藤本健のソーラーリポート
自宅の発電/消費電力量が簡単に確認できる「エコめがね」って何?

~NTTスマイルエナジー社長 谷口氏に聞く

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


NTTスマイルエナジーが導入した、「エコめがね」のイメージ写真。一体どのようなサービスなのか

 11月1日、NTTの関連会社「NTTスマイルエナジー」が、家庭における太陽光発電の状況や、電力使用状況を“見える化”するクラウド型のサービス「エコめがね」をスタートさせた。

 このサービスを利用することで、ユーザーは家庭の電力情報をパソコンやスマートフォン、携帯電話などで確認できるようになった。さらに、ほかのユーザーと自分の家の節電状況を比較することもできるようになった。

 しかし、太陽光発電システムを導入していれば、多くの場合、モニターを導入しているので、それを見れば、たいていの発電状況は分かりそうだ。また、発電量をパソコンや携帯から見ることに、どんなメリットがあるのだろうか。というか、「そもそもなぜNTTグループが?」という話でもある。何かと疑問に感じている人も、私を含め少なくないだろう。

 そんな中、NTTスマイルエナジーの谷口裕昭代表取締役社長にお会いすることができた。ここで、「エコめがね」とはどんなものなのか、なぜNTTグループがこうしたサービスを手がけているのかなど、話をうかがってみた。


東日本大震災で、エネルギーはたくさんを消費するものではなく、節約するものに変わった

――NTTスマイルエナジーという会社は、まだできて間もない会社だと思いますが、どんなことを目的として誕生された会社なのですか?

NTTスマイルエナジー 谷口裕昭代表取締役社長

 当社は今年6月1日に設立したばかりの会社で、NTT西日本が66%、オムロンが34%の出資となっています。本社は大阪の北浜にあります。

 会社の目的は、「エネルギーの見える化サービスの提供」です。なぜ、見える化をするかというと、東日本大震災以降、エネルギーのあり方が大きく変わってきたからです。

 私が子供のころの日本は、高度経済成長期だったので、みんなの生活が豊かになるためには、たくさんモノを買ったり、たくさんエネルギーを消費することが条件のようになっていました。そのために必要なエネルギーは国や電力会社が一元的に確保して、供給するというのが成功の方程式でもありました。

 しかし、今、それが大きく変わってきています。技術が進展してきたことで、太陽光発電や燃料電池を使って私たち自身でも発電できるようになりました。特に“3.11”以降、エネルギーをいかに大切に使うか、できるだけ節電しようという意識に切り替わってきています。

 もちろん、それ以前からCO2の問題はあり、京都議定書といった話はありました。しかし、震災以降、家庭や個人の動きは大きく変わってきており、これまでのように「エネルギーはどこかに任せておけばいい」、「電気は適当に使っていれば自動的に料金が引き落とされて……」というものではなくなってきました。エネルギーと家庭の距離が、明らかに近くなってきているのです。

 そこで、私たちが役立てることがあるのではないか、と考えて作ったのがNTTスマイルエナジーなのです。

電気の発電・使用状況を詳細に把握。ネットワークで繋がることで“節電所”もできる

――その具体的なサービスとして開始したのが、「エコめがね」というわけですね

 はい。「エネルギー見える化サービス」の第1弾が、「エコめがね」という位置づけになります。

 現在、家庭において、省エネ家電や太陽光パネルは急速に普及しており、エコ意識は高まっています。そこでまずは、太陽光発電のユーザー向けに「見える化」を通じて、楽しみながら安心してエコライフを実践できるよう、「エコめがね」の提供を11月1日にはじめました。

エコめがねのシステム図。分電盤に設置したセンサーが、クラウド上のサーバーに発電量・消費電力などのデータを送信。パソコンや携帯電話などで確認できる

 エコめがねのメリットは、情報がより詳細に把握できる点です。これまでは電力会社からの1カ月に1度来る請求書を見るまでは、どれだけ発電したのか、どれだけ売ったのかなどを知ることができませんでした。それをリアルタイムに見えるようにするとともに、CO2をどのくらい排出したのか、あるいは抑えることができたのか、などの情報を正確に把握することが可能になるのです。

 メリットはこのほかにもあります。エコめがねで収集した情報を、ユーザー同士でネットワーク上で繋げることができます。これによって、新しい価値が生まれるのです。

――ネットワークでつながることで生まれる価値とは、どういうことですか?

 それは“節電所”が増やせる、ということです。

 現在の節電は、ひとりひとりがボランティアで努めていますが、これを“塊”で捉えると、膨大な電力の節電につながります。これによって、発電所を増やす必要がなくなったり、場合によっては発電所を減らすことも可能になるほどの力を持っているのです。

 今は社会的な制度がないので、節電を価値化できていませんが、節電や太陽光発電をまとめていくことで、大きな価値が生まれる可能性があります。我々は、そんなビジネスを考えているのです。

 多くの人がエコめがねに参加する、またはある地域全体がエコめがねに参加することで、新しい価値を生んで、それを提供していきたいと考えているのです。

――なるほど。非常に壮大な取り組みですね


NTTとオムロンがエネルギーの見える化に取り組む理由

――ここで疑問があるのですが、なぜそうした事業を、NTT西日本やオムロンという会社が手がけるのですか? 企業イメージからすると、ちょっと畑違いないような気もするのですが

 エネルギーと人との関わりをもっと近くすることが求められていますが、ここには通信が必要となります。たとえばエネルギーを制御するのには、通信回線が必要となるし、エネルギーの情報を使って、付加価値を提供することもできます。NTTは通信の会社ですから、ここに貢献することができるはずです。

 一方、オムロンはセンシング&コントロールの会社。この2社の役割をつなぐことで、可能性が大きく広がると考えているわけです。

 私自身はNTT西日本の出身ですが、もともとオムロンとはいっしょに仕事をしている分野がありました。それは法人向けの電力の“見える化”サービスで、企業用のネット回線「FLETS VPN」と組み合わせてサービスを提供していたのです。企業が省エネ法で求められている月に1度のレポートを出すために、2社で組んでサービスを行なっていたのです。

 しかし、このエネルギーの見える化は、何も法人だけのための話ではありません。一般家庭に対しても、大きな可能性を持つものであるため、以前から事業化を進めていきました。その中で最初に取り組んで行なったのが、太陽光発電のユーザーの方へのサービス提供です。発電量や使用量を見える化すると同時に、CO2の排出権の買取、さらには異常や故障の早期発見といった“パネルの見守り”といったことを、サービスとしてパッケージ化を考えていきました。

 ちなみに、エコめがねのサービスは、太陽光発電システムを備えていない家庭でも使えるようにしています。実際に、太陽光発電システムがない家庭の方にも参加いただいています。


必要な作業は分電盤にセンサーを付けるだけ。忘れ去られがちなCO2排出権もカウント

――経緯についてはよくわかりました。話をエコめがねに戻しますが、具体的なサービス内容について、もう少し詳しく解説をお願いします。まずは、どうやって電力を計測しているのでしょうか

分電盤に取り付けるセンサー。基本的にはコレを導入するだけだ

 エコめがねでは、まず最初にご家庭に伺って分電盤にセンサーを取り付けさせていただきます(右の写真)。このセンサーで発電量、使用量が測定できるようになるのですが、その結果を無線LANで飛ばして、データが自動的にクラウドに上がるようになります。

 その結果、パソコンや携帯電話・スマートフォンで、いつでもどこからでも太陽光発電の状況や電気の使用状況を確認することができます。

家庭の消費電力量と太陽光発電システムの発電量をグラフ化する「エコグラフ」

 また、電力量や電気代収支を、日別・時間帯別のグラフで見える化するため、節電のための分析ができるのも大きなポイントです。さらに、電力量や電気代収支などの情報をみんなの平均と比較できるようになっています。これによって、相対的に自分の家庭での状況をつかむことができるわけです。

 さらに、発電状況を評価し、月ごとにレポートをお届けするサービスも行なっています。

――ただ、発電量や使用量だけであれば、最近のモニターでチェックできるものもあるので、既存ユーザーにはそのメリットが分かりにくいかもしれません。この点はいかがでしょうか

 モニターや既存サービスと大きく異なるのは、先ほど挙げた、ネットワークで繋げることで、節電効果を周りと比較し、やる気を引き起こすというものがあります。

 別のメリットとしては、太陽光パネルで発電した電気のうち、自家消費分を国内クレジット(排出権)を利用して、お客様に還元するサービスに加入いただけるということです。

 太陽光パネルで電気を発電することで、年間で1トン程度のCO2削減効果があります。このうち売電分の排出権は、電力会社のものとなります。しかし、自宅で使った分には、その価値が手元に残っているため、国内クレジット制度を利用し、排出権を市場で売買することができるのです。

CO2排出権をカウントする「エコフラワー」

 それを分かりやすく見せるため、エコめがねのメニューの1つとしてエコフラワーというものを作っています。太陽光パネルで作った電力を自家消費すると、どんどんエコフラワーが貯まります。そして貯まったエコフラワーは、環境保護活動の支援や環境関連商品などの取得に使用することができます。

 金額換算すると年間で1,000円だったり1,500円程度だったりと、それほど大きなものではありませんが、それを目で見えるようにすることで、より親しみやすくなるのではないでしょうか?

――売電とは別に、自分で使った電力に対しても価値化できるのは魅力ですね。ところで、CO2排出権を価値化する方法としては、NPO法人の太陽光発電所ネットワークが実施しているような、グリーン電力証書を使って価値化するという方法もありますが、これとはどのような関係になるのでしょうか?

 エコフラワーは国内クレジット認証委員会から認証を受けた方法で運用していますが、別のクレジット制度に加入している場合は、エコフラワーには参加できません。グリーン電力証書もその1つであるため、グリーン電力証書とエコフラワーは、どちらかだけに限られる、という関係になります。

 金額的にいうと、確かにグリーン電力証書のほうが高いかもしれませんが、現在の制度では、グリーン電力証書での電力カウントをするためには、計量法で認証されたメーターを設置し、それをユーザーが確認しなくてはならなりません。もちろん、メーター設置費用も必要となります。それに対し、エコフラワーはすべて自動で計測されるので、手軽というメリットがあります。

 また市場として捉えた場合、CO2排出権は世界中で取引されていますから、ずっと大きいマーケットであり、今後も幅広く扱われていくはずです。現在、この排出権を日本は海外から高値で購入していますが、日本の太陽光発電のユーザーから買うことができれば、日本にとっても良いことをしていることになるはずです。そうした貢献ができるのもエコフラワーの特徴です。


ソーラーパネルの故障も見守る。居住エリアは東日本/西日本関係なし

――先ほど話しにあった、太陽光の「見守り」サービスについて、もう少し詳しく教えていただけますか。何をもって故障を判断するのでしょうか

 太陽光発電の場合、パネルの一部が故障するといったケースがときどきありますが、ただ、一部が故障しても、全体的には発電しているので、その故障に気づかないことも少なくないのです。そこで、発電状況をチェックしながら、周りの人たちの結果と比較して問題がないかを確認できるようにしています。

太陽光発電システムの発電状況を評価し、故障や異常を見張る「太陽光発電状況見守りサポート」

 具体的には最大発電量(過去1カ月間で最も発電した1時間の電力量とパネルの理想出力との差異を評価)と、累計発電量(居住地域の日射量データ、太陽光パネルの種類や容量、設置角度や方向から期待できる発電量を推定し、実測値の差異を比較評価)をもとに評価し、月ごとに見守りレポートを提供しています。これを見ることで、故障の早期発見につながるはずです。

――太陽光発電量や使用電力量の見える化は、NECのシステムを用いて、セキスイハイムが「スマートハイム」としてサービスをはじめていますよね

 確かに他社でも近いサービスが出てきていることは認識しております。

 しかし、他社との違いを挙げていくと、まず大きいのは新築時でなくても導入が簡単にできることです。1時間程度の工事で分電盤に取り付けるだけでできるのです。また、当社はNTTの関連会社ではありますが、回線フリーとしており、NTT以外の電話回線、ネット回線であっても無線LANさえあれば使えるようにしています。

 こういうサービスはいかに広く多くの人に使っていただくかということが重要ですので。もちろん、料金的にも導入しやすい設定にしております。具体的にはレンタルプランの場合、初期費用が不要で月額料金が980円。買取プランの場合は初期費用が31,500円で、月額390円という設定です。

――NTTスマイルエナジーがNTT西日本の関連会社ということは、対象エリアは西日本に限定されるのですか?

 いいえ、日本全国で展開していきます。NTT東日本とも当然協力関係にありますので、東日本側で同様のサービスがスタートするというわけではありません。

率直な疑問“儲かる事業ですか?”

――エコめがね、とても面白いサービスとは思うのですが、これにどれだけの価値があるのか、月額使用量を支払ってまで参加すべきものなのか、なかなかユーザーには伝わりにくいようにも思いますが

 それを伝えていくのが私たちの役割だと思っています。このサービスはたくさんの人たちに使ってもらうことで価値が出てくるものです。クラウド型のネットワークサービスとしており、家の中でのセンシング結果を他のユーザーと比較することで、自分の節電における“頑張り度”が見えてくるのです。

――最後に、率直な疑問なんですが、エコめがねは“儲かる事業”になりますか?

 3年後に10万人のユーザーがいることが当初の目標です。その翌年にこの数を超えると、ようやく採算が取れると考えております。

 もっとも黒字化の前に、まずはたくさんのユーザーに使っていただくことが重要だと考えています。今、日本の太陽光発電の設置世帯数は80万。毎年20万世帯増えているので、その中の10万ですから、太陽光発電システムを導入していない世帯も対象にしていることも考えると、可能性は十分にあるのではないでしょうか。

 もちろん、私たちだけ単独で売り切れるものではありません。太陽光パネルのメーカー、卸、販売店と、広くパートナーシップを組んでいくことで、普及していきたいと思っています。

――ありがとうございました

さっそく自宅にエコめがねを導入しました

 以上、NTTスマイルエナジーの谷口氏にいろいろと聞いてみたが、サービスの全容や導入の方法、エコめがねだからこそできる価値などがご理解いただけただろう。

 しかし、頭で理解しても、実際に自分で使ってみないと、どのように便利なのかがピンと来ないというのが正直なところだ。そこで筆者は、自らこのサービスに入会してみた。ちょうどキャンペーン期間中で、年内ならレンタルプランの月額が480円で利用可能ということだった。

 既に自宅に導入しており、実際の使用感などを、改めてレポートさせていただく予定だ。





2011年12月21日 00:00