藤本健のソーラーリポート
東京湾にメガソーラー発電所ができる!
「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です。藤本氏のソーラー実践記については、こちらのリンクからご確認ください(編集部)
「メガソーラー発電所」というものをご存知だろうか。
メガソーラー発電所とは、メガワット級、つまり1MW(メガワット)=1,000kWを超える容量の太陽電池を使った大規模な発電所を意味するもの。スペインやドイツなどヨーロッパでは既に数多く設置され、再生可能エネルギーを利用した発電の目玉として期待されている。
日本でもようやく最近になって、メガソーラー発電所が誕生しつつある。しかもこの8月には、首都圏のど真ん中でメガソーラー発電所の運用が始まる。場所は羽田空港のすぐ隣に位置する、東京湾の埋立地「浮島」(神奈川県川崎市川崎区浮島町)だ。この「浮島太陽光発電所」では、つい先日、合計37,926枚という膨大な数の太陽光発電モジュール(太陽光パネル)のすべての設置が終了し、現在は運用に向けたその他の工事が着々と進められている。
浮島太陽光発電所の俯瞰写真 |
最近、菅首相が「原発依存型政策を見直し、再生可能エネルギーの導入を検討する」といった主旨の発言をし、話題になっている。実際のところ「そんなことができるのか?」と疑問に感じている人も少なくないだろうが、メガソーラーはその可能性を感じさせてくれる1つの例だ。一般的な住宅の屋根に取り付けられている太陽光発電の規模が3~5kW程度であることを考えると、1MW=1,000kW以上も発電するというのは、まさにケタ違いに大規模な発電所であることが分かるだろう。
今回は、広大な“太陽電池の畑”ともいえそうな浮島のメガソーラー発電所を、パネル設置後ではメディアで初めて取材することができた。川崎市の担当者の話を交えながら、レポートしてみよう。
■欧州で大流行のメガソーラーが、やっと日本に誕生した理由
浮島発電所を紹介する前に、そもそも、なぜ日本にメガソーラー発電所が作られたのかを説明させていただきたい。
もともと日本は、太陽光発電の普及においては、世界一を誇っていた。しかし、それは各家庭の屋根に設置された規模の小さいものであって、2005年にはドイツ、2008年にはスペインといったヨーロッパの国々に抜かれてしまい、現在は第3位となっている。
ヨーロッパでは太陽光発電が流行したのは、多くの国で「フィードインタリフ」(Feed-in Tariff。略称は「FIT)が導入されたことが大きい。フィードインタリフとは、再生可能エネルギーで発電した電力を固定価格で高く買取る制度のこと。各国が施策として導入したことで、さまざまな企業が“儲かる事業”として、メガソーラー発電所を設置していったのだ。
日本でメガソーラー誕生のきっかけとなったのが、2008年の福田首相時代に打ち出された「福田ビジョン」だった。“ソーラー世界一の座を奪還しよう”と、2020年には太陽光発電の発電量を2008年当時の10倍に、2030年には40倍に増やす目標が掲げられた。
福田ビジョンでは、太陽光発電を増やすために提言された施策が2つあった。1つは家庭用の太陽光発電を増やしていくことで、これによって売電価格が引き上げられたり、補助金の復活などが実現されていった。
もう1つの施策が、電力会社が中心となって、メガソーラー発電所を全国展開することであった。その方針に基づき、東京電力、関西電力、中部電力……といった各電力会社で、メガソーラー発電所の建設を行なっており、ここ1、2年のうちに、そのほぼすべてが稼動開始する予定となっている。今回訪ねた浮島太陽光発電所も、そのうちの1つとなる。
■埋立地の浄化に20年も掛かる――土地の有効利用として川崎市が東電に提供
メガソーラー発電所が日本に誕生するまでの経緯は上記の通りだが、ではなぜ、東京湾、しかも浮島という土地に建設されたのだろうか。
メガソーラー発電所の建設事業に携わった、川崎市 環境局 地球環境推進室担当の弓田茂係長 |
「浮島という土地は埋立地です。今回の太陽光発電所の建設地は、ごみの焼却灰を埋めていた場所で、比較的最近できあがっており、埋め立て終わった後にきれいな土をかぶせているので、見た目には普通の土地のように見えます。ただし法律上、すぐに一般の土地として使うことができないため、使えるようになるまでの土地の有効利用として活用しています」
そう語るのは、川崎市の環境局で、メガソーラー発電所の建設事業に携わった、地球環境推進室担当の弓田茂係長。今回誕生するメガソーラー発電所は、川崎市と東京電力の共同事業として実施されたものだ。
弓田氏によると、埋立地を一般の土地と同様に利用するには、法律上、ある一定期間の間、雨水を土地に浸透させ、浄化する必要があるという。具体的には、埋立地の地下水を汲み上げて、「浸出液処理施設」という施設で浄化処理を行なっていくとのこと。今回の浮島のケースでは、浄化に20年近くかかるそうだ。
「その土地が11ha(ヘクタール。1haは10,000平方メートル)もあるので、何か有効利用できないかと思案していたところ、『福田ビジョン』が打ち出されるなか、土地を東京電力に貸して、太陽光発電をしていこう、という話になったのです」(弓田氏)。
■隣接する埋立地「扇島」にもメガソーラー発電所が
メガソーラーの建設が決定したのは2008年。川崎市と東京電力の間で基本合意がされ、2009年12月には両者における「川崎市臨海部におけるメガソーラー発電計画に関する基本協定」が締結されている。
ここで「浮島」ではなく「川崎市臨海部」となっているのは、「もう一カ所、同じく川崎市川崎区の埋立地『扇島』でも同様にメガソーラー計画を共同で進めており、双方合わせて川崎市臨海部としています。規模的には浮島が約7,000kW、扇島が約13,000kWなので、合計で約20,000kWとなります」(弓田氏)だからだ。扇島発電所は今年12月に運用がスタートする予定となっている。
浮島発電所の周辺図。ごみ処理施設「環境局浮島処理センター」と、川崎浮島ジャンクションとの間の土地に誕生する [→GoogleMapsで地図で見る] | メガソーラーは、浮島から西に約6kmほど離れた埋立地「扇島」にも作られる |
浮島・扇島を合わせた発電出力は20MW。年間の推定発電電力量は約2,100万kWhで、これは約5,900軒分の電力に相当するという。川崎区の世帯数11万世帯に換算すると、全体の約5.4%分を賄う電力で、川崎市全体の64万世帯に対しては、約1%分の電力に当たることになる。これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだが、太陽光発電としては大規模であることは間違いない。
ちなみに、この基本協定の主な内容は以下のとおり。
・川崎市と東京電力との共同事業として実施する。
・川崎市は、太陽光発電所の一部土地の提供に加え、本計画を通じた太陽光発電等の
普及啓発活動を推進する。
・東京電力は、太陽光発電所の建設・運転を担う。
・本計画の運営期間は、浮島太陽光発電所の営業運転開始の日から18年間とする。
発電所 | 浮島太陽光発電所 | 扇島太陽光発電所 |
所在地 | 川崎市川崎区浮島町 | 川崎市川崎区扇島 |
建設受注者 | 東芝 | 日立製作所 |
太陽光モジュールメーカー | シャープ | 京セラ |
太陽電池出力 | 約7,000kW | 約13,000kW |
年間発電電力量(推定) | 約740万kWh | 約1,370万kW |
CO2削減量(推定) | 約3,100t | 約5,800t |
敷地面積 | 約11ha (川崎市所有地) | 約23ha (東京電力所有地) |
太陽光発電設備の設置面積 | 約10ha | 約20ha |
モジュール(パネル)使用枚数 | 37,926枚 | 63,792枚 |
工事着工時期 | 2010年4月 | 2010年4月 |
営業運転開始時期 | 2011年8月 | 2011年12月 |
また、浮島太陽光発電所に隣接するビルでは「(仮称)かわさきエコ暮らし未来館」が8月に開館する予定。ここは太陽光発電などに関する普及啓発が行なわれるとともに体験設備を備えた環境学習施設になる予定で、誰でも無料で入館できる。さらに、浮島太陽光発電所の全貌を見下ろせる展望スペースも用意され、見学ツアーも実施される計画となっている。展望スペースの利用は予約制となる見込みだ。
「これまでも川崎市では『カーボン・チャレンジ川崎エコ戦略』として、太陽光発電設備に関して、住宅用に対する補助のほか、公共施設に設置するなどの取り組みを行なってきましたが、浮島太陽光発電所と未来館は、まさにそのシンボリックな存在になると考えています」(弓田氏)
川崎市臨海部のメガソーラー発電計画の概要。同時に太陽光発電のPR施設も作られる |
■11haの土地にソーラーパネルがズラリと並ぶ。羽田を離着陸する飛行機からも見える
概要についての説明を受けた後、展望スペースのある3階建ての施設の屋上へと移動。ここからは、広大な浮島太陽光発電所が見下ろせる。
浮島太陽光発電所が見下ろせる3階建ての施設から見たところ |
展望スペースから左方向(北)を見たところ。奥のビルの谷間に、羽田空港の飛行機が停まっているのが見える | 右方向(東)には、首都高速と東京湾アクアラインが交差する「川崎浮島ジャンクション」が見える |
これだけの数の太陽電池パネルが並んだ姿というのは、壮観だ。およそ11ha(450×250m)の土地が、太陽電池で埋め尽くされている。
メガソーラー発電所のすぐ先には羽田空港があり、空港に停まっている飛行機や、飛行機の離着陸で見られる。弓田さんによれば、羽田から離陸するとき、または着陸するときに、コースによっては浮島太陽光発電所がよく見えるとのこと。今後、羽田空港を利用する機会があれば、ぜひ注目していただきたい。
作業員や工事車両の姿も見える。8月の運用開始に向けて、作業を進めているところだ | 太陽光発電所には、川崎市のごみ処理施設「浮島処理センター」(写真)が隣接されている。我々が発電所を見下ろした施設も同センター内にあり、PR施設「かわさきエコ暮らし未来館(仮称)」も開設される予定だ |
■“太陽光パネルの海”には工夫がいっぱい
その後、太陽光発電パネルが置かれた発電所内へと移動した。一面に太陽光パネルが広がっており、膨大な数の“太陽電池パネルの海”にでも入ったような感覚で、圧倒される。
発電所の敷地内に入ったところ |
一面に太陽光パネルが広がり、圧倒される | 写真を撮影する筆者。パネルのサイズが大きいことがお分かりいただけるだろう |
パネルをよく見ると、セルの角部分が斜めに欠けているのに気づいた。このパネルの模様は単結晶特有のものだが、メーカーは多結晶のパネルを広く展開しているシャープ。おかしいぞ、と思い後で東京電力に問い合わせてみたところ、量販品ではなく特注品の単結晶パネルを使ったとのことだった。パネルの発電効率は非公開とのことだったが、パネル1つの出力は198Wで、電圧は25V、電流は約8A。サイズは1,318×1,004mm(縦×横)という仕様になっている。
パネル1枚のサイズは1,318×1,004mm(縦×横) | パネルはセルの角部分が斜めに欠けていることから「単結晶」と分かる。メーカーはシャープだ |
また、これらのパネルはすべて南向きに並んでいるが、傾斜がずいぶん緩いように感じられた。一般的に屋根に太陽電池パネルを取り付ける場合、緯度によって最適角度が変わるといわれており、関東なら30度程度となる。しかし、どう見ても30度はないように見える。
「ここでの太陽電池パネルは10度で設置されています。確かに30度が効率的にはいいのですが、30度もあると影が大きくなり、前後のパネルと近づけることができません。限られた敷地内にできるだけ多くのパネルを敷き詰めるためには、緩い角度にする必要がありました。また、角度がきついと、風の影響を強く受けるため、架台や基礎をより頑丈にする必要があり、ここで多くのコストがかかってしまうというのもネックです。ただ、パネルについたホコリや汚れを雨で落とすためには、ある程度の角度が必要なのも事実。そこで最適と判断されたのが、10度という角度だったのです」(弓田氏)
いろいろな検討がされたうえで、10度という角度が選ばれたわけだ。
基礎部分に目を移すと、パネル6枚ごとに、コンクリートの四角い塊が作られている。ここにも、設置の工夫が隠されているようだ。
「先ほどお話したとおり、ここはごみの焼却灰の埋立地であり、埋め立ててからの間もない場所です。そのため、今後少しずつ地盤沈下していくし、それが必ずしも均等に沈下するわけではありません。そのため、なるべく小さいブロックにしておくことで、地盤沈下しても問題なく使えるようにしているのです」(弓田氏)
パネルの角度は10度。風と影、雨水の流れのバランスを考慮したうえで設定されている | パネルは6枚ごとに1つの四角い基礎の上に載っている。地盤沈下を抑えるための配慮だ |
■大量の太陽光パネルで発電した電気は、どうやって外部に届けるのか?
ところで、パネルから発電された電気は、どのようにして外部へと供給されているのだろうか。設置された1枚の太陽光パネルから、順を追って見ていこう。
太陽光パネルは、直列で18枚接続されており、それを並列に8つ束ねて、「接続箱」という装置につながれる。この接続箱からは、さらに「集電箱」という装置で5つ並列に接続される。こうして集まった電気を2つ合わせて「PCS」(パワーコンディショナーシステム)に集約する。PCSとは、太陽光で発電された直流の電気を、210Vの交流へと変換するシステムで、要は家庭用のパワコンを大きくしたものになる。
直列で18枚接続されたパネルは、8つに並列で束ねられる | パネルから発電した電気は、この「接続箱」で1つに束ねられる | 「接続箱」でまとめられた電気は、さらに「集電箱」という装置に集約される |
集電箱でまとめられた電気は、側溝を通って「PCS」という装置へと送られる | 側溝の内部には、たくさんのケーブルが通っている | 直流の電気を交流に変換する「PCS」という装置。これが発電所内に7つ設置されている |
PCSが入るコンテナのとなりには、大きな変圧器が置かれている(写真右) |
PCSは、発電所が海のすぐそばという立地のため、塩害避けるためにコンテナのような箱の部屋に収納されている。1つのコンテナには、4つのPCSが置かれている。
PCS1つあたりの出力は、単純計算すると、198W[パネル1枚当たりの出力]×18×8×5×2=285.12kWとなる。実際の発電量や、PCSでの変換効率などを勘案すると、250kW程度となるので、4つのPCSを合わせて、1MWとなる。浮島発電所内には、PCSが4個入ったコンテナが7つ設置されているので、トータル7MWとなるわけだ。
このコンテナの隣には、大きなトランス(変圧器)が置かれており、これで210Vの交流を、6,600Vへと昇圧する。7個のコンテナから作られた6,600Vの電気は、「高圧閉鎖配電盤」という機器で1つにまとめられ、「連系変圧器」という機器で66,000Vの高電圧に変換される。さらに、家庭でいうところのブレーカーに相当する「ガス絶縁開閉装置(GIS)」なるものを経由した上で、一般道路の下に敷設されている東京電力の特別高圧送電線に接続される。ここでやっと、外部へと電気が送り出されるのだ。
PCSのトランスで作られた6,600Vの電気を集約する「高圧閉鎖配電盤」 | 「連系変圧器」で66,000Vの高電圧に変換される |
家庭でいうところのブレーカーに相当する「ガス絶縁開閉装置(GIS)」 | これらの機器を経て、やっと東京電力の特別高圧送電線に接続される。特別高圧送電線は、緑化部と一般道路の地下に埋まっている |
現在は、まだ配線工事などが行なわれているため、発電所内には多くの作業員がいたが、8月の稼動後は無人での運営となる。もちろん、発電量などはすべて東京電力側でモニタリングするわけだが、誰もいなく、燃料も不要で7MWという大きな電力を発電してくれる発電所というのは、とても魅力的だ。
この発電所が実際にいくらで作られているか、という点も気になったが、「この発電所は川崎市と東京電力の共同運営となっていますが、実際の工事から運用まで、すべてを東京電力が行なっています。川崎市がお金を払っているわけでもないため、いくらで発注しているかは知らされていません」(弓田氏)とのことだった。ちなみに発注した業者は先ほどの表にもあったとおり、浮島太陽光発電所が東芝で、扇島太陽光発電所が日立。またパネルは、浮島がシャープ、扇島が京セラとなっている。
以上、浮島太陽光発電所についてレポートしてみたが、いかがだっただろうか。世の中で今まさに議論されている、再生可能エネルギーの大規模利用というのを間近で見ると、未来の発電方法のひとつではないかと感じられた。各家庭の屋根への設置が進むと共に、こうした太陽光発電所がたくさんできてくれると世の中も変わっていくだろう、と実感した。
2011年6月3日 00:00