藤本健のソーラーリポート
宮崎大学が進める「太陽光発電研究プロジェクト」とは

~各ビルの屋上だけでなく、自販機の上にまで太陽電池を設置!

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


 前回は、宮崎県が太陽光発電を推進するための「みやざきソーラーフロンティア構想」という産官学のプロジェクトについて紹介した。その一角を担っているのが宮崎大学だ。ここでは、太陽光発電に関してさまざまな角度から研究に取り組み、キャンパス内にも多くの太陽電池が設置されている。今回は、宮崎大学のユニークな取り組みについて紹介してみよう。

キャンパスの至るところに、様々な種類の太陽電池が

 宮崎市の南西に位置する自然豊かな森の中にある宮崎大学では、4年前に「太陽光発電研究プロジェクト」なるものを立ち上げ、現在約20人の教員、そして多くの学生たちが参加する形で研究が進められている。プロジェクト立ち上げには、宮崎県が日照量全国第3位という場所であり、県主催の研究会が設立されたり、世界最大級の太陽電池工場を誘致するなど、県を挙げて太陽光発電に対して取り組んでいるといった背景がある。

工学部・材料物理工学科 准教授、西岡賢祐氏

 現在、宮崎大学の太陽光発電研究プロジェクトでは、大きく4つの部門に分けて研究開発に取り組んでいる。具体的には太陽電池の作成に取り組む「開発部門」、太陽電池素材や太陽電池の評価に取り組む「評価部門」、太陽電池システムに関する研究開発を行なう「システム部門」、そして太陽電池の利用に関する研究を行なう「応用部門」の4つだ。今回は、そのプロジェクトで中心的な役割を担う工学部・材料物理工学科の准教授、西岡賢祐氏にキャンパスを案内してもらいながら、宮崎大学の取り組みについて説明してもらった。

 キャンパス内を歩いていてまず目についたのが、各ビルの屋上に設置されている太陽電池だ。宮崎大学では、エコキャンパスということで、CIS太陽電池、ハイブリッド薄膜シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池など、複数の種類の太陽電池が設置されているのだ。

キャンパスの各ビルの屋上には様々な種類の太陽電池が設置されている

 キャンパス内の同じ気象条件で発電されるため、それらの違いが比較できるようになっている。

 一番大容量なものとして設置されているのが、宮崎ソーラーウェイが採用したものと同じ、宮崎県産の太陽電池、つまりソーラーフロンティア製のCIS太陽電池だ。トータル100kWとのことで、かなり大容量であることが分かるが、膨大な電気を使用する大学中での貢献度は2%強。それを少ないととるか、多いと取るかは人それぞれだが、発電量としては月間で15,000~20,000kWhとのことだから、結構な量であることは間違いないだろう。

宮崎大学のキャンパスには、製造メーカーや種類が異なる複数の太陽電池が設置されている様々な種類の太陽電池を設置することで発電量の違いなどを検証
太陽電池の設置角度は10度だった。従来の30度前後が理想的であるといわれていたが、最近取材したメガソーラーは10度で設置しているところが多かった

 実際、CIS太陽電池が設置されている教文実験研究棟の屋上に上って見ると、やはりかなり多くのパネルが並んでいる。設置角度は10度。本来、太陽パネルの設置角度は30度前後が理想の角度であるとされていたが、以前行った神奈川県の「浮島太陽光発電所」、そしてリニアモーターカーの試験線を利用した「宮崎ソーラーウェイ」ともに設置角度は10度だった。強度や影の問題を考えると、実は10度というのが絶妙な角度といえるのかもしれない。

 ところで、九州というと、宮崎県、鹿児島県の境にある新燃岳の噴火が記憶に新しいが、この宮崎大学でも新燃岳の噴火の影響はかなりあったという。西岡氏によると「このパネル上にも、火山灰が降りました。ただ実証実験の意味もあり、あえて掃除などはせず放置しておいたところ、1週間程度経過したころには、かなり降り積もり、出力が通常の3割程度しかなくなったのです。ところが、その後雨が降ると出力は完全に元に戻りました」とのこと。

 当日見た感じでも、火山灰の形跡はまったくなく、パネルはキレイな状況だった。研究棟の1階には液晶テレビによるモニター表示がされていたが、当日は雨天だったため、出力は小さかった。画面上では、直流での発電が2.7kW、交流に変換した結果1.9kWと、パワコンによる変換効率が非常に悪くなっているが、これは出力が小さいからであり、晴天で出力が大きい場合は、高い変換効率になるとのことだ。

発電量はモニター表示されている。この日はあいにくの天候で、直流での発電が2.7kW、交流に変換した結果1.9kWキャンパス内の自動販売機にも、太陽光パネルが設置されていた

 もう1つキャンパス内で目立っていたのは、太陽電池を載せた自動販売機。キャンパス内に設置されている飲料の自動販売機の上にも太陽電池が設置されているのも目立っていた。さすがに小さいパネルなので、自動販売機の冷却にまでは使えないだろうと思って聞いてみたところ、やはり使われているのは、照明用とのこと。それでも太陽電池をアピールするための演出としては、なかなかいい役割を果たしているように感じた。

光をレンズで集めて発電効率をアップ?

 さて、この宮崎大学、もちろん単に太陽光発電をして、その発電状況をモニタリングしているというわけではない。こうした出力データを解析するとともに、インバーター、2次電池の開発などにも取り組んでいる。

 さらに現在、宮崎大学で力を入れて取り組んでいるのが「集光型太陽光発電」の開発だ。前出のエコキャンパスマップにもあった、14kW×2基のシステムで、太陽電池としてはあまり見かけない形状をしている。

宮崎大学で力を入れて取り組んでいる「集光型太陽光発電」

 これは大同特殊鋼との共同研究によるもので、名前のとおり光を集めて発電するというもの。といっても先週紹介した「ビームダウン式集光装置」とはまったく異なるユニークなるシステム。これは光をレンズで集めて高性能な太陽電池に照射することによって、高効率を実現しようというのだ。

光をレンズで集めて、高性能な太陽電池に照射することによって高効率を実現するという太陽電池の上に設置するレンズ

 でも、なぜそんな妙なことをしているのだろうか?これについて西岡氏は「レンズで集光することにより、太陽電池の使用面積を1/500~1/1,000程度に減少できるというのが大きなポイントです。小さいために高性能で耐久性の高い太陽電池を採用することが可能になり、ここでは人工衛星など宇宙で使われている多接合型太陽電池を採用しています」と話す。

 その太陽電池のセルは5×7mmと1円玉よりも小さいものなのだ。一方で気になるのはレンズ側のコストだが「これはヘッドライトなどに採用されているプラスチック製のものを転用しているため、非常に安くできます」(西岡氏)という。

左のケースに入っているものが多接合型太陽電池、右は一般の単結晶シリコン太陽電池レンズはヘッドライトなどに採用されているプラスチック製のものを転用しているという

 ただし、考えればすぐに分かるとおり、レンズで小さなセルのところに光を集めるためには、太陽の光を真正面から受けないとならない。そこで、この集光型太陽電池はひまわりのような太陽追尾型となっている。宮崎大学に設置されていたのは縦7m×横10mとかなり大きなシステム。これで太陽を追いかけるのでは、そこに膨大な電力を喰うのではと心配になってしまう。

 西岡氏によれば「乾電池数個で動作するモーターで駆動しています」とのこと()。このモーターは雨の日でも常に太陽の位置に向いており、当日も集中豪雨の中、けなげに動いていた。

 実は筆者は、この集光型太陽電池を見たのは今回が2回目。1年半ほど前に山梨県にあるNEDOが実証実験を行なっていたメガソーラープロジェクト「北杜サイト」を見学しにいった際にもほぼ同様のものを見ていた。

集光型太陽電池のモーター部分山梨県のメガソーラープロジェクト「北杜サイト」にあった集光型太陽電池

 そちらもやはり大きなシステムであり、家庭に置くタイプのものではなさそうだ。主用途は砂漠など広い土地に多数設置することが考えられているのだが、通常の太陽電池にはない大きなメリットがあるという。それは、放牧地帯などにも設置可能だという点だ。通常の太陽電池パネルの場合、それが固定して設置されるため、パネルの下側は影によって不毛の地になってしまう。しかし、太陽を追って常に動く集光型の場合は、時間によって太陽が当たるため、しっかりと草が生えるというのだ。そうしたメリットもあって今後、集光型太陽電池の導入は増えてくと、予想している。

集光型太陽電池の場合、常に太陽を追って動くため、パネルの下が不毛地帯になってしまうという太陽光発電の問題を解決できるという集光型太陽電池の導入が増加すると見込んでいる
奥の方にあるブルーシートで隠されているものが、家庭用集光型太陽電池。手前のものと比べるとかなり小型だ

 ここで気になるのは、この太陽電池は家庭で利用できるのか、という点だ。屋根の上に設置したのでは、太陽を追いかけることができないので無理だが、「少し広めの庭があれば設置可能な小型タイプも開発中です」(西岡氏)とのこと。大同特殊鋼と開発を進めている最中なので、公開はできないとのことだったが、ブルーシートで隠されたものが置かれていたため、その大きさは確認することができた。

最先端の研究開発や人材育成も

 宮崎大学では、これ以外にも次世代薄膜太陽電池の作成にも取り組んでいる。これはCIGS型(化合物から成る太陽電池。軽くて高効率であるという特徴がある)の太陽電池を、真空を使わずにスプレーで塗布する形で制作するというもの。今後太陽電池の大幅なコストダウンが見込めるという。また超高効率の太陽電池作成、新規評価技術開発など、高効率太陽電池というテーマで開発を行なっている。

 また「低環境負荷型農業」の開発も進めている。前回紹介した「温室ハウス冷暖房用太陽熱蓄熱システム」とはまったく別のもので、LEDと太陽光発電システムを組み合わせた栽培システムだという。具体的には温室に必要な電力をすべて太陽エネルギーでまかなう一方、波長選択型のLEDを利用して植物を育てようというのだ。これによって、低環境負荷で低コストを実現する農業形態の開発を目指している。

 さらに、教育機関である大学なだけに、太陽光発電に関する人材育成にも力を注いでいる。2009~2010年度は「太陽光発電関連産業のニーズに応える高度専門性を持つ人材育成プログラム」と題して、民間企業や他大学などからも専門の講師を集めて太陽光発電に関する教育プログラムを実施してきた。

 実際、シリコン太陽電池の制作工程を体験しながら、評価まで行なうといったプログラムも行なわれてきた。今年度は「太陽光発電関連産業群形成を目指した高度人材創出プログラム」と題し、「太陽光発電基礎講座」、「太陽光発電応用講座」が実施される予定だ。これらは主に中小企業の従業員および求職者を対象に無料で行なわれるというもの。すでに定員に達しているため、応募は締め切られたようだが、そこで使われるテキストは、無償配布されているため、サイトからダウンロード可能となっている。

 以上、宮崎大学の太陽光発電に関する取り組みについてみてきたがいかがだっただろうか? ここまで1つの分野に特化して、産官学連携を上手に展開している大学はまだ少ないように思うが、ぜひ宮崎大学から多くの技術が生まれ、多くの人材が育つことを期待したい。




2011年7月13日 00:00