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非常食っておいしいの? 吉野家の缶詰や湖池屋ポテチ試食してみた

大きな災害を伴う地震や台風、大雪などがたびたび発生する日本では、常に非常時に備えることが求められる。災害の頻度だけでなく種類も多く、被災状況によっては備えていたガスコンロや電気も使えないこともあるだろう。

非常食といえば乾パンなどが一般的なイメージだが、調べてみると実は長期保存できるうえ、食品メーカーなどがおいしさを重視して開発したものが充実しているのが分かった。

そこで編集部では、温めなくても食べられる非常食をいくつか試食してみた。災害を想定した備蓄食品は多彩だが、その中から吉野家「缶飯牛丼」、カゴメ「野菜たっぷりスープ」、小久保工業所(KOKUBO)「備蓄おにぎり」、湖池屋「LONG LIFE SNACK」、無印良品「備蓄おやつ チョコようかん」を選び、編集部員がランチとして試食。いずれもレンチンしたりせず、開封してそのまま常温で食べていった。

「非常食は我慢して食べるもので、おいしくはない」という先入観を、最新の非常食はどれだけ打破してくれるのか? さっそく紹介しよう。

製品名缶飯牛丼野菜たっぷりスープ備蓄おにぎりLONG LIFE SNACK備蓄おやつ チョコようかん
メーカー吉野家カゴメ小久保工業所湖池屋無印良品
賞味期限製造日を含め3年製造日から5年6カ月5年66カ月(5年6カ月)最長4年6カ月
価格4,860円3,300円前後11,000円1,980円780円
内容量6缶9袋20個6缶5本
1食あたり810円約366円550円330円5本
1食あたり160g160g100g43~55g55g
カロリー289kcal67~86kcal170~175.7kcal237~301kcal197kcal

なお、賞味期限については「未開封」の状態でのもの。

試食の前に知っておきたい「備蓄の豆知識」

これまで政府や自治体は、災害を想定した備蓄量の目安を「3日分」としていたが、昨今は「7日分」を目安にするよう推奨している。もちろん今回試食した食品だけでなく、飲料水なども求められることも頭に入れておきたい。

また、1日または1食あたりどれくらいの量を備蓄しておけばいいのかも考えたい。厚生労働省は1日の摂取カロリーの目安について、成人男性(30~49歳)の場合は2,700kcal/日(約900kcal/食)、成人女性(30~49歳)の場合は2,050kcal/日(約680kcal/食)としている。災害時にこれだけの量を確保するのは難しいかもしれないが、目安として覚えておこう。そのほか、大人1人あたり1日3Lくらいの飲料水も用意しておきたい。

カロリー数などを勘案して「家族の人数×7日分」をストックするとなると、3人家族でも、少なくてもダンボール3〜4箱くらいにはなる。そう言われても、どんなラインナップで揃えればよいか想像できないという人は、政府や東京都のホームページを参考にすると良い。

政府広報オンライン「今日からできる食品備蓄。ローリングストックの始め方」

農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」

東京都「東京備蓄ナビ」

日本医師会「1日に必要なカロリー」

吉牛の風味がグッと来る! 吉野家「缶飯牛丼」

北米産の牛肉を秘伝のタレで煮込んだ吉野家の「缶飯牛丼」。

吉野家の「缶飯牛丼」
「缶飯牛丼」の中身

吉野家の店舗で牛丼を「つゆダクダクで!」注文したときと同じく、ご飯までタレがしっかりとしみ込んでいる。吉野家の牛丼が好きな筆者は、「あぁ~吉野家の牛丼だぁ」と感じたし、もし災害時にこの缶飯牛丼を食べたら、涙が溢れてくるかもしれない。大げさな……と思うかもしれないが、吉野家が好きな人は分かってくれるはず。

ご飯までタレがしっかりとしみ込んでいる

肉は店舗で提供されている牛丼と同じ材料を使用。ご飯は、高機能玄米「金のいぶき」が採用されている。玄米は白米と比べて食物繊維やビタミンEなどの栄養成分が豊富なうえ、プチプチとした食感が楽しめるので量が少なくても満腹感も感じられた。

肉は店舗で提供されている牛丼と同じ材料を使用

ただし、感覚に訴える再現性は高いものの、もちろん吉野家の店舗で提供される牛丼と全く同じというわけではない。

編集部の松川は「盛り付けてから何時間も経った牛丼って感じで、下の米はグズグズでしたが、私はご飯はやわらかめが好きなので問題ありませんでした。また、温めたほうがおいしいとは思いますが、常温でも十分食べられるおいしさ。これは備蓄用に購入しておこうと思います」と気に入った様子。一方で、編集部の鄭は「ご飯はおかゆっぽい感じでネチャッとしているが、つゆだくと思えばいける」という。吉野家が好きな筆者も同様に感じたので、好みが分かれるところだろう。

ご飯の食感については、常温で食べられるやわらかさを保つため、また水分量を多めにすることで避難所で困りがちなお通じの問題をクリアするために、このやわらかさにしているそうだ。

冷えていてもイケる! カゴメの「野菜たっぷりスープ」

カゴメの「野菜たっぷりスープ」は、災害用と銘打ってはいないが、賞味期限が製造日から5年6カ月と長期保存が可能なため、今回は災害を想定した非常食として試食してみた。味は「トマトのスープ」、「カボチャのスープ」それに「豆のスープ」を試した。基本やお湯または電子レンジで温める食べ方が推奨されているが、「常温でも食べられます」という記載もパッケージにあり、それぞれ好みのスープを温めず、そのまま開封して食してみた。

カゴメ「野菜たっぷりスープ」
「カボチャのスープ」
「豆のスープ」

編集部の西村は「すごくおいしかったです(トマトのスープ)。しかも栄養が摂れている感じもあっていいですね」と好感触。鄭も「冷たくてもおいしい! 特にトマトがおいしかった」とし「具がしっかりあって食べ応えもいいです。お皿に移して食べたけれど、パウチに直接スプーンを入れても食べられそうです。被災時は野菜不足に注意が必要らしいので、常備しておきたい」とコメント。

「トマトのスープ」

一方で松川は「カボチャのスープは、普通に食べられるけれど、常温だとカボチャが水っぽく感じた……」とし、筆者はそもそも野菜スープが好きではないこともあり、食べられないほどではないが、「栄養摂取しなければ」と思いながら完食した。

中林は「豆のスープ」を試食したところ、最初は味がやや薄く感じて、トマトやカボチャの方が好みに合っていたという。それでも「家で温めて食べてみたらおいしかった。非常時は贅沢をいえないときもあるが、温かい食事のありがたみを感じた」とのこと。

結果としては、編集部の多くが「常温でも(冷たくても)おいしい」と感じたうえ、それ以外も「食べられないほどではない味」だったし、自宅に持ち帰って「温めたらおいしかった」という意見も多かった。

総じて検討すると、被災時でも温められるのなら温めておいしく食べられ、そうでない状況でも多くの人が食べられるのだから、災害用に備蓄しておくと良いかもしれない。また、筆者も自宅で温めて食べたら、印象がかなり変わった。さらに単体で購入しても300円強~400円弱という、リーズナブルな価格もポイントだろう。ローリングストックするのに向いていそうだ。何より、野菜豊富で栄養が偏らず手軽にとれそうなのが安心ポイントといえる。

5年保存できるご飯が画期的な、小久保工業所「備蓄おにぎり」

KOKUBOの「備蓄おにぎり」は、その名が示す通り災害特化型。おにぎり1個ずつが、気密容器に密封して加圧加熱殺菌されているため、5年の長期保存が可能。日本人の主食であるご飯を、塩またはしょうゆ味で災害時にも食べられる。

塩むすびとしょうゆむすびの2種類。外袋あり
おにぎりを外袋から出した状態

鄭は「よく言えばパエリア的な、ポソポソした食感」だと語る。「個人的には硬めの食感が好きなこともあって、比較的食べやすかった」とコメント。

中林も「封を開くとポロポロとこぼれたけれど、ある程度の水分は感じられる」ということで、なんとか食べられたという感じだったよう。味については、多くのメンバーが「塩」を選んだが、中林は「個人的には塩より醤油の方がダシ感があって好み」だとする。

おにぎりの開封後のアップ写真

好みはあるものの、5年も保存が効いて、いつでも食べられるご飯は、エネルギー源として貴重だ。西村は、前述した吉野家の「缶飯牛丼」といっしょに食べてみたという。「おにぎり単体で食べ続けるのはキツかったけど、牛丼のアタマ(肉)と一緒に食べるといい感じになった」という。たしかに牛丼は、人によってはかなり味が濃い目に感じるので、味を少し薄めるのに「備蓄おにぎり」が役立ったようだ。

また、中林は帰宅後にレンジで温めたら、ご飯にしっとり感が出たという。被災時にレンジを使える状態であれば、温めた方がより良さそうだ。

非常時じゃなくても食べたくなる湖池屋「LONG LIFE SNACK」

湖池屋の「LONG LIFE SNACK」は、名前のとおり製造から5年間の保存が可能なスナック缶。試食したのは「プライドポテト 神のり塩」と「プライドポテト GOLD STYLE(食塩不使用)」、それに「ピュアポテト オホーツクの塩と岩塩」の3種類。

湖池屋「LONG LIFE SNACK」

味はどれもおいしく、試食した編集部員の間では「普通のサックサクのポテチでおいしい!」という意見で統一され、「今回、一番テンションが上がりました」という声もあった。

編集部の松川は「被災しても、いつも食べている味が楽しめるのは、結構メンタル的にも良いんじゃないかと思う。これは備蓄用として本当に購入します!」と述べている。

神のり塩
ピュアポテト
GOLD STYLE 食塩不使用

味以外にも、色鮮やかなパッケージは、単体でキッチンに並べておいても見た目に悪くない。「6缶セット '25年モデル」は、備蓄用としてはもちろん、贈答品として贈ったら本当に喜んでもらえそうだ(湖池屋オンラインの数量限定)。

一方で、編集部の鄭は「缶を開けたときに縁の内側が丸くなっていて、そのまま手を突っ込んで食べてもケガしないようになっているのは優しい」と注目。また松川も「パッケージ(缶にも箱にも)に、災害用の伝言ダイヤルのことが印刷されているのは、いいアイデアだなあと感心しました。食料としてはもちろん、災害時に役立つ情報も与えてくれて素晴らしい」という。味だけでなく、細かいところまで配慮が行き届いている。

缶の縁の内側が丸く加工されている
缶に手を突っ込んで食べても怪我しにくい
明るいパッケージデザイン
缶のパッケージに印刷されている伝言ダイヤルの使い方

ちなみに筆者はお腹が空いた時に、息子に「これって災害用なのに食べちゃっていいの?」と指摘されたが、「これは5年間保存ができるっていうだけで、災害時の“専用”ではないんだよ」と言いながら、食べてしまった。本当に普通のスナック菓子の味で、非常時ではなくてもおいしく食べられる。問題は、おいしすぎるので、普段食べてしまって非常時まで備蓄しておけるのか? ということ。食べてしまったら、しっかりと買い増ししてローリングストックするようにしたい。

おいしくて小さくて高カロリーな無印良品「備蓄おやつ チョコようかん」

無印良品の「備蓄おやつ チョコようかん」は、名前のとおり「チョコ味の練り羊羹」といったところ。一般的に羊羹は保存が効いて高カロリーという印象があるが、同品の賞味期限は最長4年6カ月で、1本で197kcalもエネルギーを補給できる。

無印良品「備蓄おやつ チョコようかん」。外箱あり
賞味期限は最長4年6カ月

編集部の鄭は「食感は羊羹ですね。味はチョコが8割、あんこが2割くらい」という印象だという。また松川は「口に入れる前にふわっと香ってくるのはカカオだけど、口に含んで噛み始めるとちゃんと羊羹の食感がするという不思議な感じ……」と語る。

また、西村をはじめ編集部全員が「とてもおいしい」という感想だった。ただし味と量については個人差があるようで、鄭は「濃厚&甘すぎて1本食べきるのがきつそう」だという。

開封したところ

筆者が以前、登山を趣味にしていた時は、遭難時などを想定して羊羹をリュックの中に入れていた。また一般的に、自転車のロングライド時に、小さくても高カロリーな羊羹は、補給食として適しているとの意見も聞く。羊羹の有用性は、すでに補給食として非常時以外でも実証されているようだ。さらに「備蓄おやつ チョコようかん」は、賞味期限が最長4年6カ月と長い。災害用に家族分をストックしておくのにも適しているはずだ。

鄭は「小さいのでカバンに入れておいて、外出時に被災して帰れなくなった際に備えたい」と言い、松川は「被災してもスイーツが食べられると嬉しいし、防災リュックなどに入れておきやすそうな点もいいですね」とする。

また筆者は試しに、帰宅後に「ちょっとお腹が空いた」という小学4年の息子に、食べさせてみた。すると「うん、おいしいおいしい」と満足げに数分で平らげていた。幼い子供は、お腹が空いていても味が好みではないと食べてくれない印象がある。その点でも、特に子供がいる家庭では、こうしたスイーツ系の非常食は、被災時に重宝するのではないかと思う。

ポケットに羊羹

災害の前に非常食の味を知っておくことは大切

正直に言えば、温めない状態でも「おいしいおいしい」と食が進むような非常食ばかりではない。また非常食は、一般的な食事よりも「好き/嫌い」や「食べられる/食べられない」などの好みが分かれそうだ。そうした点からも、災害時にいきなり非常食を口にするよりも、こういうものだと知っておくことも良いだろうし、事前にいろんな非常食を試して、より好みの味を探しておくことが重要だとわかった。

試食したのは無数にある非常食のうちのほんの数種類だけ。今回試食したものでも、例えばカゴメの「野菜たっぷり」シリーズには、ほかにも「きのこのスープ」があり、吉野家の「缶飯」シリーズには、牛丼のほかにも豚丼や焼鶏丼、塩さば丼もある。こうした様々な味を試して、自身がよりおいしいと感じられる非常食を少しずつ探してストックしていくと、その試食自体がローリングストックとなって良いだろう。

大切なのは、常に災害時のことを想定しておくこと。余裕のある平常時に、楽しみながら試食してみてはいかがだろうか。

河原塚 英信