そこが知りたい家電の新技術
アイリスオーヤマの強さは体育会系気質にあり!?
by 阿部 夏子(2015/6/29 07:00)
仙台に本社を置くアイリスオーヤマが家電に本気を出し始めた。本腰を入れて家電に取り組み始めたのは、2009年からなのにも関わらず、今や売り上げの4割を占めるほど急成長している。大阪には大手電機メーカー出身者ばかりを集めた家電のR&Dセンターを作るなど、その取り組みは本気だ。今回、宮城県・角田市にある、同社の重要拠点角田I.T.P./角田工場に足を運んだところ、アイリスオーヤマの強さの一端が見えた。
印象を一言で述べるなら「体育会系」の会社だということ。これまで色々な電機メーカーの本社や工場に足を運んできたが、アイリスオーヤマはそれらとは一戦を画している。特にユニークなのは、アイリスオーヤマならではの慣習。今回はその慣習とともに、アイリスオーヤマという会社を紹介していこう。
毎週月曜日の全体会議は必ず出席するべし
まず驚いたのは、会長の大山健太郎氏が昨年、就任50周年を迎えたということ。個人でやっている小さな会社ではない。グループ合計8,600名、総売上3,030億円の大企業だ。50年間社長が変わらないというだけでも、大山会長のカリスマぶりがうかがえる。
アイリスオーヤマを語る上で決して外せないのが、毎週月曜日に本社仙台で行なわれる全体会議。朝から夕方まで1日かけて行なわれるこの会議は、アイリスオーヤマの全てを決める重要な会議だ。
というのも、アイリスオーヤマは全ての決裁を社長である大山氏が行なう。製品化のゴーやもちろん、広告関連まで全て大山氏が確認、精査した上で実施するというのだから驚きだ。
取材では、その一部を見学させてもらったが、驚いたのは、大山会長がガンガン発言すること。この時は照明器具のプレゼンだったが、製品の機能については、店頭でのPOP展開まで、とにかく細かいところまでツッコミまくる。
社長が全ての決裁を行なうというこの方式は創業以来、一貫したやり方で、「開発者に責任を持たせるのではなく、会社に責任を持たせるという」という信念に基づいたものだという。
会議は立ってするべし
アイリスオーヤマ全体で取り入れられているのが、スタンディング会議だ。「時短、無駄をはぶくため」という理由で導入されたというもので、多くの会議や打ち合わせが立ったまま行なわれる。
オフィスの至るところに、スタンディング会議用のテーブルが用意されていたほか、専務の部屋でも見つけた。
パソコンは1回45分まで
オフィスを見学した時に驚いたのが、半分ががらーんと空いていたこと。このスペースは何? と聞いたところ、「本体の席と、パソコン席、2つ用意されている」という。というのも、アイリスオーヤマでは「パソコンは1回、45分まで」というオキテがあるのだ。
これは「ダラダラと仕事をしない、一度パソコンの前から離れることで、頭をクリアにする」という目的で実施されているもので、各自タイマーで45分を計測して、45分パソコン作業したら、15分はパソコンのない自席に戻ってほかの作業を進めるという。
360°評価の徹底した能力主義
人事制度はいわゆる360°評価を導入している。上司だけでなく部下からも評価されるというこの方式のもと、徹底した能力主義を採用。能力が評価されれば、年齢関係なく、どんどん出世できる。実際、自分より年上の部下を抱えた20代の管理職も珍しくないという。
旬に乗り遅れるな!
製品開発の上で、重視しているのが、「スピード」。マーケティングから開発、開発から技術というようなバトンリレーではなく、全部署が新商品発売に向け、同時に走るという。そのために多用しているのがテレビ会議システムだ。社内の至るところに、テレビ会議用のセットを見つけることができる。
大山氏の実の弟でもある大山繁生常務は、「思いついた企画が2年後にでてきては遅い。企画から、発売まで半年くらいを目標としている。これは、大手メーカーの倍の早さ。鮮度の良い製品、ブームの最中にその製品が出せるという開発をしている」と話す。
また、製造と卸を一体化したメーカーベンダーシステムを採用。小売店からの販売情報をダイレクトに取り込める、その情報を開発にも役立てている。国内に8つある工場は、トラックが1日に走れる距離、300km圏内に配置。在庫をシステマティックに管理する自動倉庫も所有する。
製品評価、品質チェックは自社で行なうべし!
アイリスオーヤマが今、注力していることの1つが製品品質の向上だ。
「大阪で採用した大手メーカー人材にノウハウを聞くことで、以前に比べ、製品の品質は、格段にあがった。角田には、試作、評価ができるような設備を完備している。今後も、その取り組みは継続していく」(大山繁生常務)とし、角田I.T.P.には、電球から調理家電、掃除機、ペットフードまで様々な試験・評価センターを完備する。
最後に、大山繁生常務に、現在のアイリスオーヤマと今後の取り組みについて話を聞いた。ジェネリック家電という言葉が出てきたように、アイリスオーヤマの製品は、既に売れた製品を後追いしているような印象がある。
それについて大山常務は、「市場を創造するような製品を開発したいというのは我々の大きな目標。今はバランスを見ているところ。既に出ている商品であっても、ここがこうだったらいいなというところを改善して出している。アイリスオーヤマにとって、家電というのは新しい分野であって、キャリアがない。決して今のままではない」と話す。
その一方、今後については「ノウハウを持っている人を採用し、育成している最中。家電の開発者が仙台にくることは少ない。優秀な人材を集めるために、大阪にR&Dセンターを立ち上げた。大阪を立ち上げた当初というのは、パナソニックやシャープの大規模なリストラがあったタイミング。優秀な人材を集められるチャンスがあった」と自信を見せる。
事実、先のシャープの大幅なリストラ報道があった際も「それを見越して、採用人数を増やす」というコメントを出したばかりだ。
英・ダイソンが掃除機の国内市場トップシェアを獲得するなど、「家電は国内大手の製品に限る」という時代はもう終わった。スピード、革命、協業など、家電業界をとりまく状況は変化を続ける。オーナー企業、トップダウンだからこその独特のやり方をつらぬくアイリスオーヤマが今後、どうなっていくのか引き続き注目したい。