そこが知りたい家電の新技術

世界初! シャープの直流エアコンは、効率・省エネが計算された“未来の家電”

 シャープは、7月28日から東京ビックサイトで開催されている太陽光発電の展示会、PV JAPAN 2015で直流(DC)電力を動作するエアコンを参考出品した。シャープでは以前より直流で動作する家電機器の開発を進めていることを明らかにしていたが、一般に向けて公開されるのは今回が初であり、年内の発売を目指しているという。家電メーカーとしても世界初となる直流エアコンだが、これがどんな意味を持つ製品なのか、またユーザーにとってどのようなメリットが得られるのか、シャープの担当部長に話を聞いた。

太陽光発電とクラウド蓄電池、クラウドHEMS、DCエアコンを組み合わせた「DCハイブリッドエアコンシステム」

DCハイブリッドエアコンは未来を考えた製品

シャープ エネルギーシステムソリューション事業本部 エネルギーソリューション事業推進センター 副所長 兼 国内企画部長 相場誠弥氏

 今回、DCハイブリッドエアコンを開発することになった経緯を教えてください。

相場:シャープの業績が思わしくない中、未来を考えた製品を作っていこう、という考えから実現への動きが加速していきました。太陽光発電の売電価格が下がってきた今、住宅のゼロエネルギー化と省エネルギー化が2大キーワードとなっています。すでに当社ではソーラーに蓄電池を組み合わせるというソリューションは提供してきましたが、いかにエネルギー効率を上げるかとなったとき、家電製品との組み合わせ方が重要なポイントとなります。その家電として、もっともエネルギーを使うのはエアコンです。これの効率を上げるためにDCハイブリッドという手法を取りました。

 DCハイブリッドとはどういう意味なのでしょうか? 「直流家電」ということではないのですか?

相場:DC=直流で使うこともできるし、従来通りのAC=交流でも使えるということで、DCハイブリッドと呼んでいます。HEMSを利用することで、状況によって蓄電池でエアコンを動かしたり、夜間電力などの系統からACで動作させるなど賢く切り替えるようにしているという意味です。

HEMSを利用することで、状況によって蓄電池でエアコンを動かしたり、夜間電力など系統からのACで動作させるなど賢く切り替えるようにしている

 ご存じのとおり、一般的にエアコンはACで動作していますが、エアコンでもっとも大きな電力を消費するのは室外機にあるコンプレッサ用のモーターです。室内機の送風にかかる電力と比較すれば9:1くらいの比率と考えていいと思います。そのモーター自体はDCで動作するのですが、従来は蓄電池の電力を使う場合でも、いったん100VのACへ変換した後、それをDCへと変換するというかなり無駄なことを行なっています。そこで、蓄電池のDCをそのままエアコン室外機で使用できるようにしたのです。

HEMSがエアコンの電源を切り替えることで、電気代削減にもなる

 太陽光発電もDCですが、この場合はDCのまま駆動させないのですか?

相場:太陽光発電の場合、出力が一定ではないこともあり、パワコンを介す必要があります。そのため、太陽光発電から直接エアコンを駆動させる場合には一旦ACを経由することになりますが、パワコンからDCのまま蓄電池へ充電することもできますので、いったん蓄電池を通すことで、すべてDCで完結する形になります。

DCの直接給電で約5%の省エネが可能

 実際、蓄電池から一旦ACにしてエアコンを使う場合と、直接DCのまま使う場合で、どのくらいの省エネができるのでしょうか?

相場:約5%の効率改善が可能になります。現在、日本のエアコンの省エネ技術は世界トップであり、これ以上効率を大きく上げるのはなかなか困難な状況です。まさに乾いたぞうきんを絞りだすような感じで、ここから5%も向上させるというのは通常の改善では不可能に近いのが実情です。もちろん、少しずつ改良はしていくのですが、一気に向上させるには、このDCでの直接給電が大きな意味を持つのです。

昇圧のためのDC-DCコンバータが室外機の上に配置される

 でも、蓄電池の電圧のままでコンプレッサ用のモーターが動くわけではないですよね?

相場:おっしゃる通りです。モーターは200Vで動作するため、DC-DCコンバータを用いて昇圧させています。ただ、このDC-DCコンバータの変換効率は、途中にACを挟むのと比較すると非常に効率が高くなっています。またそのDC-DCコンバータを室外機内に搭載させるため、このような大きさになっています。具体的には、下側は従来からの室外機そのものであり、上に乗った形になっているのが昇圧のためのDC-DCコンバータです。

停電時最大2週間使える冷蔵庫も

 今回、このDCハイブリッドエアコンは参考出品ということですが、製品化のメドなどはいかがでしょうか? また製品化した場合、価格的にはどの程度になるのですか?

相場:はい、まだ正式発表ではなく、あくまでも参考出品という状況ですが、年内には発売したいと考えております。価格については、まだお伝えできませんが、現行のACで動作する製品と比較すると若干高くなる程度だと思います。少なくとも、お客様にとって価格が障壁となって導入が進まないというようなことにはならないようにします。

 今後、蓄電池の普及が進むと、DC家電の需要はまだまだ出てくると思いますが、シャープとして今後も製品展開というのは考えているのでしょうか?

相場:今回の製品はDC家電の第一弾という位置づけであり、今後もいろいろな製品展開をしていきたいと考えております。もちろん、DC家電に限らず、太陽光発電の自家消費の拡大と家全体の省エネが最大のテーマであると考えており、すべて何でも直流というわけではなく、適材適所です。

 たとえば、冷蔵庫については、災害が起きて停電したような場合、一部でいいのでバッテリー駆動させたいというニーズはあります。とくに薬などを冷やす必要があるとなると、命に係わる問題でもあるので深刻です。そこで冷蔵庫の一部だけを動かして消費電力を落とし、蓄電池で2週間程度使える製品なども、参考出品したところです。

今回、参考出品された「蓄電池連携非常時対応冷蔵庫」。太陽光発電と組み合わせて使うことが前提の製品
一部の貯蔵庫を蓄電池で長期間使えるというもので、冷蔵14日間と冷凍6日間を選んで使うことができる。

 DC家電の具体的なところは、まだ明らかにできる段階にはありませんが、個人的な意見でいうと、LED照明などは直流で使えると大きな威力を発揮します。そのほかもエネルギー消費量の大きいところから順次考えていきたいと思っています。

 ありがとうございました。

藤本 健