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謎の組織「NITE」を初めて取材! あの家電が燃える映像って誰が作ってるの?

製品事故の注意喚起映像を作っている「製品評価技術基盤機構(NITE)」

ここ最近とくに、バッテリーを内蔵した家電が原因で起きた火災が、ニュースで話題となっている。「自分の持っている製品は大丈夫なのか?」と不安に思うことはないだろうか。そうした事故に対し注意喚起するテレビ番組で、火災の例としてコンセントや家電製品、モバイルバッテリーなどが発火する映像を見たことがある人もいるだろう。その再現実験を行なっているのが、「独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE/ナイト)」の製品安全センターだ。

製品事故の情報を収集し、原因を究明、製品事故の未然防止を推進しているとのことだが、普段は具体的にどんなことをする組織なのだろうか? そして、家電が燃えるようなインパクト大の映像は、いったいどうやって作られているのか? 製品安全センターの業務内容について、同所長の川崎裕之さんに話を聞いた。

製品評価技術基盤機構 製品安全センター 所長 川崎裕之さん
渋谷区に主たる事務所を構える

製品安全や化学物質管理、バイオテクノロジー、適合性認定、国際評価技術の5分野を手掛ける「独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)」。昭和3年(1928年)、輸出絹織物検査所として設立された沿革を持ち、戦前から高度成長期にかけては、輸出製品の品質を担保する役割を主に担ってきた。

製品事故は重大と非重大に分かれる

――製品安全センターの業務について教えてください。

川崎裕之さん(以下敬称略):家庭で使われている製品の事故情報を集めて、原因を調べ、その結果を公表。広報という手段を使って製品事故の再発を防止することが私どもの業務です。

――製品事故の情報はどのような手段で集められているんですか?

川崎:製品事故が起きた際、多くの消費者は製造事業者や輸入事業者、販売事業者、もしくは各自治体の消費生活センターに連絡します。また、製品事故が火災であれば、消防機関に連絡されることでしょう。それら事故の連絡を受けた事業者や消費生活センター、消防機関から我々に情報が寄せられるという仕組みです。

さらに、製品事故の中でも重大製品事故に該当する事案は、事業者は消費者庁に報告をする法的な義務があり、情報を共有した経済産業省からNITEに調査指示がなされます。そしてNITEで調査した結果を基に消費者庁が公表します。

――“重大製品事故”とは、どのような事故なのでしょうか?

川崎:重大製品事故の要件は、「死亡事故」「重傷病事故(治療に要する期間が30日以上の負傷・疾病)」「後遺障害事故」「一酸化炭素中毒事故」「火災事故」の5つです。

実際に、重大製品事故か否かを判断するのは消費者庁ですが、この5つのいずれかに該当すると、重大製品事故である可能性があります。一方で、これらの5つに該当しない事故は、非重大製品事故として我々の方で調査を行ない、結果を公表します。

――“非重大製品事故”は、どのような内容が多いのですか?

川崎:重大製品事故以外の製品事故が非重大製品事故に該当します。例えば、製品のエッジで手を切った、照明器具が落下したといった被害が比較的軽度な事故や、誤った使い方をして脚立や踏み台が倒れてケガをした、天ぷら調理中にその場を離れて火災になったといった、明らかに消費者の落ち度が原因の事故などは、非重大製品事故になります。製品側での対策が難しい不注意や誤った使用方法による事故も含まれるので、我々の広報によって注意喚起するのも業務のひとつです。

リチウムイオンバッテリーやガストーチなどの法令改正

――これまでNITEの調査から、製品が改善された例はありますか?

川崎:直近の例としては、この2月に、キャンプなどで使われるガストーチが、我々の事故調査の結果をきっかけに法規制の対象になりました。具体的には、国の定める安全に関する基準を満たしたガストーチには、「◇PSLPGマーク」が表示され、マークの表示されていない製品の販売が禁止されます。


川崎:リチウムイオンバッテリーについては、電気用品安全法の技術基準改正が2022年にあり、充電時にセルごとに電圧を監視することが義務化されました。また、延長コードは断線しにくい二重被覆とすることが2012年に義務化されています。これらも我々の調査のデータが行政施策に反映されたと考えています。

原因究明のため古い製品をオンラインマーケットプレイスで購入することも

――重大製品事故の調査は、どのぐらいの時間をかけて行なうのでしょうか?

川崎:調査指示から180日以内に調査を終えて経済産業省への報告を目指していますが、より長期化することもあります。

――原因究明が難しい?

川崎:火災案件であれば大体燃損してしまっています。特にリチウムイオンバッテリーの事故は、バッテリーそのものが原型の維持はおろか、完全に炭になっているケースが多く、なかなか究明には至らないのが実情です。ただ、同じ製品で非重大製品事故として寄せられた火災には至っていない情報が、重大製品事故の原因究明に生かされるということはありました。

――寄せられる情報が多ければ役に立つのですね。事故究明や再現のために、同じ製品を取り寄せるのでしょうか?

川崎:はい、同じ型式の製品をメーカーから取り寄せる場合もありますし、すでに発売が終わってから長い期間が経っている製品の場合は、オンラインマーケットプレイスなどで入手することもあります。

施設内には見学可能なコーナーがあり、事故や再現試験により損壊した物品などが展示されている。写真はトラッキング現象により破損した電源プラグなど
出火したハンディファンの展示
出火したモバイルバッテリーの展示

消費者からの問い合わせは「188番」

――先ほど、製品事故の情報収集の手段についてお伺いしましたが、一般消費者からの調査依頼や問い合わせはありますか?

川崎:制度としては、我々が消費者の方から直接情報を得ることはありません。例えば、冷蔵庫が壊れたことで傷んだ牛乳を飲んでお腹を壊したといった、製品事故と直接関係のない二次的な被害についてお問い合わせいただく場合もありますが、制度上、我々では対応できません。

――メーカーにクレームしても聞いてくれず、NITEに言えばなんとかしてくれるんじゃないか、水戸黄門的な役割を期待しているのかもしれませんね(笑)。

川崎:一般の消費者からのお問い合わせには、電話番号188番(いやや)の「消費者ホットライン」をご案内することが多いです。そこに電話すると、お住まいの地域の消費生活センターが案内されます。

また、とにかく原因を調べたいというお問い合わせであれば、原因究明機関ネットワークから、該当する試験機関をご紹介することもあります。

消費者ホットラインの電話番号は「188番(いやや)」

――オンラインマーケットプレイスなどで売られている製品は、海外メーカーのものも多いですが、そういった製品も調査対象になるのでしょうか?

川崎:これまでは、いわゆる直輸入された海外の事業者とコンタクトを取ることはありませんでしたが、いわゆる製品安全4法「電気用品安全法」「ガス事業法」「液石法(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律)」「消費生活用製品安全法」が昨年改正され(施行は2025年12月)、海外事業者も製品事故調査を含む製品安全4法の対象として計画課されることになりました。

ユーザー側で意識すべきこと

――製品事故に関して、今後解決していくべき課題はありますか?

川崎:ここ数年でリチウムイオンバッテリーを搭載した製品の事故が大変多くなっており、目下の状況としては当然大変憂慮しています。ただ、これに限らず、製造事業者などの製品の供給者側と、需用者側いわゆる消費者側の双方が製品安全を意識することが必要だと思っています。

製品の供給者側には、製品のリスクを低減するための方策に3つの段階「3ステップメソッド」があります。まず1つ目は設計や製造の段階から安全を確保すること。2つ目は安全装置や防護装置によって、事故を防ぐこと。電気製品では、過電流保護装置などがこれに該当します。3つ目が情報提供で、取扱説明書などで正しい使い方を周知することです。

この3ステップメソッドというのは、事業者さんの中では浸透してきた考え方なんですが、消費者側でも同じような考え方ができます。1つ目は製品を購入する際に安全性を確認することです。値段や便利さと同じくらいに安全性も吟味していただきたい。

――安全性を確認する方法としては、どのようなものがありますか?

川崎:電気用品であればPSEマーク(電気用品安全法)、ベビーベッドやライターなどはPSCマーク(消費生活用製品安全法)、ガス用製品は法令の対象ごとにPSLPGマーク(液石法)やPSTGマーク(ガス事業法)がそれぞれ付けられますので、まずはこれを確認していただきたい。

PSマークの例(消費者庁のHPより流用)

川崎:2つ目は、製品の異常、具体的には異音や異臭、変形等に注意することです。モバイルバッテリーが膨らんできたけど、充放電ができるから大丈夫だと思わないでいただきたい。

3つ目は、捨てる際の手段です。モバイルバッテリーを不燃ごみなどで出されることによる、ごみ収集車やごみ処理施設での火災が多発しています。適切な手段は自治体によって異なりますが、お住まいの自治体のガイドに従って廃棄してください。

このように消費者側も3ステップを意識していただくことで、安全な社会が醸成されると考えています。

――消費者側も加害者にならないよう注意したいところですね。本日はありがとうございました。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>