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大阪メトロはなぜ太陽光発電と水素発電どちらも導入を見据える? パナソニックとの実験みてきた

大阪メトロ中央線の森之宮駅近くにある森之宮検車場

大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)は、パナソニック エレクトリックワークス社(パナソニックEW)と共同で、脱炭素を目的とした水素・太陽光発電の実証実験を行なうことを8月に発表した。

今回、大阪城のほど近くにある森之宮検車場に導入されたシステムが見ることができた。そもそも水素発電と太陽光発電を併用することでどんなメリットがあるのか? それを鉄道会社が導入するのはどういった狙いがあるのか? 実証実験の具体的な内容と、大阪メトロが目指す将来について取材した。

クリーンエネルギーを推進する大阪メトロ

大阪メトロは利便性の向上を目指し、路線の延伸や他社路線への相互直通乗り入れ、運賃のデジタル精算や顔認証改札、スマホのアプリで予約や精算できるオンデマンドバスなど、最新技術の導入を積極的に行なっている。

併せて、省エネ車両の導入や駅/車両の照明のLED化、太陽光などのクリーンエネルギーやEVバスなどの導入により、CO2排出量の削減にも注力していることでも注目だ。

公共交通機関の利便性を高めるだけでなく、環境への配慮も積極的に行なっている大阪メトロ(当日発表会資料より)

すでに大阪メトロの路線網でも、大動脈となっている新大阪〜天王寺方面を結ぶ御堂筋線と、大阪の東西を横断し大阪万博で有名な夢洲につながる中央線は、CO2排出量実質ゼロで運行されている。これは電力供給元の関西電力から、御堂筋線と中央線で利用する電力を、クリーンエネルギーのみの電力プランで購入しているものだ。

「クリーンエネルギー電力プラン」とは、全国の電力販売会社が行なっている電力プランのひとつ。個人向けの「夜間電力が安くなるプラン」や「基本契約のアンペア数を決めず、その月に使った最大アンペア数が基本契約金になるプラン」などがある。「クリーンエネルギー電力プラン」は、水力や風力、太陽光発電などで発電した電力を顧客に販売するプラン。会社によっては「再生エネルギープラン」や、より発電方法を明確にした「水力発電電力プラン」などもある。

関西電力の企業向け「再エネECOプラン」。大阪メトロは、省エネ車両の導入や駅の省エネ化によって電力消費を抑えている。加えて、御堂筋線と中央線で利用する電力分をこのプランで関西電力から購入することで、CO2排出量を実質ゼロにしている(出典:関西電力ホームページ)

しかし送電線には、火力とクリーンエネルギーで発電された電力が混ざって流れてしまうため、次のような方法を取っている。

  1. 自社のクリーンエネルギーの発電量を合算
  2. 発電量を超えない分の電力を個人や法人に、通常価格より少し高く「クリーンエネルギー」として販売
  3. 販売会社はクリーンエネルギーの発電量を超えていないことを顧客に保証

実際には火力や原子力発電による電力も使っているが、クリーンエネルギーの発電量の範囲内の電力を販売しているため、CO2排出量は実質ゼロとなる。この仕組みは鉄道会社大手をはじめとする企業も利用している。

今回、大阪メトロが導入した水素・太陽光発電は、昼間の好天時は太陽光で発電し、夜間や悪天候で太陽光発電が使えない場合は、水素を燃料にした「水素燃料電池」で電力をまかない、日々だけでなく年間でも安定した電力を自社内で確保するというもの。クリーンエネルギーを電力会社から仕入れるのではなく、自社で発電し自社で消費する。いわば電力の地産地消というわけだ。

「好天時は太陽光発電で電力をまかない、悪天候や夜間は燃料水素電池+関電からの電力購入で消費電力をまかなえるか?」の実証実験を行なう

同様の仕組みは、すでに一般家庭で「エネファーム」として、マンションでも大規模版が導入されているが、なぜ大阪メトロが導入するのが注目されているかというと、鉄道には家庭用の何倍、何十倍という高電圧が使われているからだ。

一般家庭や企業で使われている同様のシステムは、交流100〜200Vがほとんど。しかし大阪メトロの場合、車両の運行に使われる電圧は、路線により直流750Vか1,500Vとなる。

大阪メトロはパンタグラフのない直流750Vで動く車両と、阪急と相互直通運転を行なうパンタグラフのある1,500Vで動く車両がある(直通しないが1,500V、リニアモーターを使う別電源の路線も)

また、始発駅から終点まで直流で車両に電力を供給すると、非常に効率が悪い(家庭への送電を交流で行なっているのは送電効率が圧倒的に良いから)。そのため、数kmごとに交流→直流の変電設備を設け、その間は交流6,600Vで送電するのが一般的だ。

大阪メトロの実証実験は、6,600Vで送電することも踏まえた高電圧の水素・太陽光発電のため注目されている。

自社工場で実証実験を行なうパナソニックEWからシステムを導入

大阪メトロが構想しているのは、将来的に水素・太陽光発電の電力を鉄道関連施設や保安設備へ供給すること。また最終的には、車両の運行用にも利用できるかどうかを検討するという。

それに応えるのはパナソニックEWのシステムだ。

すでに自社の滋賀工場には、水素・太陽光発電および蓄電池の3電池が連携した実証実験を行なう「Panasonic HX Kusatsu」という施設がある。工場内の電力を再生可能エネルギーでまかなうための実証実験で、昼は太陽光で発電し、太陽光が利用できない場合は水素と自然の空気(酸素)を使って発電ができる、純水素型燃料電池を使うというものだ。

燃料電池は発電すると共に、排熱を利用して給湯や暖房に使うことも可能であり、エネルギーにムダがない点も特徴。

パナソニックの「Panasonic HX Kusatsu」。ずらりと並ぶ太陽光発電、奥に並ぶ白い棚のようなものが純水素型燃料電池、右側にある大きな縦型タンクが水素貯蔵用タンクだ。巨大な設備で、下り新幹線の京都駅到着5分前くらいにA席からも見えた
水素と空気中の酸素で、電力と熱を生成する純水素型燃料電池。これを何基も接続して大電力を生み出す。また、それぞれのセルから排出される熱はお湯として回収するため、工場プラントのように配管も走る

なお、発電に必要な水素は、専用の水素タンクに貯蔵して必要に応じてタンクから燃料電池に供給されるようになっている。また工場への電力供給は、電圧の高い6,600Vなので、キュービクルという変電設備を介して高圧(三相=事業用に使われる電源、一般家庭は三相電源から単相に変換)に対応している。

6,600Vに昇圧するキュービクル。高圧電力と連携ができるのが一般家庭用と異なる点だ

将来的に検車場の鉄道事業用の電源として品質とコストを検証

今回、大阪メトロの森之宮検車場に導入されたのは、先のPanasonic HX Kusatsuをベースにした水素・太陽光発電で、年間で110,000kWhを発電できる。これは一般家庭で消費する17世帯分にも相当する。

右側のタンスが燃料水素電池。太陽光パネルは壁の向こう側に設置されている。左側にある赤いボンベは水素貯蔵用タンク。その奥にある建屋に電線が張られ、建屋の中に昇圧用のキュービクル(変電設備)がある
実証実験用なのでパナソニックの工場に比べるとこじんまりしている。しかしそれでも一般家庭17世帯ぶんの電力をまかなえる(出典:パナソニックEWの資料)

太陽光パネルは、写真には写っていないが施設の奥に設置されており、6,600Vへの昇圧は施設左側の建屋内にあるキュービクル(変電施設)で行なわれている。

当初は、検車区に併設されているテーマパーク「e METRO MOBILITY TOWN」(2025年10月までオープン)へ高圧電源を供給するために設置された。この施設は、大阪メトロが目指す未来の交通や生活を、バーチャルとリアルで体験できる場所。このパーク内では乗用ドローンやEVバスの自動運転の乗車体験などもでき、大人でも楽しめる。

下の〇で囲った部分が、先の燃料水素電池施設。上の◯囲みが「e METRO MOBILITY TOWN」で、コース上を自動運転バスが走行する
万博に合わせて開催されているため閉園間近だが、乗用ドローンや自動運転EVバスを体験できる貴重なパーク

水素・太陽光発電システムの管理と運用は、パナソニックが開発した太陽光発電+蓄電設備用のSORA-NETという既存システムを使い、有人で24時間365日の遠隔監視が行なわれる。またSORA-NETと連携して、太陽光発電や水素燃料電池の発電量などを見える化するシステムも導入され、実際にパーク内の稼働状況がリアルタイムで見られるようになっている。

パナソニック独自のSORA-NETで全国の水素・太陽光発電システムなど管理と運用を遠隔操作で行なっている(出典:パナソニックEWの資料)
SORA-NETと連携して発電量などをリアルタイムで確認できる

「e METRO MOBILITY TOWN」のオープン期間が終了した後は、検車場の工場用電力としての検証実験を行なう予定だ。「関西電力から供給される事業用の電力と同じ品質で発電できるのか」を、コストなども含めて総合的に検証するという。

現在は燃料となる水素が高価なため、採算がすぐとれるかどうかは未知数。しかし余剰電力で水を電気分解して水素を発生させたり、都市ガスから水素を取り出したりと、水素を生成する技術も日々進化していることで、コスト面でも期待は高まっている。

大阪メトロが電力を自給自足かどうか検証するために始まった大規模実験。これからどんな未来につながっていくのか、楽しみだ。

大阪万博で展示されている、水を電気分解して特殊な水素吸収合金タンクに貯蔵する装置
この水素を燃料電池として、パナソニックパビリオンの電力の一部として使われていた

(提供:パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社)