藤本健のソーラーリポート

エコプロダクツ2014で見つけた! 最新エネルギー技術

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 12月11日~13日の3日間、東京ビックサイトで「エコプロダクツ2014」が開催された。

 既に家電Watchでもレポートしている通り、ここではパナソニックや三菱電機、東芝といった大手家電メーカーも出展して、環境改善製品、省エネ製品などが展示されていたが、大きな会場の隅の小さなところに「エネルギーイノベーション2014」というコーナーがあった。

東京ビックサイトで開催された「エコプロダクツ2014」
エネルギーイノベーション2014というコーナーに注目。様々な新エネルギーが展示されていた

 ここでは太陽光発電はもちろん、潮流発電、風力発電、バイオマスエネルギー、藻からのオイル抽出……とさまざまな新エネルギーが展示、発表され、なかなか興味深い内容になっていた。大手企業の派手なブースと違って、小さな地味なブースであったため、気づかなかった方も多いと思うが、ここではそのエネルギーイノベーション2014だけをフォーカスし、ここで展示していた新エネルギーを紹介していこう。

室内の照明や薄明りでも発電できる「有機系タンデム型太陽電池」

 ソーラーリポートという連載でもあるので、やはりまずは太陽光発電ネタから。東京大学のブースで展示していたのはステンドグラス風な有機系太陽電池。「見た目にもキレイで屋根以外の場所でも活用できますよ」と話していたのだが、驚いたのはそのステンドグラス風のものではなく、モーターを回していた小さな有機系タンデム型太陽電池と呼ばれるもののほうだ。そう有機系太陽電池=色素増感太陽電池はNEDOの実証実験としてシャープやフジクラ、三菱化学など大手メーカーも参画して開発が進められており、「室内の照明や薄明りでも発電できる」ことを売りにしている。

東京大学のブースで展示していたステンドグラス風の有機系太陽電池
小さな有機系タンデム型太陽電池でモーターを回していた

 太陽の光の下で積極的に大きな電力を発電するシリコン系太陽電池とは異なり、特定用途の微弱な電力を作り出すものという認識が一般的だろう。実際、そのステンドグラス風の太陽電池もその用途のようだが、モーターを回している黒っぽい有機系タンデム型太陽電池は、なんと変換効率16.2%を実現している、というのだ。16.2%といえばシリコン系太陽電池と匹敵するもの。正確には光をレンズで集め、直径2mmの領域に光を当てる実験で達成した変換効率とのことだが、今後、より性能を高めていくことで20%も実現できる見通しだ、というのだ。

 でもどうやって、有機系太陽電池でこれだけの高い変換効率を実現できたのかを聞いたところ、「これは色素増感型とともに、一部に無機材料を使って可視光から電気を作るプロブスカイト型と呼ばれる太陽電池の2種類の有機系太陽電池を組み合わせているからです」とのこと。つまり利用する波長の異なる太陽電池を組み合わせることで効率よく光を電気に変換できているというのだ。東京大学の瀬川浩司教授を中心に研究が進められているこの有機系タンデム型太陽電池は、シリコン系太陽電池と異なり、印刷のような技術で作れる太陽電池であり、量産すれば圧倒的にコストを安く抑えることも可能というから、ここには大きな可能性が感じられる。

アジアのライフスタイルに合う慶応型共進化住宅とは?

慶応大学SFC研究所のブースで展示していた慶応型共進化住宅

 慶応大学SFC研究所が模型で展示していたのは慶応型共進化住宅。これはSFCが提案するアジア向けのエコ住宅だ。

 「これまでエコ住宅はヨーロッパを中心に発展してきました。でもヨーロッパと気候や風土、ライフスタイルも異なるアジア各国で求められる住宅とは構造も違うし、これから発展していく国々への導入はコスト的にも見合いません。そこで低コストで作ることができ、かつアジアのライフスタイルに合うエコ住宅を作ってみました」と担当者は話す。確かにアジアだと下水道、電気などインフラが整っていない地域も多いので、こうしたところで簡単に施工でき、エネルギーの自給自足ができる住宅というのは非常に魅力的に思える。

 またアジアであれば、日本、中国、東南アジアとどこでも使うことができ、地上に設置するだけでなく、水上設置も可能というのも面白いところだ。

日本の大都市圏への設置をイメージしたもの。東京・新木場の臨海地域で水上設置している
中国の農村開拓地への設置をイメージしたもの
カンボジア・トンレサップ湖での水上生活集落をイメージしたもの

 屋根に太陽電池パネルが搭載されているのが目立つが、もちろんそれだけではない。まず、国産杉の大型直交集成パネル(CLT)を使用した解体・再組立てが可能な住宅工法になっているという点。間伐材を用いることで森林資源循環を実現するとともに、どこでも簡単に設置できるのも大きな特徴だ。また雨水利用循環のための工夫がされているのもユニークな点だ。屋根に雨水収集のための装置があり、これが雨水貯留タンクへと回る。また土中水分計を使った植物環境データとタンクの残量、さらに天気予報による降雨予測を元に人工知能が効率よく水量を管理すると同時に、必要に応じて溜まった水を利用して太陽光パネルを冷却して、発電効率を上げるといったこともできるようになっている。

材料に国産杉の大型直交集成パネルを用いて、解体・再組み立てが可能な住宅工法を採用している
屋根には雨水収集のための装置を配置し、雨水貯留タンクへと溜まる仕組み

 もちろんリチウムイオン電池を使った蓄電池が装備されると同時に家庭用燃料電池も装備されている。発電と蓄電のバランスとともに、直流給電と外部からの交流給電の併用し、家電製品の消費電力まで制御できる直流スマート給電ハウスを目指しているという。

 実際、この慶応型共進化住宅のプロトタイプは2014年5月にSFCのキャンパス内にも設置され、学生が泊まって試しているという。2030年の実現に向けて研究が進められている。

実用化を前提とした藻からのオイル精製

筑波大学を中心としたつくば国際戦略総合特区で研究を進めている藻類バイオマスエネルギーの実用化

 筑波大学を中心に、つくば国際戦略総合特区で研究が進められているのが藻類バイオマスエネルギーの実用化だ。いろいろ種類がある藻のうちのいくつかが石油と非常に近い成分の油を生成することは知られているが、これまで藻からのオイル精製は屋内で行なわれる実験的なものがほとんどであり、コスト面を考えた実用性というものからは遠い存在だった。

 そうした中、つくば国際戦略総合特区では、耕作放棄地を利用して屋外に17×2mの回るプールを17基設置し、ここで藻を育成するプロジェクトを2014年3月からスタートさせている。2015年度の目標は2haの土地で14tの藻類産炭化水素オイルを生成することであり、これを利用し公用車による行動走行実験を延べ50台で行なうという。

屋外実証農地でのプロジェクトをスタートさせている
藻類バイオマスにより精製された水素と市販の軽油を混合した燃料を用いて、つくば市の公用車による実証実験を行なっている

 現在、その大量培養技術の確立に向けて、実験が行われているが、オイル精製の基本的な流れとしては、まず培養した藻を収穫し、濃縮・凝集した上で乾燥させて抽出するという比較的シンプルなもの。また効率よくオイルを抽出するため、ボトリオコッカスとオーランチオキトリウムという2種類の藻を使って、どう組み合わせるといいのかなどを探っているが、屋外だと冬場の寒い時期は育成が止まってしまうなど、課題もあるという。

藻の培養から収穫、濃縮、凝集、乾燥、抽出までの流れ
ボトリオコッカスとオーランチオキトリウムという2種類の藻で組み合わせなどを検証している
東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトとして行なわれている「微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発」

 なお東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトとして、「微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発」というものも仙台で行なわれている。これは筑波大学のほか、仙台市、東北大学も加わった三者による共同プロジェクトで、下水に含まれる有機物、無機物を利用して微細藻類を培養し、オイルを作り出そうというもの。同様に福島県再生可能エネルギー次世代技術開発事業でも下水・水産加工排水等を利用して屋外で藻の培養を行なう「土着藻類によるバイオマス生産技術の開発」というプロジェクトも進められている。いずれも下水や排水を利用して藻を育成した上で、オイルを抽出するだけでなく、固体燃料、ガス燃料を作り出せるという夢のようなプロジェクト。ぜひ採算の合うエネルギーとして成功してくれることを願うばかりだ。

スーパーソルガムからエネルギーを作り出す

 同じく植物からエネルギーを作り出すものとして展示されていたのが、スーパーソルガム。スーパーソルガムとは、超巨大なソルガム(モロコシ)であり、背丈が5mにもなるというもの。

背丈が5mにもなる巨大なソルガム「スーパーソルガム」

 乾燥にも多湿にも強い性質を持つとともに、成長が早く、収穫量が大きいのが特徴。水はけのよい畑でも育つし、水はけの悪い水田を転換したような畑でも育ち、福島など東北地域でも5mの高さまで成長することが確認されているという。成長が早く、緯度の低い地域であれば、年に2~3回の収穫も可能というから、かなりのスピードだ。そこまで条件の揃った植物と聞くと、遺伝子組み換えで作り出された、危険な植物なのでは……とも思ってしまったが、これはDNAの情報に基づいて効率よく選抜するゲノム育種を利用したもので、遺伝子組み換えではないのだという。

スーパーソルガムは、砂糖や果糖ブドウ糖液糖が生成できるほか、バイオエタノールやバイオマスペレット、牛の飼料など、余すことなく活用できるという

 収穫されたスーパーソルガムは大きく6つの方法で活用ができる。まずは搾汁液からバイオエタノールを生成できるという点。大量の糖分が含まれているため、トウモロコシなどからエタノールを生成するのと違い、ローコストでの製造が可能だという。さらに搾汁液から砂糖、果糖ブドウ糖液糖を生成することもできる。

 一方、アルコールや砂糖を作った後の搾りカスはそのまま燃料として発電に利用することができるし、搾りカスを固めて乾燥させることでバイオマスペレットを作ることも可能だ。さらに、この搾りカスに特殊な乳酸菌を点火するなどすることで牛の飼料をつくりだしたり、鶏用の飼料を作り出すこともできるなど、大きく育ったスーパーソルガムは余すところなく活用できるのだそうだ。連作障害の心配もなく、窒素、リン、カリウムを一定の比率で組み合わせた肥料を与えるだけで簡単に育てることができるというのも、大きなポイントのようだ。

海で風力発電する「浮動式洋上ウィンドファーム」

海で風力発電をする「浮動式洋上ウィンドファーム」

 海を利用した再生可能エネルギーも進化してきている。すでに新聞など多くのメディアでも紹介されているのが福島復興を目指す浮動式洋上ウィンドファームの実証研究事業だ。風力発電は大きな電力の発電が可能ではあるが、低い音での騒音が出るため、居住地に近い場所への設置は難しいし、バードストライクと呼ばれる野鳥への被害も問題となっている。そうした問題を回避するために、海で風力発電をしようというプロジェクトなのだが、海底に支柱を立てて風車を設置するとなると、膨大な工事が必要となり、環境への影響も気になるところ。そこで、もっと簡易に浮体式の風車を作り、これで発電しようというのが、この実証研究なのだ。

 エコプロダクツの会場では、浮体式の風車の模型が展示され、海の中がどうなっているのかなどもわかりやすく見せていた。2011~2013年は第1期の実証実験としてコンパクトセミサブ浮体による2MWの風車が設置されているが、2014年~2015年はV字型セミサブ浮体と呼ばれる7MWのものが追加され、技術的、経済的な検証がされていくという。もちろん、ここでも鳥の生息状況に影響を及ぼさないか、クジラやイルカなどの生息状況はどうか、魚類、エビ、カニ、さらには海藻、動植物、プランクトンなどに影響がないかといった、環境影響に対する評価も行なわれていく。また、漁業との共存も重要であるため、国、県、地元関係者、漁業関係者から構成される協議会を設立し、共存のための検討を行なっているとのことだ。

浮体式の風車の模型
海中でこのように固定するという

潮の満ち引きを利用する「潮流発電」

 もう1つ、海のエネルギーの有効活用として提案が上がっていたのが潮流発電だ。潮流発電とはその名の通り、潮の満ち引きで流れる海流をとらえてタービンを回すというもの。これまで実験などで使われていたのは風力用のタービンともよく似た構造のプロペラ型だったが、どうしても効率が悪く、結果としてこれまであまり実用化されてこなかったという。

 それに対し、今回展示されていたのはFFT(浮力・フラップ・タービンの略)方式と呼ばれる新方式。どの方向からの潮の流れでも確実にとらえて回せるのが最大の特徴であり、3ノットの海域なら年間で130万kWh、5ノットの海域なら613万kWhの発電ができるという。

潮の流れを捕らえてタービンを回す潮流発電。写真はFFT(浮力・フラップ・タービンの略)と呼ばれる方式
どの方向からの潮の流れも確実にとらえることができるという

 沖合に設置することも可能だが、実際に発電したとき、これをどう利用するかも課題の一つだ。単純には陸までケーブルを結んで送電するという方法だが、それ以外にも発電した現場で海水を電気分解することで水素を発生させる海上水素ステーションというのもアイディアのひとつ。水素自動車の実用化が目前に迫る昨今、海外から原油を輸入するのではなく、国内の海上で水素を作り、それを運んできて水素スタンドへ供給するということが実現できるようになると、社会も大きく変化していくかもしれない。

 どの技術も、いますぐ使えるというところまでは来てないが、5年後、10年後には国内における大きなエネルギー資源になるかもしれないものばかり。こうした技術が開発されていることを知ることができたという意味でも、エコプロダクツ2014は、有意義な展示会だった。

藤本 健