第43回:家庭用血圧計とは


 家庭用血圧計は、家庭で手軽に血圧が測定できる血圧計のことです。家庭で健康を管理するための手段として利用されています。

血管を圧迫し、カフにかかる圧力の変化で血圧を測定

家庭用血圧計では、専用のベルト「カフ」を巻き付けて測定する「オシロメトリック法」が一般的。写真はパナソニックの「EW-BU70」
 現在市販されている家庭用血圧計のほとんどは、上腕部などに「カフ」と呼ばれるベルトを巻き付ける「オシロメトリック法(カフ-オシロメトリック法)」を採用しています。

 このオシロメトリック法ではまず、巻き付けたカフに空気を送り込んで加圧します。すると、血管が圧迫されて血液がうまく流れなくなります。その後、徐々にカフから空気を抜いて減圧していくと、カフの圧力よりも血液の圧力が大きくなって、血液が流れ始めます。血液は心臓の鼓動に合わせて断続的に流れますが、このときの血流で血管が膨らみ、振動がカフに伝わります。この振動によるカフ内の微妙な圧力の変化をチェックすることによって、血圧を測定しています。振動が急激に大きくなった瞬間のカフ内の圧力が最高血圧、逆に振動が急激に小さくなった瞬間のカフ内の圧力が最低血圧として採用されます。

測定結果は液晶画面に表示される。最高/最低血圧のほか、脈拍も同時に測定する。写真はオムロン「HEM-7301-IT」
 家庭用血圧計では、これらの家庭を測定を全自動でできる点が大きな特徴です。カフが一体となった測定装置を、上腕部などに取り付けてスイッチを押すだけで、自動的にカフが加圧/減圧し、血圧や脈拍が測定できるようになっています。このような全自動血圧計の登場によって、家庭用血圧計が一気に普及するようになりました。

 一方、病院など医療機関で用いられる測定方法は、これとは異なる「聴診法(コロトコフ法)」というものが一般的です。

 聴診法では、上腕部にカフを巻き付けた後、聴診器で動脈を流れる血液の音を聞きながら、カフに空気を送り込み上腕部を圧迫することで血圧を測定します。しかし、血液の音を聞き分けるには、高い技能が必要になります。周囲の雑音に影響されたり、音を聴きながら測定するという主観的な部分が存在するために、それら不確定要素によってどうしても誤差が大きくなってしまいます。つまり、一般家庭で利用する測定機器としては敷居が高い測定法なのです。

 前述のオシロメトリック法の血圧計では、そういった不確定要素が少ないため、安定して血圧が測定できます。そのため医療現場でも採用されるケースが増えています。

測定の手軽さは「手首式」、データの正確さなら「上腕式」

 家庭用血圧計のほとんどは前項で述べたオシロメトリック法を採用しますが、測定する部位によって、さらに細かく分類されます。その中でも主流となっているのが「上腕式」と「手首式」です。

 まず上腕式は、前項で述べたとおりカフを上腕部に巻き付けて、本体のボタンを押して計測します。輪になったカフに腕を入れる“アームイン”タイプの血圧計もありますが、これも上腕で測定しているため、上腕式に該当します。本体は比較的大きめのため、テーブルなどに本体を置いて使用する必要があります。

家庭用血圧計では、専用のベルト「カフ」を巻き付けて測定する「オシロメトリック法」が一般的。写真のパナソニック「EW-BU70」は簡単に装着できるカフを採用しているカフを巻かず、本体に直接腕を入れる“アームイン”式も上腕式になる。写真はオムロンヘルスケア「スポットアーム HEM-1020」

手首に通して計測できる手首式の血圧計。本体も小型で、手軽に計測できる点が特徴。写真はテルモ「プレミアージュ P400」
 一方、手首式は、本体が小型のため、持ち運びや収納も楽で、手軽に利用できる点が特徴です。カフと表示部が一体となっているため、輪になったカフに手首や指を入れるだけで測定できます。衣類をめくり上げる手間もなく、もちろん血圧に加えて脈拍も測定できます。

 しかし、正確さでいえば上腕式がお勧めです。というのも、血圧は心臓から離れた場所や体の末端に近いほど変動が大きくなるため、手首よりも心臓に最も近い上腕部のほうが、正確かつ誤差が少なく測定できることになります。日本高血圧学会でも、上腕部での測定を推奨しています。まとめれば、測定の簡単さを求めるなら手首式、データの正確さを最優先したい場合は上腕式ということになります。
 
 ちなみに指で測る「指式」というのもありますが、誤差が大きいこともあって、現在ではほとんど見られなくなっています。

たとえ上腕式でも、測定時の姿勢には要注意


 血圧の計測時に注意したいのが、測定中の“姿勢”の問題です。

 血圧は、測定位置と心臓の高さの違いによって大きく変化します。理想的な測定位置は、心臓の右心房の高さです。測定位置の高さが、基準位置からわずか10cm変わっただけで、測定結果は7mmHg上下します。高い位置ほど血圧は低く、低い位置だと逆に高く測定されてしまいます。そのため、正確に血圧を測定するには、説明書で指示された姿勢を保つとともに、決められた位置に血圧計を取り付けて測定することが重要となります。

 ところで、前項で「上腕式がより正確」と述べましたが、たとえ上腕式でも、測定時のカフの取り付け位置や姿勢が間違っていれば、正確に測定できません。このため最近では、測定時の姿勢が誤っている場合は、画面や光で知らせる機種も増えています。

オムロンヘルスケアの「HEM-1020」では、腕を通した角度を元に、正しい姿勢が取れているかどうかを判定する機能を備えているオムロンヘルスケアの「HEM-6050」は正確に測定するために、手首を心臓の位置に合わせていない場合に、光で知らせる機能が特徴

 ちなみに日本高血圧学会では、家庭での血圧測定の指針を次のように定めています。

○家庭血圧測定条件設定の指針(抜粋)
・家庭用血圧計は、カフ-オシロメトリック法に基づく上腕カフ血圧計を用いる
・測定は、座位でカフが右心房の高さにあるように指導する
・朝晩それぞれ少なくとも1回は測定する
・朝の血圧測定は、起床後1時間以内、排尿後、座位1~2分間の安静後、服薬前、朝食前に行なう
・晩の血圧測定は、就寝前、座位1~2分間の安静後に行なう
・できるだけ長期間測定する



 慢性的な高血圧は、動脈硬化を引き起こして、脳卒中や虚血性心疾患、腎不全などの重大な疾患の発症リスクを高めます。最近“メタボ”が気になっているという人は、日頃からの健康管理に家庭用血圧計を取り入れて、生活習慣を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。


【家庭用血圧計】の、ここだけは押さえたいポイント

・上腕式は心臓に近い位置で計測できるため、数値に誤差が少ない
・手軽さなら手首にはめるだけの「手首式」。持ち運びや収納にも便利
・上腕式も手首式も、正しい姿勢を取っていないと、正確に測定できない

2009年4月17日 初版




2009年4月17日 00:00


平澤 寿康
1968年、香川県生まれ。1990年代前半にバイト感覚で始めたDOS/V雑 誌のレビュー記事執筆を機にフリーのライターとなる。雑誌やWeb媒体を中心に、主にPC関連ハードのレビューや使いこなし、ゲーム関係の取材記事などを 執筆。基本的にハード好きなので、家電もハード面から攻めているが、取材のたびに新しい製品が欲しくなるのが悩ましいところ。