そこが知りたい家電の新技術
東芝の丸くて小さな加湿空気清浄機「uLos(ウルオス)」が他社と大きく違う理由
~“業界初”の洗えるファンに、空気を巻き上げない送風機構とは
by 正藤 慶一(2012/12/18 00:00)
12月に入り、寒さと空気の乾燥が一段と厳しくなった。ノロウイルスの流行も叫ばれていることから、空気をキレイにしながら加湿できる「加湿空気清浄機」の購入を検討している方もいるだろう。
そんな加湿空気清浄機市場に、今秋、新たな製品が加わった。東芝ホームアプライアンスの「uLos(ウルオス)」だ。
uLosの特徴は、まずはその空気清浄機らしからぬ斬新なデザインにある。空気清浄機、特に高級タイプの加湿空気清浄機は、大きめで縦長という長方形デザインのものが多い中、uLosは何と「丸形」のデザイン。本体サイズも、同社の従来モデルよりコンパクトにしているという。
しかし、斬新なのはデザインだけではない。内部を分解して送風ファンまで洗える清潔性や、室内に気流を発生させずに空気をキレイにするなど、世に出ている一般的な空気清浄機とは異なる機構も採用している。ともすれば、まんまるのかわいいルックスから、単なる「デザイン家電」のようにも見えてしまうが、どうもそれだけでは終わらないようだ。
uLosの丸形デザインに隠された秘密について、東芝ホームアプライアンスに話を聞いてみた。
加湿空気清浄機の「大きさ」「清潔性」「強すぎる風」にユーザーから不満の声が
今回話をうかがったのは、東芝ホームアプライアンス ビューティ&ライフクォリティー事業部 商品企画部 空質企画担当の辻村周一主務。実は辻村氏は、過去に紹介した東芝の高級扇風機「SIENT(サイエント)」の開発担当者でもある。
まずは辻村氏に、uLosの開発に至った経緯を聞いてみると、従来の空気清浄機に対して、多くのユーザーから不満の声が寄せられていたという。
不満の一番手は、本体サイズの大きさだ。これは、空気清浄機に加湿機能が付いたことも影響しているという。
「店頭で見た時はそんなに大きくは感じなかったのに、家に持って帰ると『こんなおっきかったの?』という声がすごくありました。5年くらい前は、空気清浄機の8割が、加湿なしの空気清浄機能のみ。ところが今はまったく大逆転。加湿機能が付いているものが9割くらいになっているかもしれません」(辻村氏)
次に、清潔性。空気清浄機は見えないところが勝手に動いて空気をキレイにしているようだけど、そもそも空気清浄機自体が本当にキレイなのか、という疑問の声があったという。
辻村氏が実際に使用した空気清浄機を分解したところ、多くの製品において、ホコリの繊維やタバコのヤニ、ダニの表皮や糞など、本体の内部機構に汚れが見られたという。
「使う側には見えていなかったけれど、ファンも、内部の壁面も、何から何までぜんぶ汚なかった。これまではフィルターを通してキレイな空気を出していると思われていた空気清浄機が、本体内が見えないがために、実はそんなにキレイな空気を出していない、ということが分かり、これではいけない、という話になりました」(辻村氏)
そして、風や音の問題もあった。空気清浄機本体から放出される風が強すぎてうるさかったり、風が冷たいという不満の声があった。
「空気清浄機は年度商品になりつつあるものの、基本的には空気が乾燥する冬のシーズンに使うもの。しかし、これまでの加湿空気清浄機は、風を強力に吸い込んで、強力に吐き出すものがほとんど。風が発生して寒かったり、風の音がうるさいという問題が出てくる。この点はかねてから、なんとか解決したいと考えていました」(辻村氏)
東芝もこれまでは、他社と同じような形の空気清浄機を発売してきたが、2012年の冬シーズンより、前述の不満点や課題を解決した新しい空気清浄機を、「uLos」という新シリーズで送り出すこととなった。
ファンの外周に360度のドーナツ型フィルターを重ねることで、体積を33%小型化
さて、uLosを開発するにあたってポイントになったのが、冒頭で挙げた「本体が大きい」、「本体内部が汚い」、「風が強くて寒い、うるさい」という問題点。これらを改善するために、開発テーマは「1.コンパクトな設計」、「2.本体がキレイである」、「3.静かで寒くない気流を送る」という3点が掲げられた。
1点目の本体の大きさについては、従来の加湿空気清浄機がなぜ大きいか、ということから考え直された。一般的な加湿空気清浄機のフィルターは、本体に対し縦長に設置されているものが多いが、それに加湿ユニットを付けたことで、縦に長いだけではなく、奥行きにも厚みが出てきた。結果的に、太くて大きい空気清浄機ができてしまっていた。
「だったら、重ねちゃおうと。横に並んでいたものを丸型にして、厚みを取りましょう、ということになりました」(辻村氏)
uLosの内部構造のポイントは、パーツを重ねることで省スペース化した点にある。uLosの本体中心部には、空気を正面から取り込み、360度全周に送り出す「ターボブロアファン」が搭載されているが、このファンを丸く取り囲むように、ドーナツ形の円形空気清浄フィルターと円形加湿フィルターが、重なって設置されている。内側が空気清浄フィルター、外側が加湿フィルターという順番だ。
従来の加湿空気清浄機では、空気清浄フィルターと加湿フィルターはまったく異なる形状のため、前に空気清浄フィルター、その後ろに加湿フィルターと、並べて配置するしかなかったが、uLosではファンを取り囲むように2つのフィルターが重なって設置されるため、余計なスペースが省けることになる。
この結果、18畳向け「uLos CAF-KP40X」と、従来モデルの16畳向け加湿空気清浄機「CAFKN35X」を比べた場合、uLosの方が本体容積が約33%小型化された。CAF-KP40Xのサイズは430×190×455mm(幅×奥行き×高さ)、CAF-KN35Xは380×250×580mm(同)なので、幅は50mm横長になる一方、奥行きは60mm、高さは125mmも抑える結果になった。
「すべての空気清浄機を比較したわけではないが、他社と比較しても業界最小レベル。店頭でも小さく見えます」(辻村氏)
このサイズと形状は、持ち運びやすさにも繋がった。従来のような縦長サイズなら、両手で両脇の持ち手部分を掴んで持ち上げることになるが、uLosなら本体中央部にキャリーハンドルが付いているため、片手で簡単に持ち上げられるようになった。
業界で初めてファンを取り外した掃除が可能に。安全性にも配慮
1点目のコンパクト性が解決したところで、次は2点目の「本体がキレイであること」という課題になるが、これはある意味、単純なやり方を採用することで解決できた。本体内部の加湿ユニットや空気清浄フィルターが取り外せるのはもちろん、ファンまでも取り外すことができ、本体内部に直接手を入れて掃除できるようになった。空気清浄機のファンを取り外して掃除できるというのは、業界でも初めてのことだという。
「たとえ汚れても、できるかぎりキレイに洗えるように、今まで隠れていた部分もオープンにしよう、ということにしました。空気清浄機として、今まで見えなかった内部が見える状況になりました」(辻村氏)
ファンは水洗いに対応し、本体内部も拭き掃除で手入れできるようになった。もちろん、ファンを回転させるモーターや電源は取り外せない構造になっているため、余計なものまで取り外すことはない。
ここで重要なのが、安全性だ。本体前面パネルとファンとの間には、仕切りの壁「フィルターフレーム」が用意されている。ダイレクトにファンに手が触れないよう、フィルターフレームには磁石が入っており、これを外すとファンが自動的に止まる制御になっている。安全性もしっかり確保されているようだ。
ブロアファンの搭載で、『吸引してキレイにする』から『送出してキレイにする』に
残る課題は、3つ目の「静かで寒くない気流を送る」だが、もしかすると、これがuLosと一般的な空気清浄機と比べたうえで、最も異なる点かもしれない。というのもuLosは、多くの空気清浄機と比べて、空気の吸い込み方、吹き出し方が大きく異なるからだ。
「従来の空気清浄機では、吸引と送風を行なう『シロッコファン』を搭載しており、部屋に強力な空気を吹き出して空気を循環しながら、本体前方から空気を吸い込むという形が多く見られます。しかしuLosでは、空気を思いっきり吸い込み、ファンの外周から吹き出す『ターボブロアファン』というファンを採用しています。従来は、フィルターに通した空気を吸って、フィルターに通してから吹き出していましたが、uLosではまずファンで空気を吸い込み、側面から押し出した後で、フィルターに空気を通してキレイにする方式にしました」(辻村氏)
一般的な空気清浄機は、本体前面から空気を吸い込みつつ、上部から空気を吹き出して、室内に空気を循環する気流を作り出すタイプが主流。そのため、空気清浄フィルターは本体前面に備えられていた。
しかしuLosの場合、本体のコンパクト化の部分でも述べた通り、ファンの外側に加湿・空気清浄フィルターが付いている。ターボブロアファンで空気を吸い取り、その風をフィルターへ吹き出すことで、空気をキレイにしているのだ。風はファンの全周から送り出され、また本体側面のワイドな吹き出し口から出るため、一般的な空気清浄機よりもやさしくなる。そのため、吹き出す風に当たっても冷たくなく、また運転音も柔らかになるのだ。
「世の中の空気清浄機とはまったく逆方向。『吸引してキレイにする』から、『送出してキレイにする』という構造に変えました」(辻村氏)
ちなみに、uLosで採用されているブロアファンには、東芝の高級扇風機「サイエント」と同様、軸受部に振動を防止をするための工夫がされている。また、モーターも制振性の高いDCモーターを搭載している。辻村氏は「(ブロアファンであること以外は)サイエントと本当に同じ」と笑う。
わざわざ気流を起こさなくても、前方360度の吸込口から空気が吸い込める
この吸引方法では、部屋に空気の循環が起こりにくいことで、室内の空気全体をキレイにするのは難しいのでは、という疑問も思い浮かぶ。しかしuLosでは、空気を循環しなくても空気が吸い込めるように、本体前面には360度の吸い込み口が設けられており、ここから空間全体の空気を吸い込む構造になっているのだ。
「今までの四角形の空気清浄機だと、空気は本体側面と本体下部からしか吸い込めません。しかし丸形なら、前方360度の吸込口から吸い込める。気流を起こさなくても空気が吸い込めるよう、この360度吸引方式に変えました。もちろん、従来と同様に、下からも両サイドからも吸い込めます」(辻村氏)
ここで辻村氏は、空気を循環する一般的なスタイルの空気清浄機に関して、問題点を指摘する。
「多くの空気清浄機が、基本的には室内の空気を回して、本体の下から吸い込むということを言っています。確かに部屋に何もない空間なら、間違いなく循環させるのが効率的です。しかし、実空間はテーブルや椅子もあるし、テレビもある。こういう環境では、部屋の空気をかき回すことで家具の後ろに細かいホコリなどが入りこんだりする場合があります。
空気清浄機を使うことで、あたかも空気をすべてキレイにしているように思われますが、空気を循環させてしまうことで、通常放っておけばホコリなどが入らないところも汚してしまっています。見えないファンが汚れているのと同様、壁面や天井にホコリが付いたり、巻き上げているうちに、徐々に汚れが溜まってしまう。例えば絨毯にも、循環しているうちに入っている。結果的に、掃除機掛けの数も多くなってしまいます」(辻村氏)
実際、辻村氏が一般的な空気清浄機の空気の流れについて、ドライアイスを使って実験したところ、空気清浄機本体の中に入ろうとする風は当然存在する一方で、フィルターを通らずに、空気清浄機の後ろに回りこみ、本体上部に舞い上がってしまう風もあったという。
「ビル風のように、どうしても本体サイドに抜けようとする風があります。そのため、ここ(本体の裏側)がすごく汚れてしまい、それがまた舞い上がるから、取ってきた空気をさらに舞い上げてしまう恐れがあります」(辻村氏)
uLosでは、吸い込み時に強力な気流を作らないよう、吹き出す風を柔らかくして放出している。チリやホコリを無駄に巻き上げないよう、意図的に気流を作り出さないようにしているのだ。
フィルターを円形にすることで、従来にはなかったメリットはほかにもある。それは、フィルターが有効活用できるということだ
縦型の空気清浄機の場合、フィルターは中心の部分しか使っていないが、uLosならばフィルターが360度ファンの回りを取り囲んでいるため、フィルターに無駄なスペースがなくなる。ちなみに、フィルターの交換時期は5年と、従来モデルの10年よりも短いが、そのぶんスペアのフィルターの値段を抑えているという(CAF-KP40Xの交換用フィルターの希望小売価格は、集塵フィルターが4,200円、脱臭フィルターが1,470円)。
大手三社で占められている空気清浄機市場
東芝がここまで新しい機構の空気清浄機を投入するのには理由がある。国内の空気清浄機市場は、上位3社がほとんど占めているからだ。
実際、GfK調べによる2011年の販売数データでも、シェア1位のシャープが約47%、2位パナソニックが約24%、3位ダイキンが約16%という数値が出ている。4位以下の割合は同調査では明らかにされていないが、少なくとも東芝のシェアは、それ以下であることは間違いない。
「情報時代と共に店頭販売の場合、販売店さんが説明して売るということから“これください”という『指名買い』する傾向になってきました。同じ形で同じ機能で同じ空気清浄機ということであれば、露出度が高く、お客様がインプットされているものを見に来て、あとひと押し、肩をポンとされれば購入するという状態でご来店される。
では、私どもが何をしなければいけないのか。まずは原点に戻り、新しいものをニーズに応える姿勢で開発する。それも、東芝が“今までと違う”と思われる形のものを作りたい。そういう意気込みがありました」(辻村氏)
uLosは、単なる丸いだけのデザイン家電ではなかった。大手三社で占められている空気清浄機市場に風穴を開けるべく、本質的な機能を根本から見なおした、まったく新しい空気清浄機だったのだ。
見た目も内部構造も、全てが変わった空気清浄機
説明を聞いて、かなり完成度が高い製品ようにも思えたが、辻村氏によれば、まだまだ課題もあるという。
「送風音の質が従来から変わったため、実際の使用環境では静かに聞こえますが、スペック上での数値は下がっていません(運転音は前年モデル『CAF-KN48X』と同じ最大49dB、最低15dB)。このあたりは次の課題ですね」
今秋発売されたばかりの製品ではあるが、そのコンパクトで丸いデザインは、縦型が多い家電量販店の空気清浄売り場で目にすると、明らかに異彩を放っている。しかも、違うのは外見だけではなく中身まで他社と違うのだ。辻村氏も「見た目から、内部構造から、考え方から、全てが変わりました。本当にこだわって作った空気清浄機です」と自信を見せる。
uLosは、空気清浄機市場に新たな風を起こすことができるのだろうか。もし、家電量販店でこの丸いデザインを見かけたら、“形は丸いけれど、中身は尖った空気清浄機”であることを思い出してほしい。