藤山哲人の実践! 家電ラボ

アラジン・トースターの心臓部「遠赤グラファイトヒーター」製造現場に潜入!

アラジン・トースターの心臓部「遠赤グラファイトヒーター」製造現場に潜入!

 トースターと言えばバルミューダという声が多いが、赤丸急上昇で注目を集めているのが「アラジン」。ほかにも人気なのが上部から熱を当てる無煙グリラーで、デザインだけでなくふっくらジューシーに美味しく焼けると評判だ。

美味しい! と評判のアラジンのトースター。その秘密は特許の「遠赤グラファイト」ヒーターにある
こちらは上から熱を当てるグリラー。ホットプレートのように煙が出ず、加熱方法が炭火焼と同じなので、ふっくらジューシーに仕上がる

 その心臓部に当たるのは、約0.2秒で発熱する「遠赤グラファイトヒーター」(以下、グラファイトヒーター)と呼ばれるもの。「アラジン」のブランドを展開する日本エー・アイ・シーの関連会社となる、「株式会社干石」が持っている特許だ。

 グラファイトヒーターを使った他社製品もあるが、心臓部のヒーターは干石がOEM供給している。

元々アラジンといえばグラファイトヒーターを使った暖房器具が有名

 アラジンの家電製品の最終アセンブリ(組み立て工程)は、海外で行なっているのでその様子はお伝えできないが、心臓部のヒーターは国内で製造している。

 ここではトーストやお料理は美味しく、身体はポカポカ暖められる、アラジンの魔法のグラファイトヒーターをご紹介しよう。

 100の料理を作るより、1本のグラファイトヒーターの性能を説明すれば一目瞭然、百聞は一見にしかずなのである!

グラファイトヒーターって?

 家電量販店の暖房器具コーナーに行くと「“〇〇ヒーター”搭載で暖か!」なんてキャッチフレーズをよく見る。そんな耳になじみにあるヒーターと、グラファイトヒーターを比べてみるとこんな具合になる。

ヒーター名称最高温度発熱時間
セラミックヒーター600℃前後7分前後
シーズヒーター600℃前後4分前後
石英管(ニクロム線)800℃前後3分前後
カーボンヒーター1,300℃前後2秒前後
ハロゲンヒーター1,300℃前後2秒
グラファイトヒーター1,300℃前後0.2秒

 発熱時間は最高温度になるまでの時間。製品によってばらつきがあるので目安程度に考えていただきたい。また最高温度もメーカーによって数百℃のばらつきがあるので、こちらも参考まで。

 さて、セラミックヒーターはファンヒーター内部などで使われるので、あまり発熱体そのものを見ることはないし、調理家電でも見かけない。

 シーズーヒーターは、ホットプレートの下に仕込まれているグニャっと曲がったヒーターだ。あれを応用したヒーターもある。

 一番有名なのは電気ストープやトースターでよく使われている、すりガラス管(石英管)に入ったニクロム線のヒーター。製品によって温度差はあるものの、だいたい800℃ぐらいまでしか発熱せず、温まるまで3分ほどかかるカメさんヒーターなのだ。

ホットプレートによく使われているシーズーヒーター。ニクロム線などを金属などのパイプに入れてある
すりガラスの管にニクロム線をいれてある「石英管ヒーター」。トースターや電気ヒーターなどでおなじみだが、800℃程度しか出ず温まるまで時間がかかる

 カーボンやハロゲンヒーターは、電気ストープなどでもおなじみ。スイッチONですぐ温まるという触れ込みで人気。1,300℃まで2秒ほどで温まるから、ウサギさんヒーター! ここまで早ければストーブで寒さを感じることはない。

 そしてここで紹介するグラファイトヒーターは、1,300℃までわずか0.2秒で温まるという、時代の最先端を行く超高性能ヒーターで、超ウサギさんヒーターなのだ! もちろんストーブに使えば一瞬で温まるうえに、口述するが温度ムラが非常に少ない。

 そしてグラファイトヒーターに適しているのが調理家電。ガスと同じでつけた瞬間に高温、しかもガスと違ってスイッチON/OFFで火力の調整が簡単で一瞬でできるうえに、温度ムラがないので焼き上がりが均一になる。

アラジンのトースターの中に入っているグラファイトヒーター

熱エネルギーを集中させる超指向性ヒーター

 ニクロム線を使ったヒーターをよく見てほしい。ガラス管の中に、渦巻き状になったニクロム線が赤く光っているのが見えるはずだ。だから一般的なヒーターは、熱がその周囲360度に広がる。

 でもトースターなどで食品が入っている場所は、ヒーターの直下もしくは直上のみ。つまりヒーターから食品に直接当たる熱エネルギー(熱放射、輻射熱)を、電熱線の周囲を90度とすると、残り270度の範囲の熱エネルギーは、トンチンカンな場所へ逃げてしまう。

発熱体は360度に熱を出すが、パンに直接届くのは1/4

 そのためストーブでは、裏に回ってしまった熱エネルギーを正面に反射するために、ピカピカのステンレスの反射板などを用いている。

 しかしトースターの場合はどうだろうか? ステンレスは高価で加工も難しいので、庫内にステンレスを張って熱を反射させているも製品は少ない。というか筆者は見たことがない。

 つまりトースターのヒーターの3/4は庫内を温めるために使われている(鉄板で熱を反射させるような設計にはなっている)。しかも「空気」は温まりにくい。そのため弱い熱放射でパンを温めながら、あとからジンワリと来る庫内の熱風で焼きあげるのだ。

上は管の回り360℃に熱が広がる一般的な石英管ヒーター。中にはニクロム線がグルグル巻きになっている。下はグラファイトヒーターの発熱体。リボン状の発熱体をガラス管に入れるので、裏と表に熱が集中する

 一方のグラファイトヒーターは、リボンのような平たい発熱体なので、ヒーターの上下のみが光る。だから横方向には熱が逃げない。一般的なヒーターは多く見積もっても、ヒーターの1/4しかパンに輻射熱が当たらないが、グラファイトヒーターなら1/2の輻射熱が当たる。残り半分は庫内を温める熱となる。

発熱体は上下のみに熱を出すので、パンに直接届くのは1/2

 しかもヒーターに注目して欲しい! 普通のヒーターは、ガラス管が曇りガラスになっているが、グラファイトは透明ガラス。なぜなら曇りガラスにすると、熱が拡散してしまうからだ。

 しかもグラファイトヒーターは0.2秒で1,300℃まで発熱。一般的な電気ヒーターが、数十秒かかってジンワリ熱くなるのに、グラファイトヒーターはガスコンロのように、つけた瞬間から熱を発する。

グラファイトヒーターは、透明なガラス管に入れるので熱が分散しない

 このようにグラファイトヒーターでトーストすると、庫内の空気の温度が上がる前に、強い輻射熱で表面を焼き上げるというわけだ。

 普通のトースターが3~4分、アラジンだと2分でパンが焼き上がるのはこの違いによるもの。

宇宙船を熱から守る新素材ポリイミドを使うグラファイトヒーター

 0.2秒で1,300℃まで加熱できるという魔法のような発熱体「グラファイトヒーター」。実は人工衛星を覆う金色の断熱フィルム「サーマルブランケット」と同じものを使っている。

火星探査衛星の火星大気圏突入モジュールで、断熱フィルムとして使われている金色のシート。これがサーマルブランケットで、新素材ポリイミド。出典:NASA/Taking Mars 2020 Integration Head-on

 サバイバルグッズで金色の薄い断熱シートが売られているが、まさにあれがポリイミドで、裏面にアルミを蒸着しているので金色に見える。ポリイミドシート自体は黄色だ。

ポリイミドシート。パソコンのCPU温度センサーを張るシールとしても使われている
ポリイミドシートを炭化させたシート

 木を炭にするように、ポリイミドのシートを炭化させると、電気を通すようになる。ならばここに電気を流すとニクロム線やカーボンヒーターのように発熱するハズだ……理論的には……。

 材料の基礎技術は国内の大手家電メーカーが開発したものだが、実用化には至らなかった。しかし千石はこの基礎技術に未来のヒーターを見て技術を譲り受けた。そして研究の末に実用化できたのが、干石が特許を持つグラファイトヒーターというワケだ。

上は石英管に巻いたニクロム線を入れた一般的なヒーター。下はグラファイトヒーターの発熱体のリボン。うっすらと刻んだパターンが見える

 しかもリボンのような発熱体に、パターンを刻み電気を流れやすくしたり、流れにくくすることで発熱する温度を変えられる。

 印刷機のようなもので、パターンを打ち抜くだけで、場所ごとの温度を自在に変えられるのが特徴。しかもニクロム線のように巻く必要がないので、加工時間も一瞬な上に、加工機械も簡単で、生産性もメチャ高いと、もう言うことなしなのだ!

 ちなみに打ち抜くパターンを変えると、このような熱のグラデーションも作れるというから驚きだ。

パターンを打ち抜くとこのような熱のグラデーションが作れる。温度は左から1,300℃、1,100℃、900℃、700℃、500℃。ニクロム線にはまねできない芸当

アラジンのトースターが美味しくパンを焼ける秘密

 アラジンのトースターで焼いたトーストが、外はカリカリ、なかはモチモチで美味しい理由は、グラファイトヒーターによる強い直射熱で一気に焼き上げるからだ。

アラジンのトースターで焼いたパンは、外がカリカリ、中がもちもちで美味しい
かじっても弾力性があるので、歯型が残らず元の厚さに戻る!

 一般的なトースターは4~5分かかるところを、2分半程度で焼いてしまう。実はこの時間差が美味しさを左右する。

 一般のトースターは、庫内の温度が上がりやすく、パンの表面を焼いているうちに、まるでドライヤーでパンを乾かしているかのように、パンの中の水分がどんどん蒸発してしまうのだ。

 でもアラジンのトースターは、パンの表面を高温で一気に焼くので、短時間でカリカリに仕上げる。つまり庫内の温度がそれほど上がる前にパンが焼きあがるので、中の水分が逃げない。だから「外はカリカリ、中はモチモチ」になるのだ。

アラジンのトースターは、火力の強いグラファイトヒーターなので、パンの中の水分が飛んでしまう前に、表面がカリカリに焼きあがる

 でもアラジン以外にも「おいしい」と言われるトースターがある。例の水を入れるヤツ(笑)は、最初に低い温度で庫内をスチームで満たして、水分を与える。最後庫内が高温になると、パンの表面の水が加熱水蒸気になってこんがり焼けると言う方法をとっている。

 つまり長時間焼いて逃げてしまう水分を最初に補給しているというわけ。昔はパンを焼く前に霧吹きで軽く水を吹くと美味しいといわれていたのと同じ原理だ。

最初に水を補給する焼き方は、中はもちもちというより「しっとり」
パンの内部に水分が補給されるので、外はサクサク、中はしっとりの食感になる。かじった後がはっきり分かる

 もう1つのトースターは、炊飯器のようにパンを密閉するタイプ。これはトースターを密封することで、パンの水分を逃さず乾燥を防ぐタイプだ。このタイプは、パンの耳が柔らかくなる半面、コゲのカリカリ具合が少ししっとり感を持ってしまう。

 いずれのトースターも得手不得手があるが、確実にいえるのは「忙しい朝、2分半で4枚のトーストが焼けるアラジンは超時短」ということだ。

アラジンのトースターは、一度に4枚のトーストを均一に焼いてくれる
焼き上がりの仕上がりは4枚ともムラがない

 さらにグラファイトヒーターならではなのが、温度の均一性。

 アラジンのトースターの上部ヒーター(グラファイト)は、なぜか中央部分だけ発熱していない。コレは故障ではなくわざと中央だけ発熱させていないのだ。

 もし均一に発熱させてしまうと、熱は中央部に集まる性質があるので、トースターの中央部ばかりが熱くなってしまう。だからグラファイトヒーターは、中央だけ火力を絞っている。これでパンを均一の熱で焼きあげられるというわけ。

熱は中央に溜まる性質があるので、グラファイトヒーターはわざと中央部の熱を低くしている。コレでも1枚焼いたときに焼き具合が均一になる
1枚焼いた場合でも均一の焼き具合になるアラジンのトースター

 ニクロム線を使っているヒーターも中央と両端で、巻きの緩さが違うものがある。発熱したときの色を見ればわかる通り、巻きが密だと高温、巻きが緩いと低温になる。

 実はアラジンの下段のヒーターは、中央が巻きが弱く低温、両端の巻きは密で高温になっている。つまり下からの熱もできるだけ均一にしているので、同時に4枚焼いてもだいたい同じようにトーストできる。

アラジンの下段ヒーター。こちらは2本の石英管ヒーターを使っているが、中央のみニクロム線の巻き緩くなっていて、左右が密になっているので熱が均一になる

 一方、一般的なヒーターで中央の巻きが密で両端が緩くなっているものや、巻きがすべて均一のものは、トースター中央に熱が集中してしまう。だから、2枚並べて焼くと焼きムラができてしまうのだ。

中央のニクロム線が巻きが密、両端は緩くなっているので、トースター中央に熱を集中させているトースター。中央に1枚焼いた場合は均一に焼けるが、2枚焼くと焼きムラがでる
1枚焼いた場合はきれいな焼き上がり
2枚焼くと中央部に近い片方だけ焼きすぎになりムラが出る

グラファイトヒーターはこうして作られる!

 干石が特許を持つグラファイトヒーターは、すべて国産。ここでは特別にグラファイトヒーターの工場を見せていただいた。まずは炭化ポリイミドの加工からスタート。

炭化したポリイミド
シートを細く裁断して1cm程度のリボン状にする
リボンに網の目状の電気の通る道を型抜きする。細い部分は電気が通りづらく熱くなり、電気が通りやすい部分は熱を発しない
リボンの両端に端子となるリード線をつける
透明なガラス管にリード線つきのポリイミドの発熱体を入れる
アルゴンガスを封入する
ガラス管の両端を閉じる
配線用の電線をリードに接続して、露出部分を絶縁して完成!
最後は全量を通電検査

グラファイトヒーターを使ったさまざまな製品も

 ヒーターの各部の温度を自由に設定でき、0.2秒で1,300℃まで発熱するグラファイトヒーターは、トースターだけでなく無煙グリルやストーブなどもにも使われている。

 なかでも電気ストーブは、スイッチONですぐに温まる点、前面に熱エネルギーの半分が集中するので暖かい点、そしてヒーターの部分の温度を変えることで、均一に暖かい点などが、他社の電気ストーブの暖かさと異なり人気を博している。

 一般的なヒーターのように、体の一部だけで熱くなるのでなく、体を面で温めてくれるというのが人気の秘密だ。

ヒーター全域を一定の温度にすると、中央部分のみに熱が集まり、体の一部だけ焼けるように熱くなってしまう
アラジンのグラファイトヒーターのように発熱部分の温度を変えることで、中央部に溜まりがちな熱を分散できるので、より広範囲が均一に温まる

 また縦型や横型としても使えるストーブや、なびいたカーテンなどがストーブにかかった場合、瞬時に電源を切る安全機構を備えたストーブなども発売している。

 同社の電気ストーブや調理家電は、機能や便利さ、デザインセンスもさることながら、安全面にも注意が払われていると言えるだろう。

ボタン1発でヒーターの向きが回転して、縦横が切り替えられるヒーター
朝の寒いときは、独り占めしたり家族で温まったりできる
カーテンなどがストーブにかかったりすると、一瞬で電源を切る安全装置も備える
機械を一切使わずにブルーの炎で燃える石油ストーブ「ブルーフレーム」も大人気。は、ストーブとして人気。通常反射式ストーブの炎はオレンジ色なのだが、アラジンのストーブは完全燃焼するためガスコンロのように青い炎で燃えるのだ
その技術の面白さやコレクターズアイテム的な要素を持ち絶大な人気を誇る

藤山 哲人

家電の紹介やしくみ、選び方や便利な使い方などを紹介するプロの家電ライター。独自の測定器やプログラムを開発して、家電の性能を数値化(見える化)し、徹底的に使ってレビューするのをモットーとしているため「体当たり家電ライター」との異名も。 「マツコの知らない世界」(番組史上最多の5回出演)「ゴゴスマ」(生放送2回)「華大の知りたいサタデー」(生番組4回)「アッコにおまかせ」「NHKごごナマ」(生放送2回)「カンテレ ワンダー」(5回)「HBC 今ドキ!(生中継4回)」はじめ、朝や昼の情報番組に多数出演し、現在インプレスの「家電Watch」「PC Watch」やサイゾー「ビジネスジャーナル」などのWeb媒体をはじめ、毎月ABCラジオなどで連載やコーナーを持っている。 趣味は、鉄道、飛行機、バス、車の旅行や写真とシステム&構造。電子工作、プログラム。あと神社めぐり。

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