藤山哲人の実践! 家電ラボ
アラジン・トースターの心臓部「遠赤グラファイトヒーター」製造現場に潜入!
アラジン・トースターの心臓部「遠赤グラファイトヒーター」製造現場に潜入!
2020年3月18日 06:00
トースターと言えばバルミューダという声が多いが、赤丸急上昇で注目を集めているのが「アラジン」。ほかにも人気なのが上部から熱を当てる無煙グリラーで、デザインだけでなくふっくらジューシーに美味しく焼けると評判だ。
その心臓部に当たるのは、約0.2秒で発熱する「遠赤グラファイトヒーター」(以下、グラファイトヒーター)と呼ばれるもの。「アラジン」のブランドを展開する日本エー・アイ・シーの関連会社となる、「株式会社干石」が持っている特許だ。
グラファイトヒーターを使った他社製品もあるが、心臓部のヒーターは干石がOEM供給している。
アラジンの家電製品の最終アセンブリ(組み立て工程)は、海外で行なっているのでその様子はお伝えできないが、心臓部のヒーターは国内で製造している。
ここではトーストやお料理は美味しく、身体はポカポカ暖められる、アラジンの魔法のグラファイトヒーターをご紹介しよう。
100の料理を作るより、1本のグラファイトヒーターの性能を説明すれば一目瞭然、百聞は一見にしかずなのである!
グラファイトヒーターって?
家電量販店の暖房器具コーナーに行くと「“〇〇ヒーター”搭載で暖か!」なんてキャッチフレーズをよく見る。そんな耳になじみにあるヒーターと、グラファイトヒーターを比べてみるとこんな具合になる。
ヒーター名称 | 最高温度 | 発熱時間 |
セラミックヒーター | 600℃前後 | 7分前後 |
シーズヒーター | 600℃前後 | 4分前後 |
石英管(ニクロム線) | 800℃前後 | 3分前後 |
カーボンヒーター | 1,300℃前後 | 2秒前後 |
ハロゲンヒーター | 1,300℃前後 | 2秒 |
グラファイトヒーター | 1,300℃前後 | 0.2秒 |
発熱時間は最高温度になるまでの時間。製品によってばらつきがあるので目安程度に考えていただきたい。また最高温度もメーカーによって数百℃のばらつきがあるので、こちらも参考まで。
さて、セラミックヒーターはファンヒーター内部などで使われるので、あまり発熱体そのものを見ることはないし、調理家電でも見かけない。
シーズーヒーターは、ホットプレートの下に仕込まれているグニャっと曲がったヒーターだ。あれを応用したヒーターもある。
一番有名なのは電気ストープやトースターでよく使われている、すりガラス管(石英管)に入ったニクロム線のヒーター。製品によって温度差はあるものの、だいたい800℃ぐらいまでしか発熱せず、温まるまで3分ほどかかるカメさんヒーターなのだ。
カーボンやハロゲンヒーターは、電気ストープなどでもおなじみ。スイッチONですぐ温まるという触れ込みで人気。1,300℃まで2秒ほどで温まるから、ウサギさんヒーター! ここまで早ければストーブで寒さを感じることはない。
そしてここで紹介するグラファイトヒーターは、1,300℃までわずか0.2秒で温まるという、時代の最先端を行く超高性能ヒーターで、超ウサギさんヒーターなのだ! もちろんストーブに使えば一瞬で温まるうえに、口述するが温度ムラが非常に少ない。
そしてグラファイトヒーターに適しているのが調理家電。ガスと同じでつけた瞬間に高温、しかもガスと違ってスイッチON/OFFで火力の調整が簡単で一瞬でできるうえに、温度ムラがないので焼き上がりが均一になる。
熱エネルギーを集中させる超指向性ヒーター
ニクロム線を使ったヒーターをよく見てほしい。ガラス管の中に、渦巻き状になったニクロム線が赤く光っているのが見えるはずだ。だから一般的なヒーターは、熱がその周囲360度に広がる。
でもトースターなどで食品が入っている場所は、ヒーターの直下もしくは直上のみ。つまりヒーターから食品に直接当たる熱エネルギー(熱放射、輻射熱)を、電熱線の周囲を90度とすると、残り270度の範囲の熱エネルギーは、トンチンカンな場所へ逃げてしまう。
そのためストーブでは、裏に回ってしまった熱エネルギーを正面に反射するために、ピカピカのステンレスの反射板などを用いている。
しかしトースターの場合はどうだろうか? ステンレスは高価で加工も難しいので、庫内にステンレスを張って熱を反射させているも製品は少ない。というか筆者は見たことがない。
つまりトースターのヒーターの3/4は庫内を温めるために使われている(鉄板で熱を反射させるような設計にはなっている)。しかも「空気」は温まりにくい。そのため弱い熱放射でパンを温めながら、あとからジンワリと来る庫内の熱風で焼きあげるのだ。
一方のグラファイトヒーターは、リボンのような平たい発熱体なので、ヒーターの上下のみが光る。だから横方向には熱が逃げない。一般的なヒーターは多く見積もっても、ヒーターの1/4しかパンに輻射熱が当たらないが、グラファイトヒーターなら1/2の輻射熱が当たる。残り半分は庫内を温める熱となる。
しかもヒーターに注目して欲しい! 普通のヒーターは、ガラス管が曇りガラスになっているが、グラファイトは透明ガラス。なぜなら曇りガラスにすると、熱が拡散してしまうからだ。
しかもグラファイトヒーターは0.2秒で1,300℃まで発熱。一般的な電気ヒーターが、数十秒かかってジンワリ熱くなるのに、グラファイトヒーターはガスコンロのように、つけた瞬間から熱を発する。
このようにグラファイトヒーターでトーストすると、庫内の空気の温度が上がる前に、強い輻射熱で表面を焼き上げるというわけだ。
普通のトースターが3~4分、アラジンだと2分でパンが焼き上がるのはこの違いによるもの。
宇宙船を熱から守る新素材ポリイミドを使うグラファイトヒーター
0.2秒で1,300℃まで加熱できるという魔法のような発熱体「グラファイトヒーター」。実は人工衛星を覆う金色の断熱フィルム「サーマルブランケット」と同じものを使っている。
サバイバルグッズで金色の薄い断熱シートが売られているが、まさにあれがポリイミドで、裏面にアルミを蒸着しているので金色に見える。ポリイミドシート自体は黄色だ。
木を炭にするように、ポリイミドのシートを炭化させると、電気を通すようになる。ならばここに電気を流すとニクロム線やカーボンヒーターのように発熱するハズだ……理論的には……。
材料の基礎技術は国内の大手家電メーカーが開発したものだが、実用化には至らなかった。しかし千石はこの基礎技術に未来のヒーターを見て技術を譲り受けた。そして研究の末に実用化できたのが、干石が特許を持つグラファイトヒーターというワケだ。
しかもリボンのような発熱体に、パターンを刻み電気を流れやすくしたり、流れにくくすることで発熱する温度を変えられる。
印刷機のようなもので、パターンを打ち抜くだけで、場所ごとの温度を自在に変えられるのが特徴。しかもニクロム線のように巻く必要がないので、加工時間も一瞬な上に、加工機械も簡単で、生産性もメチャ高いと、もう言うことなしなのだ!
ちなみに打ち抜くパターンを変えると、このような熱のグラデーションも作れるというから驚きだ。
アラジンのトースターが美味しくパンを焼ける秘密
アラジンのトースターで焼いたトーストが、外はカリカリ、なかはモチモチで美味しい理由は、グラファイトヒーターによる強い直射熱で一気に焼き上げるからだ。
一般的なトースターは4~5分かかるところを、2分半程度で焼いてしまう。実はこの時間差が美味しさを左右する。
一般のトースターは、庫内の温度が上がりやすく、パンの表面を焼いているうちに、まるでドライヤーでパンを乾かしているかのように、パンの中の水分がどんどん蒸発してしまうのだ。
でもアラジンのトースターは、パンの表面を高温で一気に焼くので、短時間でカリカリに仕上げる。つまり庫内の温度がそれほど上がる前にパンが焼きあがるので、中の水分が逃げない。だから「外はカリカリ、中はモチモチ」になるのだ。
でもアラジン以外にも「おいしい」と言われるトースターがある。例の水を入れるヤツ(笑)は、最初に低い温度で庫内をスチームで満たして、水分を与える。最後庫内が高温になると、パンの表面の水が加熱水蒸気になってこんがり焼けると言う方法をとっている。
つまり長時間焼いて逃げてしまう水分を最初に補給しているというわけ。昔はパンを焼く前に霧吹きで軽く水を吹くと美味しいといわれていたのと同じ原理だ。
もう1つのトースターは、炊飯器のようにパンを密閉するタイプ。これはトースターを密封することで、パンの水分を逃さず乾燥を防ぐタイプだ。このタイプは、パンの耳が柔らかくなる半面、コゲのカリカリ具合が少ししっとり感を持ってしまう。
いずれのトースターも得手不得手があるが、確実にいえるのは「忙しい朝、2分半で4枚のトーストが焼けるアラジンは超時短」ということだ。
さらにグラファイトヒーターならではなのが、温度の均一性。
アラジンのトースターの上部ヒーター(グラファイト)は、なぜか中央部分だけ発熱していない。コレは故障ではなくわざと中央だけ発熱させていないのだ。
もし均一に発熱させてしまうと、熱は中央部に集まる性質があるので、トースターの中央部ばかりが熱くなってしまう。だからグラファイトヒーターは、中央だけ火力を絞っている。これでパンを均一の熱で焼きあげられるというわけ。
ニクロム線を使っているヒーターも中央と両端で、巻きの緩さが違うものがある。発熱したときの色を見ればわかる通り、巻きが密だと高温、巻きが緩いと低温になる。
実はアラジンの下段のヒーターは、中央が巻きが弱く低温、両端の巻きは密で高温になっている。つまり下からの熱もできるだけ均一にしているので、同時に4枚焼いてもだいたい同じようにトーストできる。
一方、一般的なヒーターで中央の巻きが密で両端が緩くなっているものや、巻きがすべて均一のものは、トースター中央に熱が集中してしまう。だから、2枚並べて焼くと焼きムラができてしまうのだ。
グラファイトヒーターを使ったさまざまな製品も
ヒーターの各部の温度を自由に設定でき、0.2秒で1,300℃まで発熱するグラファイトヒーターは、トースターだけでなく無煙グリルやストーブなどもにも使われている。
なかでも電気ストーブは、スイッチONですぐに温まる点、前面に熱エネルギーの半分が集中するので暖かい点、そしてヒーターの部分の温度を変えることで、均一に暖かい点などが、他社の電気ストーブの暖かさと異なり人気を博している。
一般的なヒーターのように、体の一部だけで熱くなるのでなく、体を面で温めてくれるというのが人気の秘密だ。
また縦型や横型としても使えるストーブや、なびいたカーテンなどがストーブにかかった場合、瞬時に電源を切る安全機構を備えたストーブなども発売している。
同社の電気ストーブや調理家電は、機能や便利さ、デザインセンスもさることながら、安全面にも注意が払われていると言えるだろう。