そこが知りたい家電の新技術
2016年の電力自由化に向けてのシャープの取り組み
by 大河原 克行(2014/12/8 07:00)
シャープの太陽電池事業が、ひとつの転機を迎えている。
従来のモジュールを中心としたシステム販売に留まらず、クラウド蓄電池システムやクラウドHEMSと組み合わせたエネルギーソリューションの提案を推進。長期間利用してもらうためのアフターサービス体制の向上にも取り組む姿勢を強化しているからだ。
シャープ 国内営業本部副本部長兼、シャープエネルギーソリューション社長の真鍋政尚氏は、「2016年度の電力自由化により、7兆5,000億円の電力小売市場が開放される。これは家電製品の市場規模の約2倍。その市場に向けてシャープは、モジュールやシステムだけでなく、エネルギーソリューションとして提案していくことになる」とする。
シャープでは、2014年度から決算発表時の事業カテゴリーとして、これまでの「太陽電池」から、「エネルギーソリューション」へと名称を変更。従来の太陽光発電モジュールを中心としたシステム事業から、エネルギー全体に関わるソリューションを中心とした事業体制へとシフトすることを明確にしている。
それにあわせて、今後、エネルギー分野におけるソリューションの品揃えを強化する姿勢を示す。
クラウド蓄電池やクラウドHEMSとの連動提案も
国内の太陽電池市場は、2014年度は、非住宅用では系統接続回答保留の影響もあり、前年に比べて市場の落ち込みが予想されるが、住宅用は堅調に推移するとみられている。
一方で、中長期的な視点でみると、電力小売自由化や発送電分離、電気料金の自由化、スマートメーターの普及、ゼロエネルギーハウス(ZEH)化といった動きもあり、住宅用、非住宅用ともに成長が見込まれ、2010年には30兆3,000億円だったエネルギー全体の市場規模は、2020年には86兆円が想定されている。
そうしたなかシャープでは、「BLACKSOLAR(ブラックソーラー)」およびパワーコンディショナーを活用した発電力の向上、クラウド蓄電池による電力の蓄積やクラウドHEMSによる効率的な制御に加えて、省エネ家電による快適な暮らしもあわせて提案することで、住宅用エネルギーソリューションをトータルで提案していく考えだ。
「屋根の上に太陽電池モジュールを乗せるだけの提案から、クラウド蓄電池や、クラウドHEMSといった価値を提供することで、効率よくエネルギーを活用する環境を提案することができる」(真鍋氏)と語る。
シャープでは、クラウド蓄電池として、公称容量4.8kWhの屋内設置用蓄電池「JH-WB1401」と、同じく公称容量4.8kWhの屋外設置用蓄電池「JH-WB1402」を製品化。また、クラウドHEMSを利用することで、外部情報や太陽光発電情報から、効率のいいエネルギー活用を実現する制御を自動的に行ない、昼間は太陽電池で発電した電力をそのまま使用。夜間や電力価格上昇時間帯は蓄電池から電力を供給して利用するといった使い方ができるエネルギーマネジメントソリューションの提供を開始している。
今年夏には、シャープ・高橋興三社長の自宅にも、クラウド蓄電池およびクラウドHEMSが導入されたという。
「太陽光で電力を作り、それをクラウド蓄電池で蓄え、クラウドHEMSで賢く使うという仕組みが、シャープの商品だけで揃った」とし、「これまでの提案が太陽電池モジュールを中心とした提案であったのに対して、これからの提案はクラウド蓄電池を切り口に提案していくことになる。販売店との連携においても、クラウド蓄電池を絡めた販売支援を重視したい」とする。
新規顧客へのソリューション提案に加えて、これまで太陽電池を導入している家庭にも、パワーコンディショナーの買い換え需要が発生していることを捉え、ここにクラウド蓄電池を提案するといったことも行なうという。
「クラウド蓄電池に置き換えることで、パワーコンディショナーを新たなものへと移行でき、太陽電池モジュールをそのまま利用しながら、出力向上を図ることができる」という提案も行なう考えだ。
20年間の無償保証を実現した堺工場の技術
その一方で、太陽電池モジュールの製品強化にも余念がない。
同社では、このほど、住宅用単結晶太陽電池モジュールのフラッグシップとなる「BLACKSOLAR」の新製品を、12月9日に発売すると発表した。
新製品は、すべてを大阪府堺市の同社堺工場で生産。同工場ならではの電極加工技術および生産技術を活用することで微細加工、微細接続を可能としたのが特徴だ。また、品質面でも大幅な向上を図ることができたことから、新製品を対象に、「BLACKSOLARプレミアム保証」として、業界初となる太陽電池モジュールの出力と機器の20年間無償保証、パワーコンディショナーや電力モニター、架台といったシステム機器の15年間無償保証する。
「従来機種では、無償での10年間保証と、有償での15年間保証としていた。だが、モジュールでは20年間への無償保証とし、システム機器では15年間の無償保証とした。BLACKSOLARによる堺工場ならではの高い品質で生産できるからこそ実現したもの」とする。
さらに、新製品では、太陽電池表面の電極を無くすことで、太陽光を受ける面積を最大化した「バックコンタクト構造」を採用。セル裏面の電極構造の最適化を図ることで、従来製品に比べて、約3.5%出力を向上することにも成功した。
こうした高効率化の技術は、限られた屋根面積により大容量の太陽電池モジュールを搭載したいという日本の住宅環境のニーズに最適化したものとなる。
BLACKSOLARでは、受光面には電極がなく、光を受ける面積を100%とする「バックコンタクト構造」を採用したことで、受光面積を6%向上。また、「配線シート方式」により、裏面の配線本数を大幅に増加させることに成功。一般的な太陽電池モジュールの送電効率が94.2%であったのに対して、新製品では97.5%の送電効率を達成している。
「ウェハーおよび電極の加工精度を向上。セルの隅々まで電極を配置することで発電量を高めることができた。横方向には数100μmの間隔で電極を配置。電極本数を増加させ、従来無効エリアだった領域の約45%を活用。また、縦方向には電極を伸長させ、同様に無効エリアの約65%を活用することができるようになった。さらに、銅配線の整形技術の向上により、銅配線間の幅を従来の半分に縮小しても電流のロスが少ない配線シートを開発したことで、銅配線の面積を従来比20%向上させ、送電ロスを低減した」という。
これらは堺工場の生産技術によって実現したものであり、電極の印刷精度は一般的な太陽電池モジュールでは約100μmであるのに対して、BLACKSOLARでは約10μmまで高めたほか、電極の接続精度は約300μmから約30μmへと向上。いずれも10分の1の精度に高めている。「この高い精度における電極の接続を約3秒で実現している。高品質な量産体制は、高効率技術を結集した堺工場だから実現できるもの」という。
今後は、バックコンタクト構造の強みを生かしてセル変換効率25.1%、出力250Wの実用化を目指すという。
寄棟屋根に最適化したモジュールデザイン
さらに、新製品では、標準モジュール、コンパクトモジュールに加えて、左右方向の2つのコーナーモジュールを組み合わせた「ルーフィット設計」により、国内で約5割を占める寄棟屋根に最適化した太陽電池モジュールの搭載を実現。寄棟屋根の稜線に沿って配置することで、寄棟屋根のスペースを有効活用できることから、「設置容量を約3割向上できるのに加えて、美しい外観も実現できる」としている。
シャープでは、屋根への設置に関して、約66万通りのCADデータを蓄積。屋根を熟知した70人の専門技術チームによって、デザイン性に優れ、高品質での施工が、迅速に実現できる点も見逃せない。
同社によると、過去設計した約66万通りのCADデータを利用することで、新規設計案件レイアウトの約97.5%に合致でき、これも迅速な施工につながっているという。
なお価格は、標準モデルとなる公称最大出力210Wの「NQ-210AD」が12万円。コンパクトモデルで148W出力の「NQ-148AD」が91,100円、95W出力のコーナーモジュールの「NQ-095LD」および「NQ-095RD」が、それぞれ58,900円。いずれも税抜価格となっている。
シャープの太陽電池事業は、1964年に事業を開始して以来、今年で50年目の節目を迎える。
来年1月からはエネルギーソリューションのテレビCMを開始する予定であり、シャープの太陽電池モジュールやクラウド蓄電池を核にした提案を加速する考えだ。システム販売から、ソリューション販売へと舵を切るシャープのエネルギーソリューション事業は、全力自由化を見据えた中期的な事業戦略の第1歩となる。