付きのスクーター型ならではの安心感や誰でもが気軽に乗りやすいという利点があったとしても、人通りの多い歩道を走ったり、マンション住まいの人の保管場所を考えるとModel Sではやや難があったかと思いますが、これならぐんと導入のハードルが下がることでしょう。

向かって左が、先行モデルのスクーター型近距離モビリティ「WHILL Model S」(257,000円)。右のModel R(357,000円)のほうがややスリムで軽めです
こちらは後ろ姿

歩道を走れる近距離モビリティの必要性って何だろう?

ここで改めて考えたいのは、「歩道を走れる近距離モビリティの必要性って何だろう?」ということ。WHILLによると、高齢化が加速する中で、500m以上歩くことに辛さや困難さを抱える高齢者は1200万人を超えるといいます。タクシーに乗るほどでもない距離をどうやって移動するか。それはけっこう重要な問題ですよね。

また、特に日本では「歩けるかどうか」が元気(健康)の証であるように言われ、歩かないことは恥ずかしいように感じさせる風潮もあるのが事実。でも少し疲れていたり、体力が弱っているときには近距離モビリティに頼って移動し、行った先での体力を温存して楽しく過ごすというのはとても理にかなっているように思います。

年齢を問わず、歩いていくには少し遠すぎるところには自転車を使うように、ちょっとした移動に近距離モビリティを使うのが当たり前になる日もすぐそこなのかもしれません。

筆者はこの夏には63歳になりますが、今のところ健脚で1日1万歩以上を普通に歩いて発表会や打ち合わせ、撮影などの仕事に飛び回っています。でもこの先、年を重ねて歩くのが辛くなったり、体力に自信がなくなってきたとしてもModel Rに乗って、さっそうと発表会に行けるなと考えるとちょっとうれしくなってしまいます。

「ほら見て、かっこいいでしょ」と自慢しながら、東京・広尾のアトリエから南青山の発表会会場までModel Rで移動する70歳の私。どうです? 未来は限りなく明るく、更なる楽しみが増えそうです。自分はまだまだと考えている方、親御さんへの贈り物にぜひ。

神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。現在は家電+ライフスタイルプロデューサーとして、家電分野のほか、住まいや暮らしなどライフスタイル全般の執筆やコンサルティングの仕事をしている。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーの現場の声を聞くことを大切にしている。 テレビ・ラジオ、イベント出演も多数。