|
ビューティトワレ DL-GWNシリーズ
|
ナショナル(松下電器産業株式会社)の温水洗浄便座が注目を集めている。使うときだけ洗浄水を温める瞬間温水沸かし方式は珍しくないが、この新シリーズは便座の暖めも瞬間で行なう「瞬間ひかり暖房便座」という機能を搭載したのだ。さらに、9月に発売された新モデル「ビューティトワレ DL-GWN」シリーズでは、男性小用時の飛び散りを抑える新機能を追加した。
この製品の企画を一手に引き受け、「ミスター・トワレ」と呼ばれる人物がいる。松下電器産業株式会社 松下ホームアプライアンス社 トワレヒーティング ビジネスユニット 商品企画グループの三木達也主事だ。DL-GWNシリーズの企画経緯やその仕組みについて、話を聞いた。
|
|
DL-GWN50
|
便座を上げたとき
|
● 24時間暖め続けていたこれまでの便座
|
松下電器産業株式会社 松下ホームアプライアンス社 トワレヒーティング ビジネスユニット 商品企画グループの三木達也主事
|
数ある生活家電商品の中でも温水洗浄便座は伸び率でも有数の商品ジャンルだ。世に出た'80年代はまだ贅沢品のイメージが強かったが、バブル崩壊による消費意欲の低減にも影響されることなく成長を遂げてきた商品ジャンルである。住宅の設備としてだけでなく、一般家電として単体でも販売されるようになって一般消費者の意識も高まり、今では家電量販店などでも主力商品の一角としての地位を占めるまでになった。
この温水洗浄便座は、洗浄水を温める方法によって、2つに分類される。沸かしたお湯を常にタンクに貯めて使用する方式(貯湯式)と、必要な時に瞬時にお湯を沸かして利用する瞬間湯沸し式だ。常にお湯を貯めておく貯湯式に比較して、瞬間湯沸し式の方が電気エネルギーの無駄が少ないため、最近の機種では主流になりつつある。
しかし、温める必要があるのは洗浄水だけではない。冬場は、便座も暖めなければならない。洗浄水に関しては、貯湯式と瞬間式、2つの方法があるのにもかかわらず、便座の暖めは、24時間つけっぱなしというのが常識だった。
この既存概念を打ち破り、必要な時にのみ瞬時に便座を暖めるように工夫したのが2005年に発売されたナショナルの温水洗浄便座だ。
● 電気ストーブの技術を応用したランプヒーターで、一気に暖める
|
管状のランプヒーターが、便座を一周している
|
洗浄水だけでなく便座の暖めも瞬間式にすれば良いことは、考えればすぐに理解できる。しかし、それを実現するには技術的に高いハードルがあった。
「使うときだけ暖めるには、一気に温度を上げる高出力のヒーターが不可欠。しかし、それが本当に安全性を確保できるのか。細かい温度制御が可能なのか」(三木氏)といった、問題を1つ1つ検討することから構想はスタートした。
まず、従来の“つけっぱなし”型の便座と異なるのは、温度上昇時に使用する電力パワーだ。“つけっぱなし”型は、50W前後の電力でゆっくり、そして常時通電して暖める。これに対し、新製品では1,200Wを一気にかけて瞬間に暖める方法を採用した。
当然、暖気の元となるヒーターのデバイスも、同じ物ではない。従来の“つけっぱなし”型は、コードヒーターを樹脂製の便座ボディの裏に貼りつける構造だったが、新たにランプヒーターを採用した。一気に温度を上昇させるには、じんわりと熱を伝えるコードヒーターではとうてい不可能。光で瞬時に立ち上げるランプヒーターだからこそ、瞬間の暖めが可能になった。
|
アルミ製の素材を使用することにより、熱伝導率を高めた
|
さらに便座の素材も見直した。従来の樹脂性では瞬時の温度伝達は不可能。熱伝導率の高いアルミを採用した。便座の瞬間暖房は、ハイパワーのランプヒーターとアルミ製便座の組み合わせによって、実現したのである。
ランプヒーターとは、電気ストーブや電気コタツで良く見かける赤外線ヒーターと基本的には同じものだ。こたつよりもはるかに高い電力を使い、一気に温度を上げる。このため、ヒーターは「ほとんど一瞬ついて消えるような感じ」だという。ハイパワーを、一瞬だけ、これによりトータルの消費電力を削減。ランプヒーターの採用は、電気暖房器具を長年手がけてきたナショナルならでは。電機メーカーであることの強みを発揮している。
しかし、“暖かい”というのはあくまで人間が感じること。技術的にどうあれ、人間に快い感覚に仕上げなければならない。
ランプヒーターによる瞬間暖房が今まで実用化されなかった原因は、「とにかく温度を安定させる仕組みが難しい。暖めすぎは安全性の面からも許されないので、温度コントロールは厳密かつ安全なものでなければならない」という事情があるからだ。
温度ムラや温度の上がりすぎに対しては、便座の下板にアルミ製の反射板を設置、ランプのエネルギーが上方に無駄なく伝わるための工夫を施すことで解決した。また、温度の上がりすぎについては、安全装置として輻射サーモスタットと熱伝サーモスタットを併用。大容量のランプヒーターを細かくON/OFFして、温度を一定に保つ工夫をしている。
|
|
|
従来の便座との比較
|
ランプヒーターを点灯。金属製のボディで輻射熱を生みだし、便座を均一に暖める
|
1本のランプヒーターでも均一に暖まるよう、設計の見直しを繰り返した
|
|
|
|
コントロール部
|
便座やフタの開閉もボタンからコントロールできる
|
便座脇にもボタンを備える
|
● 6秒を目指せ!
|
何秒で暖めればよいのかを検証したデータ
|
さて、ランプヒーターの機構が完成しても、まだまだ商品化への道のりは遠かった。人がトイレに入った瞬間に暖める、その“瞬間”とは、いったいどれくらいの時間なのか。どうやって検知するかを、形にしなければならなかったからだ。
さまざまな実験を繰り返した結果、アルミ便座の温度と快適性の相関関係を表したグラフを作成。人が便器に座る場合、便座温度が29℃以上でないと人間は冷たく感じることがわかった。
つまり、室温が何度であろうと、便座温度を29℃以上に、しかも人がトイレに入ってきてから座るまでの時間に暖めなければならない。実際に体験してわかったが、29℃は決して暖かく感じる温度ではない。しかし決して冷たいと感じる温度でもない。つまり人が便座に座る場合の冷感限界が29℃ということになる。
そこで同社は、人がトイレに入ってから着座するまでの平均時間を社員の協力を得て計測。6秒が1つの目安となることが判明した。つまり、人がトイレのドアを開けてから6秒以内に29℃を実現すれば、少なくとも冷たいという不快感は感じないということだ。こうして、「6秒で29℃」という、技術目標がはっきりした。
この6秒は、トイレのドアを開けてからの時間。まず、人がトイレに入った瞬間を検知する仕組みが必要だ。具体的には、人体を検知するリモートセンサ方式を採用。このセンサは人の体温を感知する方式だ。センサの感度を上げ過ぎると、暖かい風が窓から吹き込んだだけで、センサが反応してしまう。
|
人体検知センサ。乾電池で駆動する
|
しかし、松下グループには、ホームセキュリティ分野での技術蓄積がある。人の進入を検知するのは、セキュリティシステムの基本技術。また、民生分野でも、人のいる位置を検知してホットカーペットを自動作動するなど、技術応用の例がある。
「このセンサーを一から開発しているようではとてもコストが合わない。横に技術がつながっていくのが松下の強み」と三木氏も語る。
こうして、「GWN-70」では、人が入ってきた瞬間から6秒以内で最低29℃の便座温度を確保。この後、約15秒かけて、最適の便座温度になる。寒冷地では便座の温度がより低いことが予想されるので、6秒以内に29℃の達成は難しい。そこで室温が18℃以下の場合には、定期的にランプヒーターをON/OFFし、6秒以内に29℃を確保できる範囲内をキープする仕組みになっている。もちろん、この場合でもヒーターを起動するのはほんの一瞬。常時ONにしている従来機と比べても、省エネ性の優位は変わらないという。
|
|
何度にすれば、人間が冷たくないかを検証。分岐点は29℃だという
|
いち早くセンサで検知することが、暖める際の生命線となる
|
● 小便器に的があると、狙いたくなる男性心理を突く
|
エチケットポイント機能。水面にLEDの光が映りこんでいることがわかる
|
ビューティトワレの、便座に次ぐ重要なアピールポイントが「エチケットポイント」機能である。これは、男性が立って小用を足す際、最も小水の飛沫が飛び散らないポイントへいざなうための目印だ。
トイレ関係者の間で広く知られているのが、男子用便器における“ハエ”の効用だ。ドイツ、ライプチヒの有料トイレはその清潔さで有名だという。その理由は、男子用小便器に焼き付けられた、ハエの絵にある。
このハエを見ると、ほとんどの男性がこのハエをめがけて小水をかけようとする。便器の真ん中にハエがあることで小水をそこに誘導し、飛び散りを最小限にしてトイレの清掃コストを下げるための工夫だ。
こうした工夫は、徐々に広がり、いまではオランダ・アムステルダムのスキポール空港にも採用されている。日本では関西国際空港で、男子便器にダーツの的シールを貼り、一定の成果を収めているという。便器メーカーも、パブリックスペース向けに目印のある小便器を売り出すなど、すでにこうした取り組みが一般的になりつつあるようだ。
「“的”があれば飛び散らないというのは、トイレ業界ではよく知られたこと。しかし、男性用小便器が自宅にある家庭はほとんどない。なんとか、家庭用の温水洗浄便座にこの機能を取り入れられないか。そうすれば、きっと掃除の手間も省けるだろう」(三木氏)。ここに、ナショナルの開発者たちは新たなニーズを見いだしたのである。
まず、一般の洋式便器において、もっとも小水が飛び散らないスイートスポットを導き出さなければならない。
多くの男性が経験することだが、一般の家庭用便器で男子が立って小用を足す場合、大きな音がすると飛び散っているように感じるので、便器に貯まった水面を避ける人が多いという。しかし、実験をすると、音には関係なく、水面の中央を狙うと跳ね返りが最も少ないことが明らかになった。
小用専用便器にはない問題もあった。便器の深さやそこに張られた水の水位は、便器によってさまざまだ。どうやって、水面の中心を見分けるのか。それに対して、開発陣は小用専用便器にはない「水面」に目を付けた。ただ、そこに光を映してやればよいのではないか、と。
「レーザーポインタのようなものをもし使ったら、角度調整やセンサが必要になる。これはLEDを点灯させて、水面に映すだけ。だから、なにも設定する必要がない」(三木氏)。
ただ、LEDを水面に映すだけ。高度な技術ではなく「気づき」と、そしてこの機能を家庭用に持ち込もうというアイデアが、この機能を生んだのである。
瞬間暖房便座に磨きをかけ、さらに「エチケットポイント機能」という新機種を加えた、ナショナルの温水便座。今後も、斬新な機能が搭載されることを期待したい。
|
|
|
緑色のLEDを使用
|
便座に座ったかどうかを検知するセンサーも備える
|
ノズルは衛生面で優れるステンレス製
|
■URL
ナショナル(松下電器産業株式会社)
http://national.jp/
ニュースリリース
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn060921-2/jn060921-2.html
製品情報
http://ctlg.national.jp/product/lineup.do?pg=03&scd=00001246
関連情報
■URL
【やじうまPC Watch】松下、男性用に“的”が光るトイレ便座(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0922/yajiuma.htm
2006/10/31 00:02
- ページの先頭へ-
|