そこが知りたい家電の新技術

パナソニック「ビューティ・トワレ WDシリーズ」

~圧倒的な省エネと快適性を追求する温水洗浄便座
by 大河原 克行
パナソニック「ビューティ・トワレ WD50」

 パナソニックが7月1日から発売した温水洗浄便座「ビューティ・トワレ WDシリーズ」は、圧倒的な省エネを達成している。

 使うとき瞬時に便座を温める「瞬間暖房便座」と、使うときだけ洗浄シャワーを温める「瞬間湯沸しシャワー」の組み合わせが省エネのポイントだが、その鍵を握るのは、高出力の「マイクロチュービングヒーター」による昇温スピードの向上。そして、人の入室と室温を感知し、使わない時には消費電力量をセーブするエコナビ技術の搭載にある。新たなビューティ・トワレはどう進化したのか。

DL-UD20操作部

温水洗浄便座は24時間、365日待機している

パナソニック ホームアプライアンス社トワレ・ヒーティングビジネスユニット事業戦略グループ事業企画チーム・三木達也氏

 家庭における消費電力量が大きい順に電気製品をあげると、エアコン、冷蔵庫、照明、テレビの順となっている。この4つの製品で、全体の7割を占めている。

 5番目以降からは、構成比は大幅に減少するのだが、その順を追っていくと、上から6番目に意外な電気製品が入っている。それが温水洗浄便座である。家庭全体における消費電力量のうち、3.9%を占め、発熱量の大きい電気カーペットの4.3%に次いでいる。

 「調査によると、4人家族で使っていても、温水洗浄便座の一日の使用時間は、わずか47分。それにも関わらず、6番目に消費電力量が大きいことに驚く人が多い」と、パナソニック ホームアプライアンス社トワレ・ヒーティングビジネスユニット事業戦略グループ事業企画チーム・三木達也チームリーダーは語る。

 温水清浄便座は、1980年に製品が登場して以降、貯湯式が中心となって普及。24時間365日、便座部分を常時暖め、洗浄用のお湯を作り貯めておくという仕組みが常識だった。そのため、使っていないときにも、便器を暖め、お湯を保温するための電気が必要になり、結果として消費電力量が大きくなるという状況を生み出していたのだ。

 そこでパナソニックでは、1997年から洗浄用の湯沸かし部分を瞬間湯沸かし方式としたほか、2005年からは便座そのものも瞬間的に暖める方式を採用。これを「W(ダブル)瞬間式」として、消費電力量の大幅な削減に成功した。

温水洗浄便座は「使わない時の消費電力」がかかるため、家庭における消費電力のうち3.9%を占めるという従来は24時間365日、便座とお湯を温めておく貯湯式が中心だった

 「従来方式では、年間6,000~7,000円もの電気代がかかっていたが、2002年の瞬間湯沸かしモデルでは3,890円となった。それが、今回の新製品では1,360円まで少なくなっており、年間消費電力は62kWhにまで削減している」という。

 パナソニックの「W瞬間式」は、2010年モデルで、第6世代目へと進化。省エネ達成基準は217%と、2009年モデルで達成した180%を、さらに大きく上回る省エネ性能を実現している。

 これだけの省エネ性能を達成した最大の要素といえるのが、マイクロチュービングヒーターの採用である。

 IHクッキングヒーターなどのコイルに利用される銅線を、便座の内部に這わせるというユニークな発想を採用したマイクロチュービングヒーター方式は、2009年モデルではヒーター出力800Wとしていたものを、2010年モデルでは、ヒーターの銅経を0.216mmとひとまわり大きくすることで、約1.5倍の1,200Wに向上している。ヒーターの出力を高めることで、昇温スピードを向上させ、それが便座の待機時温度を下げることにつながり、省エネ化が実現したという。

ヒーターの出力を約1.5倍にして、銅線を太くしたことで温度が上がるまでのスピードを短縮した便座の内部には、ヒーター銅線が張り巡らせれている

低い温度から6秒間で29℃まで温度を上げるのが鍵

パナソニックでは、トイレに入ってから約6秒で29℃まで温度を上げることを目安としている

 同社の調査によると、人は29℃を境目に便座が温かい、冷たいと感じることができるという。一方、人がトイレに入って、便座に座るまでには、パジャマのように脱衣しやすいものでも、最短で約6秒かかるという。つまり、6秒間に、29℃の温度にまであげることができれば、瞬間暖房便座を実現できるというわけだ。

 2009年モデルでは、18℃の便座温度であれば、6秒間で29℃まで引き上げる能力を持っていた。これを2010年モデルでは、15℃から6秒間で29℃まで一気に引き上げことができる。

 地域差、季節、時間などによって温度は大きく変化するが、省エネ基準で示されている春と夏の平均気温は15℃と設定されており、今回の製品では、15℃という温度にまで引き下げて、瞬間暖房便座機能を実現できたことには意味がある。

 瞬間暖房便座は、いかに低い温度から、6秒間で29℃にまで引き上げるかが鍵。低い温度から立ち上げられれば、その分、便座を保温しておく設定温度を低くできるため、消費電力量が少なくて済み、結果として省エネ化につながるのだ。

 だが、これは、ヒーターの出力を1,200Wに引き上げるだけでいいという単純な話ではない。

パナソニック ホームアプライアンス社トワレ・ヒーティングビジネスユニット技術グループトワレ開発チーム主任技師の松村充真氏

 「昇温スピードが早くなれば、それにあわせた制御技術、安全技術も進化させなくてはならない」と、パナソニック ホームアプライアンス社トワレ・ヒーティングビジネスユニット技術グループトワレ開発チーム主任技師の松村充真氏は語る。

 「従来製品でも何重もの安全装置を導入しているが、昇温スピードの向上にあわせて、ヒーターの熱を感知、検出する反応速度を速める必要がある。これは長年培ったブラックボックス技術(他社が真似できない技術)によるもの」(松村氏)とする。

 もともと便座部を常に暖めていた時代には、50W前後の出力によるヒーターが用いられてきた。だが、瞬間暖房便座では、桁が違う出力が求められ、それを安全性、高い信頼性のもとに制御する技術が必要となる。

 「ヒーターと制御技術があるからこそ、瞬間暖房便座が実現できる」(松村氏)

 また、効率的に、便座を均一に暖めるための配線パターンや、熱を伝えるアルミシートを浮くことなく敷き詰める技術、断線しにくい構造、生産工程において効率化できる設計や工法の採用なども、モノづくりに強みを持つ、パナソニックのならではの技術といえるだろう。

基板などが内蔵されている本体カットモデル便座を分解した状態。銅線が浮いてこないようにアルミシートがきっちりと敷き詰められている

 松村氏はその技術の難しさを「お尻は微妙な温度差を感じとる。そのため、便座において、部分的に微妙な温度差が出るだけで、それを感じとってしまい、不快感につながる」と語る。

 実は、ビューティ・トワレの開発部門のすぐ横には、電気カーペットの開発部門がある。電気カーペットで活用している配線パターンなどのノウハウを、ビューティー・トワレにも応用しているのだ。

 なお、瞬間湯沸しシャワーには、2007年から採用している手のひらサイズの1,200Wのヒーターを採用。水をヒーターの下から上へと通すことで、瞬間的に適温のお湯を作り出せるようになっている。

エコナビの考え方を最も的確に表現している製品

 一方で、エコナビ機能の搭載も、2010年モデルの省エネ化に大きな威力を発揮している。

 エコナビは、冷蔵庫をはじめ、同社の各種電気製品に搭載されている省エネ機能だが、その基本的な考え方は、「ムダを見つけて自分でエコする」というもの。つまり、人が使っていない時には、消費電力をセーブするという考え方だ。

 温水洗浄便座で採用したエコナビ技術は、「ひとセンサー」と「室温センサー」の2つ。ひとセンサーでは、人がトイレに入ったことを感知すると便座を瞬時に暖め、人が退室するとオフになるというもの。そして、室温センサーでは、人がトイレから出たあとに、室温を検知し、便座の保温温度を調節する。室温が15℃以下になると、約15℃で便座を保温して、便座の瞬間暖房を実現することになる。

同社の温水洗浄便座における省エネ性能の鍵は、湯沸かしと便座の温めを即時に行なう「瞬間式」と、人と室温を検知して運転を制御する「エコナビ」システムにあるエコナビシステムは「使う時間が少ない」温水洗浄便座に合ったシステムだという

 「エコナビの考え方を最も的確に表現したのが、温水洗浄便座だといえる。これまでの温水洗浄便座は、使わない時に、電力を消費するというムダが発生していた。ひとセンサー、室温センサーと、マイクロチュービングヒーターとの組み合わせで、電気の使い方そのものを変えることができる」(三木チームリーダー)

 温水洗浄便座は、エコナビのコンセプトが生かしやすい商品だともいえる。

設置後の清潔性にも工夫を凝らす

 ビューティ・トワレ WDシリーズでは、清潔に使うという観点でも工夫を凝らしている。

 1つは、便ふたにおいては、継ぎ目や凸凹をなくした一体成形とすることで、汚れを落としやすいデザインを採用。自動車や建築物の塗料材料として利用されるマイカ(雲母)フレークを用いた「マイカ工法」により、キズが目立ちにくく、高級感のある質感を実現したという。

 「トイレ掃除は主婦にとって嫌いな家事の1つだが、スマートなフォルムとしたことで、掃除の時間を約10%削減することができた」(松村氏)という。

傷が目立ちにくいマイカ工法を採用している本体カラーに合わせて便ふたの色も揃える継ぎ目や凹凸のすくないスマートフォルムを採用したことで掃除が楽になったという

 また、男性の小用時に、便器の外に尿飛沫の拡散を抑えるために、LEDで便器の水面上に「的」を表示する「エチケットポイント」機能を搭載。「尿飛沫は、1回の小用で2,000滴に達するという調査結果があり、これがトイレの悪臭につながることがわかっている。海外や国内のパブリックスペースでは、的を描くことで、トイレの汚れが減ったという結果も出ており、この仕組みを導入した関西国際空港でも、清掃員からモップを絞る回数が減ったという声があがっている」(松村氏)という。エチケットポイントの搭載は、清潔に使ってもらうための工夫の1つだ。

 さらに、ひとセンサーでトイレへの入室を感知し、使用前に便器に水を吹き付けて掃除の手間を軽減する「アクアコート」機能を搭載。360度のシャワー噴出により、便器内面を水の膜で覆うことができるため、汚れを大幅に軽減することが可能になるという。

男性の小用器にハエの的を書いておいたところ、周囲への飛沫が減ったという例同社では、LEDで便器の水面上に的を表示する「エチケットポイント」機能を搭載するトイレの入室を感知して事前に便器に水を吹き付けて汚れを防ぐ「アクアコート」機能
男性に対して、座っての小用を促すキャンペーンを実施

 実は、便座を清潔に使用するという点で、今回の新製品発売にあわせて、パナソニックはユニークなキャンペーンを開始している。

 「男も座って、女もよろこぶ W瞬間!!キャンペーン」と題したこのキャンペーンでは、ウェブを通じて男性の小用の方法についてアンケートを実施。座って小用を足す男性が3人に1人に増えている状況などを浮き彫りにしながら、尿飛沫の掃除の手間を軽減するといった、気づきの促進を行なうというものだ。あわせて、温水洗浄便座の快適性、温水洗浄便座における省エネの重要性の理解度向上にもつなげるという。

目指すのは健康チェックやくつろぎの場としてのトイレ

 では、今後のビューティー・トワレはどう進化していくのだろうか。

 三木チームリーダーは、「しっかりと洗浄し、快適に洗浄するという本質性能の追求においては、人それぞれに異なる快適性を選択できるように広げていく必要がある」とする一方、「省エネの追求はこれからも継続的に行なっていく要素であると捉えている。さらに、今後はトイレの環境も変わっていくだろう。一日平均47分間という短い時間だけでなく、もっと長い時間をトイレで過ごしたり、自分の健康状態を推し量る場としても利用できる可能性がある。長期的視点で見た場合、ビューティ・トワレもそうした方向で進化していく必要があるかもしれない」とする。

 また、松村主任技師も、「トイレがレストルームと言われるように、くつろげる場として、心地よさ、安心感、やすらぎを持てるような便座の開発も必要になるだろう。毎日見て、気に入ったデザインを提供するというのもその1つ。毎日心地よく使えものを提案していきたい」と語る。

 本質性能、環境対応、そして、ユニバーサルデザインを含む快適なトイレ空間の提供という3つの観点から、ビューティー・トワレは、これからも進化を遂げることになりそうだ。





2010年8月18日 00:00