第42回:断熱材とは


写真はパナソニックの家電製品に搭載されている真空断熱材「U-Vacua」。製品内部に組み込まれており、ユーザーが目にする機会は少ない
 「断熱材」とは、熱の移動を防ぐために利用される素材のことです。熱の移動を遮断することから“断熱”と呼ばれます。

  一般的に断熱材と言うと、住宅で利用する建材のことを指すことが多いですが、実は家電製品でも広く利用されている素材です。特に近年では、製品の省エネ性能を高めるために、各メーカーとも高性能な断熱材の開発に力を注いでいます。家電製品に利用されている断熱材をユーザーが直接目にすることはまずありませんし、存在自体も意識することがないと思いますが、非常に重要な役割を果たしている素材です。


冷気や熱を逃がさずキープ。高い省エネ性能を実現する“縁の下の力持ち”


住宅用の建材として利用されることの多い断熱材だが、家電製品でも冷蔵庫や電気ポットなど、導入例は多い。写真はパナソニックの冷蔵庫「NR-F583T」
 断熱材が利用されている家電製品は、冷蔵庫や電気ポット、エコキュートなどの給湯器などが主なものとなります。製品の種類を見てもすぐにわかると思いますが、どれも”熱(あるいは冷気)”を扱う製品です。

 熱を扱う製品では、いかに効率良く熱を発生させるかという点に加えて、いかに熱を逃がさないようにするかという点も、省エネ性能を高める上で非常に重要なポイントとなります。

 例えば冷蔵庫の場合、コンプレッサーを利用して冷蔵庫内の温度を冷やしていますが、ドアの開閉などで庫外の熱が庫内に進入し冷気が逃げてしまうと、庫内の温度を低く保つためにコンプレッサーを頻繁に動作させなければならず、消費電力が大きくなってしまいます。逆に言えば、冷気が逃げにくくなればなるほど、コンプレッサーを動作させる頻度も減って、消費電力を下げることが可能になるわけです。

 その他の製品についても、基本的に考え方は同じです。電気ポットやエコキュートでは中に貯めたお湯の熱の放出を少なくすればするほど、コンプレッサーやヒーターの動作を抑えられて、省エネ性能が向上することになります。そして、熱を逃がさないために利用されるのが断熱材というわけです。

 断熱材ではこのほか、炊飯器や温水洗浄便座、エアコンの配管などにも使用されています。
パナソニックの冷蔵庫「コンパクトBIG」のカットモデル。冷気が漏れにくいよう、本体の周囲に断熱材が組み込まれているお湯が冷めにくいよう、電気ポットにも採用されている

「真空断熱材」の登場で省エネ性能が飛躍的に向上。省スペースにも貢献


冒頭に画像で紹介した真空断熱材「U-Vacua」の内部構造
 近年、家電製品の省エネ性能が飛躍的に向上していますが、その裏には、コンプレッサーやヒーターなどのデバイス自体の進化に加えて、冷蔵庫などでは断熱材の性能向上が大きく貢献しています。

  従来から広く利用されている断熱材としては、ガラス繊維を綿状に束ねたグラスウール、石油系のプラスチック素材を発泡させて固めたウレタンフォームやポリスチレンフォームと呼ばれるものがあります。これらは現在でも建材として広く利用されている一般的な断熱材で、断熱性能も十分優れています。

 しかし、最近の省エネ性能に優れる冷蔵庫では、「真空断熱材」と呼ばれる高性能な断熱材が採用される例が増えています。

 真空断熱材とは、小さな穴が無数にあいた素材(多孔質素材)を金属フィルムなどを利用して真空パックしたものです。本来、1気圧の地上で真空を保つのは非常に難しいですが、多孔質素材を封入して真空パックすることによって、気圧によって押しつぶされることなく、内部を真空に保つことを可能としました。

 この真空断熱材は、従来の断熱材に比べて圧倒的な断熱性能を実現しています。例えばパナソニックの真空断熱材「U-Vacua」では、硬質ウレタンフォームの約20倍、グラスウールの約38倍の断熱性能を備えています。そのため、家電製品で真空断熱材を利用すれば、省エネ性能を飛躍的に向上させられるのです。

 例えば、2002年10月に登場した、ナショナルのノンフロン冷蔵庫「NR-E461U」では、「U-Vacua」を採用することで、前年に発売された同社の冷蔵庫に比べて、一気に約41%も消費電力が低減されました( ※2 )。

 また、真空断熱材を利用することでもう1つ利点があります。真空断熱材は、断熱性能に優れるために、厚さを薄くしても十分な断熱性能が得られます。例えば厚さ4mmのU-Vacuaを冷蔵庫に使用する場合は、硬質のウレタンフォーム60mm、グラスウール120mmと同じ断熱性能があるとされています。近年、本体サイズを10年以上前の機種と同サイズに保ちながら、内容量を増やした冷蔵庫が数多く登場していますが、そういった製品では真空断熱材を採用することにより、壁を薄くして、内容量を増やしているのです。

厚さ4mmのU-Vacuaは硬質のウレタンフォーム60mm、グラスウール120mmと同等の効果があることをアピールする展示ウレタン素材との断熱効果の比較。U-Vacua4mmはウレタン80mmと同じ断熱性能がある

 

日立の冷蔵庫「栄養いきいき真空チルドV」のカットモデル。壁面、床、天井に真空断熱材を搭載することで、602Lの大容量となった。。発売当初は「業界最大」を謳っていた日立の10年前の冷蔵庫。断熱材はウレタンのみ日立の冷蔵庫に搭載されている「フレックス真空断熱材」。折り曲げるなど立体成型が可能なため、これまで難しかった底面や天井部分にも断熱材が設置できるようになった

 このように、家電製品の省エネ性能の向上や省スペース化には、断熱材の進化が深く関与しています。つまり断熱材は、家電製品の優れた省エネ性能を実現するための、影の主役と言ってもいい、非常に重要や役割を担っている素材なのです。


【断熱材】の、ここだけは押さえたいポイント

・断熱材は、熱の移動を遮断する素材。冷蔵庫や電気ポット、エコキュートなどに搭載されている
・熱や冷気が逃げるのを防ぐことで、消費電力が抑えられる
・真空断熱材の登場で、冷蔵庫など家電製品の省エネ性能と省スペース化が一気に向上

2009年4月10日 初版



2009年4月10日 00:00


平澤 寿康
1968年、香川県生まれ。1990年代前半にバイト感覚で始めたDOS/V雑 誌のレビュー記事執筆を機にフリーのライターとなる。雑誌やWeb媒体を中心に、主にPC関連ハードのレビューや使いこなし、ゲーム関係の取材記事などを 執筆。基本的にハード好きなので、家電もハード面から攻めているが、取材のたびに新しい製品が欲しくなるのが悩ましいところ。